表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

魔王様は魔道人形と戦うようです(1)

注*1話のみ視点が変わります



モニカ・マルガルトは冒険者である。

全身鎧フルプレートに身を包んだ女性である彼女は、

その特異な姿から"鉄壁の令嬢"と言われている。

階級は『金』。先日、金のランクに上がったばかりだが、

そこら辺の冒険者よりも腕っぷしは強いつもりだ。

一対一の決闘なら例え白銀級の相手でも簡単には負けない自信がある。


しかし、彼女は困っていた。


その原因は、銀から金になり。ランク収穫の祝いに新調した、

全身鎧の借金から首が回らなくなっていることでも。

以前から、どうも、反りが合わなかったパーティーから、

ランク昇格と同時に脱退することになったことでもない。


原因は、彼女の目の前。

天にそびえ立つような巨体を誇る、魔道人形だ。

つまりはゴーレムである。


モニカは全身鎧フルプレートの中からゴーレムを見上げると、

ゴクリと唾を飲み込んだ。


(こんなに、大きいゴーレムは初めて見た

 4メートルはあるのではないか?)


モニカの感想通り、とにかく、その巨体は大きかった。

普通のゴーレムは力仕事を補助する目的で作られ、

大きくてもせいぜいは2メートルだ。

2メートルでも、岩で出来た身体は、縦も横も大きいと感じるのに、それが2倍だ。冗談ではない。


(こいつは、たぶん、戦闘用に作られたゴーレムだ。

 よく見れば作りも違う)


土色の巨大なゴーレムは、所々が汚れてはいるが

よくよく見れば、普通のゴーレムよりも複雑な形状をしている。

肩などの関節や命令を与える魔石コアにも工夫がされているようだ。


この巨体が襲ってきたらどうなるんだ?

とモニカは考え、全身鎧の中で小さく身震いした。


――今現在、モニカと採掘作業をしていた労働者達で、

ゴーレムに鉄の鎖を打ち込んでは地面に固定している所だ。

ゴーレムの体の真ん中に光る、魔石を回収しないといけないが

暴れ出す危険性も考えられるため、念のために身体を拘束しないといけない。


既に10本以上は鎖を打ち込んだだろうか。

汗を垂らしながら、通常の鎖よりも一つ一つの輪が大きい鎖を労働者達は打ち込んでいく。

そして、11本目の鎖をゴーレムに打ち込んだとき、

モニカが想像していた、最悪の事態が起きてしまった。


頭部に光る、ゴーレムの目がぎょろりと鎖を打ち込んだ人間を睨むと、

易々と拘束していた鎖を引き千切り、ゴーレムが動き出したのだ。


「たっ、助けてくれ!!!」


天にそびえ立つ巨体に、労働者の一人が腰を抜かしたようにうずくまる。

労働者の男を敵と認識したゴーレムは青い空に、天高く右手を振り上げ、

そのまま重力をたっぷりと乗せて、勢い良く振り下ろした。

男は悲鳴を上げ、目を閉じるが………。


「汝に護るべき力を!!!

『センチュリオンシールド』!!!」


土煙を上げ、男とゴーレムの間に立ちふさがったモニカは

自らの身体をすっぽりと覆い隠せるほどの大盾を頭上に構え、

真上から来る凄まじい衝撃に合わせて、呪文を詠唱した。


呪文を受けた盾は強く銀色の輝きを放つと、

ゴーレムの攻撃を受け止め、軌道を逸らし、土ぼこりが辺りを覆った。


モニカはすぐに、労働者の男を抱え上げると、

ゴーレムから離れ、男を開放し、周囲に向けて言い放った。


「みんなっッ!!!

 ゴーレムは私が引き付けるっッ!!!

