第6話「尋問」
11月5日0時29分
ギシギシッ……
般若面の男がメキメキと片手で八重の首を絞め上げていく
「ぐ…ガ…」
八重と来栖、多くの能力者を相手にしてきた2人にさえ、敵の能力には全く検討がつかない。
常人なら立つこともままならないダメージを負ってなお、意識を鮮明に保つ精神力を持ち合わせている八重であったが、その意識さえ激しいダメージにより遮断されかけていた。
(なさけな…い…な…の…能力も…まるっきり…通用しな……)
ドサッ……。
意識を失った八重の身体が脱力すると、それを地面に投げ捨てる。
「で、見た所あんたも能力者みたいだけど、非戦闘系だろ?今度は、あんたが情報を一方的に引き出される立場になったって訳だ。」
「…何、あくまでお前ができるのは取り引きを持ちかけることだけさ。」
来栖はそういいポケットに忍ばせていたグリップ式のスイッチを押し目の前に持ってくる。
「何それ?」
「俗にいう、デス・スイッチってやつさ、今俺がスイッチを押しているこの手を離せばこのアジトは跡形も無く吹き飛ぶ、無論お前さん達の目当ての原物も死ぬだろうな」
「……はぁ〜あほくさ。偉そうな物言いしといて、追い詰められたら自爆するから手は出せない…ってか?」
「まぁそういうな、こっちも必死なんだよ」
「…んじゃ原物引き渡しの条件だが、大人しく渡してくれんなら(既に襲われたけど)お前が知りたがってる警戒区域の例の薬の売人の名を教えてやるよ」
「その情報が俺達にとってそれほど価値があるものと思っているのか…?」
「……」
般若面の男は来栖の質問にさえ黙秘。
事実、その情報が来栖にとって価値があるなしを教えるだけでも、来栖は目星がついている人物をある程度絞れる。
(意外と慎重、というか情報の扱い方がしっかりしてるな。厄介だ。)
「で?どうよ?これでも引き受けられないなら原物は諦めるさ、ここでお前を殺してアジトごと吹っ飛ばす。俺はその程度じゃ死なないしな、まぁそのデススイッチってのが本物なのかも怪しいところだけどな。」
「嘘だろ」
「……何が?」
「お前に人を殺す覚悟なんて無い。今の戦いでも相手を気絶させただけ、攻撃にも殺意どころかしっかりとした敵意が込められてない。とんだ甘ちゃんだな。」
「まぁ、確かに。人は殺したくないんけど。てかさ、さっきから話しそらして時間稼いでねーでさっさと返事貰えるか?」
「やっぱ甘ちゃんさお前、俺が時間稼ぎしてるのが分かってて、それに合わせてチンタラ喋ってるようじゃな。…後ろに、気をつけろよ」
0時26分 B地区警戒区域某所
「見つけましたよ、このガキで間違いないですか?」
「あぁこのガキだ、助かったぜ。」
「いえ、お二人の為なら。意識はありますけど強い脳弛緩剤打ってありますから少なくとも2時間はまともに思考できる状況じゃないです。」
「んじゃ、姉御によろしく頼むぜ。」
「『GHOST』がやばくなったらいつでも『こっち』に来てくださいね。……では俺はこの辺で。…今までずっとここら一帯を覆っていた強力なジャミングが無くなって、さあどうやることやら…」
………。
「もう行ったぞ、如月ィ!」
「あぁ、すぐ見つかってよかったね。」
「にしても何も隠れることねーんじゃねーの?」
「姐さんには、無駄な心配はかけたくないんだ」
如月はそういいながら無い方の腕をさする。
「…そういや来栖達うまくやってんだろーな?」
「まぁ、八重さんいれば余裕でしょ…」
「てかジャミング無くなったんなら転送機から帰れるな。時間差あったけど、やっぱお前の爆弾で死んだのか?」
「あの至近距離じゃ流石に能力者でもキツいと思うけどね、まぁ少なくとも能力を発動するのを維持するのが困難な状態ってことでしょ。」
「…まぁ放置でいいか。んじゃ帰るか、長居は無用だ。」
転送機は警戒区域の中でさえいたるところに設置されている。最寄りの転送機へ仲神と共に向かった。
0時28分来栖らアジト
バチバチバチッ…!
