第2話「No.4」
17時20分湖袋駅地下5階
『D班の生存を確認、全員意識が無いが命に別状もない。少女は奪われ、既に逃げられたみたいだ。相手も相当強いなぁこれ。』
『……………了解だ、生存者と遺体、装備の回収後帰還しろ。』
17時38分来栖らのアジト
『するとなんです?sct7隊、1時間も経たないうちに、全滅、少女は無力化した状態で敵さんにプレゼントってわけか。情けない。前年の16期生がいかに豊作だったか分かりますね。』
『今回の交戦データから得られた物は多大だ
「GHOST」のうち2人の能力の大体の把握ができた、死人を出たが、決して無駄死にではない』
『映像だけの能力の推測なんざあてになるわけねーだろ、無能。死ねよ。』
『にしても今回の結果は致命的過ぎるでしょ〜出し惜しみしている場合じゃないと思うんだけど〜』
『問題は「GHOST」の連中だな、現地の情報を常に完全に把握している様な動きをして漁夫の利を得るように動き続けている。「情報屋」と、何か繋がりがあるんじゃないか…?』
『だとしたら面倒ですねぇ、、、』
『…現在の最重要事項は少女を奪還すること…確かにリスクを考えて出し惜しみをしている場合じゃあないみたいですね…。No.3と8を警戒区域に向かわせて下さい。責任は全て俺が負います』
『ちょっとま、、、
カチッ
来栖が音声の再生を中止する
部屋にはまだ僕と来栖の二人しか(起きて)いない、仲神と神野寺は眠りふけり、八重はまだ用事とやらで帰ってきていない。
僕はというと「組織」の1人と交戦した時の詳しい状況を話した後、来栖に公となっていない行事政機関のトップ達(要は警戒区域とかに関わることで色々暗躍してる偉い奴ら)の会議の盗聴を聞かされていた。
「GHOSTっていうのは?」
来栖に質問をする
「俺達のことさ、さすがに存在は認知されていたようだな。それより警戒区域にNo.sの投入…これはいよいよ本格的にヤバくなってきたぜ、、、」
そういう来栖の口調は何故だか嬉しそうで、
目は輝いていた。
バチバチバチッ!
ふと転送機が反応する
「戻ったぞって、、、うおッッ!?なんでこんなところで仲神寝てんだよ。」
八重が帰ってきたところだった。
「こっちについた途端にぶっ倒れたの。八重さんは何してたの?」
「ベッドに運ぶくらいしてやれよ、ちょいと来栖に頼まれた買い物をな。」
手にある袋の中には複数の薬瓶が入っていた
「睡眠薬さ、地下の少女の監禁に使う、ほとぼりが冷めるまでは投与し続け眠っていて貰う予定だ。」
こちらが何かを聞こうとする前に来栖が答える
「(ほとぼりが冷めるまでは、か)睡眠薬って連続投与は危険とか聞くけど…。」
「俺が特別に手配したものだ、どんなに投与し続けても死ぬ心配は無い。それとお前には少女のことについて、詳しく話していなかったな…」
少女の姿は地下にある監禁室にあるモニターの一つにリアルタイムで映し出されている、今は全身拘束は外されてはいるが手足は椅子に固定、顔には目隠しのようなもの装着されており、見るからに疲労しきっていた。
「……僕は、
「うっがぁあああああああああ!!気付いたら寝てたぜ…てか誰かベッドに運ぶくらいしてくれよ。く、首が…痛い…。」
言葉を遮られる、仲神が目を覚ました
「丁度良いな、お前にも一緒に少女について詳しくおくか。」
改めて来栖が「少女」について話し始めた
「今回俺達が保護(拉致)したのは『死神』と呼ばれる少女だ。こいつは他の『少女』達と比較しても極めて殺傷能力が高い能力の持ち、」
「こーんなガキを取り合って戦争してるってんだもんなー、なんだかやる気無くすぜ」
「仲神、黙って聞け。能力は推測だが「視認した対象を殺す」能力だ、しかも殺される対象は身体に傷1つなくまるで魂が抜かれたように生き絶える。」
「それで『死神』ね…」
「そんなら目ぇ潰しちゃえば良いんじゃねーの?」
「…能力の一般的な発動のメカニズムについては前に教えだろ?」
「なんだっけ?」
「…まぁいい、今度はよく聞けよ、能力者のほとんどは能力の発動スイッチってのを持っている。例えばこの少女なら対象を視認すること、それと圧倒的に多いのは対象に手で触れることで発動するものだな。」