 早く逃げて助けを呼んでくれっッ!!!!!」


声の限りに叫ぶと、モニカの声を聴いた労働者達は、我先にと一目散に逃げ出していった。

周囲を見渡し、逃げ遅れた者が居ないことを確認すると、

モニカはホッと息を吐くと同時に、

目の前で圧倒的な威圧感を放つ、魔道人形にため息を付く。


「やれやれ………。

 階級が金に上がったお祝いにしては、ずいぶん重たい贈り物だな」


モニカの声を聞いてか聞かずか、

ゴーレムは巨体を揺らし近寄ると、巨大な手をモニカに叩き付けた。


しかし、既にその場所にはモニカは居ない。

土煙の中から、全身鎧が飛び出すと、

かなりの速度を出してゴーレムから遠ざかる。

全身鎧の重量は30キロ以上はあるだろう、

それにしては不自然な速さで彼女は駆け回る。


これは、もちろん、人間の脚力のみがなせる業ではない

『脚力強化』『腕力強化』などの肉体強化の魔法を発動し、

タイミングを合わせて、効率的に強化魔法を発動することで、

全身鎧ながらも機敏な動きを可能にしているのだ。


ゴーレムがモニカを追い、それをモニカが躱す。

全身を覆い隠す大盾があると言っても、こんな質量のモノを何度も受けきる自信は全くない。

一度や二度なら受け止める自信はあるが、すぐに魔力が切れるだろう。

十分引き付けた後は、隙を見て、逃げ出さなければ潰されて終わりだ。


巨大な手が迫ってくる恐怖と戦いながらも、付かず離れず、

自分に標的が向くように一定の距離を保つ。

敵を引き付ける、という役目は幾度もやってきたはずだか、

かつてない強敵である、巨体のゴーレムは少しずつモニカの精神と体力を削っていった。


気の遠くなるような攻防を数順繰り返し、

モニカの体力も限界に近づいていた時、ゴーレムが突然動きを止めた。


「………………なんだ? 故障したか?」


内心、そうであれば良いな。と言う願望を呟くが、

階級を金まで上げたモニカの経験から、それはないとすぐに否定する。


じりじりと離れながらゴーレムを注意深く見ていると、

ゴーレムは遠くから、巨大な右手をモニカに向けた。


頭の中で警報が鳴り響く。


瞬時にモニカが前方に大盾を構えると、

ガチャンと言う音と共に、ゴーレムの右手から、

"筒のようなもの"が飛び出すと、風を切る音が聞こえ、

銀色の槍のようなものが次々と飛び出し、モニカの体を貫かんと襲い掛かってきたっ!


「………ッ!

『センチュリオンシールド』!!!」


呪文を唱え、盾に結界を張り、防御力を飛躍的に高めるが、

降り注ぐ無慈悲な鉄の雨は、耳障りな音を立てながら、大盾を削り取っていく。

抑えきれないほどの衝撃に、盾を支える腕の筋肉までもが悲鳴を上げる。


「――――うぐっッ!!!」


もはや、体を隠しきれていない大盾の隙間から

鉄の槍が肩当てに覆われたモニカの肩を貫いた。

痛みにうめき声をあげるが、歯を食いしばり盾を構え続ける。



―――モニカの役目は騎士だ。冒険者の中でも地味な職業だと言われている。

前衛に立ち、敵を引き付け、盾を構える。

それだけの職業でおもしろみがなく、死傷率が高くリスクが高すぎると言われていた。


だが、敵を引き付ける役目はきわめて重要だ。

金以上のパーティーの中に一人は必要だと言われている。

しかし、"命を張れるパーティーに出会えるか?" と言うのも騎士が不人気な理由の一つだった。


実際、モニカも様々なパーティーに加わったが

そのどれもがしっくり来ずに長い間、パーティーを組んだところは一つもなかった。


けれど、モニカはそれでも騎士と言う職業が好きだった。

例え不遇な扱いを受けても、騎士を辞めたいと思ったことはなかった。



(いつか、『金色の騎士』様のようになるために!!

 民に絶対的な安心感を与えられるような人物になるためにも………

 私は………騎士でありたいっ!!!)



勇者のパーティーメンバーの一人である、

金色の騎士という二つ名を持つ人物が、彼女の目標だった。


その姿に少しでも近づくために今まで盾を掲げてきたのだ。


モニカはもはや、原型を留めていない大盾を構え続ける。

しかし、鉄の雨が止む気配はない。

体感時間を長く感じているだけなのか、もう100本以上は受け止めた気がする。

焦れる心に急かされ、盾の隙間からゴーレムの様子を覗くと、

ゴーレムは右手ばかりか、左手を上げ

ガシャンともう一つの鉄の筒が飛び出したところだった。


モニカは奥歯を噛み、盾を持つ両腕に力を込めなおすと

一瞬の間を置いて、今まで以上に激しい鉄の雨が降り注いだ。


今まで連れ添った相棒の大盾が軋み、苦しむ音が聞こえる。

頼む耐えてくれ、と両腕で盾を必死に抑えながらモニカは祈った。


頼みの盾が壊れるなら、もはや、自分に攻撃を防ぐ手段はない。

壊れれば、同時に自分の体にも無数の穴が開くだろう。


そんな願いがどこかの意地悪い神にでも聞かれたのか、

ズブリと盾を支えている、左手の肘に鉄の槍が突き刺さった。

痛みに腕から力が抜けそうになるが、ギリッと奥歯を噛みモニカは耐えた。


盾が壊れたのか?

いや、一部が破損して穴が開いただけかもしれない。


盾を確認しようにも、力の限り盾を支えるだけで精一杯で、

損傷具合を確認など出来るわけがない。

モニカにできることはただ生き残ることを考え、

盾に残り少ない魔力を流し込むことだけだ。



――それから、何分? いや何秒? が経っただろうか。



唐突に鉄の雨の衝撃が止んだ。



震えて上手く動かない両腕を少し動かすと、

ガシャリとガラクタ同然になった、鉄の板が地面に落ちる。


ふわりと、風が吹き、モニカの長い金色の髪が風に舞う。

いつの間にか、全身鎧フルプレートの兜の部分が砕けていたらしい。

普段は外には晒さない、美貌は笑顔を浮かべると、

自身の、真上に立っている魔道人形を見上げ、モニカは言い放った。


「………耐えたぞ。

 私の勝ちだ、人を殺すために作られた悲しき魔道人形よ」


満足したように笑うモニカに

ゴーレムの巨大な手が勢い良く振り下ろされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