第5話「接触」
11月4日23時20分警戒区域B地区
ガシッッ!!
「く、、、薬を、、、。」
隣を歩いていた仲神が突如路地から現れた男に腕を掴まれる。
「はぁ…。俺は薬の売人じゃ…。」
ガシッ。
今度は仲神がその男の髪を掴み取り、、、
「ねえっつーのッッ!!!」
ドグシャッッ!!
頭から思い切り壁に打ち付ける。
「…ったく、余計な手間かけさせんなよなぁ…。」
そのまま装備していた銃の銃口を男に向けた
「ちょ、待った!そこまでしなくて良いって!」
如月が銃口を掴みそれを制止した。
「なんだよ、、、っておい、待て!!」
男はその隙を見て一目散に駆け出す。
「逃しちまったじゃねーか。」
「見たところ、ただの薬物中毒者でしょ…。撮影はこれからなんだよ、今ここで死人なんて出したら警戒されて、取引そのものが中止になるかもしれないのに、少しは頭使って行動してよ…。」
「はいはい…。」
B地区、、、俺と仲神が幼少期を過ごし、
先生と出会い、育てられた場所だ。
元よりこの地区は指折りの大都会だった一方で、いわゆる裏路地なんかでの治安は最悪、とても日本とは思えない。警戒区域に指定されてからその状況は更に悪化した。
「にしても、増えたね、薬物中毒者が、それにどいつもこいつもほとんど末期だ」
道の隅、路地裏には転々と人、だったものが転がっている。辺りからは吐き気を催す異臭が漂い、か細い呻き声が絶え間なく聞こえてくる。
「人間も、こーなっちまったらおしまいだねぇ…くわばら、くわばら」
「んっ…」
仲神と軽口を叩いていると、激しいノイズ音と共に
『き…さら…ぎ、恐…ら…くこちらから連絡をい…れられ…るのはこれが…最…後だ、も…し万が一の事があったら神野寺…に
連絡を…急行するように言ってある。そっちは…任せ…たぞ』
脳内無線に来栖からの連絡が入る。
「万が一、か…」
一抹の不安となくした腕の疼きを抱きながら仲神と共に目的地へ進んでゆく…
11月4日23時50分 B地区某所
今回の俺達の使命は、警戒地区の間で流行の薬物。そいつを求め一般人は立ち入る事が禁止の警戒区域に向かい、帰ってきた者がいないことから通称『片道切符』と呼ばれる薬の取引現場の様子を全身装甲の機能の一つ記録に収め、同時に来栖にその映像を転送することである。
B地区の一帯には強力なジャミングが施されている。
繊細な小型機械は強力な電磁波に「あてられて」壊れてしまうため、来栖の小型索敵機などでの諜報活動が不可能。
一方、全身装甲の機能の一つに装着者の視界に映るものを録画する機能がある。これはどうやら着用者の視界で捉えた映像を視神経の信号を共有する仕組みだとかなんとかで、ジャミングに妨害されないらしい。
その結果、これを使い僕と仲神が直接取引現場を目撃しにいくというという手間のかかることになってしまった。
無事に所定の位置である、高層ビルの一室に到着する。
「よし、使えるみてーだな」
仲神が事前に設置してあった小型転送機の様子を確認をする。アジトからこの転送機に転送することは不可能だったが今は正常に作動しているようだ。
「そうか、よかった。ひとまず安心だな。」
これならここから取引現場を確認した直後にここからすぐにアジトへと戻る事ができる。
「仲神、時間まであと、10分きったよ。」
「人影は?」
「まだそれらしき姿は見えないけど…」
「なら、今のうちだな。あーめんどくせ。」
仲神が来栖から渡されたフィルムをビルの窓に貼りつけていく、これで、こちらの姿外からは視認できないようになる。要するにマジックミラーみたいなもんだ。
「ごめんね、任せっきりで。」
「気にすんな、右腕まーだ痛むのか?」
「神経を完全にくっつけるように敢えて傷口を切断された時の状況で能力を使って保っているんだって。止血と消毒はされてんだけどさ、痛みが酷すぎる、激しく動きでもすれば…」
「すれば…?」
「吐くね」
「吐くのか…何もおこらなきゃいいんだけど。」
仲神と二人息を潜めて時が来るのを待つ
11月5日0時00分
(・・・時間通りだな、来やがったぜ。)
外の様子を伺っていた仲神小声で呟く
(どれどれ?)
