偶像
信じられぬ奇跡を目の当たりにしたように、人々が目を見開いて凝視する。トラックのヘッドライトは星のない夜に灯のごとく人々を照らしている。
「……特級厨師様だ」
誰かがぽつりとつぶやく。
「特級厨師様がご降臨なされた!」
ご降臨って、トラック今何扱いなの? 人々はトラックに駆け寄り、口々に助けを求めた。トラックに乗っていた施療院スタッフとミラ、剣士が外に出る。トラックはプァンとクラクションを鳴らすと、ゆっくりとアクセルを踏んだ。人々が道を開けて様子を見守る。無言の祈りが満ちる中、トラックはヘッドライトを患者に向けた。スキルウィンドウが【肺洗浄】の発動を告げる。
「おお!」
ヘッドライトに照らされた患者たちの容態が目に見えて変わり、人々から感嘆の声が上がった。呼吸が落ち着き、苦しげに歪んでいた表情が穏やかになる。トラックはゆっくりと進みながら人々を照らし、病を払っていく。やがてトラックは、さっき暴動になりかけた状況を救った少女の前に来た。少女は発熱によってひどく消耗しているようだったが、トラックの姿を見て安心したように微笑んだ。
「ほら、とっきゅうちゅうしさまが、きてくれた」
プァン、と少女に応え、トラックのヘッドライトが少女を包む。熱が下がり、顔色も劇的に良くなって、少女は寝息を立て始めた。ああ、大変だったね。ゆっくり休んで、早く元気になって。
「特級厨師様! ありがとうございます!」
少女の隣にいた父親がそう声を上げる。プァンと何でもないようなクラクションを返し、トラックは次の患者にヘッドライトを向けた。
「トラックさん」
セシリアがトラックに駆け寄って微笑む。施療院前にいた患者たちはすべてトラックによって治療され、今は穏やかな眠りの中にいた。患者の家族たちも平静さを取り戻し、大切な人の手を握っている。
「ありがとうございます。来てくださって」
わずかにうるむ目でセシリアはトラックを見つめた。押し寄せる患者たちを必死で治療する時間はきっと心細かったのだろう。トラックはプァンとクラクションを返す。表情を引き締め、セシリアは施療院の建物に目を向けた。
「はい。中にはまだたくさんの患者がいます」
「おい! また患者が運ばれてきたぞ!」
剣士がトラックに向かって叫ぶ。若い男が担架に乗せられて運ばれてきたようだ。その後ろにも、誰かを背負って慌てたように駆けてくる人の姿が見える。
「……第二波」
ミラがぽつりとそうつぶやく。セシリアが厳しい表情で言った。
「新たな患者は私たちで対処します。トラックさんはまず中の患者を」
施療院の中の患者は最初に運ばれてきた患者たちで、つまり感染から時間が経ち、体力を消耗している重症化リスクの高い患者だ。トラックはクラクションを鳴らすと【念動力】で施療院の扉を開け、急いで中に入った。
「重症の患者をトラックさんのところへ集めろ! 軽症者は安静にして様子見、中等症者には解熱剤だ! 急げ!」
矢継ぎ早に院長の指示が飛び、スタッフが止まる間もなく行き交う。ベテランが次々と入ってくる患者を瞬時に見極め、手許のタグを千切って患者に付けた。タグは四色に分けられており、緑は軽症、黄色は中等症、赤は重症、そして黒は、処置不要――手の施しようがない、ということを示している。しかし今、黒を付けられている患者はいない。どれほど重症でも、もう手遅れだと思っても、トラックが何とかしてくれる。その希望が患者と施療院のスタッフの双方を支えている。
「ベッドがもうない!」
「トラックさんの治療を受けた患者にはどいてもらえ! 回転早くしないともたんぞ!」
トラックのヘッドライトを浴びた患者が即、スタッフに担がれて運び出されていく。患者は次から次に運び込まれ、トラックがどれだけ治療しても一向に減る様子がなかった。ミラが「第二波」と言ったが、その波がどれほど大きいものなのか予測もつかない。まして収束はとても見通せそうになかった。
「だいじょうぶ、もう少し頑張って」
セシリアが患者に呼びかけて手を握る。ミラは発熱した患者の額に乗せた布を交換していた。剣士は患者の移送に走り回る。ああもう、全然人手が足りん!
