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1031  作者: 一 二舞
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 最後に。八月へ。


 あの時、私のことを止めてくれたのが貴方で良かった。

 今まで黙っていたけれど、貴方はきっと、お父様やお母様の名前がなくとも立派な芸術家になれたと思います。


 悔しいけど、技術はないけど、センスだけは、認めていました。

 貴方のセンスは、感覚は、“天才”だと認めていました。


 今まで、正当な評価をされることがなく苦しんできたことでしょう。好きなものを好きなように描いていただけなのに、それを勝手に取り上げられることに嫌気がさしていたことでしょう。

 世間には声をあげなければ伝わりません。特に、貴方のような有名人は、勝手な噂ばかりついて歩くものですから。


 だから、嫌な時は嫌と言ってください。きっと調子に乗るなだとかなんだとか沢山の批判を受けることもあるかもしれませんが……貴方はどうやら人から悪い評価を受けるのが好きみたいなので、きっとなんとかなるでしょう。

 もし文句があれば死人に口なし、耳もきっとありませんから、悔しがってください。



 それから、あの日貴方が聞いてきたロベール二世の話ですが……彼は、フランス王国カペー朝の第二代国王でした。


 一〇三一年、七月二〇日に亡くなっています。


 あの時答えることができなかったのは、私の知識不足ではなく、私の自殺予定日が丁度七月二〇日だったから。

 ほんの一瞬でも貴方に悟られてしまうような気がして、答えることを躊躇ってしまいました。


 貴方は日本史受験をするつもりらしいですが、どうして私にロベール二世のことを聞いたのか、それだけは、今でも少し気になっていることです。

 いきなり、画集弥生の作品を見ているときになんの脈絡もなく、「ロベール二世って知ってる?」なんて聞くものですから、いきなりどうしたんだコイツ、と思ってしまったことは否めませんから。


 もし、何かの理由があって私に彼のことを聞いたのであれば、そのうち教えに来てくださいね。気になって、安心して眠ることもできなさそうですしね。

 


 私に楽しい時間をどうもありがとう。


 貴方のご家族に「友達」と私を紹介してくれてありがとう。


 私を「天才」と呼んでくれてありがとう。


 私の自殺を止めてくれてありがとう。

 教室で話しかけてくれてありがとう。

 私を視野に入れてくれてありがとう。


 私と、出会ってくれてありがとう。


 私は貴方を、憎からず思っていました。


 つまりのところ、私は葉月くんを、好きだと思っていました。


 それがどういう意味なのかは、自分で考えてください。

 それでは、どうかお元気で。」



 一〇三一文字で綴られた、葉月宛の手紙だった。


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