立ち上がり窓を覗いた
巨大なトランクケースを両手に持った男が1人、それに向かい合う男3人の後ろ姿があった。
(こんな堂々とやるもんかね、取引を)
(室内では厄介な能力を発動されると詰むこと多いしね、立ち入り禁止区域で真夜中かつこの周辺は電子機器はほとんど使えない環境だし、まさか監視されてるとは思ってないんでしょ。)
ケースを持っている男は俺たちと同じようにフードを深くかぶり容姿を確認できない。
一方向かい合っている3人には見覚えがあった。
(あいつら、確か名簿に乗ってる…)
(警戒区域を中心に活動してる独立能力者集団の1つに属している輩達だね、おかしいな組織とは敵対関係じゃなかった?)
フード男が3人のうち1人にケースを手渡すと同時にケースが姿を消した。
能力を使用したらしい。
収納系か、物体の大きさを調節する能力だろう。便利な能力だ。
僅か数秒で取引は終わり、同時に男達はどこへともなく去っていった…
11月5日0時03分
「よし、ズラかるぞ」
俺達がこの部屋にいた痕跡を消し終える。後はアジトに戻るだけ。こんな所に長居は無用だ、早速仲神が転送機に手をかざすも…。
「おいおい、勘弁してくれよ…」
転送機が作動しない
「参ったね…」
ひどく嫌な予感がする。
「クソッ!……このポンコツがよッッ!!」
ガンッ!
と転送機を蹴り飛ばす
仲神からも焦りが感じられた。恐らくあいつも俺と同様、何か、言い表せない不安を感じ取っているのだろう。
「取り敢えずここから出るぞ、室内ってのはヤバい!」
仲神が部屋の入り口のドアに手をかけ外に出ようとした
瞬間
ーーーーーーーーーッッッ!!
凄まじい轟音と共に仲神の姿が消える。
ドアの向かい側の、さっき覗いていた窓、それが跡形も無く吹き飛び、俺たちのいるビルの向かい側にあるビルにまで風穴が開けられていた。
「でかいね…、何食ってたらそんなにデカくなるのかな…。」
半壊した入り口から現れたのは、3mはある全身を装甲で覆った、いや、身体のところどころに機械が埋め込まれいるのか。異形なそれはまさにサイボーグのような風体だった。
(ジャミングが一層強化され転送機が使えなくなったのか、だとしたらここら一帯の原因不明のジャミングもこいつ能力か?)
フッ…
敵が姿を消したと思うと同時に、
「うおっ…!?」
一瞬で背後に回られ殴りかかられる、敵の得物は無し、素手での攻撃ではあるが速度は、あのNo.4並、食らえば全身装甲があるとはいえ無事ではないだろう。
「ナニ…?」
が、勿論俺には当たらない。敵の攻撃は素通り。体勢を崩し、背後を取ることに成功するが…。
(クソッ、ここは引くべきか…逃げ切れるかな…)
No.4との戦闘が脳裏をよぎる、今の俺達の任務はアジトに帰還することだ。危険を冒して戦う必要はない。
が、全身装甲を着ている僕でも反応できない程の速度のこいつから逃げ切ることは不可能だ。
「ニガッ!サンッ!!」
背後を取られて反応がなかったことで既にこちらに戦意が無いことに気づいたのであろう。一瞬でこちらに距離を詰めてくる。速すぎる、やはり動きは見切れない
正面から無数の攻撃を放つが…
「食らうかよっ!ポンコツゥッ!!これでも食らってなぁッッ!!」
やはり僕には当たらない、装備していた小型の『それ』を地面に投げつける、辺りを激しい閃光と轟音が包んだ。
11月4日0時20分来栖らアジト
「大人しく原物を渡してくねーかな?取引、しようぜ。」
案の定刺客が送られてきた。1人でアジトに乗り込んできた男、般若の面をつけていて顔は見れないが声色からして年齢は大体20代前半くらいだと思われる。
「……。」
来栖の様子を伺うが…。
ブンブンッ…
首を横にふる。来栖が名簿に載っている人物の声紋と比較するが該当するものがないということだ。
「今まで散々俺達の邪魔しといてよくのうのうとそんなことがぬかせるな?No.4を駅に仕向けたのもお前らの仕業だろ?」
「まぁ、鼠って奴を送ったのはうちらしいけど、ナンバー4?ってのは知らねーぞ。」
男は辺りを一瞥する。どうやら少女の位置を探っているらしい。
(No.4の件はホントに偶然だったのか…それにしてもこいつの能力が読めない…。)
能力者同士、これ程の近距離でこうも無防備なのは異常だ。しかも敵の手持ちは金属バットのみ余程自分の能力に自信があるとみえる。
「で?取り引きとは?」
来栖が口を開く。
「そっちにも悪い条件じゃない、大人しく原物を引き渡すんなら…
「ボケかますな、取り引きの内容を聞いてるんじゃあない。」
「何…?」
「そもそも取り引きってのは同等の立場の者の間で成立するもんさ、アジトに単身で乗り込んできて、お前は取り引きの情報と自身の安全を守ることができるのか?」
「ごたごたうるせぇな…悪いけど、お前らごときに俺が負ける要素がないんだな、これが…」
「………。」
「………。」
「………。」
3人とも沈黙、張り詰めた空気の中
(八重、殺れ)
(了解)
来栖からの合図を受けると同時に敵の背後に回り込み、
ガンッッ!!
