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ちくわ

 カズエちゃんからどらやきをいただき、煎茶で一服した一行は、礼を言ってフェン爺さんの家を後にした。次の行き先はリェフの父、ゼオの最期を看取った男。リェフがその男に会いに行ったとすれば、フェン爺さんに会った一週間前よりは後の事のはずなので、直近の足取りを追うことはもしかしたらできるかもしれない。そうでなくても、父親の最期を知ったときのリェフの様子が分かれば、彼がこれから為そうとしていることの手掛かりになるかもしれない。


「……ユリウス・トランジとは何者でしょうか」


 トラックの運転席に座り、セシリアは難しい顔で中空をにらんでいる。助手席のミラは、何だかセシリアと似た仕草で思案げな様子だ。


「トランジ商会とは無関係?」

「とは、とても思えません」


 ミラのつぶやきにセシリアは答えを返した。確かに、トランジと名の付く怪しげな男がトランジ商会という名の正体不明の集団に関わっていない、と考えるのは楽天的過ぎるだろう。トランジ商会はケテルの南に位置する国、クリフォトとの繋がりが疑われている組織だ。フェン爺さんたちの推測では、ユリウス・トランジは何者かが送り込んだ工作員だという話だったが、その何者か、というのがクリフォトだとすると何となく辻褄が合ってくる気がしない? 十八年前、あるいはもっと以前から、クリフォトはケテルを支配下に置くべく工作を試みていた、ということだ。息の長い話っちゃあそうなんだけど、ケテルの持つ経済力はそれほどに魅力的だということなんだろう。クリフォトは建国以来ずっと内乱が続いてきたから、力づくでケテルを併合するのは難しかったってこと……ん? いやちょっと待って、不可能だわ。この推測ありえないわ。そういえばクリフォトは五、六年前にできた新しい国だって話だったよね。十八年前にクリフォト存在してないわ。

 えーっと、そうすると順番が逆? ケテルをどうにかしようとした勢力が先にいて、クリフォトの成立後に両者が手を組んだ? だとすると、大元はトランジ商会で、トランジ商会が送り込んだエージェントがユリウス・トランジ。クリフォトはトランジ商会と何らかの利害の一致を見て協力しているに過ぎない。……うーん、矛盾はない、気がするけど、ピンとこないなぁ。現時点ではトランジ商会の目的もクリフォトの目的もよく分かってないしなぁ。

 何にしろ、推測するには情報が足らない気がする。セシリアもミラも、口にできるような推測には至っていないようだ。剣士の意見も聞きたいけど、残念ながらヤツは荷台で独り体育座りをしているので話が聞けない。


「十八年前……でも、なぜ……?」


 聞き取れるかどうか、というほどの小さな声で、セシリアがそうつぶやいていた。




 フェン爺さんが教えてくれた、ゼオの最期をみとった男の居場所は、南東街区の中でも特に寂れた、ひとことで言えば見捨てられたような場所にあった。ここにはちょっと見覚えがあるな。ルーグとトラックは以前ここに来たことがある。大火によって焼け落ち、打ち棄てられた場所。幼い兄弟のために食べ物を盗んだ少女が隠れるように住んでいた廃墟の町だ。そういえばあの子たち、確かノブロのところに引き取られたって聞いた気がするな。元気かなぁ。まあノブロたちと一緒にいるのなら大丈夫だろうけど。

 ノブロたちの活動もここまでは届いていないらしく、廃墟の町は廃墟のままだ。ガレキをよけながらトラックは慎重に進む。なにせ周囲は廃屋だらけなのだから、突然壁が崩れ落ちてきてもおかしくないし、見通しも悪いので誰かが突然飛び出してくるかもしれないのだ。

 車体をガタガタと揺らしながらどうにか進んでいると、やがてトラック達の前に少し大きな建物――の残骸が姿を現わした。元々は集会場か何かだったのだろうか、周囲の建物と比べるとずいぶん大きい。最低限の補修はしているらしく、屋根や壁に目立った破損はなかった。もっとも、その補修は素人丸出しの出来で、とりあえず穴さえ塞げばいい、という割り切りが垣間見えた。

