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1031  作者: 一 二舞
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 体育祭も終わり、またいつもの日々が始まるようになった。

 強いて違うところがあるとすれば、少しだけ優菜と関わることが増えたが、葉月と絵美の関係性が変わることはなかった。

 が、葉月と優菜が二人で話している姿というものはよく見かけるようになった。


 絵美が悪態をつく性格だからということもあり葉月とはなかなかテンポよく会話が進まないが、彼は恐らく人と話を合わせるのが上手い人間だからか、優菜も葉月と話している時は楽しそうに見えなくもない。

 それに一々やきもきもしないが。

 ただ、少し、前に戻ったというだけだ。


「師走?」

「え? あっ、すみません」

「お前はまたすぐ謝るなぁ……。どうかした?」

 

 月人に話しかけられてようやく絵美も今の現状を思い出す。

 今は二者面談中で、進路の話だのなんだのをしなければならなかった。高校三年生になったからかもしれないが、今までよりも二者面談の回数が多く、先生方も大変だな、と絵美は他人事のように思う。


 元々、二者面談と言ってもこの学校では就職組と進学組に別れているし、それぞれで先生も違うことだったり、偏差値の高い学校ではない分就職者の数も半分より少し多いくらいの数が居て、進学希望の方は定期的なスパンで二者面談ができるということもあるのだが。

 

「なんでも……ないです」

「それならいいけど……。あれから、進路の方は……」

 

 月人が心配そうに絵美に尋ねると、絵美はすこし俯いてしまう。

 

「あの……先生」

「ん?」

「中間考査の結果、見てないんですか」

 

 絵美が申し訳なさそうな表情になりながら月人に尋ねると、月人の方もなんとも言えなさそうな表情で「見たけど」と口を開く。

 中間考査の際、絵美が全教科白紙で提出したという話を職員室で出されたとき、月人としてもこの話題に触れていいのかとずっと考えていた。

 この先の言葉を出してもいいのか分からず、月人はどうしたものかと頭を悩ませているのだが。

 

「…………受験、やめるのか?」

 

 ようやく月人がそう切り出すと、絵美は申し訳なさそうに少し間を置いてから頷く。


「……お前はこれから、どうするの?」

「分かりません。……でも、専門に行こうかなって……思ってます」

「専門?」

「絵を描く……専門。やっぱり、絵を描くことを諦めたくないなって」

 

 絵美から出てきた言葉に、月人は一瞬驚いたようにしていたが、すぐに軽く笑って「そうか」と絵美の今後の進路を否定することはなかった。

 

「絵を描くと言っても色々あるけど……美大じゃないってことは……」


 月人がそこまで尋ねると、絵美はすこし照れくさそうに髪の毛をいじりながらゆっくりと頷く。


「そっかぁ、じゃあ、俺、お前が描いたイラスト、ちゃんと見届けないとなぁ。師走は結構オールマイティになんでも描けると思ってたけど、そっちの路線もかなり上手いからなぁ。内申点は問題ないと思うけど、学校決めたりがこれから大変だな」


 月人の言葉に絵美も思わずため息が出てしまう。

 

「そうですよねぇ……」

「まぁでも、俺が全面にサポートしてやるから、なにもそんなに不安になる必要はないよ。いやはや、数少ない美術部員がどっちも美術系に進むのは美術教師としては嬉しいことだね。……つっても、師走がやっぱり一般受験するって言うなら俺は最後まで面倒見てやるから、悔いだけは残さないようにな」

「すみませ……ああいや、ありがとうございます」

「うん、それでいい」

 

 月人がそう言って笑うと、絵美も照れたように笑い返す。

 (本当に、とっても素敵な人)

 絵美は月人のことをそう評価する。

 月人があまり好ましく思われていないことは知っているが、それでも、絵美は月人のことが教師として好きだった。



 放課後の部活動。

 葉月の様子は今までと変わることなく、真剣にキャンバスに向かっていたが、暫くすると、顔をあげて大きくため息を吐いてから体を伸ばす。

 

「終わったぁー!」

 

 葉月の声で授業の準備をしていた月人や、相変わらず画用紙に向き合っているだけの絵美は顔をあげる。

 葉月の言葉に月人が机の作業台の引き出しから応募用紙を取り出すと、葉月に手渡す。

 

「これ書いて先生に渡せばいいんですか?」

「ああ、それでいい。題名はもう決まってるんだろ? さっさと書いて提出しな」

「あれ、もう題名決まってるって話しましたっけ?」

「お前の描いてる様子見てれば分かるよ」

 

 月人の言葉に驚いたように葉月が一瞬目を見開く。

 (なんだ……先生もちゃんと、僕のこと見ててくれてたのか)


 葉月がにやにやしながらスクールバッグの中から筆記用具を取り出すと、すぐに名前と学年と学校名、それから題名を書いていく。

 満足そうに葉月が自らの題名を書き終えて天井にかざすと、頷く。

 

「何をそんなに満足そうにしてるのよ……。気持ち悪……」

「師走さんほんとに遠慮なくなってきたよねぇ!? 別にずっと他人行儀よりかは良いかなって思うからいいんだけどさ……」

「話しかけないでください」

「しまった!」


 葉月と絵美のやり取りを見て、月人はしみじみとした様子で目を細める。

 (成長したなぁ……)

 

「そういえば、貴方、題名の方は自信があるとか言ってなかった?」

「話しかけてくれる……」

 

 葉月の方もだいぶ絵美の扱い方に慣れてきたようで、つい先ほどの話を蒸し返すと、絵美は黙って口を噤んでしまった。

 が、すぐに葉月は「ごめんって!」と言ってから絵美に題名と、イーゼルからキャンバスを取り外してそれを見せる。

 

 葉月のキャンバスに描かれているのは、セーラー服の少女が後ろ姿で何かを見つめている様子だった。

 セーラー服の少女が見ているものは葉月が今までに描いてきた作品の数々で、それに合わせて題名を見ると、そこには「1031」という数字だけが書かれていた。

 

「せん……さんじゅう……いち?」

 

 絵美が不思議そうに首を傾げると、葉月は「ふっふっふー」と満足そうに、そしてさらに「違うんだなぁ」などとぼやきながら首を横に振る。

 そんな葉月の様子を絵美が冷めた目で見つめていると、葉月はすぐに「ごめんなさい!」と謝罪を入れる。

 

「……言ってもいい?」

「どうぞ」

「ええとですね……これで、「てんさい」って読むんですよ……」

「ダッサ!」

 

 絵美が吹き出しながら即座に否定に入ったのを聞いて、葉月も不服そうに頬を膨らませる。

 (結構センスあると思うんだけどなあ)

 

「……優しいから解説聞いてあげてもいいけど?」

「優しい……」

 

 感動したように葉月が絵美に手を合わせると、絵美は呆れたようにため息を吐きながら「早くしなさいよ」と葉月の言葉を急かす。

 (なんだかんだで期待してくれてんのかな?)

 葉月がにやにやしてしまいそうになるのを堪えながら、「ごほん」と咳ばらいをしてから自慢げに人差し指を立てる。

 

「まず、1031の10の部分は英語のtenでー、31の部分はさいって読んで……」

「天才、ってことね」

「さっすがぁ!」

「……なんで数字なの?」

 

 絵美が不思議そうに尋ねると、葉月は急に目を泳がせる。

 その葉月の様子に、絵美は呆れたように肩を竦める。

 

「……センスあるかなって思って……」


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