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第1幕 『開けた人の話』

この物語は声劇台本の形をしております。

通常の小説とは異なりますのでご注意ください。



【登場人物】


輿水律子コシミズ リツコ

演劇部4年 演劇部のムードメーカー&トラブルメーカー


井口祐司イグチ ユウジ

演劇部3年(4回生) 部のまとめ役だが可愛い女の子に目が無い


藤岡菜月フジオカ ナツキ

演劇部3年 周囲に振り回される心配性で苦労性な部長


藍田アイダなぎさ♀

演劇部3年 無愛想でクールなツッコミ役


黒田拓海クロダ タクミ

演劇部新入部員 お淑やかなゴスロリ少女に女装するが中身は意地っ張り


渡辺麻友子ワタナベ マユコ

演劇部新入部員 何かと大騒ぎする天然美少女


大内将志オオウチ マサシ

サークル自治会会長 演劇部を目の敵にしている


篠宮杏子シノミヤ キョウコ

サークル自治会副会長 自治会長の大内を補佐する切れ者


ナレーション・ト書き


第1幕 『開けた(あけた)人の話』


ナレ「東京の北のはずれ、赤羽。この町に荒川大学はある。

   創立から110年以上の歴史を持つキャンパスは、23区内の大学の敷地としては破格の広さだ。

   赤羽駅西口から大学へと続く坂道は正門を通り抜け、キャンパスのほぼ中心で最高地点に達する。

   キャンパス内で迷子になり、坂道を上り下りすることに疲れ果てた新入生の姿は、

   春先の風物詩として語られる。

   今年もそんな新入生を迎える準備が整った4月の初め。

   すっかり人の気配が無くなった、夜のサークル部室棟。

   その3階にある演劇部の部室にだけ、明かりが点いている」


第1場【夜の部室】

【菜月が1人でビラ作りの作業をしている】


菜月「ふんふふーん、ふんふふーん(鼻歌)

   よーし、これでオッケー!

   さて、やっと半分かぁ。あと2時間あれば、何とか終わるかな。

   11時までに帰らないと、またサークル自治会に怒られちゃうしね。

   それにしても、本当に誰も来ないなぁ。

   律姉は就活の面接、なぎさは家庭教師のバイト、祐兄は教授のお供でオーストラリアか…

   でもさ、でもさぁ、でもさぁ!

   夜の8時まで面接ってありえないでしょ!?

   明日の配るほうは頑張るって、なぎさ愛想無いでしょ!?

   飛行機の到着時刻、15時ってメールに書いてありますけどっ!?

   みんなの予定も考慮して、夕方スタートにしたのに、それでも誰も来ないとか!

   しかも遅刻の連絡1つ無いとか!

   どう言うこと!?ねぇ、これどう言うこと!?

   あぁ、虚しい…とっととやって、さっさと帰ろっと」


【突然勢い良くドアが開く】


律子「輿水律子、ただいま参上っ!!」

菜月「うぎゃぁぁぁ!!」

律子「えぇっ!?なになに?どうしたっ!?」

菜月「なんだ、律姉かぁ」

律子「なんだとは失礼なヤツだな。どうしていきなり叫ぶのよ?」

菜月「そりゃ、こんな時間だし、もう誰も来ないと思ってたもん。

   なのにいきなりドア開けて名乗られたら…」

輿水「叫びもするってか?」

菜月「うん」


律子「菜月、椅子とって」

菜月「はーい」

律子「サンキュ!んー、これこの前ジュースこぼしたヤツじゃん… 別の!」

菜月「はーい…」

律子「これも汚ねーなぁ。まぁ、このくらいなら良いか。 さて、一服と…」

菜月「ちょっと!部室、禁煙!!」

律子「あー!聞こえない!聞こえない!そんなルール、知ーらない!!」

菜月「もぉ… 律姉、酔ってるでしょ?」

律子「むっふっふー 面接でヘタこいたんで、気晴らしに飲んできた!」

菜月「それで遅かったのか」

律子「何?なんか文句ある?」

菜月「い、いえ、何も無いです…」


律子「そういや、なぎさと井口は?居ねーの?」

菜月「なぎさはバイトだって。明日は来るって言ってたよ。祐兄は…」

律子「夕方には成田に着いてるはずだろ?」

菜月「…のはずなんだけどねぇ」

律子「どうせ、荷物が出てこないとか、税関で怪しいもの見つかって足止めとか…そんな所だろうな」

菜月「それ、ありえる!」

律子「あいつ、ホント抜けてるからなぁ。あたしとは大違い!」

菜月「え?」

律子「えっ?」


律子「しっかし…だいぶ私物が減って、部室もスッキリしたねぇ」

菜月「この前、大掃除しちゃったからね。

   祐兄が『もう居ない人間の荷物なんて、全部捨てちまえー!』って」

律子「それで綺麗サッパリ…か」

菜月「うん。あんな事があったんだし、仕方ないよ。

   でも綺麗に片付いて、気分もスッキリしたかな」

律子「まぁ、それもそうだな。 で、結局残ったのは何人?」

菜月「私でしょ、律姉でしょ、祐兄、なぎさ…あとは、由佳」

律子「役者3人と製作が2人。半分以上が抜けたってことか」

菜月「まぁ、何となく分かっては居たけどさ。

   実際5人でやっていくってなると、正直キツイ…よねぇ」

律子「井口は脚本書けても演技は大根だし、由佳は…ねぇ?」

菜月「由佳は…さすがにあんなことがあったからねぇ」


律子「だからこそ、明日からの勧誘で、1人でも多くの新入生部員を確保するべく…」

菜月「こんな時間までビラ作ってる訳ですよ!」

律子「目指せ、役者獲得!目指せ、男子部員!目指せ、女装男子!!」

菜月「いま、最後に変なこと言わなかった?」

律子「えっ?何のことかなぁ?お姉ちゃんには分からないなぁ」

菜月「もぉ…」

律子「ま、細かい事は気にしない!気にしない!