「トラック!」
聞き覚えのある声が聞こえ、トラックは声の主を探すようにクラクションを鳴らした。患者たちをかき分けて駆け付けたのは、数人の冒険者ギルドのメンバーだった。先頭にいるのはAランカーの短槍使いで、その後ろにも見知った顔が見える。
「大変なことになってるみたいじゃないか。応援に来たよ。指示をおくれ、なんでもやってやる」
た、頼もしい! まさに天の助け! でもゴブリンたちの護衛は大丈夫? トラックがプァンとクラクションを鳴らす。短槍使いは呆れた顔で言った。
「あんただってここにいるだろう。本来なら特級厨師殿の方が評議会館にいるべきじゃないのか?」
そ、それを言われると言葉もない。トラック好き勝手に移動してるけど、実はそんなに自由に動き回っていい立場じゃないんだよね、信じがたいことに。冒険者ギルドの最高位の称号を持つ者として責任を負ってるんだよね、実は。トラックはプォンとクラクションを返す。短槍使いは首を横に振った。
「細かいことはいいさ。この騒ぎだってケテルとして放置できないことに変わりはないんだ。そんなことより、しゃべってる暇はないだろう? あたしらは何をすればいいか、教えてくれ」
トラックは感謝を伝えるクラクションを鳴らすと、近くにいた施療院のスタッフを呼んだ。スタッフが短槍使いに指示を伝え、冒険者たちはその指示に従って一斉に動き始めた。トラックもまた患者の治療に戻る。患者は未だ途切れることなく運び込まれ続けている。トラックのヘッドライトが光を強くした。
冒険者たちの応援は状況の改善に大きく貢献し、現場は落ち着きを取り戻しつつある。今まで施療院スタッフが行っていた患者の移送を冒険者たちが丸ごと引き受けてくれたのだ。スタッフたちなら大人一人を運ぶのに数人がかりでも、冒険者たちは一人で数人を運んでくれる。施療院のスタッフが医療行為に専念できるというのは非常に大きいことだった。
時刻は深夜零時を回り、運び込まれる患者の数はピークを越えたようだ。トラックが治療できる患者の数が新規患者の数を上回り、重症患者のみだが、その数は急速に減っていった。おお、なんとか第二波を乗り切ったみたいだな。休みもなく働き続けたスタッフたちの顔には疲労の色が濃いが、誰も死なせずにすんだことに安堵しているようだった。
「みんな、聞いてくれ」
トラックが最後の重症患者を治療し終わったとき、院長が皆に向かって言った。
「当面の危機は乗り切ったと思う。患者の容体の急変には備えねばならんが、みんなもずっと働きづめだろう。交代で休憩をとってくれ。次の波が来た時のための余力をとっておかねばならん」
中等症の患者も解熱剤で症状が落ち着き、軽症の患者にも今のところ重症化する兆候は見られない。施療院には今、静かな寝息が広がっている。これで収束してくれることを祈るがな、と院長はつぶやく。切実な顔で頷きを返し、スタッフたちは休憩のシフトを決めると、各々の割り当てに従って移動を始めた。
「ようやく一段落かい?」
短槍使いが肩を回しながらトラックに声をかけた。セシリアやミラ、剣士もトラックのいる場所に集まる。それぞれ疲れてはいるようだが、今は何とかなったという安心のほうが勝っているようだ。
「体の使い方が全然違うね。こりゃ戦いの方が楽だ」
戦闘の時は相手を気遣うなんてしないが、今回は運ぶ患者を手荒に扱うわけにいかないから、変に緊張したんだそうだ。ひっつかんで放り投げるってんなら得意なんだがね、と冗談めかして短槍使いは笑った。セシリアは苦笑いを浮かべ、剣士は「気持ちはわかる」とばかりにうなずく。おいおい、と言うようにトラックはクラクションを鳴らした。ミラが笑い、リスギツネがクルルと鳴いた。
「さて、あたしらはどうしようかね。次の波ってやつが来るんならここにいたほうがいいんだろうが、何もないなら評議会館に戻らなくちゃいけないだろうし」
短槍使いは思案げに腕を組む。確かに、事態が落ち着いたのであればAランカーがここに留まるのはもったいない気がする。今評議会館が襲撃を受けたら、と考えると、冒険者ギルドの最大戦力の一人がここにいるのは結構な損失だろう。しかしもし第三波がくるとしたら、彼女らがここにいてくれるとこの上なく心強い。そして、この病は人為的に引き起こされたものだ。第三波がいつ、どんな規模で起こるのかはすべて敵の胸先三寸、となれば、施療院に人手を確保しておきたいのも事実だし……ぬあぁ、難しいな!