ガラ空きの後頭部を殴打する
いうまでもないが全身装甲は装着者の身体能力を劇的に向上させる。一般人ならこの一撃だけでも即死はまず免れないはずが…
「…ッッ!?」
直撃するも敵は微動だにしない
「おいおい、なんかしたかぁッッ!?」
敵は振り向きざまにこちらに殴りかかる、が
(……!?遅い…?)
繰り出されたのは両手持ちでの金属バットのスイング、しかもその速度はおそらく一般人のそれと大差ないものだった。
No.4どころか、先日の「鼠」の動きと比べても止まってみえる。
(…避けるまでもないか?)
敵の能力を測る為にも敢えて攻撃を受けることにした八重であったが。
グチッッ……!!
腹部に鈍痛が走る
「ぐっ…!」
(こいつ、素手で全身装甲を砕きやがった…)
敵の攻撃は続く、反射的に腹部をおさえるように身体を丸め位置が低くなった顔面狙われる。
「ありゃ、、、いい反応してんねぇ!!」
ギリギリの所で顎を蹴り上げられるのを両腕を緩衝材にして防いだと思えば
ほんのコンマ数秒意識が飛ぶ、気づけば
ガンッッ!!
壁に打ちつけられていた。
「ぐっ、、、グ、ブッッッ!!!」
口の中に酸の味が広がり、辺りに胃の中のものを撒き散らす。
(感触だと最初の一撃で胃が破裂、蹴りで右腕は骨折、脳に僅かなダメージ…か。ちょっと……貰いすぎだ……。)
「あーあー汚ねーな、いい歳した大人が吐くんじゃねーよ、食べすぎかぁ…?」
「ぬかせ、ガキ…」
(しかも能力が全然読めねぇ…だがまぁ、1つ分かるのはこいつの戦い方は能力のみに頼りきっている…後悔、させてやるさ…)
11月5日0時03分 B地区
「仲神!無事ッ!?」
「…なんか、最近ヤられてばっかね、俺…」
僕たちが盗撮をしていた隣のビルまで仲神は吹っ飛ばされていた。
「動ける?傷は?」
「外傷はねーけど衝撃がライフルの弾をくらった時のそれと比べても桁違いっつーか…」
「まぁ隣のビルまで吹き飛ばされてるし」
「身体は…もう動ける。そういやお前どーやって逃げてきた?」
「これこれ。」
装備しているそれを指差す。
それとはすなわち濃縮ニトロ爆弾。
爆弾の威力は全身装甲がギリギリ耐えられる程度のもの。
そのため今回のように屋内で使えば強敵からも逃がれることもできる。
「直撃したか?」
「こっちも爆風で吹っ飛ばさたからわかんないけど…」
俺達が盗撮をしていたビルは半壊状態。爆弾の威力なら粉々に崩れさっていてもおかしくないのだが…
「威力を相手の能力で相殺されてるっぽいな。爆弾ゼロ距離で使ったんなら、お前の全身装甲ももうそんなに保たないだろう。取り敢えずここから離れて最寄りの転送機に向かうぞ。」
「ぐっ、よっ…と…」
仲神がフラフラと立ち上がる。
「と、その前に、ちょっと引っかかることがあるんだよねぇ。寄り道するぜ。」
「…?」
仲神と共にその場を後にした…。