   あたしもバリバリ働くからさ!」

菜月「じゃあ、そっちの出来上がってるヤツ切ってもらって良い?」

律子「あいよっ!」


【再び勢い良くドアが開く】


井口「井口祐司、ただいま帰国しましたっ!!」

菜月「うぎゃぁぁぁ!!」

律子「ぬわぁぁぁぁ!!」

菜月「なんだ、祐兄かぁ」

井口「おいおい…夜も遅いのに、大声あげるなよ」

律子「お前こそ大声で名乗りながら入ってくるんじゃねーよ!」

菜月「えっ?律姉がソレ言う?」


【沈黙する3人】


律子「で、井口。いま何時だと思ってんの?集合時間は夕方6時なんですけど?」

井口「えーっとね、21時…5分前?」

律子「集合時間から3時間も遅れて、なんで連絡の1本も寄こさねーんだよ!」

菜月「えっ?律姉がソレ言う?」


【再び沈黙する3人】


律子「ともかく、遅れた理由を言え!理由を!あたしはちゃんと申告したぞ!」

井口「どうせ、飲んだくれてたんだろ?」

菜月「うん。面接でヘタこいたんだって」

律子「菜月、うるさいっ!井口、理由は!?」

井口「はいはい、えーっとね…

   成田にはちゃんと15時に着いたのよ。でも荷物が出て来なくてね。

   問い合わせたら、大阪行きの便に紛れ込んじゃってたみたい。

   で、明日自宅に送ってもらう手続きして、遅くなったんで菜月に連絡しようとしたんだけどさ…

   そしたら見事に携帯の充電切れちゃってて…って所かなぁ」

律子「ほら!当たった!」

菜月「ホントだぁ!律姉、凄ぉい!」

律子「だろー?まったく井口は、だらしねーんだからさ。

   携帯の充電切れてるとか、現代人の言い訳としてどうなのよ?」

井口「いや、海外に1週間行ってたら、携帯使わなくても充電くらい無くならないか?」

律子「知らん!海外とか行ったことねーもん!」


菜月「まぁ、祐兄も来たんだし、残りちょっとだからパッとやって、さっと帰りますか?」

井口「えっ?俺、部室に泊まってくよ。明日は入学式の前に、朝からビラ配るんでしょ?

   家まで帰るのメンドイし、ソファーで寝るよ」

菜月「あのね、部室の泊まり込みは禁止になってますからね?

   11時までには撤収って、常々サークル自治会から言われてるでしょ?」

井口「まぁ、良いじゃん!良いじゃん!

   今まで守衛さんにバレたこともないし。ほら、お土産もあるよー」

律子「えっ?お土産あるの?遠慮なく頂きまーす!」

菜月「ちょっ!律姉!」

律子「井口、これ何!?

   石?なんか紐ついてるけど、ただの石?」

井口「おいおい!雑に扱うなって!

   それは原住民の狩りの道具で、こうやって紐を振って獲物に向けて…」

律子「そんなのどうでも良いから!

   何か食い物とか飲み物とか酒とかお菓子とか…そう言うの無いわけ?」

井口「どうでも良いって…

   じゃあ、さっきコンビニで買ってきた、こいつでも飲む?

   寝酒にしようと思ったんだけど、今から空けちまうか?」

律子「おぉぉぉ!気が利くねぇ!日本酒じゃん!さすが井口、分かってらっしゃる!」

菜月「ちょっ!まだ作業残ってるから!!

   って言うか、そもそも部室、禁酒だから!!」

井口「あー!聞こえない!聞こえない!そんなルール、知らねぇもん!!」

律子「うん!知らない!知らない!」

菜月「はぁ… 私だって『もう知らない』って言いたいよ…」


【酔っ払った菜月がソファの上に立ち上がり熱弁をふるう】


菜月「だからねー!私は未だに許せないわけ!

   そもそも、やって良い事とぉ、悪い事ってのがぁ、あるでしょ?ねぇ!分かる?」

律子「菜月、それさっきも聞いた…」

菜月「だから何?もぉ、何度でも聞きなさいよー!大事な話は何度でも聞くんですぅ!」

井口「分かった、分かった。けど、ボチボチ帰らないと、菜月は終電無くなるぞ」

菜月「なーにが『分かった』だ!?祐兄は黙って聞け!

   終電なんかどーでも良いしぃ!今夜はなぎさのトコ、泊めてもらうもーん!!」

井口「えーっと、なぎさは菜月が泊まること知ってるのかなぁ…」

菜月「だいじょーぶっ!

   こないだ泊まった時に、『またいつでもおいで』ってなぎさが言ってくれたんだもんっ!!」

律子「あー…それは何か意味が違うような…」

菜月「あんっ?律姉、何か言った!?」

律子「い、いえ、何も…」

井口「取り合えず、後でなぎさに電話しとこうかなぁ…」

菜月「だーかーらぁ、平気だって言ってるでしょーがぁ!!

   もぉ!みんなして私のこと余計な心配ばっかりしてぇ!!」


律子「あのさ、井口が買ってきたのって日本酒だけだよね?」

井口「うん。けど、確実にビールの缶、混じってるよなぁ」

律子「どっから出てきたし?」

井口「奥の冷蔵庫に何本か入ってたかも」

律子「井口が出してきたの?」

井口「まさか。俺が出すわけ無いじゃん」

菜月「こらっ!2人ともー!!コソコソ喋ってないでぇ、黙って私の言うこと聞けっ!!」

律子「はっ、はいっ!?」

井口「す、すいません!!」

菜月「この春からは、私が部長なんだからねっ!

