呪いのアイテム
私は休日の昼下がり、街へ目的もなく出かけた。
電車を降りて、駅前に出る。
駅前は様々な人が行き交い、そして、様々なショップが賑やかさを演出していた。
私は大通りを歩き、そのウインドウに飾られた商品を眺めて進む。
大通りの端に近づいた頃、私は大通りと交差する細い路地の前に奇妙な看板が立てられているのを見つけた。
『この奥↑、アンティークショップ五反田 幸せから不幸まで、あらゆるハッピーが揃ってます』
――何とも面白い表現だ。
私はアンティークに興味があるわけではないが、その品揃えがどういったものなのか非常に気になった。
そこで私は躊躇なしに路地へと入り、奥へと進んだ。
いかにもな面構えの店頭。この店頭を見るだけでも、『ここはアンティークショップです』というオーナーのこだわりが感じられた。
ウインドウに飾られた小物たちも厳選されたものなのだろう。決して高価なものには見えないが、上品な優しさとでも言うべき雰囲気をそれぞれが醸し出していた。
私は扉の外から店内を覗いてみるが、外からでは中にどれだけ人がいるかわからない。
男一人なので、入るのに少しだけ勇気を必要としたが、扉を引いて店内へと進んだ。
チリンチリンとドアベルが軽やかな音を立て、私が入店した事を知らせる。
「いらっしゃいませ」
若い女性が声を掛けてくる。店員だろう。
こう言っては失礼だが、私が思った以上にアンティークショップだった。
雑に展示されているように見える一つ一つの商品。しかし、それはテーマに沿って置かれていたり、一日の流れをイメージさせるように置かれていたりと工夫が凝らされている。
こういう店舗に足を向けていなかった私にとって、新鮮な驚きが数多く見受けられた。
入り口から奥に商品を眺めていく。
そして、一番奥に、この店内の趣とは明らかに違うコーナーがあった。
『呪いのアイテムコーナー』
ファンシーでキュートな飾り付け、そして、カラフルな文字で書かれた案内板。しかし、そんなことでは誤魔化しようもない異様な雰囲気がその周辺にだけ立ちこめていた。
私はそんなコーナーで一つのアイテムを見つける。
『快便チャーム』
この商品名は一体誰が付けたのだろうか。まさか、商品会議で部長が「よし、この商品の名前は『快便チャーム』で決まりだ!」なんて言ったのではないだろうが、正直このネーミングセンスはない。
だが、私はここ最近便秘気味だったのを思い出し、ちょっと欲しいかもと悩んだ。検討の価値ありだ。
実際に効果があるのなら欲しい。それは便秘で苦しんだことのある人なら同じ思いだろう。
しかし、これを着けているのを知られて、妻が近所の人に「お宅のご主人、快便チャーム着けてるんですってねぇ」と言われるのであれば、それは諸刃の剣となる。そして、色々な意味で危険だ。
そんな私の心情を察したのか、女性店員が声を掛けてきた。
「こちらのチャームは特別な一品で、世界でたった一つだけなんですよ」
何と言うことだろう。つまり、これを身に着けていても、誰もこれが快便チャームだとは気付かないと言うことだ。私の購買意欲は一気に高まる。
「この商品、本当に効果があるんですか? 呪いのアイテムとか関係なしに、効果があるなら買いたいんですが」
私のちょっと切実な思いが滲み出てしまう。
「もちろん、効果ありますよ。便意を催してから3分以内の快便が約束される、素晴らしい効果ですよ。でも、――」
私は店員さんの言葉を遮り、即購入を決意した。
効果があるのならば、このアイテムは文句なく買い、だ。
私は購入し、帰り道に我慢しきれずチャームを身に着けた。
店員さんに必ず説明書を読んでくださいねと念押しされていたのを思い出し、駅へと向かう道すがら、説明書を読もうと袋から取り出す。
その途端、間髪入れずに便意の波が私の下腹部に押し寄せてきた。
私は駅へ向かっていたこともあり、そのまま駅のトイレを目指す。
その間、徐々にではあるが便意の波は激しさを増してくる。
――電車に乗る前で良かった。
私はそんな感想とともに、購入したチャームの効果は絶大だと感心した。
そして無事にトイレへ着いた私は、個室を見る。
あいにくと個室には誰かが入っている様で、全ての扉が閉まっていた。
――まずい。もう我慢出来そうにない。
私は意識を下腹部に集めて、抵抗する。
何とか気を散らして、一時的にでも便意が去ることを願った私は、チャームの説明書を読むことにした。
『注意:このチャームを装着した場合、トイレには必ず先客が居るという呪いがかかります』
そして、無慈悲に3分が過ぎる。
良くある話(短編的に)