無事アジト近くの転送機まで戻ってくる。
『来栖、そっち大丈夫?』
脳内無線で来栖と連絡を取る。
『如月か、仲神も無事みたいだなよくやってくれた。ちょっとマズイ自体だ、八重が今敵に意識を落とされた。取り敢えず気配消してアジトまで戻って来てくれ。』
『…わかった。』
仲神と顔を見合わせる。八重さんに勝てない敵に俺達では到底太刀打ちでき無い。それは来栖もわかっている筈だ。
「まさか、相手がガキでやられたんじゃねーだろーな。」
アジトに近づくなか、仲神がそう呟く。
「あ、ありえ…」
いや、それはありえない。確かに八重さんはガキには手を出さない(というかそれがロリコンの由来である。)
が、そんなふざけた柵を持っておきながら警戒区域で能力者やNo.sを始めとした相手に戦闘を続け、生きてきた実力の持ち主だ。それは例え相手がガキだったとしても、そのガキが銃を持っていようが、強力な能力者だろうが、一瞬で無力化する手段を心得ているということだ。
殺し合いが日常の中で相手を無力化する、これは相手を殺すことより遥かに難易度が高いのは言うまでもない…。
某ビルの一室、アジトの扉は開いた状態、椅子に座り込んでいる来栖、来栖と何やら会話している仮面のようなものを被った男の後ろ姿、そして意識を失っている(と思われる)八重の姿があった。
仮面の男にはまだ存在を気付かれていない。
静かに装備している短機関銃を構え来栖の合図を待つが…
「…。それと、後ろに気をつけろよ。」
「!?」
来栖が意図的に仮面の男に俺達の存在を知らせると同時に、
『やれ!』
脳内無線で来栖から合図が送られる
「…ッ!」
如月は慌てて引き金を引く。
バリンッ…!
如月が発砲した10数発の弾丸のうちの数発は頭部へ命中。
男の般若面を砕け散らせた。
残りの弾丸は男の胴と脚へ。
「痛ってぇええええええええァアアアァアアアアアア!!」
うち1発は片足を貫き。残りは胴へ。
仮面の男は防弾着により弾丸を防いでいたがそれでも衝撃により肋骨は折られていた。
「クソッ!!3人はキッッッッツイ!!トンズラァアアア!!」
男は両腕で顔を隠すよう覆い、走り出す。
即座に如月は仲神と共に入り口を固めるが…
ガシャンッ!
男は入り口と反対方向の窓を突き破り走り去った。
「待てっ!てめぇ!」
仲神は抱えていた少年を如月に投げつけ、窓から男を追い窓から身を乗り出し
タタタタタッッ!!
短機関銃を発砲する、、、が。
「追うな!捕まえる必要はない、このまま追跡機で尾行する。」
来栖から抑止の声があがる。
「チッ、当ったんねぇな、逃がした。」
「当てなくていいっての、殺しちまったら、あいつの住処がわからんだろーが。」
「スッキリしねぇな、、、そういや来栖、土産持ってきたぜ。」
仲神は体を乗り出していた窓から降り、如月が抱えている捕らえた少年を指差す。
「なんなんだ、このガキは?」
「恐らくなんけど政府側の能力者の1人、能力は追跡系だと思う。もう少しで脳弛緩剤の効き目が切れる、尋問すればかなり有力な情報が得られると思うよ。」
「ナイスだ。よくやった、B地区のことは強力なジャミングのせいでずっと、わからずじまいだったからな。」
「それと例の『片道切符』の取引の映像なんだけど。」
「ん?あぁ、ジャミングが無くなった時点でこちらに映像は届いてる、これだけ撮れてれば十分。完璧だ。」
「そう…。」
ひと安心。
任務は無事完了だ。
「ていうかよ。」
仲神が口を挟む。
「ん?なんだ?」
「八重、大丈夫かよ、さっきから全然うごかねーぞ。」
八重は完全に意識を失っていた。
「恐らく内臓がやられてる、如月は八重を連れて医者の所へ行ってきてくれ。
ここのアジトももう爆破する。仲神は俺と一緒に新しいアジトに少女を移すのを手伝ってくれ、その能力者のガキの尋問も新しいアジトで行う。」