   私の言うこと、ちゃんと聞かなきゃダメなんだからねぇ!

   今までみたく好き勝手はぁ、ぜーったいに許しません!!」

律子「か、かしこまりました!」

井口「ぜ、善処いたします!」

菜月「んふっ!それでよろしいっ!! はぁーん☆」


【明け方の部室】

【井口が咥えタバコで台本を書いている 菜月はソファで寝ていたが目を覚ます】


菜月「んっ…あれ?」

井口「おっ、おはよう」

菜月「おはよう… あっ、私、酔っ払って…?」

井口「おう、なかなかの暴れっぷりだったな」

菜月「うっ、スイマセン… あれ?律姉は?」

井口「輿水は、菜月が寝落ちしたんで帰したよ。11時前くらいだったかな」

菜月「そっか…

   って、えぇっ!じゃあ、私、祐兄と2人っきりで部室に!?」

井口「まぁ、そうだねぇ」

菜月「えぇー!えぇー! 何も、何もしてないでしょうねぇ!?」

井口「何もしてねぇよ」

菜月「良かったぁ…」

井口「あ、でもその代わり…」

菜月「その代わり?」

井口「さっきから、ずっとパンツ見えてるけどな」

菜月「っ!?ちょ!ちょ!ちょぉぉぉぉ!!」



第2場【入学式会場エントランス】

【入学式に出席する新入生と、サークル勧誘の在学生で溢れている】


菜月「演劇部です、よろしくお願いします!ありがとうございます」

律子「お願いしまーす!お願いしまーす!お願いし…チッ!お願いしまーす!」

井口「おっ!君、カワイイねぇ お芝居とかどう?君なら絶対に舞台で映えると思うよ」

なぎ「はい… はい…どうぞ はい…」

井口「なぁ、なぎさ!もうちょい愛想良くできない?」

なぎ「はぁ?」

井口「だから無表情で『はい』って差し出すんじゃなくてさ。

   もうちょっと笑うとか『お願いします』って言うとかさ」

なぎ「さっきから女子にしか声掛けてない井口さんより、だいぶマシだと思うんですけど」

律子「なぎさ、なぎさ!井口は仕方ないの!そういう病気だから!」

なぎ「あぁ、一生治らない可哀想な病気でしたっけ。ご愁傷様です」

井口「うるせーよ!何この言われっぷり!?」

菜月「ほら、ちゃっちゃと配って!あまり時間も残ってないんだから!」


【1人の新入生が足を止めてビラを受け取る】


菜月「入学おめでとうございます、演劇部です!興味ありますか?」

拓海「はぁ、まぁ…」

律子「じゃあ、これ!来週、説明会もやるから聞きにきてよ!」

拓海「あ、はい。時間があれば」


篠宮「間もなく10時より入学式を開始致します。

   新入生はホールの中へ、勧誘中の在学生は撤収の準備をお願いします」

拓海「あ、じゃあ行きますんで」

律子「ありがとねー」

菜月「説明会でお待ちしてまーす」


菜月「さて、皆さんお疲れ様でした」

律子「いやぁ、なかなか疲れたね」

井口「ビラは?どれくらい配れた?」

菜月「えーっと、100枚ちょい…かな」

井口「結構いったねぇ」

律子「後は、このビラ受け取った新入生が、どのくらい来てくれるか…かぁ」

なぎ「そうですね」

井口「ま、期待せずに待とうや?」

律子「えー!!そこは期待して待とうよ!」

菜月「うーん…4、5人来れば良いトコじゃない?」

律子「え!?あんな配ったのに?」

なぎ「ま、そんなもんですよ」


【大内が篠宮を伴って演劇部の元へ近付いて来る】


大内「やぁ、演劇部さん。お疲れ様です」

篠宮「皆さん、お疲れ様です」

菜月「あ、大内さんも篠宮さんもお疲れ様です」

井口「どうもお疲れさん」

なぎ「お疲れ様です」

律子「別に疲れてねーけどな」

菜月「ちょっと!律姉!」

篠宮「成果の方はいかがですか?」

律子「さぁ、こればかりは何ともねぇ」

菜月「一応、予定してた分は配れたので…」

大内「私たちサークル自治会としても、演劇部さんには期待してますので。

   まぁ是非とも頑張って頂きたいな…と」

律子「何を期待されてるか分かりませんが、出来る範囲で頑張らせてもらいますよ」

大内「昨日も遅くまで残って作業されていた様ですし。

   まさか部室に泊まり込んだりはしてないでしょうが…」

律子「えぇ、もちろん23時までには帰りましたが、何か?」

大内「輿水さんではなく、そちらの藤岡さんと井口さんにお聞きしているんですがね」

菜月「えっ?えぇ、はい…それは、その、もちろん…」

なぎ「菜月なら、昨日ウチに泊まりましたけど?」

大内「ほぉ、そうでしたか」

井口「23時前に部室の鍵を、守衛室に返して退出してるんだけどな。

   記録は残ってるはずだし、調べればすぐ分かると思うけどね。

   あっ、大内会長なら、とっくに確認してるでしょうが」

大内「まさか… いや、勿論。それは確認済みですが…」

律子「へぇ…じゃあ、何か問題でも?」

大内「いや、私が言いたいのは、つまり…」

篠宮「会長、アニメ研究会の村山さんをお待たせしてますので、そろそろ」

大内「お、おう…そうだったな、篠宮くん。

   まぁ、昨晩の件は何も問題は無いと言うことで。では失礼」

