第3話「決着」
14時30分来栖らのアジト
ガンッッ!
「うおっ…。来栖、お前その扉蹴って開けるのやめろよ…。」
奥の扉から来栖が出てくる
「出てきたぞ!!大物が!!」
「聞いてないし、テンション高いな…。」
「如月から連絡が入ったッ!縦浜駅でNo.4に目をつけられたらしい…既に仲神が意識を失っている状態だ。」
「No.4ってあの『殺し屋』のアナザーネームの…?あいつら、何やってんだよ…。俺と如月だけで太刀打ちできる相手かどうか…。」
「なんにしても如月の能力なら殺されることはなくても、能力が相手に漏れるのはまずい…。こいつを持ってけ!」
来栖がこちらに投げつけた物を受けとる。
「こいつは…。」
投げつけられたのは青色の錠剤、片道切符だ。
「No.s相手ならそれ無しじゃあお話にならない、知ってると思うがそいつの効果持続時間は10分間、まぁ時間切れの心配は無いが一応念頭に入れておけ。」
「了解だ…。」
アジトから転送機を使い、現場の最寄りの転送機まで移動する
バチバチバチバチッッ!!
「下水に転送機か、いざって時便利だけどこりゃかなわんな」
辺りは酷い臭いに包まれていた
「この上か、とその前に…。」
「んぐっ…。」
先程貰った錠剤を飲みこむ…。
片道切符こいつは即効性、飲み込んで10秒もすれば…。
「ぐぅぅ…。くっ…!!はっ…!!」
ドッドッドッドッドッドッ!!!
心拍数が劇的に上昇、頭を掻き回されるような激しい目眩が引き起こされ、更に視界がブレ始めたと思えば、脳には射精とは比にならない程の快感が送られる。
更に10秒ほどすれば…。
「はぁ…はぁ…はぁ…、やっぱりクルな…これは…。」
心拍数は平常時通りに戻り、目眩も引き、視界はクリアに、全身の感覚が研ぎ澄まされる…。
片道切符の効能は一言で言えば自身の望んだ感覚を過敏にさせることができるということだ。今この状態でセックスなんてしようものなら先程の更に何倍もの快感が得られるだろう、わざわざこの薬の為だけに警戒区域に赴く連中が存在する理由も分からないわけではない。
無論、この薬は戦闘にも適応できる、視界、動体視力、聴力に神経を集中させれば通常の何倍ものそれを得ることができる。
ガンッ!
マンホールを蹴り上げ地上に飛び出た。
「……おいおいメチャクチャするな…。」
下水道のそれとは違う、しかし強烈な臭いと光景があった。辺り一帯が30人程の死体で埋め尽くされている、その中に佇む人間が1人…。
「随分と、うちの後輩達を可愛がってくれたみたいだな…」
まずは状況の確認だ…。
(驚いたな、まさか無能力者が如月にダメージを負わせるなんて、流石『アナザーネーム』持ちと言ったところ、、、か。)
No.4の足元に右手を負傷した如月が、少し離れた位置に仲神の姿を確認する。
「そのsctの全身装甲…?いや、お前らが今噂の「GHOST」ってわけか、少数精鋭って聞いてたんだが、これじゃあ拍子抜けだなぁ、、、」
ガンッッ!!
「んなッッ…!!?」
敵の身体を地面へと打ち付ける
先手必勝、俺の能力は「指定した座標上の重力の倍率操作」。相手の立ち位置に通常の30倍程の重力をかけた、殺さずに動きを拘束するならこの程度の倍率がベストだろう…。
「お前には色々聞きたいことがあるんだが、この大惨事だ。もたもたしてるとsctが到着してしまうだろう、話はアジトでじっくり聞かせてくれ。」
小型の麻酔銃を取り出し発砲しようとした
その瞬間
ダンッッ!!
「なにッ、、、!?」
重力で拘束している筈のNo.4の姿が消えたと思うと
正面から大量の投げナイフ、これは重力で叩き落とす、問題無いとして、、、
(背後っ!)
ガガガンッッ!
鈍い金属音。
背後からの奇襲、身体に当たるのを紙一重で避けるも、銃弾でも傷1つつかない全身装甲をものともせずに切り裂いてくる。
「楽しいなぁ…。だが、そんなにいい能力があるなら、最初の一撃で俺を殺しておくべきだったぜ…。」
敵の両手には今投げられた超小型の投げナイフより一回り大きい、刃渡り10cmほどのナイフが握られていた
(速すぎて、重力の倍率を変化させる座標の指定が追いつかないだろうな…。ましてや近接戦に持ち込まれるのはまずいっ!)
距離を置こうと背後へ跳ぶ
…が。
(こいつッ!速いッ!!)
一瞬で距離を詰められ連撃、連撃、連撃、これでは座標の指定ができず能力が発動できない。
14時32分
No.4との戦闘開始から約1分、敵は両手に持っているナイフで連撃を続ける。
(よしっ!)
運良く、敵のナイフを同時に捌くことに成功し攻撃に転じようとしたその時…。
「…!いいなぁ…そろそろ始めるぜぇ。」
両腕に握られていた2本に加え、更に6本のナイフが取り出される。
(く、、、っっそ…は、速すぎるぞッッ!!)
一気に敵の攻撃速度が跳ね上がる、まだ全力を出していなかったようだ。
宙に浮く計8本全てのナイフが地に着くより速く交互に使い分け攻撃を続けてくる。更に宙にキープされたナイフが邪魔で此方からの攻撃も格段に届きにくくなる。
(…相当マズイな。速度じゃ全く敵わない…。仲神と如月には悪いが…。)
ズンッッ!!!
