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魔王様は冒険者になりました




この世界の冒険者。


それは言ってしまえば、何でも屋である。

時には魔物を倒す、兵士となり。

時には病気や傷を治す、癒し手となり。

時には街の巡回をし、ゴミ拾いまでする。


そう、冒険に出るだけではないのだ。

なぜそんなことまでするのかと言われれば、

徹底的な冒険者のイメージの向上が、

冒険者ギルドの組織内の課題に上げられていたからである。


冒険者と言う単語が出来たばかりの頃は、ならず者の集まりとされていたらしいが

異常な死傷率の高さや、治安の悪化が懸念され、

自然と少しずつだがルールな様なものが出来、冒険者ギルドという一つの組織が出来たのである。


自由に冒険する好き勝手な者達という風潮はすでにない。

冒険者になりたての新人は、ギルドに完全に管理され、ゴミ拾いや下水掃除と言った進んでやりたくはない仕事に就かされる。

そして、数か月に及ぶ"最初の試練"を乗り越えれば、

そこでようやく、本当の意味での新人者だと認められる。


そこからは本人の希望に沿って、ベテランの冒険者のパーティーに付いて行き魔物退治をする。

または、警備、管理職、研究職と言った、それぞれの希望となる仕事が割り当てられる。


そんな、徹底的な管理の元、

生き残った本当の"冒険者"は市民に憧れの目で見られるのだ。


だからこそ、新人は最初の厳しい試練をどうにか乗り越える。

数か月に及ぶ安月給もいつか"二つ名付き"で呼ばれることを夢見て耐えるのだ。



………しかし、今まさに冒険者ギルドの扉を音を立てて開けると、

大股で受付まで歩く、漆黒のマントで身を包んだ男は、

「なんだか、お金をいっぱいもらえるらしい」という

何とも浅はかな考えで入ると言い放った。


「冒険者になりたい!!! 良いだろうか!!!」


「ではまずは、この冒険者シートに必要なことを記入してください」


受付で応対する、栗色の髪をポニーテールにした受付嬢は

男から異質な空気を感じながらも、極めて事務的な対応をした。


「ふむ………………

 今は世界暦何年だ、にんげ………いや、お嬢さん」


「今は世界暦786年でございますね」


「そうか………

 この、魔法適正というものはなんだ?」


「それは、どの属性の魔法が使えるかという質問ですね」


男は次々と分からないことを、受付嬢に投げかけると

時間を掛け、どうにか、冒険者シートというものを完成させた。


そして、受付嬢が事務的に、

それでは新人の方はこちらの依頼を………と進めようとしたところで


「一番、金がもらえる仕事をくれっ!!!

 魔物退治が良い!!! ドラゴン殺しなどはあるか!!!」


その異質な新人は突拍子もないことを言い出した。


「………………えーと、新人冒険者ジークトア様

 新人の方には魔物退治は出せない決まりです

 まずは冒険者という仕事に慣れてもらうために」


「大丈夫だ!!!

 魔物退治なら何度も経験している!!!

 そこら辺に居る者とは一緒にするな!!!」


「………そうは言われましても

 こちらにも決まりがありますので」


「今すぐ金がほしいのだ、頼む!!!」


魔王ジークは必死に懇願するが、

そんなことを言われましても、決まりですので………と

受付嬢は魔王ジークのことを相手にしない。


魔王は、うむむむむと唸ると、

何かを思い付いたようにポンと手を叩くと言った。


「そうか、お前は我の実力を信じていないのだな」


「………そんなことはありませんが決まりですので」


「よかろう、本気には程遠いが、今持てる力を見せてやろう」


コホンッ、と咳をした後。

ちらりっ、と魔王は己の左手に嵌められている指輪を不安そうに見るが、

見ても何かが変わるものではない。


"今、持ちうる本来の実力の半分も出せない魔力"で

目の前のこちらを訝しげな眼で見ている女性を説得できるかは不安ではあったが、

魔物退治の依頼を受けるためにはやるしかないのだ。


「さて、ではいくぞ………」


魔王は一呼吸置くと


「――ッ!!!!!!!!!」


小さく息を吐くのと同時に

一気に全身から、激流の如く魔力を迸らせた。

溢れんばかりに飛び出した魔力は魔王の髪を逆立たせるばかりか、

目の前のテーブル、壁、床、に小さな亀裂を発生させる。


魔王の魔力はギルド内を瞬く間に包みこみ、

黄金色の魔力に触れた、紙やペン、食器、椅子、冒険者の武器までが

ふわりと重力を失ったように、ギルドの天井まで浮遊する。


テーブルが軋み、バキリバキリと壊れる音が聞こえるのを確認すると。

魔王は、己から飛び出した魔力を引っ込めた。


ガチャンと浮遊していた物が次々と落ちてくる音を聞きながら、

魔王は真正面から激流のような魔力を受け、

小刻みに震えながら、涙を流している、受付嬢に聞いた。


「………どうだろうか?

