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魔王様は都市を見て回るようです




魔王ジークとリーゼは無事、鉱業都市マウヌークに着いた。

鉱業が盛んな都市と聞いて魔王は埃っぽいイメージを持っていたが、

街を見て驚いた。


埃やゴミがあるどころか、隅々まで手入れがされており目立った汚れがない。

それどころか、家の壁や柱には細かな模様が彫り込まれており、

尊厳な雰囲気を醸し出している。

整備の行き届いた、石畳の上を歩きながら、

魔王は辺境の村とは比べ物にならない人の多さと活気に、圧倒されながら街を歩いた。


そんな魔王ジークの様子を見て、一つため息を付くと、

リーゼはふらふらと頼りない足取りで歩く魔王の手を引き、

とりあえず、宿を取ることにした。


リーゼが宿を取る手続きをしている間、

魔王は宿の部屋に入り、部屋に荷物を置くと、

窓の外から街の様子を見た。


そこには見たこともない数の人間が歩いている。


「信じられん………。

 こんな数の人間がこの街に住んでいるのか?

 毎日もめごとが絶えないのではないか?」


しかし、街の人々の顔を見ても、あざや擦り傷が出来ている者はほとんどいない。

不思議なものを見るように、魔王は首を捻る。


魔王が不思議がるのは、人間と魔界の民の性質と暮らしぶりの違いに起因する。

魔界の民は人間よりも力が強いものが多い。

そして、同じ種族の者は少なく、多様な種族がごちゃ混ぜになって暮らしていた。

力が強く、考え方の違う者が同じ街に暮らす、

当然の成り行きか、魔界では、小競り合いが毎日のように起こった。


先代魔王が毎日のように起こる小さな争いごとに頭を悩ませながら、

どうにか争いを根本的に解決できないものか、毎日悩んでいたのを思い出す。


そんな、環境の違いもあり、

窓の外から見える、人間の群れが列を成して歩く姿は、

魔王にとっては新鮮で不思議な光景だったのだ。


飽きることなく、窓の外を眺めていると、

宿の受付が終わったと思われるメイドのリーゼが、

浮かない顔をして帰ってきた。


途端に魔王は顔を輝かせると、リーゼに言い放った。


「よし、リーゼよ!

 街を見て回るぞ、準備は良いな!」


「えぇ、魔王様。ですが、少しお話が………」


「お前の話はあとで聞く! さぁ、行こうか!!」


魔王はリーゼの腕を取ると、

勢い良く宿を飛び出して街に繰り出した。

今は、説教よりも早く街の様子を見たい一心だったのだ。



 ――◇◇◇◇◇――



魔王達はマウヌークの街を二人並んで歩いていく。


キラキラ光る石や装飾品を売っている店。

何やら肉の焼ける香ばしい匂いが漂う露店。

見るだけで唾液が溢れてくる甘いお菓子を売っている店。

剣や槍、鎧や盾、ばかりか、

どう使えば良いか分からない形状のものを売っている武具屋。


見るものすべてが珍しい。


魔王がキョロキョロと辺りを見渡してると、

その様子を観光客かと目ざとく見つけた男が声を掛けてきた


「やぁ、お兄さん。旅行かい?

 マウヌークの街へようこそ、楽しんでいってくれ」


「ふむ、これは何を売っているのだ?」


男はよくぞ聞いてくれた、

とばかりに大げさに身振りをすると商品の説明をする。


「これは、マウヌーク名物、勇者饅頭さ

 どうだい、買っていくかい?」


「いらん、じゃあな」


勇者と言う言葉を聞いた途端、魔王はぷいっと顔を向ける。

立ち去ろうとする魔王達を見て、慌てて、男は声を掛けた


「ま、待ってくれ兄さん方。

 そうだ、饅頭を二つタダであげるよ

 食べてみて気に入ったら買ってくれ」


タダでくれる。という言葉に反応して魔王はくるりと踵を返すと、

男から焼きたての饅頭を二つもらった。

一つをリーゼに渡し、一口で食べきれるサイズの饅頭を自分も一つ食べてみる。


すると、途端に口に入れた饅頭が溶けていき、

優しげな甘い味がじわりと口いっぱいに広がった。

そして、最後にほんのりと甘酸っぱい味を感じると、

饅頭は溶けてなくなった。


じんわりと残る甘さを噛み締めながら、

魔王は両手で顔を覆うと、

どうして、人間はこんなに美味いものを思いつくのだ……。

と消えるようにつぶやいた。


「くそっ、勇者め、美味いではないか………

 店主、饅頭を買おう。リーゼ買っておいてくれ」


「おぉ、ありがとよ。兄ちゃん!

