表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1031  作者: 一 二舞
26/36

25

 体育祭当日、誰よりも早く教室待機をしていた絵美は、絶望した表情で机に突っ伏していた。

 (ついにこの日が来てしまった……)


 絵美は学校を特別嫌っているわけではないのだが、体育のある日や体育差なんかがある時だけは、学校がとてつもなく嫌いになる。

 運動ができない人間にとって、体育祭なんてものは公開処刑のようなものだ。

 

「おはよう、師走さん」


 聞きなれた声が頭上から聞こえ、絵美はぐったりとしながらそちらに目線を向ける。

 

「あはは、死んでる。でも気持ちも僕は分かる、すごく憂鬱だよ」

「………そうね」

「こえちっさ!」

 

今にも死にそうな絵美の姿を見て、葉月が心配そうに絵美を見つめていると、絵美の方は不思議そうに首を傾げる。

 何か気になることでもあるのかと思い、葉月も不思議そうに首を傾げる。

 

「……貴方は、随分余裕そうに見えるけど」

「えぇ!? そんなことない……けど……でも、師走さんが居るから、少しだけ楽しいかもなって……思ってたりする」

「それって一体どういう意味で言ってるの? ああ、分かった、もしかして」

「お母さん言わせませんから! 違うよ、純粋にさ、師走さんと一緒だったら嫌なことでも楽しいってことが言いたいだけ」

「お母さん……?」

 

 絵美の次に出てくるであろう嫌味を見越したうえで葉月が言葉を重ねると、絵美の方は意味が分からなさそうに首を傾げる。

 葉月の方も真顔で聞かれることになるとは思わず、急に恥ずかしい気持ちになって、顔を隠しながら「ナンデモナイデス……」とぼそぼそと呟いていた。

 

「ふふ、貴方って意外とお茶目なところあるのね」

 

「師走さんには負けるよ」

 

「は?」

 

「威圧的~!」

 

 絵美と葉月がそんな掛け合いをしているうちに、教室にはクラスメイトが集まり始めていて、普段はギリギリに教室に駆け込むような体育会系の男子生徒なんかは普段よりもかなり早い時間に着て葉月と絵美が会話している様子に驚いていたが、普段から早く来ている生徒たちは特別何かを気にする様子もない。

 

「師走さんと画集って仲良いの?」

 

「さぁ……? 部活は一緒みたいだけど……去年俺画集と同じクラスだったけど、あんなに話してんの見たことねえよ」

「ああ、俺も師走さんは同じクラスだった。月人としか話してんの見たことねぇよ」

「月人って……ああ、神有のことか。神有と仲良いって時点で変ではあったよな。俺は神有嫌いじゃないけどアンチはすげぇしな。まあ別に嫌いじゃないってだけで好きでもねぇけど」

「俺は二年連続だから流石に慣れた。アイツ副教科担当のくせに態度が他の先生とかにもでかいからな。授業も適当だし。まああれは仕方ねえよ」

 

 絵美と葉月が会話をしている様子を見ながらクラスメイト達もそんな会話を繰り広げているが、絵美はその会話が聞こえたのか、複雑そうな表情で俯いてしまう。

 葉月も流石に全く聞こえなかった、とは言えないので、どうしようかと悩んだ後にクラスメイト達の方へ向かうと、「おはよう」と声をかける。

 

 絵美もクラスメイトも驚いたように葉月を見ると、葉月は普段絵美に話しかけるときと同じようににっこりと笑っているだけだった。

 

「え? あ、お、おはよう……?」

「なあ画集、もしかして今の会話聞こえて……」

「ん? 僕と師走さんが仲良しって話? 駄目だよ、仲良しなんて言ったら師走さん怒るから。僕が構ってるだけ。あ、それとも神有先生のこと? 僕も最初あんまり得意じゃなかったけど、神有先生ってただの内弁慶だから、あんま気にしないであげてよ」

「あ、あはは……もしかして、怒ってる?」

「まさか! ただ、僕の名前出されてたから気になっただけ」

 

 葉月のその返答にクラスメイトがほっとしていると、丁度月人が教室に入ってきたこともあり、葉月も「会話邪魔してごめんね」とだけ言って自分の机に戻ろうとする。

 

「……ありがとう」

 

 絵美の前の席に置いていた荷物を回収しに行った際に、絵美は照れくさそうにそんなことを言った。

 (何が嫌ってわけじゃないけど、なんかムカついちゃったんだよな)

 葉月は自分でもどうしてあんな行動に出てしまったのかは分からないが、それでも、絵美が「ありがとう」と言ってくれたこともあり、自分のした行動はきっと無意味ではなかったんだろうと思う。


 人の気持ちはころころ変わる。

 行動に一貫性なんて持てない。

 そんな言い訳が、頭をよぎった。



 簡単なショートホームルームを終え、それぞれのクラスがグラウンドに出て荷物を置いたりしてから列に並ぶ。

 葉月も絵美も優菜も、運動をあまり得意としていない面々は死にそうな顔をしていたが、借り物競争になれたんだし、となんとか自分を鼓舞していた。


「はぁ……やっぱり憂鬱だわ」

「僕も憂鬱だけど……」

「大丈夫、もうそのくだり聞いたから。黙りなさい」

「師走さん、だいぶ僕に遠慮なくなってきたよね……」

「最初から遠慮なんてしてないわ」

 

 (なんて言うんだっけ、フレンドリーになったねって意味なんだけど……怒るかな?)

 元々言葉選びが刺々しいなとは思っていたが、ここ最近では純粋な暴言を吐かれるようになってきていることが、どうしてだか葉月は嬉しかった。

 

 決してそんな趣味を持っているだとかそんなつもりはないのだが、絵美の言葉遣いの変遷は自分たちの距離感を表しているようにも感じた。

 きっと、絵美は怒るかもしれないけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