篠宮「失礼します」


井口「いやぁ、バレてたねぇ」

菜月「何を暢気な!」

律子「でも昨日は主に菜月のせいだし」

菜月「うっ!スイマセン…」

なぎ「それと、菜月はうろたえ過ぎ」

井口「あの対応は、嘘ついてますって認めてるようなもんだ」

律子「そう!役者なんだからさ、もうちょっと頑張れよ!」

菜月「はい…頑張ります」


律子「それにしてもさ!井口は、いつ守衛室に鍵返したの?」

井口「あぁ、それは輿水が帰ったとき。下まで送りに行ったついでにね」

菜月「え?じゃあ、その後はどうやって部室入ってきたの?」

井口「それは内緒!」

菜月「内緒って!それ何か裏でやってるでしょ!」

井口「さぁねぇ…」

律子「うわぁ!悪代官みたいな顔してるよ、こいつ!」

なぎ「井口さん…」

井口「なに?なぎさ、どうした?」

なぎ「お財布、貸して下さい」

井口「良い勘してるね、なぎさは。

   けど、分かっても言っちゃダメだぜ。菜月が分かってないの楽しいから」

なぎ「そこら辺は大丈夫です。私も同じですから」

菜月「えっ!ちょっと!2人とも酷くない!?

   って言うか、何?祐兄のお財布ってどういうこと?」

なぎ「じゃあ、失礼します。 あ、うん、ありましたね」

律子「ん?コンビニのレシート?」

なぎ「やっぱり…」

律子「なになに?えーっと、タバコと酒と…コーヒー?カップラーメン?

   え?そんなの買ってきてたっけ?

   あぁ!!分かった!」

井口「言うなよ!輿水言うなよ!!」

律子「お、おぅ!言わない!絶対に言わない!!」

菜月「えぇ!何?私、全然分からないんだけど!

   ねぇ、何!?教えてよぉぉぉ!!」



第3場【昼間の部室】

【律子・井口・菜月・なぎさが説明会に来る1年生を待っている】


律子「説明会って何時からだっけー?」

なぎ「1時からですね」

律子「もうすぐなのに、まだ誰も来ないよ? このまま1人も来ないとか…」

菜月「やめてっ!そういうこと言うと、本当になっちゃうから!」

なぎ「来なかった時は来なかった時でしょ」

律子「えぇ!あんなに一生懸命ビラ配ったのにー?」

なぎ「ビラ貰った人が全員来ちゃったら、それはそれで大変ですよ」

律子「あー、まぁ確かにね。でも1人も来なかったら、ホントにどうする?」

菜月「だからー!その話はやめてってばー!」

井口「まぁ、まだ10分あるからさ。慌てず待とうぜ」


【女装姿の拓海が部室のドアをノックして中を覗きこむ】


拓海「あのぉ…」

菜月「は、はいっ!」

拓海「部員募集のビラを見て来たのですが…」

律子「おぉぉぉ!!来たぁぁぁ!!」

拓海「演劇部の部室ってこちらでしょうか?」

菜月「そうです!そうです! どうぞ入って…って…」

なぎ「んふっ!」

井口「うっわぁ…!」

律子「ゴスロリちゃんだぁぁぁ!!」

拓海「失礼いたします」

井口「ようこそ、演劇部へ。汚い部室ですがこちらへどうぞ、お嬢様。

   あっ、なんなら俺がエスコートしましょうか?」

菜月「こら、祐兄!さりげなく手を握ろうとするなっ!!」

律子「うわぁ!そのドレスかわいいねぇ!アクセサリーもオシャレだなぁ!

   こんな近くでゴスロリちゃん見るの、あたし初めてだぁ!!」

菜月「ちょっ!律姉、落ち着いて!!」

なぎ「アカン… 顔、小さい…目ぇ、大きい…肌、スベスベしとる…

   高ぇ…女子力、高ぇ…」

菜月「おーい!なぎさー!見過ぎだよー!目がマジになっちゃってるよー!」


【菜月が拓海に演劇部の活動の説明をしている】


菜月「と言う感じで、ウチの部の説明は終わりです」

拓海「ありがとうございます」

菜月「それで、どうかな?

   入部するかどうかは、いま決めてもらわなくても良いんだけど…」

拓海「ぜひ入部させて頂けませんか。お願いします」

律子「よっしゃ!ゴスロリちゃんゲット!」

なぎ「ゼロじゃなくて良かったですね」

井口「まずはひと安心ってとこか?」

菜月「それじゃあ、この入部届けに記入してもらっても良いかな?」


【菜月が拓海に入部届けの紙を渡す】


拓海「あの、書けましたが、これで良いでしょうか?」

菜月「はい、ありがとう。

   えーっと、どれどれ…黒田拓海、1年、男…おとこぉぉぉ!?」

なぎ「ぶっ!!」

律子「はぁぁぁ?」

井口「うぇぇぇ!?」

菜月「ちょっ?えっ?はっ?」

律子「あ、あんた男!?」

拓海「はい。男です」

律子「マジで!?」

拓海「えぇ」

律子「女装っ子ってヤツ?」

拓海「そうですね」

律子「どーしよう!?ホントに女装っ子、来ちゃったぁぁぁ!!

   きゃぁぁぁ!!うっれしぃぃぃ!!」


井口「えーっと、黒田くん…だっけ?」

拓海「はい、なんでしょう?」

井口「入学式の日ってその格好だった?」

拓海「入学式は男物のスーツでした」

井口「あぁ、やっぱりなぁ。おかしいと思ったんだよ」

菜月「祐兄、何がおかしいって?」

井口「だってさ、あの日見かけたカワイイ子は、全員俺がビラ渡したはずなのよ!