「……と、特級厨師さま……」
遠慮がちな、というか、どこか怯えるような震える声が割り込んできて、トラック達は声の主を振り向いた。そこにいたのは十代半ばの女の子。患者の家族だろうか、蒼白な顔で、今にも泣きそうな様子でトラックを見ている。セシリアが傍に近づき、女の子の手を取る。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
「あの、わたし、頼まれて、渡してって……」
女の子はそっと手を差し出す。そこには一枚の紙切れが握られていた。セシリアは紙切れを受け取ると剣士に渡し、震え続ける少女を椅子に座らせる。剣士が紙切れを広げ、はっと息を飲んだ。
「これは――」
剣士のただならぬ様子に、短槍使いが横から紙をのぞき込む。そこに書かれていたのは南東街区の地図、そして、挑発するかのように書かれた一つの言葉だった。
『救わんと欲すれば、我らの招待を受けられたし』
意味を理解しかねたのだろう、短槍使いは訝しげに眉を寄せた。剣士は女の子に、焦燥を抑えるようにゆっくりと問う。
「頼まれたって、誰に?」
「……見たことない、怖い、人たち」
女の子は施療院で治療を受けた患者の家族で、治療が終わり家に帰る途中に、怪しい男たちに声を掛けられたのだという。男たちは一見するとごく普通の中年男性だったが、ただ、その目だけが、異様なまでに冷たかった。まるで命に何の価値も見出していないような、そんな目をしていた。男たちは彼女に紙切れを手渡し、特級厨師に渡すように頼んだ、というか、命じた。断れば殺されると直感し、彼女は紙切れを受け取った。
「ひとりだけ、怖くない人が、いて」
男たちのなかで一人だけ、大柄な戦士風の男だけは、彼女に気遣うような視線を向けていた。男たちは紙切れを渡すと彼女に背を向けて歩き始めたのだが、少し進んだのち、急に戦士風の男が振り向き、ひどく切迫した声で叫んだ。
「それを特級厨師に渡すな! 罠だ! 絶対に来るな!!」
戦士風の男と一緒にいた男たちが、慌てたように戦士風の男を押さえつけ、殴りつける。そして次の瞬間、闇の中に淡い光が立ち上り、男たちは姿を消した。
「……特級厨師さまに、渡していいか、わから、なくて、でも――」
抱えきれない罪を告白するように、女の子の目から涙があふれた。
「渡さなきゃ、あの人が、殺されちゃうかもって……!」
両手で顔を覆い、女の子は泣き始める。この地図をトラックに渡せばトラックを危険に晒すかもしれない。しかし渡さなければ戦士が殺されるかもしれない。渡しても渡さなくても、誰かが傷つく。そのことに彼女は怯えていたのだ。
「大丈夫。よく話してくれましたね。もう大丈夫。誰も死んだりはしない」
セシリアが女の子を優しく抱きしめる。セシリアにすがり、女の子は大きな声を上げて泣いていた。
「……ようやく合点がいったぜ」
剣士が厳しい表情でつぶやく。トラックがプァンとクラクションを鳴らした。剣士はトラックを振り返る。
「敵の目的は、お前だ、トラック」
プァン? とトラックは疑問形のクラクションを返す。剣士は不快そうに顔をゆがめた。
「ゴブリンたちへの襲撃は、お前が自分で罠に飛び込むように仕向けるための伏線だったってことさ」
ゴブリンたちを敵、つまりクリフォトの工作員が襲ったのは、ケテルとゴブリンの新たな関係を破壊するため、ではなく、戦士の裏切りをトラックに見せつけるため、だったのだと剣士は言った。決定的な場面で戦士を裏切らせ、裏切りの理由をトラックに伝える。心ならずも裏切らざるを得ないのだと、戦士の窮状をトラックに知らしめる。だからあの時――戦士が裏切ったあの襲撃の時、敵はあっさりと退いたのだ。あの時点ですでに目的は果たされていたから。
