魔王様は魔道人形と戦うようです(2)
不思議と高揚した気分だった。
相手の攻撃をどうにか防いだから、だろうか?
せっかく新調した全身鎧はボロボロだ。
もう、腕も上げれそうにない。
それどころか、左手には銀の槍が突き刺さっている。
大きく振りかぶり、自分を押しつぶそうとしている巨体を見上げる。
改めてみると、本当に巨大だ。4メートル以上あるのではないか?
我ながら、自分を褒めてやりたい、こんなものを一人で引き付けていたのだ。
いや、こんなものを防ぎ切ったのだ。
我ながら、自分が恐ろしい。満足だ。満足だが………。
………惜しむべくは、仲間の為に戦えなかったことだ。
私が引き付けている間、既に労働者達は逃げ出していた。
正直、無理をする必要はなかった。
仲間が居れば、また違ったのだろうが、
こんな強敵相手に背中を預けて、
戦える仲間が居れば、悔いはまったくなかったのだが………。
仲間を守り、仲間と力を合わせて戦う!
それこそが騎士の本来の姿ではないか!
うむ、想像だけで滾る、滾るぞ!!!
………しかし、私には仲間とも呼べる人が居なかった。
………数々の冒険者と共に戦ってきたつもりだが、
背中を安心して預けれるような人物には出会えなかった。
………………それだけが唯一の心残りだ。
………すまない、長く話してしまった。
そろそろ影が近づいてきた、敗者は大人しく消えるとしよう。
………………いや、まて、視界の隅に映る黒いものは、一体。
………これは、なん。
――――漆黒の翼を持った「天使」が降りてきたように見えた。
それが、モニカ・マルガルトが魔王ジークトア・ゲインハルツを初めて見た時の感想だ。
魔王は、黄金色の光をまといながらモニカの傍に降り立つと
ゴーレムに向かって、宙から降りてくる間、"既に唱え終わっていた"
魔法を唱えた。
「三重詠唱:火炎×火炎×火炎」
「焼き尽くせ、『メギドの炎』」
魔方陣の中から、青い炎が爆発的に広がり、4メートルもの巨体を誇る、
ゴーレムを焼き尽くさんと、激流の様に瞬時にその身を包み込み、
土を焦がし、岩を焦がし、その身を焼き尽くした。
魔王が焼き尽くされていく巨体を横目で見ながら、右手を無造作に上げると、
「吹き飛べ!!」
魔王の一言で巨体は宙を舞い、大きな地響きを上げ地面に転がった。
そして、漆黒のマントを翻すと、呆然と信じられないものを見るように立ち尽くす、
金髪の女性に話しかけた。
「我はジークトア・ゲインハルツという
人間よ、名はなんという?」
「わ、わたしは、モニカ・マルガルト………だ」
モニカは自分の声が予想以上に弱弱しいのを自身の耳で聞いて驚いた
気が付かない間に、それだけ、体力を消費してしまったのかもしれない。
魔王はモニカの声を聴くと、
ふっ、と笑ってモニカの体を支えた。
「そうか、モニカ・マルガルトと言うか、覚えたぞ。
………良く頑張ったな」
「………あ、あぁ
……………あなたは、魔法使いか?」
「その通り、それも、とびっきりのな」
そう言うと、魔王は、モニカの傷を見て魔法を唱え始めた。
「安らぎの揺り籠にて母なる癒しを施さん
癒せっ!『揺り籠の命』」
魔王の右手から、優しい緑色の光が溢れると、
モニカの傷口に集まり、痛みを和らげ、少しずつ傷を塞ぎ始めた。
刺さっていた銀の槍もガシャリと音を立てて抜け落ちる。
モニカは目の前の光景が信じられなかった。
先ほど、目の前の男、ジークトアは炎属性の上級魔法を使ったはずだ。
それも特大の炎魔法をである。
しかし、今は癒しの力を使っている………。
それは「1人に使える魔法は1属性のみ」という常識を覆している。信じられないことだ。
いや、それとも特殊な体質なのだろうか?
