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1031  作者: 一 二舞
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 今日も部活の時間を月人に見てもらってから帰宅途中、皐月から「帰ったらお金渡すからお米買ってきて!」という連絡が入っていた。

 (うっわ、めんどくさ……! 別に一日二日くらいお米無くても良いんだけど……ていうか学校帰りで余計面倒くさいっていうか……。……はぁ、仕方ない。お父さんもお母さんも生粋の米派だし、米がないから仕事できないとか言い出されたら困るし……。お父さんんは大丈夫かもしれないけど、お母さんはな……)


 少し面倒な気持ちはあったが、どうせ外に出ているし、というか既読をつけてしまったし、ここは素直に頼まれたものを買って帰ろう。

 とりあえず目に入った普段は使うことのないスーパーに足を踏み入れると、時間が丁度良かったのか、店内はそれなりに賑わっていた。


 (あー……家近い人とかはこの時間に買い物して丁度いいのかな……)

 ここまで賑わっていると、それも主婦層の人が多いと、皐月から頼まれた品物は無事に手に入るのか不安だ。


 きっとスーパーだから普通においてはあると思うのだが、広告の品だったりするとなくなってたりする、なんてことをこの前皐月は嘆いていたっけ。


「葉月?」


 どこに米が置いてあるのか分からずにきょろきょろとしていると、スーパーのエプロンを着た陽介が葉月に声をかける。

 エプロンの下に着用しているものが制服であるものを考えると、恐らく、学校からそのままバイトに着ているのだろう。

 (そういえば学校からバイト先が近いとか言ってたっけ? よく覚えてないけど)


「……こんばんは」

「いらっしゃいませお客様! 何かお探しですか!」

「だ、大丈夫です……」

「つめてぇの~。いいじゃん、ちょっとくらい」

「嫌です」

 

 ぐいぐいと来る陽介に葉月が距離を取ろうとするものの、それに気付いているのかはたまた無意識か、陽介は距離をどんどん詰めてくる。

 別に嫌いではないのだが、葉月の方も明るい性格とは口が裂けても言えないこともあり、あからさまに明るい人、というのは……少し、抵抗がある。


 別に陽介が何か悪いことをしたとかそういうことはないのだけれど、見た目が怖い人とはあんまり近付きたくないとか、そんな感じだ。


「……お話し中ごめんなさい。如月くん、店長が如月くんを探してましたよ。事務所に居るので早く行った方が良いかと」

「あっ、師走さん! ありがとうございます! それじゃ、またな、葉月!」


 さっさとその場から離れた陽介と同じエプロンをした絵美が、相変わらずな陽介の態度に呆れたように肩を竦める。


「ありがとう」

 

 葉月が絵美にお礼を述べると、働いている姿を見られるのが恥ずかしいのか、絵美は顔をふい、と逸らしてしまう。

 普段はおろされている分、髪の毛を結わえている絵美の姿は新鮮だった。


「店長に呼ばれてたのは、本当だから」


 それもあるのだろうけれど、困っている様子の葉月を見かねて声をかけてくれたようにも思えてしまう。


 なにせ、絵美は酷く真面目な性格だ。


 故に、いくら上から頼まれていたとしても、誰かと話している人の間に割り込むという行為を、きっと好ましく思わないだろうから。

 遠慮をするだろうし、本当に急ぎでない限りはそのまま話が終わるのを待つことだろう。


 まあもしかしたら、本当に急ぎの用事で店長とやらが陽介のことを探していたのかもしれないけれど。

 葉月にとっても、陽介はただの小学校と中学校が一緒だっただけの他人という印象しかないのだが、彼のエプロンの下の制服は、この辺りでは進学校と呼ばれる部類に入るし、仕事もそれなりに出来る人間なのかもしれない。