「事情を知ればお前は奴を助けようとするだろう。そこにあの地図を渡せば、お前は間違いなくそこに行く。罠だと分かっていながら、な」
敵は地図に書かれた場所で、確実にトラックを仕留めるだけの戦力を用意して待っているだろう。つまり敵はトラックを、ゴブリン族がケテルの友好勢力となること以上の危険因子だと考えたのだ。ケテルの人々を物理的にも精神的にも守る特級厨師という存在こそがケテル武力併合の最大の障害だと、そう判断したということだ。
「待ちな。自分たちばかり納得してんじゃないよ」
短槍使いが剣士を遮り口をはさんだ。
「説明してもらおうか。その口ぶりじゃ、あいつが裏切った理由を知ってるんだろ?」
剣士がためらいを示し、口を閉ざした。短槍使いは良くも悪くも生粋の冒険者だ。裏切った戦士を許してあげようなんて、そんな甘いことを言ってくれるはずもない。だがまあ、ここまで聞かれてしまっては今更隠したところで意味はない気もする。地図もすでに見られてしまった。最悪、地図の示す場所を追跡者に報告される可能性もある。ここは素直に説明して、何とか理解してもらうしかない。トラックがプァンとクラクションを鳴らす。剣士はうなずき、戦士の置かれている状況を説明した。
「……バカだよ、あいつは。そんな相手がいるなら、あたしたちに伝えてくれりゃよかったんだ。そうしたら、みんなで守れたかもしれないってのに」
悔しそうに短槍使いは唇を噛んだ。戦士との付き合いは長く、互いに競い合い、腕を磨いてきたのだという。それなのに、そんな大事なことを伝えてくれなかった。それが悔しくて情けないのだと、短槍使いは言った。
――プァン
トラックは真剣なクラクションを鳴らした。短槍使いはまっすぐにトラックを見つめる。わずかな沈黙の後、短槍使いははっきりと言った。
「あたしも連れていきな」
剣士が意外そうに目を見開く。連れていけ、ということは、つまり一緒に戦士を助けに行くということだ。裏切りには死を、がギルドの鉄の掟なら、短槍使いは掟破りに加担することになるが……トラックはプァンとクラクションを鳴らす。ふんっと短槍使いは鼻を鳴らし、
「一発殴ってやんなきゃ気が済まないのさ。その前に死なれちゃ困るんでね」
顔の前に握り拳を持ってきてニッと笑った。おお、男前。かっこいい。協力を得られると思っていなかったのだろう、剣士が表情を緩めた。トラックがプァンとクラクションを鳴らす。急ごうとでも言ったのだろうか、皆が表情を引き締めてうなずいた。トラックがアクセルを踏んで出口へと向かい、セシリアたちがその後に続いた。
「特級厨師様?」
施療院の入り口から外に出ようとするトラック達に気付いた患者の家族が声を掛けてくる。トラックはブレーキを踏む。キィッと意外と大きな音が響いた。音に気付いたのか、寝ていた患者の家族たちが起きだしてトラックを囲む。皆、一様に不安そうな顔をしている。
「特級厨師様、どこに行かれるのですか?」
トラックはカチカチとハザードを焚いた。さすがに『裏切り者を助けに行きます』とも言えず、なんと答えていいものか考えているようだ。その沈黙を誤解したか、患者の家族から悲鳴のような声が上がった。
「私たちを置いて行かれるのですか!?」
「そんな! 私たちをお見捨てになるのですか!」