二つの属性なら聞かない話ではないし、たぶん、そうだろう。
モニカが自分の頭の中で一人納得していると
魔王は信じられないことを言い放った。
「………ちっ!治りが遅い
やはり、"癒しの魔法"は苦手だ。すまないがもう少しかかりそうだ」
「………十分、効いているのだが
その、ジークトア殿が扱える属性魔法は「火」と「癒し」なのか?」
魔王はモニカの言葉にきょとんとした表情を返すと
「我は「すべての属性」が使えるが
ひょっとするとおかしいことなのか?」
と言った。
あまりの衝撃的な発言にモニカは開いた口がふさがらない。
「と言っても、「癒し」と「無属性」は苦手なのだ
一番得意なのは「火」だな。
それ以外は"そこそこ"と言ったところだ」
「な、なるほど、そこそこか………」
「うむ、そこそこだ………
よし、応急処置だが、回復したぞ」
そんなやり取りをしていると、癒しの魔法は無事終わったようで、
モニカの左手と肩の出血は気が付けば収まっていた。
「助かった、ジークトア殿
このご恩は必ず………」
疲労は残っているが、痛みは既にほとんどない右腕と左腕を上げ、
モニカが魔王に感謝の言葉を述べようとした時、
魔王はモニカの目の前に手を掲げると、注意を促した。
「待てっ!!!
………何か聞こえないか」
「何か、とは………いや、これは?」
それは、鉄と鉄がこすれ合い不協和音を奏でるような音。
そして、『ソレ』は突然、巨大な土ぼこりの中からゆっくりと姿を現した。
銀色に輝く体を持ち、見上げるほどに大きなその体を持つ物体は
まさしく、先ほど魔王が倒したと思われる魔道人形だった。
――◇◇◇◇◇――
「ゴ、ゴーレムか!!!
いや、ゴーレムなら先ほど倒したはず………」
「ちぃっ!!!!!
モニカよ、淑女のそなたに失礼なことを働くが
先に謝っておく!!! すまない!!!」
「な、なにを、………うわっ!」
魔王は突然、モニカの首と足を両腕で抱き上げると、後方に大きく飛んだ。
すると、ズドンッと大きな音を立てながら、
魔王とモニカが居た場所に銀色の巨大な手が叩きつけられ、大きく地面を穿った。
ゴーレムが突然、攻撃してきたのだ。
危険を察知し、咄嗟に回避しなければ二人の命はなかっただろう。
銀色のゴーレムは二人を完全に攻撃対象として認識したのか、
後方に下がった二人をゴーレムの名に相応しくない"機敏な"動きで追いかけると、
予備動作も何もない、素早い動きで巨大な拳を二人に向かって振り下ろした。
「三重詠唱:強化×強化×強化」
「対象:脚力。駆けまわれ!『風神のブーツ』!!!」
魔王が魔法を詠唱すると、魔王の足に緑色の光が集まった。
すぐに魔王は、光が集まった足で宙を蹴ると、爆発的な加速を持って、
迫りかかってくる、銀色の鈍器を躱し、素早くゴーレムから大きく遠ざかった。
その様子をゴーレムは頭部から大きく光る目で追いかけると、
右手と左手の両腕を前に突き出し、魔王とモニカに狙いを絞る。
「ジークトア殿!!!
遠距離攻撃が来る!!! 警戒をっ!!!」
自分が経験したものと同じ攻撃が来ると感じたモニカは、
抱えられながらも、注意を呼び掛けると、
モニカの言葉を聞いて、即座に魔王の右手に金色の光が宿った。
ゴーレムの両腕から、銀色に光る槍のようなものが恐ろしい速度で二人を襲う。
魔王と一人は宙を舞いながらも、瞬時に魔方陣を構築すると魔法を詠唱する。
「三重詠唱:障壁×障壁×障壁」
「慈悲深き神よ! 我が民を守れ!『アテナの結界』!!!」
魔王とモニカの前方に、青く光り輝く魔力の壁が現れると同時に、
前方から銀色の槍が降り注ぐ、だが、銀色の槍は魔力の壁に当たって跳ね返った。
100を超える、銀色の槍を危なげなく、結界で受け止めると。
魔王とモニカはふわりと地面に着地し、
両腕を降ろし、ゆっくりとこちらに近づいてくる、
巨大な銀色の物体を二人で見上げた。
「モニカよ、あれは何だ? ゴーレムなのか?」
ゴーレムは基本的に岩石で作られ、色は土色のはずだ。
自分の知識とはまったく違う、その姿に魔王は違和感を口にすると、
モニカが答えた。
「ジークトア殿。たぶんだが、あれは『ミスリルゴーレム』だ
私も、あんなものは初めて見るが、
どうやら、対人様に作られた戦闘用のゴーレムに違いない」
「ほほぅ、なるほど、魔法銀で作られたゴーレムか
………おもしろい」
「確かに珍しくはあるが………
あと、その、一つお願いしたいのだが………」
「………傷が痛むか?