   でも、これほど目立つ格好したカワイイ子に、ビラを渡した記憶が無いなぁと思って」

菜月「へっ?」

律子「井口、誰にビラを渡したとか覚えてんの?」

井口「いや、カワイイ子限定で」

なぎ「何ですか、その気持ち悪い記憶力…」


【拓海がウィッグを脱ぐ】


井口「おぉ!その髪はウィッグなのか!」

なぎ「この髪型でそのドレスだと違和感ありますね」

拓海「あの、所でボク、入部しても大丈夫っすかね?」

律子「しかも喋り方まで変わってるじゃん!」

菜月「えーっと、まぁ、特に問題は…無い?」

井口「欲しかった男子部員で、なおかつ演劇経験もあるし。

   この格好で舞台に上げるのも面白そうだから、何も問題は無いんじゃない?」

菜月「そ、そうだね… と言う事で、大丈夫です!」

拓海「あ、じゃあ、改めて宜しくお願いします」

菜月「よろしくお願いします!」

律子「よろしくなー!」

なぎ「よろしく」

井口「よろしくお願いします」


【拓海が退出するため部室のドアを開けると、外に居た麻友子の額にドアが当たる】


麻友「ひでぶっ!」

拓海「あっ!」

井口「どうした?どうした?」

拓海「あの、ドアを開けたらこちらの方が居て…ぶつかってしまったみたいなんですが」

菜月「えっ!大丈夫!?」

律子「なになに?そんなドジがいるのぉ?」

拓海「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

麻友「あの、その、はい、大丈夫です!ホントに大丈夫でひゅから」

拓海「それでしたら、私はここで失礼します」

菜月「あ、じゃあ、来週の部会でね!」


律子「で、あんたはドコの誰?」

麻友「ふぇ?あの…えっと…」

菜月「こらこら律姉!」

なぎ「入部希望の人?」

麻友「あぁ…その…」

井口「まぁまぁ、カワイイ女の子を廊下に立たせておくのも…」

麻友「わ、わたくし…荒川大学経済学部会計学科の1年、渡辺麻友子でひゅ!

   山口県山口市出身!身長157センチ、体重50キロ!

   血液型はB型!趣味はアイドルのライブDⅤDを見ることでしっ!!」

律子「そ、そうか…うん」

井口「で、その、渡辺麻友子さんは、入部希望って事で良いのかな?」

麻友「あ、えっと、まぁ、何と言うか…」

なぎ「何と言うか?」

麻友「…希望です、はい」

律子「菜月、捕獲っ!」

菜月「えっ!?えっ!?」

律子「グズグズすんなっ!」

菜月「は、はいっ!!」


【菜月が麻友子に演劇部の活動の説明をしている】


菜月「と言う感じで、ウチの部の説明は終わりです」

麻友「あ、はい」

菜月「後は、何か質問があれば気軽に聞いて」

麻友「えっと…その、1年生って麻友子だけでひゅか?」

菜月「ううん、あと1人。ほらさっき入ってくるときに会った、黒田く…」

律子「そう!黒田!黒田…えーっとミクちゃん!あのカワイイ女の子!」

麻友「ほわぁ!あのカワイイ人も1年生ですか!?

   ミクちゃんって言うですかぁ!名前もカワイイですねぇ」

律子「だ、だろぉ?」

なぎ「律子さん、目が泳いでますよ」

菜月「ちょっと律姉!私、知らないからね!」

麻友「えっ?部長さん、どうしたんですか?」

律子「いやぁ、菜月は何が言いたいのかなぁ?井口、ちょっと黙らせといて」

井口「あいよー!」


井口「所で渡辺さん」

麻友「ひゃ、ひゃい!何でひゅか?」

井口「あの、そんなに怯えなくて良いからね」

麻友「あっ、はい」

井口「聞きたいのは、説明会に遅れてきたじゃない?

