一日目
どこだここ。
気が付いたら、草原に立ってました。いや、まじか。
腰まで伸びてる草が遥か先まで生い茂っててやばい。
どこよ、本当。
しかも、俺寝間着姿のままなんだけど。
パンツ一丁って酷いでしょ、靴すらないから足裏チクチクして痛いよ。
高校にも行かず引きこもってたから、寝てる間に追い出されたのか。
それにしたって、パンツ一丁は酷いよ。
変な虫も飛んでるし、俺の自慢の柔肌に傷付いたらどうしてくれんのよ。
厳しい引きこもり生活の中で鍛えあげた白い肌が、太陽に焼かれてジリジリとする。
空を見上げれば、雲ひとつない澄みきった青空が広がってる。
二つの太陽が、俺を嘲笑うかのように燦々と輝いていた。
え、二つの太陽?
俺が一年引きこもってる間に太陽増えたん?
いやいや、部屋の窓から見える太陽は昨日まで一つだったよな。
夜は21時に寝て、朝は窓から差し込む太陽の光で起きて確認してるから間違いない。
つまり……こ、これは異世界転移ってやつなのでは。
うひゃぁ、やったぜ。
雨にも負けず、世間からの風当たりにも負けず、親の罵声にも負けず、厳しい引きこもり生活を続けてきた俺へのご褒美ってやつですわ。
ちょっとテンション上がってきたわ。
多分チートってやつが使えるようになってんだぜ。
やべ、これは早いところヒロインも見つけないと。
妄想が捗りまくりんぐ。
こんな人っ気のないような場所にもう用はない。
待ってろよ、俺の異世界生活!
そんなこんなで草原を全力疾走してましたけど、限界っす。
足がもうやばいっす。
靴もないんで枯れ枝刺さりまくりで血がどばどばっす。
体も草で結構切れました。血出てます、痛いです。
めっちゃ風強くて歩きづらいし散々っす。
未だに人里なんて見当たりません、獣すら見掛けません。
キモい虫しか俺には寄ってきてません、同族とか思ってんのか。
途中からパンツ千切って足に巻いたけど、俺もうダメな気がする。
原始人の方がいい格好してたと思うよ、局部隠れてるし。
俺全部もろだしだからね。
なんか瞳から液体出てきたわ。
やっぱり、現代ニートに異世界は無理だったわ。
チートとかないか試してみたけど、なんもないし。
ああ、自室が恋しい。
異世界転移とかじゃなくて、学園ラブコメとかのほうが良かったわ。
不登校の男子高校生の家に、同じクラスの可愛い委員長が来て連れ出してくれる感じのやつ。
ちょっと今から変更効かないっすかね、無理っすよね。
いや、しかしどうすっかね。
俺もうこの先生きのこれる気がしねぇっす。
早く日本に帰りたいっす、帰してよ。
とりあえず何したらゴールなのか教えて欲しいわ。
目的もないままさ迷い続けるのが一番まずい気がする。
いっちょ神様と交信してみるか、異世界転移ならいるでしょ神様。
両手を天に掲げ、念じてみるとしよう。
なにしたらいいんすか、チートとかないんすか。
神様女の子っすか、好きな食べ物なんすか。
一つ目の太陽が沈み、二つ目の太陽が沈みかけるまで手を掲げてたけど、なんの反応もありませんでした。
まぁ、そんなうまくいく筈もないよね。
わかってたよ、これ結構ハード系の転移物っぽいもんね。
もういいや、とりあえず辺りも暗くなってきたしとりあえず寝よう。
お腹減ったけど、多分二、三日くらいなら大丈夫。
休日に家いる父上が怖くて、部屋から一歩も出ないで凌いだことあるし。
うん、何事も経験が大事だな。
あっ、トイレはもちろんペットボトルにしてたよ。