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分散

 倒れた猫人たちを教会の中に運び終え、トラックたちは教会の扉の前に集まる。村長の語った、猫人が監禁されている場所は今いる村の他に四か所。ここは最も東側にあり、他の場所は北西、南西、ほぼ真西、南南西とまんべんなく散らばっている。近い距離にあれば監禁場所を分ける意味がないので当たり前と言えば当たり前だが、それぞれに距離があり、移動するだけで夜が明けてしまいそうだ。ひとつずつ順番に解放していく、というのは難しい気がするんだけど……


「俺たちがここに来たことは遠からず敵にバレると思ったほうがいい。そうなると残りの監禁場所にいる猫人が危うい」


 猫人にケテルからの救援を襲わせるというのが敵の算段だとしたら、その成否を何らかの形で確認するはずだと、剣士が危機感をあらわにする。離れた場所で監視しているとか、魔法やスキルで異常を検知する、なんてことをしていたら、実はもうすでに事態は露見しているかもしれないのだ。ミラも同意するようにうなずいた。


「悠長にひとつずつ、なんて無理」


 セシリアは苦悩を表情に滲ませた。


「……手分けして、一斉に四か所を叩く」


 自らのつぶやきの無謀さを理解するからこその苦悩、ということなのだろう。この人数で手分けをしたら当然、一ヶ所に割ける戦力は平均で二名を割る。プロの傭兵集団に二人未満で挑むなんて荒唐無稽な話、まして敵の数がどれだけかもまだ分かっていない。だがナカヨシ兄弟は皆を鼓舞するように大きくうなずいた。


「それしかあるまい」

「うむ。すべてを救わんと欲するならば」


 まったく勝算もなさそうな状況だというのに、ナカヨシ兄弟には不安の影などみじんもない。おそらくは皆を、特に子供たちを不安にさせないための虚勢なのだろうが、この状況だと妙に頼りがいを感じる。ナカヨシ兄弟、実は結構すごい?


――プァン


 トラックがクラクションを鳴らすと、ルーグが弾かれたように顔を上げて抗議の声を上げた。


「お、おれだって、戦える! 戦えるんだ!」


 しかしその声はかすかに震え、顔は蒼白のままだ。トラックは再びクラクションを鳴らす。「でも」と反論しようとしたルーグを剣士が諭す。


「トラックの言うとおりだ。誰かが残らなきゃここにいる猫人たちを守れない」


 ルーグは剣士を振り向いて何か言いたげな表情を浮かべる。フォローするようにセシリアが言った。


「私たちはあなたを置いていくのではありません。あなたを信じて、託すのです。あなたの持つ【無敵防御】の力は必ず猫人たちを守ってくれると」


 ルーグはセシリアに顔を向け、納得できないような様子でうつむいた。トラックは静かなクラクションを鳴らす。うつむいたままルーグは「わかった」と絞り出すように答えた。


「では、私も残ろう」


 ナカノロフがさも当然のように言った。ルーグが唇を噛む。ヨシネンはミラを振り返り、


「では私はミラ殿と共に参りましょう」


と朗らかに笑った。ミラは迷惑そうに顔をしかめる。


「ひとりでいい」

「そう邪険になさらず。御身必ずやお守りしますぞ」


 ナカヨシ兄弟に向かってトラックはプァンと感謝のクラクションを鳴らした。二人は大きくうなずきを返す。剣士とセシリアも少なからず安堵を顔に浮かべた。さすがに子供たちだけで戦いの場に身を置く状況はいかん、ということだろう。いや、そもそも子供がこんな場所にいること自体いかんのだけども、ナカヨシ兄弟がついてくれていれば何とかなるだろう、という不思議な安心感がある。あれ、いつの間にかナカヨシ兄弟への信頼感がすごい。


「じゃあ、俺は南西の村に」


 剣士がトラックに告げる。セシリアはうなずき、


「では私は西に」


と宣言した。ミラが続いて言う。


「南西の村。トラックは一番遠い南南西に」


 移動速度を考えればトラックが一番遠い場所というのは合理的な判断だろう。トラックは了承のクラクションを返した。各自が互いを見てうなずきあい、覚悟を決める。


「敵を退け、すべてを救います。夜が明けたらまた、ここで」


 セシリアの言葉に皆は思い思いに返事をして、それぞれの方向に歩き出す。森の奥へと向かうトラックたちの背を見つめてルーグはこぶしを握った。ナカノロフはルーグの隣に立ち、何も言わずに腕を組んでいた。


 ……


 みんなバラけたーーーっ!!

 別行動になったーーーっ!!


 ちょ、どうしよ。誰についていく? ルーグの様子も気になるし、トラックは、まあ大丈夫な気はするけどミラとか心配だし、セシリアは魔法使いなのに前衛もなく単独で大丈夫なん? 剣士も悪魔の力を失ってからお悩み中だったし、俺が見てないところで負けましたとか、その、死んじゃったりとか、したらめちゃくちゃ嫌だ! いや、死んじゃうところを見るのも嫌だけど! そういうシリアス展開望んでませんから! 「いやぁ、ギャグマンガじゃなかったら死んでたぜ」みたいな感じで理不尽に生き残れ! ご都合主義大歓迎ですから!

 ……くそう、やっぱりあれしかないのか。めっちゃやりたくないけど。ものすごい酔うから嫌なんだけど! 四の五の言ってる場合じゃねぇ! なぜか俺にひらめいた謎スキル【視点分割】を再び使う時が来たらしいな! 同時に五つも視点分割したらもうわけわかんなくなりそうな気がするけど! 見届けられないほうが嫌だよね! もうヤケクソ! それじゃいくぞ! いち! に! さん! ダー!!


『アクティブスキル(ユニーク) 【視点分割】

 複数の場所の出来事を同時に体験することができるようになる』


 うぉう、視界が増える! わかるかなこの感覚! 超気持ち悪い! 自分がどこにいるのかわからなくなりそう! ええっと、とりあえず一体はここに残って、残りはそれぞれを追おう……って、ああ!? 気を抜くと全部の視点が同じ方向に行ってしまう!? 慣れろ、俺! がんばれ、俺!! あ、いかん! もたもたしてる間にみんなが行ってしまった! 待って、置いてかないで! 直進もままならない足取りのまま、俺は何とか皆の背を追った。

視点分割の苦労を分かち合える仲間を募集中。

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