   1時からってビラに書いてたの、ひょっとして分かりにくかったかな?って事なんだけど…」

麻友「ふぇっ?」

井口「あの、まぁ、今後の参考にお聞きしたいってだけだから」

麻友「あのぉ…説明会って2時からじゃないんですか?」

井口「えっ?」

律子「2時から!?書き間違えた!?」

菜月「うそっ!いや、そんなはずは…」

なぎ「余ったビラ、ここにあるけど… うん、1時って書いてあるよ」


【全員がビラを覗き込む】


麻友「これ、麻友子が貰ったビラと違います!」

律子「はいっ!?」

菜月「えっ!?何?どういうこと!?」

麻友「麻友子が貰ったビラ、こんなゴチャゴチャーってしてなくて、もっと見やすかったです!」

菜月「ゴチャゴチャーってしてるのか…そうか、私のデザインってゴチャゴチャーか…」

なぎ「菜月、ドンマイ!」


井口「って事は、間違えて演劇部に来ちゃったって事?」

なぎ「でも、それならもっと早くに気付きません?」

律子「いやいや、こいつなら分からねーぞぉ」

菜月「こらっ!律姉!」

律子「そもそも他所のビラ見て、なんでウチの部室に辿り着けるの?」

井口「それはほら、部室の場所を間違えてるとか…」

菜月「1つ階数を間違えた?」

なぎ「上は柔道部、下はトライアスロン部だけど?」

菜月「じゃ、じゃあ…横に間違えたとか?」

なぎ「左は二次元アイドル研究会で、右はウチの倉庫だよね」

律子「間違えようがねーじゃん!!」


麻友「あのぉ…」

井口「んー…じゃあ、斜めにズレた?」

なぎ「斜めとか、そう簡単に間違えませんよ」

律子「そもそも何部のビラだったって話だろーがよ!!」

麻友「そのぉ…」

菜月「みんな待って!渡辺さんが!」

麻友「えっとですね…」

律子「早く喋れ!!」

麻友「ひぎゅ!!」

井口「まぁまぁ…で?どうしたって?」

麻友「実は…麻友子、場所が分からなくて、その…

   サークル自治会って所にビラを持って聞きに行ったんです。そしたら…」

井口「そしたら?」

麻友「そこに居た女の人が、麻友子の持ってたビラを見て行き方を教えてくれて…それで」

井口「サークル自治会の…女の人?」

律子「それアレじゃん!篠宮!」

なぎ「他に自治会って女子いる?」

菜月「んー…たぶん篠宮さんだけだなぁ」

麻友「なんか、凄く怖い感じの人でした」

菜月「あぁ、何て言うかやり手なイメージだし、彼女」

律子「実際、自治会ではやり手なんだろ?」

なぎ「こういう事、サラっと出来ますからね」


菜月「で、理由は分かった訳だけど…」

井口「そう!そこが重要だね」

麻友「えっ?そこってどこですか?」

なぎ「だからさ…」

律子「あんたは、このまま演劇部に入部で良いのか?って事だっ!!」

麻友「あっ、それは全然良いです!」

井口「良いのかっ!?」

なぎ「全然良いんだ…」

律子「あんた、別の部活の説明会を聞きに行くつもりだったんでしょ!?」

菜月「そうだよ!どこの部活に行くつもりだったか分からないけど、ここ演劇部だよ?

   真面目にお芝居やる部活だよ?」

麻友「あの、麻友子、演劇がしたかったんです!

   なので、真面目にやるなら、ちゃんとした部活の方が良いなぁって。

   その、最初に貰ったビラの方は、演劇同好会って書いてあったし」

律子「演劇同好会!?」

菜月「そんなのあったっけ?」

井口「うん、あるよ」

なぎ「最近出来たとか?」

井口「イエス!今年から出来た」

菜月「今年から!?」

律子「今年からって…ひょっとして?」

井口「そっ、ウチから抜けたヤツらが新たに立ち上げた同好会」



第4場【居酒屋「袋小路」】

【新入部員を伴って、演劇部一同が店に入ってくる】


律子「大将、ちわーっす!」

菜月「今日はお世話になります」

麻友「へぇ!これが居酒屋さんですかぁ!麻友子、居酒屋さん初めてですぅ」

拓海「ボ、ボクは居酒屋くらい、もう何度も来たことありますからね!」

麻友「麻友子、マクドとファミレス以外のお店、初めてですよぉ」

菜月「えぇっ!」

なぎ「マクドとファミレスだけ?」

井口「それも凄いなぁ…」

律子「ここは、小せぇ店だけど…まぁ、食い物と日本酒の品揃えは悪くねーよ」

菜月「ちょっと!律姉!そんな風に言うの、失礼でしょ!」

なぎ「菜月。律子さん、別に悪いこと言ってないから」

菜月「えっ?あれ?あるぇ?」


【部員一同が店の座敷に座っている】


井口「それじゃあ、乾杯しようか。菜月、乾杯の挨拶を」

菜月「えっと、それでは…」

麻友「あのっ!待って下さい!!」

菜月「えっ!なに!?」

井口「どうしたどうした?」

麻友「あの、その…もう始めちゃって良いのかなぁって」

井口「どういうこと?」

菜月「宴会の予約は6時からだし…」

なぎ「メンバーも集まってるし…」

律子「そもそも、あたしの目の前に、キンキンに冷えた生中が置かれてんだよっ!」

拓海「そっすよねぇ」

麻友「だって、まだミクちゃんが来てませんっ!!」

一同「ミクちゃん!?」

拓海「って…誰すか?」


菜月「あ、あのさぁ、渡辺さん」

井口「まさか、まだ気付いてなかったとは」

なぎ「でもあれは言われなきゃ、なかなか気付きませんよ」

麻友「ふぇ?みなさん、どうしたんですか?

   あっ、もしかしてミクちゃん入部やめちゃったんですか…

   麻友子とぶつかったから?麻友子のせいで、居なくなっちゃったんですか…?」

菜月「あの、あのね、渡辺さん」

なぎ「もう泣きそうになってますよ」

拓海「なんすか?こいつなんで泣いてんすか?」

井口「ほら、輿水。大人なんだから、やったことの責任は取ろうね?」

律子「はいはい、分かってますよ! あぁ!もう面倒くせぇなぁ!!」

菜月「面倒臭いって…」

律子「おい、黒田!ズラ出せ!ズラ!」

拓海「はぁっ!?な、なんすか急に!」

律子「良いから、四の五の言わずに、ズラ出して被れ!」

拓海「あっ!ちょっ!勝手にボクのカバン開けないでくださいよ!

   出しますから、自分で出しますから!

   それからズラじゃなくてウィッグっすからね!」


【拓海がウィッグを取り出して被る】


律子「ほら、渡辺さぁん、ミクちゃんですよー」

拓海「えぇぇ!!ミクちゃんて、ボクのことなんすかっ!?」

麻友「あっ!ホントだぁ!

   って、えぇぇぇ!!!

   ミ、ミクちゃんって、ミクっちゃんって、男の子だったんですかぁぁ!!」

井口「よし、これで問題無いな。じゃあ、そう言うことで、かんぱーい!」

律子「かんぱぁーい!!」

なぎ「乾杯…」

拓海「あ、乾杯っす」

麻友「わぁーい!」

菜月「えっ!ちょっと!挨拶は!?私が2時間掛けて考えてきた、乾杯の挨拶は!?」


井口「じゃあ、早々に自己紹介やっちゃおうか?えっと、学年上からで輿m…」

律子「すいませーん!生中おかわり!