出来る限り丁重に扱ったのだが………」
「いや、それは大丈夫だが
その、出来れば、お姫様抱っこは止めてほしい………」
「む、そうか……すまない。一人で立てるか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
魔王が慎重にモニカを地面に降ろすと、
まさか全身鎧でお姫様抱っこを体感することになるとは思わなかったモニカは、
ほんのりと頬を染めながら、気を紛らわす様にゴホンと咳をした後、
魔王に問いかけた。
「これから、どう行動するジークトア殿?」
「ふむ、どうするとは………どういう意味だ?」
質問の意味が分からないように、魔王は首をかしげる。
「もちろん、撤退して仲間を呼ぶかどうかだ
私は残念ながら、ゴーレムに有効な攻撃手段は持っていない
ジークトア殿の魔法もゴーレムには効かないだろう」
「なぜ、効かないと決めつけるのだ?」
「………いや、それは」
モニカが口ごもる。
見た所、ジークトアの魔法は「火」「風」「癒し」の様だった。
「盾」の魔法は魔力そのもので構築されるため属性には含まれないが、
そのどれもが強力で高度なものだった。
――だが、残念ながら、これだけの魔法を持っていても、
ミスリルで作られたゴーレムに有効な魔法は見当たらない。
退却して、仲間を呼ぶ以外に、手段はないはずだ………………。
モニカが考え、もう手段はそれしかない、と口に出そうと、
ジークトアの顔を見ると、目の前の魔法使いは不敵にモニカを見つめ返す。
その、自信に溢れた表情にモニカも気付いた。
「………まさか、まだ他の属性が使えるのか?」
「最初にそう言ったであろう、まぁ、我に任せておけ」
自信満々にジークトアは言い放つと、
漆黒のマントをはためかせ、迫ってくるゴーレムに自身もゆっくりと向かって行きながら呟いた。
「ミスリル銀で出来たゴーレムか………
物珍しいものだが、わざわざ"魔法を通しやすいミスリル"
で覆ってしまうとは馬鹿な真似を」
魔法銀ミスリル、が貴重なのは強靭な強度を持ちながらも
魔力を通しやすく、魔法武器が作りやすいからだ。
熱の耐性も強く、軽く扱いやすい、冒険者にとっては理想の鉱物だ。
しかし、ミスリルにも弱点はある。
それは普段なら致命的とまではいかないが、
"魔道を制御するように作られた魔道人形"にとっては致命的な属性だ。
「集まれ、神の怒りよ」
魔王の人差し指に白く光り輝く光が灯される。
「怒りは天を駆け回り、地を焦がした」
続けて中指に光が灯る。
「目の前の宿敵を打ち滅ぼせ」
最後に薬指に光が灯ると、魔王は軽く指を振るい、
複雑な模様が描き出され、やがて線は交じり合い魔方陣となった。
魔王が見上げたすぐ先には銀色の巨体が迫っている。
巨体は魔王に近づくとゆっくりと手を上げ、巨大な手を振り下ろす………だが、遅い。
すでに、完成された魔方陣からは
溢れんばかりの光が、飛び出すのは今か今かと飛び跳ね踊っている。
いや、それは光ではない、白く青い火花の様だ。
そう、ミスリルに致命的な属性は『雷』
「三重詠唱:雷×雷×雷」
「怒りを解き放て!!! 『オーディンの雷』ッ!!!」