「仲神がそのタイプだね。」
「俺のは正確に言うと身体に触れればで発動するけどな。」
「例えばその対象に手で触れることが能力の発動条件の奴の手を切り落としたらどうなるか?」
「だから能力発動出来なくなるんじゃねーの?」
「半分正解だ、能力者から能力の発動のスイッチを奪った時に起こり得る変化は2通り。
1つは能力が大幅に弱体化する、或いはそのまま使えなくなる場合。そしてもう1つはスイッチ無しでも能力が発動出来るようになる、要するに能力の発動スイッチが奪われたことで能力の制御が効かなくなり暴走する場合だ。」
「もし少女の目を潰して能力が暴走状態になりでもすれば…」
「前例から考えると良くても近くにいる俺達は確実に即死、下手したら地球から生物という生物が消え失せることになるだろうな。そんなリスクは負うことができない。
………それと、お前ら2人に今後の動きについて伝えておきたいことがある…」
2066年10月31日10時38分如月自宅
『♪〜♪〜』
「んっ…」
日曜日、携帯の着信音で目覚める
「この着信音は…」
『おう、起きたか?暇だし、一緒に『切符』とかの買い出し行こーぜ』
切符とは警戒区域で流行ってる新種のクスリの『片道切符』の隠語。
仲神から誘いの電話だった
「来栖から切符の使用は禁止されてるだろ?」
「そんなこと言ってる場合か?いつ向こうに切り離されるかもわからねーんだぞ、全身装甲無しで俺たちがまともに戦う手段としたら切符を使うしかねぇ。」
6日前に来栖から俺と仲神へ伝えられたのは臨時の収集でもない限りは「GHOST」と極力関わりを持たないようにしろということだ。
(要するに俺と仲神がアジトにいたら都合の悪いことをしているってこと、仲神のいう通り、いつまでも全身装甲の性能に頼ってるわけにもいかない。)
「わかった、けど切符手に入れるアテなんてあるの?」
『そこんとこはダイジョーブ。んじゃ駅で12時集合なー』
丁度これからの動きについて2人きりで話しておきたいこともある、誘いに乗ることにした
14時28分某駅周辺
「はぁー、すっげー人だな。」
「この時間が一番混むからね…。それにしても空振りとはね、アテがあるんじゃなかったの?」
「昨夜は連絡は取れてたんだけどな…。」
結局、仲神のいう薬の売人は姿を消していた。単に姿をくらませたのか、誰かに消されたのか、それさえもわからずじまいだ。
「クッソ、あの野郎。前金まで渡してあったのに…。」
仲神がブチブチと文句を言っている中
スッ、、、
ふと、首にドッグタグをつけた男とすれ違う。一瞬だったのでよく見えなかったが間違い無い…。
「おい、今すれ違った奴もしかして、、、仲神?」
男とすれ違ってから2.3歩歩いた所で話しかけるも隣を歩いていた筈の仲神の姿が忽然と消えている、、、
「おい…仲神…?」
ザザザザ…。
背筋が凍り、呼吸が荒くなる、、、
「ふっーー…。」
(落ち着け、落ち着け…)
息を深く吐き、平常心を保とうと努力する。周囲を見渡すと背後に倒れている仲神の姿があった。
「仲神ッ!!」
雑踏を押しのけ即座に駆け寄る
「……。」
「息はある、気を失っているだけ、か」
見たところ損傷は無い、どうやら気絶しているだけのようだ。
仲神の様態を確認すると同時に
「名簿には載ってねーみてぇだが、まだ息をしてるってことは「当たり」だったみたいだなぁ、楽しませてくれよ、、、」
今さっき雑踏ですれ違った男が立ち止まってこちらに話しかけてきた。どうやらすれ違った一瞬で、俺にも既に何かしらの危害を加えていたらしい。
男の首にはNo.004と彫られたドッグタグ。
一桁、しかもNo.4といえばNo.sに2人しかいない「アナザーネーム」の持ち主…
最悪のエンカウントだ。
「、、、ッ!テメェ!!ぶっ殺す!!」
逆上はしているが動作がいたって正確。
隠し持っていたサプレッサー付きの拳銃を周囲から視認されない角度で取り出し、かがんだ姿勢のまま発砲する
この銃は来栖から渡された。小型で軽量、
かつほぼ無反動の優れものの自動小銃だ。訓練通り、取り出して発砲までは0.1秒もかからない。無能力者とのほとんどの戦闘は今迄、この動作のみで済まして来たのだが…
ガキンッ!!