 トラックは建物の前で停車し、セシリアたちがトラックを降りる。建物の扉越しになにやらそれなりの人数の気配がした。何かをしゃべる声、あるいは笑い声。そんなものも断続的に聞こえてくる。言ってみれば、学校の教室みたいな? 邪魔をすることを躊躇ったのか、セシリアは少しの間、扉の前で中の様子に耳を澄ませていたが、声が途切れたタイミングを狙ってそっと扉を開けた。


「ごめんくだ――」

「それではみなさん、今日もちくわに祈りの歌を捧げましょう」


 ……あれ、なんか今、変な声が聞こえたよ。疲れてんのかな? ちくわに祈りを、とか聞こえたけど、気のせいだよねぇ。ちくわに祈りって。そんなバカな


「ちくわの穴は真理への道ぃ~~。覗けば未来に繋がっている~~。ちくわよ我らを導いて~~。苦悩に満ちたこの憂き世~~。切り裂くちくわのこの美味さ~~」


 歌い始めたーーーーっ!!!

 ちくわに捧げる祈りの歌を歌い始めたーーーーっっ!!!

 ちくわの穴を覗くと未来が見えんの!?

 そして導いてって言っとるクセに最終的にちくわ喰っとるやないか!!


 扉を開けた姿勢のまま、セシリアの動きが止まる。建物の中はちょっとした礼拝堂のようになっており、中央奥の壁に『ちくわ曼荼羅』が掛けられている。いや、ちくわ曼荼羅ってなんだよって話なんだけども、文字通りちくわが描かれた曼荼羅なんです。中央に生食用のちくわが大きく鎮座ましましており、つまりそれが如来的位置づけなのだろう。そしてちくわ如来の周辺には円形に様々なちくわ、ないしちくわ料理が並んでいる。どうやら加工度が高いほど周縁部に追いやられているらしく、ちくわ如来の周囲にはチーズちくわやキュウリちくわが並び、煮しめやおでんは端のほうに描かれていた。っていうかね、なんでちくわ曼荼羅について丁寧に説明してんだって話ですよね。どうでもええわぁーーっ!!

 ちくわ曼荼羅の前には簡素な祭壇があり、その前に五十がらみの穏やかな表情の男が皆を見渡している。礼拝堂には十人ほどの信者? が、右手にちくわを、左手に歌詞カードを持ってちくわを讃える歌を歌っていた。……聖歌、ということなのだろうか? 一番を歌い終わると、信者たちは一斉に手のちくわをひと口かじる。ああ、もしかして、ちくわを食べ終わるまで延々と歌わないといけない感じなのか。いったい何番まであるんだこの歌。

 扉を閉めるべきか、という葛藤がセシリアの顔に浮かび上がる。いやしかし、ここで扉を閉めたらもう再び開ける勇気は絞り出せないかもしれない。見なかったことにして帰りたい。でもリェフの事を聞かなければ。セシリアの額にじっとりと汗が滲んだ。剣士もまた苦悩に満ちた表情を示している。ミラが小さく「……切り裂くちくわのこの美味さ~~」と口ずさんだ。え、ちょっと気に入ってる!? やだ待ってトラック今すぐミラの耳塞いで! 変なこと覚えさせないで!!

 踏み出すべきか踏み出さざるべきか、決断できないまま時間だけが過ぎ、信者たちの歌声だけが響く。信者たちは年齢も性別のバラバラだが、共通しているのは皆、貧しい身なりをしているということだった。歌ってはちくわをかじり、歌ってはかじり、結局セシリアたちの決断を待たず歌は終わった。「神父様、さようなら」と言って信者たちは礼拝堂を後にする。曼荼羅掲げてるのに神父様なのかよ。適当だなオイ。