「あ、ねえ、師走さん、お米ある? お母さんから頼まれてさ」

「はぁ……それくらい自分で探しなさいよ。それとも、凡人は黙って天才の言うことを聞いて働けとか、そういうこと言うつもり? 良いでしょう、良いでしょう、お米はこちらですよお客様」

「あはは、面目ない」


 相変わらずのキレだ。

 流石にこんな接客を他の人にしているわけはないだろうが、こんな時でも過剰なまでに言葉を返してくれたことは嬉しかった。


 自分が特別扱いされているとか、そんなアホらしい感想を持ってしまったのが、葉月は少し恥ずかしかった。


「テスト期間中でもバイトしてるなんて大変だね……無理してない?」


 葉月がふと絵美に思ったことを尋ねると、絵美は一瞬目を見開いた後に、「ありがとう」とつぶやく。

 が、葉月には聞き取ることができず、絵美が何かを言ったような気がして首を傾げることしかできなかった。


 (しまった……何か大事なこと言ってたりしたら聞き逃したなんて言えないぞ……)


「……大丈夫、まだ一週間前だから」

「ってことは、テスト週間になったら休むって感じなの?」

「まあ……あまりにも忙しい時期だったりすると時々出勤するときもあるけれど……今回は受験にも響くから、さすがに休みにさせてもらったわ」


 あの学校から難関私大を目指しているというのだから、絵美の日ごろの努力のことを考えると思わず葉月の顔も心配の色に曇る。

 絵美が委員会に所属しているのかは分からないが、部活動もして勉強もしてアルバイトもして、なんて生活をしていて大丈夫なのだろうか?


 そりゃ漫画や小説のキャラクターだったらそつなくこなしてしまう上に、なぜか自分の好きなことをする趣味まで設けていたりするけれど、現実はそう甘くない。

そんなに甘い現実だったら、誰だって簡単にそれくらいこなしてしまうだろう。


 葉月には分からないが、学校の後にバイトに行くなんて、並大抵の疲労じゃない。

 学校に行くかバイトに行くかのどっちかで疲れてしまうはずなのに、それを嫌な顔をしながらもこなしていく人たちは、やっぱりすごいと思う。


 なんとなく陽介のことを高く評価はしたくないのだが、それでも、学校に行きながらバイトをするというその姿勢だけは、尊敬しなければならない。


「無理しないでね? ……って言っても無責任に聞こえちゃうかもだけど……僕にできるのってそれくらいだからさ。んーと、なんていうか……自分のこと大事にしてあげて」

「……優しいのね」


 葉月がねぎらいの言葉をかけると、絵美の方は目を伏せながら、嬉しそうに口元を緩めて葉月を見ることなくそう言った。

 下を向いているため、葉月の方からは絵美の表情がはっきりと見えなかったが、彼女の声が、口調が、普段よりも幾分か優しいものだったことは、葉月にはもう分かってしまう。


 (今までどれだけ君の言葉を聞いてきたと思ってるんだ)

 きっと絵美にそれを言ったら、「そんなに貴方と親しくなったつもりはない」とまた反論されてしまうかもしれないが。


「ありがとう。少し、自分を労わってみるわ」

「うん、そうしてあげて。僕で力になれることなら手伝うからさ」


 絵美に米売り場まで案内され、葉月は残り少なくなった五キロの米を担いでレジまで向かう。

 絵美もどちらにせよ来客者が多かったこともありレジに向かったみたいで、葉月の精算も絵美がしてくれた。


「頑張ってね、師走さん」

「言われなくても頑張ってるわ。失礼な人ね」

「あはは、そうだよね、師走さん真面目だから。……じゃあ、無理しないでね? おやすみ」

「……おやすみ、なさい」


 米を担ぎながら絵美に手を振る葉月の光景はとてもシュールだったが、それを見て絵美も少しおかしくて、「おやすみ」を返しながら控えめに手を振った。

 それに葉月が気付いていたかは分からないけれど、帰り道、葉月の頬は完全に緩み切っていた。


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