   あとねぇ、蛸ワサとエイヒレとチャンジャ!大至急ね!

   蛸ワサとチャンジャは器に盛るだけだから、すぐ出るでしょ?

   エイヒレはマヨネーズ多めに付けてね!」

井口「あー…じゃあ、一年生からでも良いかなぁ」

麻友「えぇぇぇ!!麻友子、自己紹介とか無理ですぅぅぅ!!」

拓海「えっ、あっ、ボクも無理…」

井口「じゃあ、黒田くんから宜しくね」

拓海「あ、えっと、はい…」


拓海「えっと、じゃあ。工学部1年、黒田拓海っす。

   黒田はブラックの黒に、田んぼの田。

   拓海はパイオニア…あ、つまりは開拓者っすね。その拓に、オーシャンの海っす。

   出身は北海道、今はブクロに一人暮らしっす。趣味は…」

律子「女装!趣味は女装!女装男子、最高!イエス!ユアハイネス!!」

菜月「律姉、ホント嬉しそうだなぁ」

なぎ「工学部って事は、律子さんと一緒?」

拓海「えぇっ!?」

律子「なにっ!?黒田、工学部なの!?あたしと同じじゃーん!

   やったー!!女装男子のパシリ、ゲットー!」

井口「あーぁ…ご愁傷様です。 じゃあ、次は渡辺さん」


麻友「わ、渡辺麻友子!荒川大学経済学部会計学科の1年でひゅ!

   山口県山口市出身!身長157センチ、体重50キロ!血液型はB型!

   趣味はアイドルのライブDⅤDを見ることでしっ!!」

律子「それ前にも聞いた」

麻友「ふぎゅっ!」

菜月「えっと、他には何かないかな?」

麻友「えーっと…あ、じゃあ、実家では犬を飼ってます。

   名前はゴン太って言って、このくらいの大きさで・・・

   あっ、雑種なんですけど、尻尾がクルリンってしてて、あっ、色は茶色なんですけど。

   あと、目が黒くて、鼻も黒くて、耳が付いてて…」

律子「口が付いてて脚が4本なんだろ?」

麻友「なんで分かったんですかぁぁぁ!!先輩、凄いですぅ!」

律子「お、おう…ウチの実家でも、同じ様なの飼ってるからな…」

麻友「ホントですかぁ!すごーい!お揃いですねぇ!」

律子「お揃い?まぁ、そう言えなくもないか…」

麻友「こんな偶然あるんですね!麻友子、なんかもう感動しちゃいました!!」

律子「あー…そうね。まぁ、日本も広いし?そんな事も時々ある…んじゃないかなぁ」

菜月「ねぇ、祐兄。そろそろ律姉、助けてあげたら?」

井口「そうだなぁ…じゃあ、なぎさお願いします」


なぎ「藍田なぎさです。よろしく」

一同「……」

菜月「それだけ!?」

なぎ「他に何を知りたいのよ?」

菜月「いや、ほら学部とか出身とか趣味とかそう言うの…」

なぎ「だって菜月、全部知ってるでしょ」

菜月「いや、私じゃなくて!知らない人に自分を紹介するから自己紹介!」

なぎ「そんなの知りたくなったら聞いてよ。その方が効率的だし」

菜月「効率的って…いや、まぁ、確かにそうか?いや、でも何かおかしくないか?

   え?なんか違うよね?ねぇ、祐兄どう思う?」

井口「はい、次。菜月!」


菜月「えっと、藤岡菜月です。部長をやらせてもらってます。

   社会学部の3年で、専攻は福祉社会学です。趣味は…」

律子「あ、エイヒレ来た来た!大将、遅ぇよ!2杯目もカラになっちゃったじゃん!