激しい金属音が耳をつんざく。
手元の銃を見れば銃口がまがってしまっていた。
「おいおいおい、こんな街中で、随分物騒だなぁ。」
「ッッ!」
(こいつッ…!強過ぎるッ…!せめて全身装甲を着ていれば…。)
流石にこんな街中でNo.sと遭遇する事までは想定外だ。
銃を構え発砲する速度に合わせて何かを投擲、それを寸分狂わず銃口の中を狙って命中させた。人間業ではない…。
一瞬で力の差を痛感させられる、こちらの装備はたった今、壊された銃とsctの装備しているものと同じマチェットのみ、とても俺1人じゃ敵わない、とにかく来栖に連絡を…
「えっ?えっ?何これ?銃?本物?コスプレ?」
ザワザワザワ…
今の音で周囲の人々が立ち止まり人だかりが
できる。
(チャンスか!?)
冷静に考えてみればあたりは凄い人混みだ、No.sは非公認といえど政府側の団体、この一般人の中で騒ぎは起こせない筈だ、人混みに紛れながら移動すれば或いは…
そう考えた矢先。
「カハッ…!」
すぐそばにいた一般人が首から出血、したかと思うと
「うわぁああああああグッ…」
「きゃぁああああああああああカッッハァッッ!」
「グッ、、ブッッ、、」
(10人、、、いや、20?30!?)
バタバタと辺りに群がっていた人間が次々と首から出血し倒れていく。
「こんな上玉逃しはしねぇよ…これで思う存分やれるなぁ…」
僅かな希望も簡単に打ち砕かれる。辺りには大量の死体が並び、一般人はちりぢりに逃げ出した。
さっきまでの雑踏が嘘のようである。
(落ち着け…No.sは無能力者の集団の筈だ、どうやって…)
すぐそばにうつ伏せに倒れた死体の首筋を
観察する、うっすらと視認するのも困難な程の切れ目が見てとれるこれから推測されるのは…。
「得物は超薄型かつ小型の大量のナイフってところ?どーやって銃弾を相殺する威力出してるかは不可解だけど、、、」
「不可解なのはこっちの方だぜ、どうやらお前自身も、攻撃されてることにも気づいていないようだし、随分便利そうな能力持ってるみたいだなぁ…。」
(やはり、既に僕も攻撃されてたわけね、能力のせいでそれさえ気づけなかった…。)
「、、、そんなに攻撃当てたいんなら、直接斬りかかってくりゃいーんじゃないの?」
「、、、それもそうだな?」
「、、、、。」
一瞬の沈黙の後
「ッッ!?」
ヒュッ!
凄まじい速度で正面からナイフが飛んでくる
(わざと僕に見える速度で…?)
反射的に手でナイフを弾いてしまう
既に前方に敵の姿は無い。
(成る程…ね!!)
敵の死角からの攻撃、それには反応することは出来ないが…。
「……ッ!?」
当然その攻撃も僕には当たらない。
攻撃が素通りし、敵の体勢が大幅に崩れる。その隙を狙いマチェットで斬りつけッッ!!
「おっそいなぁ…」
ドドドドッッ!!
「なっっっ!?」
目の前にいたはずの男の姿は既に消え、右手からは大量のナイフが深く突き刺さっていた。
「ッッ!ぐぁあああああああああッッ!!」
右手に激痛が走る、たまらず地面に倒れこんでしまう。
こちらの攻撃のタイミングは、完璧だった…
(こいつ……あの体勢から、僕のカウンターにカウンター入れてきた…その上攻撃される一連の動作さえ見ることも出来なかった…こ、これが…アナザーネーム持ちの力か…)
右手から大量の出血、おまけに手先が1ミリも動かせない、血管と神経がズタズタである。目でその動きを追うことさえできなかった…。
(クソッ、駄目だ…腕が、熱、、、痛い。)
(あれ、なんでこんなことになってるんだっけ…?)
(…痛い。そうだ立ち上がってあいつを、No.4を殺さなきゃ、殺すんだ)
(仲神は無事なのか、、仲神………仲神…)
如月は自身の能力の特性上、基本的に怪我さえすることはない。
それ故に、いつぶりか、それさえも覚えていない、随分と久しい痛みという感覚で立つことさえままならない状態だった。
まるで右半身を巨石で押しつぶされているような感覚に襲われる。痛みで思考がまとまらない、吐き気がする。
考えていることが億劫になる…。
(僕の能力も今のやり取りで少し把握されたか、も…こ、こ、、ま、で、、、、か、、、)