 魔物退治を受けさせてくれるか?」


魔王の言葉に、どうやら、腰を抜かしてしまったらしい受付嬢は

首を振ると、小さく嗚咽をしながら言った。


「………ひ、ひぐっ。

 ………だ、だめ、です。規則、なので」


受付嬢の言葉を聞くと、魔王は苦々しい表情をして、

ゆっくりと後ろを振り向くと、こちらを心配そうに覗き込んでいる

漆黒のドレスを身にまとった、メイドのリーゼと目があった。


魔王は両方の手の平を肩に上げ、お手上げだ。

という意味のポーズをすると。


「人間は頑固だ」


と言った。


 ――◇◇◇◇◇――


「怖がらせて、悪かったな、お嬢さん

 これで涙を拭うと良い」


魔王が、受付嬢に黒いハンカチを渡すと、

受付嬢はずびばせん、と言いながら、ハンカチで鼻をかんだ。

魔王が眉をひそめて、そのハンカチは返さなくて良いと言うと、

リーゼが待っている、ギルドの入り口まで歩き………。


「おっと、すまねぇな兄さん」


腰に二本の曲刀を差し、両腕には無数の傷跡が見える。

厳つい顔をした男性とぶつかった。


「立ち去るのかい?

 魔物退治を受けたいんじゃないのかい?」


「いや、そこのお嬢さんが頑固なものでな

 今から帰るところだ」


「そうかい、それは残念だな」


魔王が立ち去り、入り口の扉に手を掛けた時

厳つい顔した男が、ちょっと待ちな! と叫んだ。


魔王が振り向くと、男は笑いながら声を掛ける。


「俺は、シルバー級冒険者のゲイブリーと言う

 ゲイブリー・ハミルークだよろしくな」


「………ふむ、我はジークトアだ

 ジークトア・ゲインハルツ」


まぁ、もう会うこともないだろうが………

と魔王が、背を向け立ち去ろうとすると

再び、いかつい顔をした男、ゲイブリーは声を掛けた。


「ちょっと待ちなって、魔物退治をしたいのだろう?」


「その通りだが、それがどうした

 ここでは受けさせてもらえないようなのだ

 この場所にはもう用はない」


魔王がしかめっ面をしながら言うと、

ゲイブリーはチッチッチッと指を振りながら、魔王に言った。


「じゃあ、受けろよ、俺が受けさせてやる」


「………………どういうことだ?」


魔王は眉をひそめ、男の顔を覗くと、

ゲイブリーは笑顔で言葉を続けた。


「冒険者ギルドには、『推薦制度』ってのがあってな

 上級のランクを持つ冒険者が自分より下級の冒険者に

 自分が受ける依頼を受けさせることが出来るのよ」


「あんたほどの魔力を持った人物は久々に見た。

 そんな逸材を他のギルドに取られるわけにはいかないからな

 どうする? 受けるか?」


ゲイブリーの説明を聞いた、

魔王は途端に目を輝かせるとゲイブリーに近づき言った。


「おぉ、そんな制度があるのが!

 では、ゲイブリーよ。

 一番お金をもらえる依頼を受けさせてくれんか?」


魔王の言葉に、任せろと答えると、ゲイブリーは

依頼が描き込まれている木のボードを

じっくりと見て、これなんかどうだ。と魔王に差し出した。


「今、俺が受けれる依頼の中で最もランクが高いヤツだ

 だけど、お前なら楽勝だろう?」


「あぁ! では、この依頼を受けるぞ、いいなお嬢さん?」


えぇ、規定では大丈夫ですが………

とまだ、座り込んでいる受付嬢は依頼の紙を受け取ると答えた。


「では、これが手続きを完了した証です。

 今日の昼に、依頼の馬車が東の門から出ますので

 急いで準備を整えてください」


「あぁ、分かった!!

 ゲイブリーよ、感謝するぞ!!!」


受付嬢の言葉に頷き、

ゲイブリーに感謝の言葉を告げると、

魔王は漆黒のドレスの女性と一緒に入り口を飛び出した。


後にはカランカランと勢いよく開けられた扉の音だけが残る。


魔王が立ち去った後、依頼を推薦したゲイブリーは

途端に笑顔だった表情を崩すと、

おもしろくなさそうに、冒険者ギルドの椅子に音を立てて座り

吐き捨てるように言った。


「ふんっ、魔法の才能を持った、良い坊ちゃんがよ

 せいぜい痛い目を見ると良いさ」

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