   えっとね、次は日本酒にしようかなぁ」

菜月「趣味は読書と映画鑑賞と…」

律子「じゃあ、獺祭!」

菜月「はっ!?誰?私の趣味ダサいって言ったの誰?」

律子「はーい!獺祭頼むよー!飲む人いる?」

菜月「『はーい』って、あんたか!律姉!」

律子「あ、菜月も飲むのね。やだなぁ、飲み過ぎないでよ?面倒くさいから」

菜月「はっ!?今度は面倒くさいですって?」

井口「はいはい、日本酒のお猪口は4つでお願いします。じゃあ、次は…俺?」


井口「えーっと、井口祐司、文学部史学科の3年4回生です」

律子「3年の4回生でぇーす!」

菜月「4回生でぇーす!」

井口「おい、うっせーな!」

拓海「えっ?3年で4回生って、つまり…」

菜月「留年でーす!」

律子「俗に言うダブりってヤツでーす!」

拓海「りゅ、留年すか…」

律子「試験受ければ単位くれる講義で、試験受け損ねた間抜けでーす!」

菜月「北海道まで雪祭り見に行って、帰ろうとしたら大雪で飛行機飛ばなかったんだっけ?」

なぎ「そもそも試験の前日まで旅行とか、ありえないですけどね」

拓海「でも、雪で飛行機飛ばないってのは、北海道じゃ良くあるんすよ。

   あれ、でも雪祭りって…」

麻友「あのっ、井口先輩!」

井口「な、なに、渡辺さん?」

麻友「その、留年って…留年って、かっこいいですねっ!!」

一同「かっこよくなーい!!」


井口「じゃあ最後は輿水!面白いヤツ頼むぞ!」

菜月「よっ!律姉、待ってましたっ!」

律子「よーっし!お姉さん頑張っちゃうぞー!お前ら、あたしに惚れるなよー!」

菜月「きゃー!いやーん!」

なぎ「律子さん、熱燗が冷めるんで、早く始めてください」

律子「いま、始めようと思ってたんだよ!」

なぎ「そんなこと言って、何も思い付いて無いだけじゃないんですか?」

律子「はぁっ!?そ、そんなことねーしっ! 良いか、行くぞ?」

なぎ「どうぞ」

律子「輿水律子、工学部の4年!!」

なぎ「で?」

律子「あー…新潟県出身!!」

一同「で?」

律子「えーっと…21歳!!」

一同「で?」

律子「その、趣味は…さ、酒を飲むこと!!」

一同「で?」

律子「な、なので…輿水律子、飲みますっ!! そいやぁぁぁ!!」

一同「おぉぉぉ!!」


井口「さて、ココに居る部員の自己紹介は以上か?」

菜月「後は、いま休部してるけど、柊由佳って2年生が居ます」

拓海「2年生は、その休部してる人だけなんすか?」

井口「去年までは他にも居たんだけど、ちと色々あってね」

麻友「もしかして喧嘩しちゃったとか!?」

菜月「いやっ、まぁ、なんと言うか…」

律子「こいつ、できるっ!?」

なぎ「あれはっ!」

拓海「ひえっ!?」

なぎ「あれは、喧嘩とか、そういうのじゃないですから!」

麻友「喧嘩じゃないですかぁ。麻友子、そういうの怖いから良かったですぅ」

井口「まぁ、そういう事なんで、時機を見て戻ってくると思うけど。その時は宜しくな」


律子「くはぁ!うめぇ!」

菜月「これ飲みやすーい!何て日本酒?」

なぎ「それは黒龍だね」

菜月「へぇ!これ良いな。なぎさ、次もこれ頼もう!」

なぎ「はいはい。スイマセン、黒龍2合お願いします」

律子「おい、渡辺!さっきから全然飲んでねーぞ!」

麻友「麻友子、甘いのじゃないと飲めないですよぉ」

菜月「仕方ないなぁ」

なぎ「まぁ、一年生だしね」

律子「よし、飲めないなら何か一発芸やれ!」

麻友「ふぇっ!?一発芸でしゅか!?

じゃ、じゃあ麻友子、えぇけぇびぃのダンス踊りましゅ!」

菜月「おぉぉぉ!」

律子「いぇーい!麻友子ぉ!!」

麻友「いぇーい!!」


【座敷の壁に寄りかかり、呆れたように部員を眺める拓海】


拓海「はぁ、大学生の飲み会ってのは凄ぇな…」

井口「よう、大丈夫か?」

拓海「あ、大丈夫っす!このくらいなら全然!地元でもボク、意外とイケる方っすから」

井口「無理にあいつ等と張り合わなくて良いぞ。

   菜月はエンドレス給排水装置だし、輿水はボチボチ閉店するし、なぎさは底抜けバケツだからな。

   渡辺さんは知らんけど、あの分じゃ3人の誰かと似たようなモンだろ」

拓海「なんすか、それ?」


拓海「あっ、そう言えば井口先輩?」

井口「ん?どうした?」

拓海「その、ホントに雪祭り行って留年したんすか?」

井口「あぁ、そのこと。なんで?」

拓海「ボク、札幌の出身なんで分かるんすけど…

   今年の雪祭りって2月の5日からだったんすよ。で、荒大の入試が4日だったんす。

   普通、大学の入試って在学生の試験が終わって、春休みに入ってからやりますよね?

   ってことは、試験の前日、雪祭りを見に札幌に行ってたっておかしくね?…って思って」

井口「へぇ…ふーん、そーなんだ」

拓海「あれ、えっと…ボク、なんかマズイこと言っちゃったすか?」

井口「あのな、若者よ。良いことを教えてやろう」

拓海「あ、はい」

井口「世の中には『そういう事』にしといた方が良いってことが、いくつかある」

拓海「え?あっ、はい」

井口「ま、あれは、そういう類の話しってことだ」

拓海「え、えっと…分かりました」

井口「そのうちきっと色々分かってくるよ。 さて、そろそろお開きにしようかね」

拓海「あ、うっす!手伝います!」



ナレ「こうして2名の新入部員を加えてスタートした荒大演劇部。

   彼らが走り抜ける1年間は、どのようなものになるのだろうか。

   花冷えの夜に浮かぶ月が、はしゃぎながら駅へ向かう彼らを優しく見下ろしていた。

   さぁ、次回の荒大演劇部は…」


律子「はいはーい!荒大演劇部4年、輿水律子です!

   演劇部のビューティープリンセスとは、あたしのことだっ!

   え?余計なこと言うな?良いんだよ、事実なんだから!

   さて本日は、『走れ!荒大演劇部 第1幕 開けた人の話』を観劇頂き、誠にありがとうございました。

   まぁ、まだ始まったばっかってことでね、若干本性出してない部員も居るようですが。

   そこら辺は、おいおいバレていくと思いますのでご容赦下さい。

   特に3年のアイツとかダブりのアイツとかね。

   ホントにアイツらズルいよなぁ!そう思うでしょ?

   あたしなんか一発目から、思いっ切りぶっ飛ばしてるってのにさ。

   世の中なんでも、一発目の掴みってのが重要だもんね!

   次回、『走れ!荒大演劇部 第2幕 居た人の話』乞うご期待下さい。

   まぁ、次回はあたしも、ちょっと大人な魅力を見せてやるからさ。

   お前ら、あたしに惚れるなよー?」


【第一幕 了】

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