第7話「アナザーネーム」
11月5日1時29分
岸本の治療を終え、八重さんを連れてアジトに帰還する。仲神と来栖は2人で先ほど強襲してきた般若面の男と八重との戦闘の映像を確認していた。
「如月か、八重の容態は?」
「良くはないね、胃が破裂して動き回ったもんだから臓器の損傷が酷かったって。けど手術はもう無し。後はただ安静にしてれば命に別状はないらしいよ。」
「てか、腕くっついたのか!もう動くのかよ?」
「うん、今のところ動かすのに支障とかはないよ。」
「八重は…、気を失ってるのか、寝かしといてくれ、今仲神とさっきの戦闘を観てたところだ、如月の意見も聞きたい。」
来栖が端末の画面をこちらに向ける。
「こいつか、八重さんボロ雑巾みたいにしたのは。」
11月5日1時35分
如月が全身装甲を室内用のものに着替えた後、一通りの映像を見終えたところで仲神が口を開いた
「んじゃ、こいつが部屋に入ってきた瞬間から八重は能力を使えなかったわけか。」
「ああ、それに加えて、全身装甲をきた状態での攻撃でも無傷、更にはそれを軽々と破壊している」
「それじゃ能力を考察できる点をまとめると、八重さんの能力の無効化、ダメージの軽減、それと明らかにおかしい打撃の威力も説明がつかないし。随分厄介だね。」
「そうか?また会ったら今度は最初から銃で撃ち殺すだけだろ?」
「…。」
「まぁその認識で正解だな、八重の攻撃を食らってほとんど無傷にも関わらず銃弾でダメージを負うのはおかしい。能力は不明だが、おそらく過去に撃たれたかなんかでトラウマや恐怖心を持ってるな。なにより、防弾着を着込んでいたのがいい証拠だ。」
「そもそも銃で撃たれるのを恐れない人なんて基本的にいないと思うけど。いーのかなそんな適当な解釈で。」
「能力の考察なんて適当にして、適当に参考にする程度が丁度いいのさ、誤認するよりは、全然いい。」
「そういや来栖、尋問でなんかわかったのかよ?」
「あぁ、案の定B地区でお前と如月の位置がすぐに察知されたのはあいつの仕業だった。能力名は『同期』ややこしい能力だが、簡単に説明すると条件を満たすことで自分と対象の5感、そしてお互いの能力を共有できるものだ。」
「便利だな、早めに潰しておいて正解だったなぁ。」
「人の話をよく聞け。他者と自分の能力さえ共有できる能力だぞ?奴の能力がそもそも、奴自身の能力だったか?おそらくNOだ。俺ならそんな貴重な能力者をB地区の監視に使ったりしない。」
「つまり俺達が捕まえたのは本体の能力者に『同期』の能力を共有された、ただの元無能力者の可能性もあったってこと?」
「……zzzzz。」
仲神は話についていけず眠ってしまった。
「その通り。おそらく本体は安全な所でのほほんとしているだろうな。条件を満たせば他人に自分の能力を譲渡、もしくは共有することができる能力。色んな能力者を見てきたが、こんな特殊な能力は初めてだな。政府の連中、厄介な隠し玉を持ってたな。」
やはり、来栖はそう言いながらもどこか、楽しそうな振る舞いをしていた。
11月27日某所
「それで、組織の方は?」
「sctから最古参のMr.ホワイト、ブロンドそれにブルー、ブラウンの4人は既に始末済みの報告が入っている。」
「壊滅目前だねー、それより盗まれたデータ
はー?まさかまだ回収してないのー?」
「Mr.ピンクが所持して逃亡中だ、大まかな位置は発信機で割れてはいるんだが…。」
「まぁいいやー。約束通りデータが返ってこなかったり、どこかに流出してたらNo.sの支配権は貰うからねー。」
「……。」
11月28日18時20分
「というやり取りを聞いてだな」
「それで?」
前回のドタバタからひさびさ、約三週間ぶりに来栖から収集がかかる。
アジトには俺と仲神、そして神野寺が集められていた。八重は前回の般若面との男との戦闘での傷で寝込んでいるらしい。