「了解。」
「待て、尋問って俺も立ち会うのかよ?俺嫌だぞ!?」
仲神は顔色を悪くしながらそう言った。
「必要無い、俺1人でやる。」
「そうすか…んじゃお願いします。」
仲神が嫌がるのは無理もない。来栖の尋問改め拷問は見るに耐えないものである。死体を見慣れた俺と仲神でさえ、拷問が終わり人間だった「それ」を初めて見たときは吐き気を催した。
「おーい、八重さん、無事?」
如月は倒れていた八重を肩を貸し抱え上げる。
「ぐっ……如月か…グブッッ!!」
「喋らない方が良いよ、今、医者の所に運ぶね。」
「如月、八重をよろしくな。」
「ああ。」
アジトに備え付けられている小型転送機を使用し医者のもとへ向かう。
0時35分一般居住地区某所
「今月だけで何回目だと思ってる?しかも、こんな真夜中に…。流石に勘弁して欲しいね。」
「そんなこと言ってる場合じゃあない、多分内臓がやられてる。頼みますよ。」
医者、そう呼ばれる男の名前は、岸本 千崎。かつて政府の大規模な能力者狩り
によって警戒区域に逃げ込み生活していた所、来栖にその能力の利便性に目をつけられ、その能力を俺達『GHOST』の為に献じるかわり、もとの一般居住区で「普通の」生活をできるように来栖が取りはからう。という取り引きをした。如月が八重を連れて来たのは一般居住区にある岸本の住む一軒家。岸本は職業は開業医をしており、家にある手術室の隅に転送機を設置し、すぐ治療を受ける事が可能な状態にしている。
「はぁ…。この服脱がせるぞ。」
岸本はため息をつきながら八重から全身装甲を乱雑に脱がせていく。
「ぐぁあああああああぁあああああぁああぁあああああッッ!!……ぐッ!!ぶ…………はぁッッが…!!!」
体勢を無理に変えたことで痛みが走ったせいか八重は悶絶し嘔吐を繰り返す。
「もうちょっとソフトに扱えないんですか…。重症なんですよ。」
「痛みに反応して叫ぶ元気がありゃ全然大丈夫だ。それよりこりゃ胃をやられてるな…破裂してんじゃないか?」
「ぐッッ…はぁ…」
ガクガクと八重の身体が痙攣し始める。
「、、、ホントに大丈夫なんですか?」
「今から腹部を切開する、お前、不潔だから出て行け。」
岸本に顎で出ていくよう指図される。
「…分かりました。よろしく頼みます。」
手術室を出て八重さんの回復を祈る。
0時38分来栖らアジト地下室
仲神、来栖により拉致した少女を新しいアジトの隔離部屋へと移し、般若面の男に強襲されたアジトの爆破も完了する。
そこで、来栖による捕えられた少年への尋問が始まった。
「ぐぅうううう…」
少年が意識を戻し、最初に感じたのは強烈な痛み。
「そろそろか?」
「こ、ここは…?」
「ようやく目覚めたな、今からお前に質問する。喋らなかったり、嘘つくのは自由だが、五体満足でお家に帰りたいなら素直に喋った方がいいぞ。」
「……。」
少年は手足を動かそうと抵抗するが、その四肢が強固な椅子に固定されている自分の状況を把握すると。
ギリギリ…。
歯ぎしりを始めるが…
「…!?」
「あぁちなみに、奥歯の自害用の薬は奥歯ごと没収した、他に舌も噛みきれないよう数本抜いといたぞ。」
来栖は握っていた少年の歯をパラパラと地面に落とす。
少年は痛みか焦りか、大量の汗をかき呼吸が荒くする。
「それと寝てる間にこいつを注入させて貰ったぜ。」
「…なんだよ、それ…。」
「感度を3000倍にさせる薬だ。………ってのは嘘だが、痛覚をかなり過敏にさせるもの、だ。歯、数本抜かれただけで意識飛びそうだろ?」
「嫌だ、こ、殺せ…。」
少年はか細い声でそう呟く。
「いやいや、まだ歳も17、18くらいだろ?俺もそんな前途ある若者を殺したくは無いんだよ。」
「……。」
ダンッッ!!