自分の立ち位置を含め周囲全体に通常の3倍ほどの重力をかける、全身装甲の性能を落とさずに動き続けられるのはこれが限界だ。
14時34分縦浜駅
「おいおい、もうお終いかぁああああああああああ!?」
(ようやく、相手の実力がわかってきた…。俺は、遊ばれている…。)
ガガガガガガガガガガンッッッ!!
激しく鳴らされ続ける金属音。
宙を舞うナイフは6本から18本へと増えていた。速度も上がり続けている。敵の連撃が続いて3分は経過した。
3倍の重力下であるにも関わらず、一向に敵の体力が無くなる気配はない。それどころかまだまだ余力を残しているように感じる、要するに俺の反応できるギリギリの速度に抑えて戦っているわけだ…。
(きつい、きついが、やるしかないんだ…。)
こちらは防戦一方、敵の動きが速すぎる、敵は的確にこちらの急所を狙い続けて攻撃を繰り出してくる、こちらは毎秒出し切れる最高速と最高の集中力で攻撃を見極め捌くことを要求され続ける…。体力はとっくに切れているが、それに合わせてくれる程は優しくはない。
(動くんだ…動かなければ死ぬ、死ぬぞ…!集中しろッッ!!)
毎秒が極限の限界状態の中、身体が、脳が休ませてくれた鳴き叫ぶ中でそれを酷使し続ける…。
「そうだ!!これが、戦いだ!!今のお前は最高だッッ!!もっとだ、もっと、限界をッッ超えてッッ!!少しでも俺に近づいてこいッッ!!」
No.4の叫び、これは煽りでもなく彼の本心そのもの、強者故に戦いの中で自身の限界と向き合える機会を失ってしまった彼の心からの叫びであった。彼は確かに加減をしている、しているがそれは相手の限界に合わせたものであった。彼は、その限界に向き合っていられるのは、人間ではごく稀、ましてや過去に能力に頼ることで自身の極限状態から逃れた能力者には存在しないという考えに至るのは無理もない。しかし今目の前に自身の限界と向き合い生を勝ち取ろうとしている能力者が確かに存在している。彼はこの時間が無限に続き、自身を追い越すほどの成長を相手に期待していた…。
が…。
やはり限界は存在する、八重の身体に少しづつ蓄積されたダメージが動きを僅かに鈍りさせはじめる、決着はもはや時間の問題だった…。
ドスッ!
と突如下半身に鈍痛が走る。
「ッッ!(しまった、得物に神経を取られすぎて…)」
ナイフでの攻撃を紙一重で回避、受け流していたところに強烈な下段の蹴りが入れられていた。
(く、、、まず…)
そのまま体勢を崩され首を掻っ切られ…
とその時
バキバキバキッ!!
木の枝をへし折ったかのような鈍い音が鳴り響く。
「おっとぉ!!?」
No.4が俺と同様、体勢を崩し倒れかかる。
追撃をまぬがれることでなんとか体勢を立て直し距離をとった。
No.4は距離を詰めようとせず、その場に立ち尽くしている。
(危ないところだった…が、何が起こった…?)
「クククッ、こいつぁ殊勝なこった、無意識の状態で攻撃しかけてくるなんてよ」
No.4の右足元に足首を掴んでいる仲神の姿があった。
掴まれている右足首は無残に握りつぶされている。
仲神の能力は触れた物体の硬度の変換。おそらく今のNo.4の足の骨はシャーペンの芯ほどの硬さとなっているだろう。
これでもう右足は使えない
(最後の好機!)
足元にいる仲神を巻き込まないようNo.4の左半身の場所の座標のみにありったけの倍率の重力をかける
…が
(これでも捉えきれないのかッ…!!)
片足とは思えない速度で回避され、そのままこちらに向かってくる
(片足になっても逃げずに俺を相手にするつもりなのか…。)
ズズンッ、、、!
今度は自分の立ち位置のを除いた周囲全体の範囲に通常の10倍ほどの重力をかける、流石に片足ではこの重力には耐えられないだろう。
「ぐっっ…。」
No.4が体勢を崩し手を地面につく
(俺自身も動けないがもはや問題ない。動けなくても、能力で潰す、潰し殺す!!)
動きを止めたその瞬間、能力の範囲をNo.4周辺に縮めていき、急激に重力の倍率を上げていく
(奴が持っている情報は惜しいが、この際生死に構ってはいられない、確実に、、、殺す!)
No.4周辺の重力の倍率が50倍を超え、勝利を確信したその時…
「良いッッ!!!サイコーだぁあああああああああッッッッ!!!!」
ダンッッ!!!
そう叫び散らした直後、再び目の前から姿を消し…。
「グフッ!!?」
気がつけば腹部を斬りつけられていた。
「な…に…?」
(こいつ、速度がさっきの比じゃない、全力でないのはわかっていた、いたが。ここまでとは…)
正面から腹部を深く斬りつけられ、背後に回られたようだ
(体勢を、立て直すさなくては…)
背後に向き合い臨戦体勢をとる。
…が。
「、、、時間切れか。お前みたいなのと会えたのは久しぶりだった。また、会えるといいなぁ…」
フッ…。
そう言い残しNo.4が立ち去る
「俺は、、、二度と会うのはゴメンだよ。」
近くで複数の足跡がする。
sctが到着したらしい。
時間切れとはこのことだったようだ。
(俺ももたもたしている暇はないな…。)
倒れている仲神と如月を抱えこみ下水道に潜り込んだ。