 また来てくれたら、勇者様の話を語ってやるからな!」


饅頭屋に話しかけるリーゼをその場に置いて

魔王は、ふらりふらりとその場を離れると

人間の食の豊かさに、ため息を付いたが、気を入れなおすように、

自分の頬を叩くと、自分に向けて言い聞かせた。


(えぇい! この程度で驚いてなるものか!

 これも魔界が再び繁栄するために必要なことだ。

 一つ残らず人間の強みを学び。盗んでくれるわ!)


よし! と気合を入れ直すと、魔王は次の屋台に向けて歩き出した。



 ――◇◇◇◇◇――



――魔王は次々と目ぼしい露店に足を踏み入れては店主の話を熱心に聞いた。


その結果、分かったことは

マウヌークの都市から東に離れた鉱山からは未だに豊富な鉱石や魔石が取れること。

そのため、山賊や貧乏人が高価な宝石を求めて、

無断で立ち入る輩や襲ってくる輩も増えているため、

冒険者に巡回を頼んでいること。


そして、最近になって勇者のパーティーメンバーもこの都市に滞在しており、

その影響で、街の清掃活動が活発なこと。


「そりゃあ、勇者様のお仲間に

 汚い街を見せるわけにはいかないからね!

 街に住む人々総出でゴミを拾ったり、

 壁や柱に装飾を施したりしたのさ!!」


お菓子の露店を営む、恰幅の良い叔母さん(48才:未婚)は、

嬉しそうに魔王に向かって、そう言った。


「勇者、勇者か………

 ここでも、奴はずいぶんと人気者の様だな」


魔王は憎々しげに息を吐くと

自分の左手に嵌められている、魔力封じの指輪を弄る。


「………この指輪さえなければ、ぜひ我も"お礼"をしたい所だがな」


指輪を眺めながら、魔王はため息を吐く。


この、指輪は先代魔王が勇者と戦う前にジークトアに預けられたものだったが、

まさか、魔力を封じるものだとは思わなかったのだ。

指輪の影響で、今では、実力の半分も出せないばかりか、

魔法の制限までがオマケとして付いている始末だ。


魔王ジークは、指輪を忌々しげに見ると呟く。


「しかし、勇者のメンバーがここにいるとは好都合だ。

 今の実力で勇者と戦うのは無理かもしれんが

 勇者のメンバーならなんとかなるかもしれん」


「ふっ、我に会う時は覚悟することだな………」


そう呟き、魔王は口元に笑みを浮かべていると

ふと、視界に見慣れた漆黒のドレスを着た女性が目に映った。


「おぉ、リーゼよ!

 どこに行っていたのだ、ここに座れ!」


この場合、悪いのはふらふらと色々な場所に勝手にうろついた魔王の方なのだが

本人に反省する色はない。


駆け寄ってきたリーゼに、魔王は自身が座っている石垣の隣を叩くと、

リーゼはふわりと石垣に座った。


「――――さて、リーゼよ

 我はしばらくこの街に留まろうと思う」


そして、魔王はリーゼに向かって言った。


「ここには、我が魔界を復興するに辺り、

 必要なものが多く揃っているようなのだ。

 まだまだ勉強することはたくさんある」


「……それに、どうやら、勇者のメンバーが滞在しているようなのだ

 何日になるか、分からないが、気のすむまで居座りたいと思っておる」


不満はあるか? と魔王はリーゼに問うと、

リーゼは何故か俯いたまま、魔王の言葉に答えた。


「――勇者のメンバーに関しては、慎重に事を改める必要がありますが

 この街はずいぶんと気に入ったのですね」


あぁ、そうだな。と魔王は肯定する。


「うむ! まうぬーくの街と言ったか?

 この街は人の活気が合ってよいぞ!

 今日は日も遅いし宿に帰るが、明日も見て回るとしよう!」


楽しそうに語る魔王の姿を見て、リーゼは肩を震わせる。

いつもとは違う、その様子を見て、魔王は目を細めると語りかけた


「………リーゼよ。どうしたのだ?」


すると、突然、リーゼは立ち上がり、

背中を丸め、魔王に向けて勢いよくお辞儀をした。

あまりの勢いに、リーゼの髪がふわりっと舞った


「ジーク様、申し訳ありません!!!」


「………なぜ、お前が謝るのだリーゼよ」


滅多に謝ることはないリーゼの珍しい姿を見て、

魔王も石垣から立ち上がると、

リーゼの肩に手を載せて、言った


「何があったのだ、言ってみろ」


魔王の言葉に、リーゼが唾を飲み込むと、

魔王の顔をゆっくりと見上げ、謝るべき事実を言った


「ジーク様、お金がもう手元にありませんので

 旅を続けることが出来ません。

 私たちの旅はここで終わりです」

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