来栖は鈍器で少年の右手の薬指を粉砕する。
「ぐぁあああああああああ!!?」
「歳が17、18くらいなのかって聞いてンだよッッ!!答えろクソガキがあぁああああああああああッッ!!」
「……ッッ。じゅ、19……19歳だ。」
「よしよし、そういう感じ…。簡潔に答えてくれると助かる。」
「………た、助けて…くれ…。」
「なーに言ってるんだよ!質問に正直に答えればいいんだって。そうすればこれ以上痛みは加えないからさ。」
「……。」
「んじゃ質問だ。まずお前は政府直属の能力者で間違いないな?」
「あぁ…。」
「OK、能力は?細かく全部喋ってくれ。」
「…の、能力名は同期、俺が対象を目を合わせれば対象者の視界を、触れ合えば触感を、会話をすれば聴覚を得ることができる。そして対象の能力を正確に、その本質を把握することができればそいつの能力を使用する事ができる。当然だが、対象者が死ねばそいつとの同期も切れる。」
ダンッッ!!
「ぐッッ!!?」
次は少年の右手の人差し指を鈍器で叩きつける。
「嘘をついてるわけではないが、俺に誤解を誘ってる…。そんな感じだなぁ〜?」
「〜〜ッッ!!ふっ…ふっ…。」
少年の汗の量が更に増え呼吸も荒くなる。
「随分と痛みに耐性が無いんだな…。指2本でこれじゃあ先が思いやられるなッッ!!」
ダンッッッ!!
「がぁあああああぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああ」
今度は隣の中指を粉砕する。骨と爪は粉々に砕けちる。
「はぁ、はぁ…ふッ…ふッ…」
少年は呼吸をすることさえままならない。
「よぉ〜し、いい根性だ。はい、4本目ぇ〜。」
「ま、待てッッ!!わかった。……喋る。喋る、から…」
「で?」
「同期、つ、つまり逆もまた然り。俺のさっき言った条件を対象が満たせばその対象も俺の5感と能力も相手が使う事ができる。」
「成る程。つまり同期した相手もお前の能力を知っていれば、同期を使えるわけか。その場合互いに五感を共有する、まさに共有だな。」
「…そうだ。」
「恐ろしく便利な能力だな、現在、お前が同期しているのは?」
「…ッ、ぐ…。せ、政府に指示された能力者の1人と、視界と聴覚を共有している。それとさっき、お前さんの仲間?の視覚を同期している。」
「2人だけなのか?」
「き、基本的に…、俺の役割はB地区の監視だ…。あそこは強力な電波妨害のせいで連絡手段が取れないのは知ってるだろ?基本的に怪しい奴がいたらそいつと自然に接触して視覚を共有。同時に同期してるもう1人の能力者に俺の視界を送って、そいつに始末してもらっていたんだ…。そもそも同期は発動している側の人間には常に同期した対象の情報が強制的に送られてくる。この能力の不便な点は、解除は対象者を殺す事でしかできないことだ。一身に受けられる視覚の情報量は3人分が限界だ。それ以上だと脳の処理が追いつかなくなる。」
「もう1人の能力者にはお前の能力を説明していて、今現在、同期を使える状態、仲神はお前の能力を知らないからお前が一方的に仲神の視覚と触感を把握している状態なのか。」
「そうだ、繰り返すようだが、同期でできることは条件を満たして一方的に相手の5感、能力を得ることだけだ。相手にも自分の5感を送りたかったら俺の能力を知らせて、相手も同期を使える条件を満たさなければならない。」
「同期しているもう1人の能力者の能力は?それを知ってればお前もそいつの能力を使えるんだろ。」
「し、知らねぇ…まじだ。俺が今使えるのは『同期』能力だけだ…。」
「そう…か。」
タンッッ…
渇いた1発の銃声が鳴り響く。
「質問は以上だ…。指が3本と、頭蓋に小さな穴が空いただけですんだな。それにしても、厄介なことになってきた…。」