「お待ちいただいたようですみませんね。お祈りは重要なお勤めなもので」


 信者たちを呆然と見送っていたセシリアたちに、神父と呼ばれた男が声を掛けてきた。「どうぞ中へ」と促され、己の中の葛藤を振り切ってセシリアたちは中に踏み込む。ギシギシと床が鳴り、神父が「足元に気を付けて。場所によっては床が抜けます」と注意を促した。そろりそろりと歩くセシリアたちに、神父は柔和な笑みを向けた。


「入信希望者の方ですか?」

「断じて違います」


 明確な拒絶感を以てセシリアが答える。気分を害するかと思ったら、意外にも神父は楽しそうに笑った。


「だと思いました。あなた方はちくわに縋るタイプではなさそうだ」


 ちくわに縋るタイプの人がどういう人なのか全然わかりませんけども。それに関して特に興味がないのか、セシリアは挨拶もそこそこに本題を切り出した。


「私たちは今、リェフという男性を捜しています。彼がこちらを訪ねたと聞き参りました」


 神父が少し驚いたように目を見開く。そしてセシリアたちを見渡し、小さくうなずいた。


「確かに彼はここに来ました」

「彼にどんな話を?」


 神父の答えに間を空けずセシリアが質問を返す。神父の顔に苦笑いが浮かんだ。


「私は尋問されているのですか?」


 ハッとした表情になり、セシリアは「失礼いたしました」と詫びた。気にしていないという意思表示だろう、神父は首を横に振って微笑む。神父はすぐに表情を改め、じっとセシリアの目を覗き込んだ。


「あなた方はなぜ、リェフさんを捜しているのですか?」

「ある方に頼まれました。もし彼が道を誤っているのなら、止めねばなりません」


 怖気づくことなくセシリアは神父の目を見つめ返した。神父はセシリアの回答に納得したのか、うなずいて口を開く。


「彼に話した内容を、あなた方にもお伝えしましょう。その上で、彼が道を誤っているかどうかをあなた方が判断するといい」


 そう言うと神父は大きく息を吸い、何かを吐き出すように息を吐いて、十八年前――ゼオの死んだその日のことを語り始めた。




 その日は、息苦しさを覚えるような暑い日だったという。血で血を洗う激しい抗争の只中にあった南東街区は、本来無関係な住人たちも巻き込んで骸を積み重ねていた。新たな衝突が起こったという知らせを聞いたゼオは、数人の協力者――その中には神父もいたのだが――と共に現場に駆け付けた。そこで目の当たりにしたのは、筆舌に尽くしがたい凄惨な光景だった。


「当時はすでに、本来関係のなかった別のマフィアたちも抗争に介入を始めていてね。もう当人たちも誰と戦っているのか分からないような状況でした。目につく者は全員殺せ、とばかりにね。異常なことですが、まるで熱に浮かされるように殺し合っていた」


 きっかけも分からないその衝突はあっという間に膨れ上がり、付近の住民たちは退避もままならなかったようだ。人々は悲鳴を上げて逃げ惑った。そしてその中には、カズエちゃんとその家族もいた。ゼオたちは呪銃の凶弾飛び交う中に決死の覚悟で飛び込み、住民を避難させていった。


「正直、そのときのことはあまり記憶がありません。ただ、とても怖ろしかったことを憶えている。なにせほんのわずか目を離していた隙に、さっきまでそこにいた人が死体に変わっている。私たちはそのとき、義務や正義感ではなく恐怖に突き動かされていた。誰も救うことができないのではないかという恐怖に」


 マフィアたちは異常な興奮状態にあり、動く者は手当たり次第に攻撃していた。正気を保つことも難しい空気に支配された戦場で、ゼオは逃げ遅れていた一つの家族の救出に走る。それが、カズエちゃんとその両親だった。


「その男のことは、今でもはっきりと憶えています」


 異様な熱狂が渦巻くその場所で、その男は一人、異質な雰囲気を纏っていたのだという。冷静で、冷酷で、意思と目的を持った知性の光を瞳に宿した男。他の何者にも目を向けず、その男はまっすぐにゼオを捉えていた。