「それで昨日、その逃亡中のMr.ピンクにこっちから連絡をとってな、逃亡の手助けをすれば、やつが持っているデータを俺たちに渡すらしい。というわけで今から如月と仲神それに神野寺でMr.ピンクの元へ向かい合流してほしいんだが。」
「何か、問題が?」
「それが、むこうも相当sctに追い詰められてたらしくてな、逃げ切るにはやむを得なかったというか。」
「…?まさか、、、」
「そう、逃げ込んだ先はC地区、『樹海の暗殺者』が能力を展開している領域だ。」
「よりによって、、、アナザーネーム持ちの中でもバリバリの実力派か。しかも能力は領域展開型だろ?」
領域展開型とはその名の通り、自身の指定した範囲のみで能力を発動するタイプの能力者のことだ。基本的にその領域内に入ることがなければ無害。だがそれ故にその敵の能力を把握せずに領域に踏み込めばまず生きて抜け出すのは困難だ。
「まぁ、厄介な敵であることは確かだな。」
「冗談ポイだよ。危険すぎる。能力も分かってないアナザーネーム持ちの展開している領域に突っ込むなんて。」
「如月の言う通りだ、そのデータとやらにそれほどのリスクを冒す価値があるのか?」
「政府管轄の能力者のデータだ。先日戦った『同期』みたいな能力者達の記録が載っている可能性が高い。手に入れれば圧倒的なアドバンテージを得られる。」
「……まぁ、いい。確か来栖、以前に野良の能力者に『樹海の暗殺者』の始末依頼してたな、あれはどうなった?」
「あぁ、『狼』に『樹海・暗殺者』の始末を依頼した件か、その『狼』とも昨日連絡を取ってな、能力の一部の情報とその対処法を得ることができた。」
「そうか、、、で、いつ出発だ?」
神野寺は既にやる気である。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってよ。まずその『狼』からの情報が確かなものかさえ怪しいし、仮に正しくて能力の一部が対策できてたとしても危険すぎるって!正気なの!?仲神もなんか言ってよ!」
「ん?あぁ、まぁでも、要するにあれだろ?俺と如月に神野寺、それに組織のMr.ピンク、更に野良の『狼』がいるんだろ?5対1だぜ?十分役不足だと思うけどな。」
「仲神のいう通りだ、No.4との戦闘で、随分アナザーネーム持ちに恐怖感を抱いているようだが、だからといって奴らをいつまでも放置しているわけにも、いかない、、、」
終いには神野寺に諭されてしまった。
「……わかったよ。」
「はいじゃあ、今からその能力の一部と対策について説明するぞ。それが終わったら転送機で一気にC地区まで転送する。」
(アナザーネーム持ち、それでも、やるしかないか)
拭いきれない不安を抱え、来栖の発言に耳を傾ける。
アナザーネーム…政府に「少女」と同等、もしくはそれ以上の損害を与えかねないとみなされた、野良の能力者やNo.sの中でも頭一つ抜けた戦闘能力の持ち主に付けられる。
No.sのアナザーネーム持ちは
『殺し屋』のNo.4。そして『最強』のNo.8。
の2人。
そして
オンライン上の裏サイト「名簿」を管理し、No.sや野良の能力者、更には政府管轄の能力者の居場所、素性、能力、かけられている懸賞金などの情報。その他様々な組織、企業の最重要機密を高額で見境なしに売りつける
『情報屋』
素性不明、既に30人以上のNo.sを行方不明にしている
『No.s殺し』
C、D地区を拠点として自身の領域内で無差別に殺しを繰り返す
『樹海の密猟者』
「能力者狩り」から逃れ警戒区域に逃げ込んで来た能力者を匿い革命を目論む。F地区に拠点を置く能力者組織「最果て」の統括者
『紫電』
この計6人がアナザーネームを所有し、名簿において多額の懸賞金をかけられている。