4 話
藤森氏と二人で同じ死体を探す。が、並んで歩くスペースはないから、彼が先で、わたしが後だ。つまり会話がし難い。けれども、できないわけではない。
「死体になると皆似てくると思いませんか」
少し前に自分で考えたことを口にする。
「生きている、わたしたちの仲間ではないからですか」
「それもあります」
「……ということなら、死体から見れば、わたしたちの方が同じに見えるかもしれない」
「この沢山の死体たちは、わたしたちを見ていますか」
「わたしには、そんな気がしますね」
「そうですか」
「灰になれば、直接目から見ることもなくなるでしょうが……」
「藤森さんは面白いお考え方の人ですね」
「小説家のあなたには敵いません」
「まさか、わたしの小説を読んでいるとか」
「全部ではありませんが、父が同人誌を送って来るので……」
「わたしの話、つまらないでしょ」
「そんなことはありませんよ」
「そうですか、お世辞でも嬉しいです」
「この世界ではない、違う世界がある」
「ずれているんです」
「読んでいて、逆にこの世界に対する発見がある」
「そう言っていただけると嬉しいです。でも世間的には、つまらない」
「わたしには十分面白いですよ」
「世の中の人の多くがそう言ってくれれば、今頃、わたしプロの作家です」
「百年後に発見されるかもしれない」
「死んでから発見されても嬉しくありません」
「天国で『ざまあみろ」と舌を出せばいい」
「地獄にいるかもしれませんよ」
「小説家だから……」
「嘘つき、ってことですね」
「父が良く言っていました」
「わたしも何度か聞かされました」
「しかし書いていることは嘘でも内容には本当も含まれるでしょう」
「それを感じ取るのは読者の自由です」
「世に出た小説は作者のものではないから……」
「もちろんそうですが、お金になる部分は作者でいたいですよ」
「わたしは小説を書きませんが、モノを作るので、似たような想いはあります」
「藤森さんは発明家なのですか」
「発明はしますが、ただの会社員です」
「何をお作りになっているのですか」
「一般的な言葉で言えば、センサーです」
「センサーですか」
「医療機器用の電極を作っています」
「凄いですね」
「その道に進めば、誰にでもできることですよ」
「わたしには、そうとは思えませんが……」
「世界を揺るがすような大発明ならば違うかもしれません」
「たとえそれほどでなくても、才能がなければできない仕事です」
「確かに、わたしに才能はありますよ。しかし、あなたにも書く才能がある」
「わたしは、いつまでもアマチュアです」
「でも書き続けている」
「惰性です」
「わたしの高校の知り合いにも作家志望者がいましたが、今では一行も書いていません」
「そうできた方が、わたしも幸せなんです」
「だけど書く……」
「わたし、書くことしか知らないんです。子供の頃からずっと書いて来たから……。だから、それがなくなるのが怖いだけ……」
「わたしも自分の才能が枯れるのが怖いです」
「質に差がありますが、わたしと藤森さんは似ているかもしれません」
「岸田さんと話をするうち、わたしもそう感じていました」
そこで一旦話が途切れる。死体の列の先頭まで来たからだ。この先の列は死体の並び方が今まで列とは異なる。
「今の話とは関係ありませんが、この市民ホールの死体並べを指示された方は、どうして歩く順に死体の方向を合わせたのでしょうか」
「その方が生きている者に見易いからでしょう」
「だけど普通は違います。どの列も頭が向く方向が一緒です。あるいは足が向く方向が……」
「あなたは何度も、こんな場面を見られたのですか」
「似たような状況を数回以上……」
「何故ですか」
「過去に記者をしていた経験があるんです。そのときに……」
「今はもう記者ではない」
「同じ雑誌社には務めていますが、死体は担当外の部署に移りました」
「そうですか」
「それでも人の数が足りないときは駆り出されます」
「……ということは、ここへも取材で」
「ごく近くまで来たのは取材関連です。今現在はプライベートですが……」
「『近くにいるのだから、ついでに取材しろ』とは命じられなかった」
「当然命じられましたよ。だから他に取材できなければ、ここでのことを書くかもしれません」
「写真は……」
「来たときに撮りました。だから正確に『今』がプライベートなんです」