その言葉にざわり、と不穏な空気が広がった。人々の目に狂気めいた光が宿る。それは依存の光――特級厨師という偶像に身を委ねたことの証明だった。
「行かないでください! どうか私たちをお救いください!」
「あなた様がおられなければ、私たちはどうしたら――!」
トラックは特級厨師という名を使って人々の不安を抑え、人々はそれを信じた。ゆえにトラックがいなくなれば、抑えてきた不安が溢れ出すのは必然なのだ。信じさせたのはお前だ、今更裏切るな、人々の目がそう告げている。トラックを囲む人々の輪が距離を狭めた。
「ご安心ください」
一触即発の雰囲気を破ったのは、落ち着いたセシリアの声だった。人々の視線がセシリアに集まる。セシリアはその視線を堂々と受け止め、穏やかに語り掛ける。
「特級厨師様はここを出なければなりません。特級厨師様の御力を必要とする方々はあなた方以外にもいるのです。助けを求める声に、特級厨師様は遍く応えねばなりません。ですがそれは、特級厨師様が皆さんを見捨てるということではありません」
セシリアが小さく「【肺洗浄】を」と囁く。トラックは意図をあまり理解していない感じで、とりあえずスキル【肺洗浄】を発動した。ヘッドライトが正面にいる人々を照らし、スキルウィンドウがスキルの発動を告げる。でも、ヘッドライトに照らされている人は患者じゃないからあんまり意味ないんじゃ……俺の疑問をよそに、セシリアは【肺洗浄】のスキルウィンドウに手をかざした。セシリアの身体から真白の光があふれ始める。
はっと息を飲み、ミラがセシリアに駆け寄って手を添えた。ミラの身体からも光があふれ、二人の光は合わさって一つとなり、スキルウィンドウを包む。やがて光はスキルウィンドウに吸い込まれ、そして次の瞬間、スキルウィンドウが二つに分離した。いや、正確に言うと、もともとあったスキルウィンドウはそのままで、それとそっくりな、でも真っ白なスキルウィンドウが増えた、という感じだろうか。トラックの呼び出した【肺洗浄】のスキルウィンドウが役割を終えて消え、残った白いスキルウィンドウがセシリアの身体に吸い込まれる。目の前で起こったことが理解できず、人々はぽかんとセシリアを見つめた。
「……無茶、しないで」
たしなめるようなミラの囁きに目で答えたのち、セシリアは再び人々に呼びかける。
「今、特級厨師様の御力の一部を授かりました。特級厨師様が行ってしまわれたとしても、私がこの授かった力で、皆様をお助けします」
おお、と人々がどよめく。スキルウィンドウが分裂してセシリアに宿った、という光景が彼女の言葉に説得力を与えたようだ。畳みかけるようにセシリアは人々に言う。
「さあ、道を開けてください。皆様と同じく、特級厨師様の御力を必要としている人々のために」
気圧されたように人々は左右に分かれ、入り口までの道が開く。
「行ってください。ここは私に任せて」
セシリアの言葉にトラックはプァンとクラクションを返した。剣士がどこか迷うようにセシリアを見る。セシリアは安心させるようにうなずいた。
「トラックさんをお願い」
迷いを吹っ切るように剣士は「分かった」と答える。ミラは決意を湛えた瞳でトラックに言った。
「私は残ってお姉ちゃんを手伝う」
トラックがプァンとクラクションを鳴らす。ミラは力強く「任せて」と答えた。短槍使いが「行こう」と促す。扉を開け、剣士と短槍使いを乗せて、トラックは施療院を後にした。
特級厨師って結局何なのか、もうワシにはわからんとよ。




