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1031  作者: 一 二舞
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 私は天才になります。

 死ぬことで完成します。


 一度思い始めたことは、どうしても拭うことができません。

 一度は生きようと思いました。一度はもう少し頑張ろうと思いました。一度は死ぬことをやめようと思いました。


 無理でした。


 一度失敗してしまったから、余計にそう思ってしまったのかもしれない。

 結局、この世には逃げられないものがあるのだと思いました。


 だから、私は天才になります。


 一度願ったことからは、逃げることができない性分なのでしょう。

 思っていないことを言われることは反吐が出るほど嫌いです。

 「気付いてあげればよかった」「助けてあげればよかった」

 そんな言葉は、もう、聞き飽きました。


 今まで何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もサインを出してきました。分かりづらいかもしれないけれど、出してきたつもりでした。


 それを受け取ることができなかったのは貴方がたです。

 全てが終わってから良い人になろうとするのはやめてください。


 私は、生きているときに、救われたかった。

 私は、本当は、死にたくなんてない。

 私は、「死んで完成する天才」じゃなくてもいいから、誰かに気が付いてほしかった。


 何度か差し伸べてくれた手を、申し訳なさで振り払ってしまったけれど、「迷惑じゃない」と言ってほしかった。手を差し伸べてほしかった。何度でも、救い上げてほしかった。

 全てが終わった後にこんなことを言うのは、卑怯でしょうか。

 きっと、卑怯でしょう。


 でも、私は、人を頼ることが下手なのです。人に甘えることが苦手なのです。

 「お前が居ると迷惑だ」と言われて育ってしまったからでしょうか。これは言い訳にすぎません。

 でも、でも、でも、それでも、見捨てないでほしかった。

 ワガママなのは分かっています。それを世間ではかまってちゃんと呼ぶことも分かっています。


 構ってほしいんです。助けてほしいんです。救われたいんです。話を聞いてほしいんです。抱きしめてほしいんです。頭を撫でられたいんです。

ただ、それだけで、良かった。

 私はもう手遅れだけれど、きっと、世の中には私と同じことを考えている人がそう少なくない数いるのではないかと私は思っています。


 どうか、どうか、見捨てないでください。

 「ああ、またコイツか」と、見捨てないでください。

 後から「気付いてあげればよかった」なんて綺麗ごとを吐いてのうのうと生きていくくらいなら。

 気が付いたときに、助けてあげてください。


 貴方に迷惑をかけるからと手を振り払うことがあるでしょう。本当に聞いてほしいのは貴方じゃないと文句を言うでしょう。

 許してあげてください。助けてあげてください。

 黒い何かを吐き出しているのは、救いを求めているから。


 これは些細な私の些細なお願い事のようなものです。みんなにそうなってほしいとは思いません。

 綺麗ごとを後から言う人間にこそ、知ってほしいのです。

 だって、そんなきれいごとを言う人間に私のような人間が抱く感情は、

「今まで無視してきやがったくせに」ですから。



 私にとって、この世界は酷く息苦しい。生きづらい。

 どうせ死んでしまうので、この際自分で言わせていただきますが、私は、神経質なほどに真面目でした。

 人と上手にコミュニケーションが取れない。


 臆病だから従うことしかできない。

 何をするときも、気を遣ってしまう。

 自分のことなんて誰も見ていないことをしっているのに、自意識過剰になってしまう。

 誰かに、勝手に何かを評価されているような気がしてしまう。


 歩き方、姿勢、容姿、食べ方、箸の持ち方、鉛筆の持ち方、座り方、足癖や手癖、髪の毛、肌、指先、声、言葉、全てが。


 全てが、私を品定めしているように思えて、とても、とても、息苦しい。

 まるで、重い鉛を背負わされて海の底に沈められたみたいに、息苦しい。


 天才になりたい。誰かに気が付いてほしかった。

 そして、生きづらい。

 漠然と、息苦しい。

 もしかしたら、私が死ぬことを決定打としたのは、


 漠然とした生きづらさだったのかもしれません。



 それでは、ここまで長々と遺書と呼ぶにはいささか稚拙なものも終わりにしたいと思います。


 私の周りの人たちは……貴方は、何も悪くはありません。

 時折、不満に思うことだったり、腹立たしい気持ちになったりすることもありましたが、結局のところ、私は支えられて生きていたんだなと今となっては思います。

 どうか、どうか、後悔しないでください。


 貴方のせいではありません。

 何度でも救おうとしてくれた。何度も声をかけてくれた。

 貴方は、私の唯一の理解者でした。


 貴方は何度も手を差し伸べてくれた。それをなんでもないと振り払ったのは私の方だった。

 私が貴方に、どうしても迷惑をかけたくなかった。

 貴方のプライベートに足を突っ込んでしまいそうで、それが、何よりも嫌だった。

 生活感を嫌った話をした日、私は初めて分かり合える人と出会えました。


 私にとって、あの日は、救われた日でした。

 もう少し、生きづらい世の中を頑張ってみようと思った日でした。

 情けないなりに、不器用なりに、私に手を差し伸べてくれたから。

 貴方が、生きづらい世の中だよな、と言ってくれたから。


 だから、先生。

 どうか、どうか、自分を責めないで。


 三年間貴方のクラスで良かった。

 三年目が貴方のクラスで良かった。


 人と関わるのは苦手だったけど、貴方のおかげで、学校が楽しいと思えたから。


 唯一未練があるとすれば、私は、彼の描く「宝」が、見たかった。


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