「灰色の長髪を無造作に束ねた、キツネのように細い目の男でした。男は作業のようにゼオさんに銃口を向けた」


 神父はそのとき、ゼオを挟んでちょうどそのキツネ男と向かい合わせの位置にいたそうだ。ゼオが狙われていることに気付き、神父は「逃げろ!」と叫びながらゼオに向かって走ったのだが――


「その男は三度、引き金を引きました。ゼオさんと男の間には夫婦がいて、最初の二発で二人を仕留め、最後にゼオさんを撃った」


 弾丸はゼオの頭部を撃ち抜き、ほぼ即死の状態だったという。男はゼオの死を見届けると、もはや興味はないと言わんばかりにその場を立ち去った。ゼオの死によって神父たちは救出活動の継続を諦め、ゼオが最後に助けようとした少女――カズエちゃんを抱き抱えて撤退した。


「あの男の目が、今でも忘れられない。命に何の価値も見出していない、あの目が」


 そうつぶやき、神父は深く息を吐いて首を横に振った。




 リェフさんにお話したのはこれだけです、と言って、神父は話を締めくくった。命がこれほどに蔑ろにされるのだと、セシリアたちは声を出せずにいるようだった。神父はどこか虚ろな表情で言った。


「十八年前のあの抗争は、ただ争いが起きて人が死んだだけのことではないんです。人々の最低限の信頼や思いやりといった、当時にはかろうじてまだあった人同士の繋がりを根底から破壊してしまった。他人は獲物か獣か、その二択でしか関係性を測れなくなってしまった。あの一連の出来事が無ければ、南東街区の歴史は大きく変わっていたはずです」


 神父の言葉の裏には、「もしゼオが生きていたら」という思いもあるのだろう。もしゼオを失っていなければ、破壊された繋がりを再構築する方法を考えることができたのかもしれない。しかしゼオは死に、南東街区の住人たちは野生動物のような十八年間を過ごすことになった。


「……その話を聞いて、リェフはどんな様子だった?」


 口を開くことができないセシリアに代わり、剣士が神父に問う。神父は穏やかな微笑に戻って答えた。


「ショックは受けておられましたが、取り乱したりはしませんでした。ある程度予想しておられたのでしょう」


 ただ、フェン爺さんも言っていたが、何か思いつめた様子ではあったようだ。リェフはゼオを撃った男の、主に外見的な特徴を二、三質問し、帰っていったという。


「ゼオさんを撃ったという男は、ユリウス・トランジなのですか?」

「さあ、私には。ただ、フェンさんたちはそう考えているようです」


 セシリアの質問に神父は首を横に振った。まあ、ユリウス・トランジ自体が暗殺者だって話だから、その顔を知っている人間も限られているのだろう。名は知られても顔が知られては不都合がある職業だもんね、暗殺者。

 ずっと黙っていたトラックがプァンとクラクションを鳴らした。神父は少し思い出すような仕草で中空を見つめ、


「確か、六日前です」


と答えた。ああ、リェフが来た日を聞いたのか。なるほど、だとすると、ええっと、今分かっているリェフの足取りは、七日前にフェン爺さんを訪ね、その翌日にここを訪れた。で、確かヘルワーズが昨日、「二日前にリェフが騒ぎを起こした」って言ってたから、リェフが最後に南東街区で確認されたのが三日前、そしてトラックの前に姿を現わしたのが二日前ということになる。トラックと最後に言葉を交わした時、リェフには思いつめたような様子はなかった、ということは、その時点ではもう何らかの覚悟を決めていたのだろう。ならば鍵になるのは三日前、リェフが最後に南東街区で騒ぎを起こしたとき、と考えるべきだろうか。


「リェフは今後の行動について何か言っていませんでしたか?」


 セシリアは、おそらく神父に向けた最後の質問をする。神父は首を横に振った。


「いえ、何も。丁寧にお礼を言って出て行かれました」


 まあ、わざわざ「次は何します」って他人に宣言して去っていく人なんてあんまりいないよね。それに次に何をするのかはおおむね想像がつく。リェフはユリウス・トランジの外見的特徴を聞いていったのだから、次はユリウス・トランジの手掛かりを捜すだろう。

