四日目
なんでこいつら倒れてるん?
俺の万感の思いを乗せた声が奇跡を起こしたとでもいうのか。
自分でも痺れるような咆哮だったからな、わからんでもない。
それともあれか、熊に遭ったときに大声を出すと良いというのは人類は皆、大声で動物を昏倒させることができるからなのか。
言霊ってやつ?すっげぇわ人類。
それから数分程度観察し、ハイエナもどきが起き上がらないことを確認した俺はおっかなびっくりしながら大樹から下りた。
改めてハイエナもどきに近づいてみると、耳から血を流しているとはいえ、呼吸しているのか胸が上下していたので生きてるっぽい。
いやはや、散々追い詰められたとはいえ犬っぽいこやつらのこんな姿をみると少し心苦しい。
家で飼っていた愛犬の姿を思い出す。
不登校になってからは唯一のマイ・フレンドだったゴールデンレトリバーのジョン、8歳オス。
親からも見放され、友からの連絡もなく、構ってくれるのはあいつだけだった。
うう、ジョン。できることなら君と一緒に来たかった。
涙目になりながらも鑑賞に浸っていると、視界の端で真っ黒な毛並みをもつハイエナもどきが足をぷるぷると震わせて立ち上がろうとしたのがわかった。
あれはマグロか。
樹の上で適当に名付けた名前を思い出しながら、首筋を冷や汗が流れた。
やべぇ、棒かなんかで仕留めておくべきだったか。
樹から下りた俺はあまりに無力。
樹の上にいても無力だったのはさておき、再び襲って来られたら今度こそ餌になる気がする。
結局のところ、こいつらがぶっ倒れた原因は不明だ。
あんまり奇跡を信じすぎてもすぐにお陀仏になることだろう。
俺は我流で編み出した戦闘の構えを取ると、大樹を背にじりじりと後退する。
くるならこいよ、お前が俺に噛み付くより、俺が樹に登るほうが早いだろうけどな。
マグロは依然足を震わせながらも、その四本の足で立った。
そして俺をじっと見つめてくる。
ほう、やる気のようだな。
その心意気や、よし。じゃあ俺、樹の上に登るから。
俺は正面に向けた体を翻し、大樹に張り付こうとする。
そこでマグロは体を震わせた。
「くぅん、くぅん」
マグロはひとしきり鳴いた後、仰向けに倒れてた。
それは飼い犬がよくやる服従のポーズ。
情けなくないのかお前。
そう言いたくなるほど、目の前のハイエナもどきは俺に順従だった。
多分、こいつからしたら気がついたらぶっ倒れてた訳だし、なんか俺がやったんだろうと思ったんだろうな。
だからもう襲いません、見逃してくださいと降伏したってことか。
マグロに続いて起き上がった残りの三体なんかは一吠えした後、一目散に逃げ出した。
こいつも他のハイエナもどきと一緒に逃げるものだと思っていたが、なにやら俺に付いてきた。
気を取り直して山を進む道中、気まぐれに手頃な枝を放り投げると口に加えて戻ってくる。
息を切らせ、こちらに枝を差し出すマグロは心なしか褒めて褒めてと言っているように思えた。
なかなか可愛いやつじゃないか。
俺の異世界マイ・フレンド一号にしてやっていいかもわからんな。