 セシリアは「ありがとうございます」と言うと、神父に別れを告げた。もう彼から聞けることはないだろう。去ろうとするトラックの背に、神父が声を掛ける。


「あなたは、もしかしてトラックさんですか? ノブロを見出し、この町のまとめ役に推したという」


 トラックは動きを止め、背を向けたままクラクションを返した。まあ簡単に振り向けないからね。室内で切り返して向き変えるの大変だからね。神父は一瞬、ためらいを顔に浮かべると、少し考えるように間を空け、そして言った。


「私はね、トラックさん。ちくわの神なんて信じちゃいない。これっぽっちもね」


 プァン!? とトラックは驚愕のクラクションを返す。セシリアと剣士とミラが思わず振り返った。神父は平然と話を続ける。


「私だけじゃない。ここに通う信者の皆さんも、信仰なんて持ち合わせちゃいない。本当に信仰に生きるなら、相応しい教義はいくらでもあるでしょう。皆がここに来るのは、ちくわが食べられるから。それだけなんですよ」


 神父の言わんとすることを測りかねて、セシリアが眉を寄せた。なぜ急にそんなことを言い始めたのか、その真意が分からない。


「ノブロたちはよくやっている。彼らはこの南東街区を今よりずっとよくしてくれるでしょう。でもね、トラックさん。彼らのやり方では救えない人もいるんです。彼らのやり方では、逃げ道がない」

「逃げ道?」


 逃げ道、という言葉の違和感にセシリアはそうつぶやいた。逃げ道がないって、どういうこと? 神父はうなずきを返す。


「理由のない施しを受けることのできない者は、必ずいるものですよ。それは他者から見れば笑ってしまうような小さなプライドなのかもしれない。でも、当人にとっては、それを支えにしなければ生きていけないほどに大切なものなのです。『ちくわ曼荼羅』は彼らのための言い訳なのですよ」


 施しを受けているのではなく、信仰の一環として儀式に参加し、歌いながらちくわを食べる。そんな言い訳がないと助けを求められない人がいるのだと、神父は言った。


「どれほどささいなものであっても、自らを誇ることはとても大切なことなのです。それがなければ人はいくらでも状況に流され、どこまでも堕落する。逆にほんのわずかでも自分を誇ることができたら、それがいざというときに自分を支える力になる。堕落を防いでくれる。そういうことがね、あるんですよ」


 神父の言葉には、十八年前からずっとここで人々を見続けてきた重みがある。トラックは静かにクラクションを返した。神父は小さく首を横に振る。


「ノブロたちにこれ以上を望んでいるわけではない。しかしもし彼らが、南東街区の皆をもれなく救おうと思っているのなら、少し考えてほしいと思います」


 自らの力では変わることのできない人がいる。差し出された手を取ることのできない人がいる。声を上げることのできない人がいる。そういった人たちの姿はなかなか表面には見えてこないものだ。ノブロたちはそういう少数者たちに目を向けているのか? これ以上を望まないと言いつつ、神父はノブロたちに厳しい目を注いでいるようだ。


――プァン


 トラックが静かに、しかし確信をもってクラクションを返した。神父は少し驚き、そして表情を微笑みに戻した。


「……そうであってほしいと、そう願っています」


 セシリアと剣士が軽く頭を下げ、神父に改めて別れを告げる。そうしてトラック達は礼拝堂を後にしたのだった。

ちくわ教の信者たちの間では、おでんの地位が低いことについてしばしば激論が交わされています。

今日も彼らはおでんを囲みながら信仰について語り合うのです。

「やっぱ大根だよな」

「いやいや卵だろ」

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[一言] >「どれほどささいなものであっても、自らを誇ることはとても大切なことなのです。それがなければ人はいくらでも状況に流され、どこまでも堕落する。逆にほんのわずかでも自分を誇ることができたら、それ…
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