第五話 パパもママも美形なのに私どちらにも全然似てない
「シュラぁー!ノーム来たぁ!ほら!ノーム!ノーム!」
「レフトは相変わらずうっせぇな。今日はちっちゃい方なんだ」
「あっちの身体、重くて嫌い。そんなことよりほら!ノーム」
「お、こないだテレビで観たヤツだ。どうしたのこれ」
「店長が持ってきた」
「店長……ああ、下のコンビニの」
「ザンギ棒ももらった」
「うまそうだな。一本くれ」
「ほい」
「で、ノーム捕まえたんだ?」
「現地直輸入だって言ってたよ」
「っても、こんなの税関通らないだろ。密輸じゃねーか。ワシントン条約とか大丈夫なのかこれ」
「ムフフ。サンタ便に国境はないのだよ。シュラ君」
「キメ顔で何言ってるんだ。あー、完全に犯罪組織だここ」
「サンタは法律に縛られないのだ」
「アナーキスト集団だった……」
「国境無きアナ団!」
「モグラ感の方が強い」
「ある意味潜ってるし」
「うまい事言ったみたいなドヤ顔してんじゃねーよ!しかし、あれだな、志だけは高かったせいか、流通はガチなんだな」
「宅配拠点のコンビニは下の本店だけ残して閉めちゃったケドね」
「順調に組織縮小してるのな」
「プレゼントを配る先の“良い子”の当てがないまま、システムを維持しててもコストがかかるだけだからね」
「お前らの維持コストだってバカにならないんじゃね」
「あそこは、活火山やからねー溶岩に水ぶちまけた蒸気で発電し放題やで」
「なぜ関西弁」
「余った電力で水素作って売ってるから、ぼちぼち黒字やでぇ~」
「お前のが、エセ関西弁なのだけはわかった」
「シュラはノリが悪いなぁ~」
「お前のテンションに付いて来れるのって姫先生ぐらいしかいないだろ」
「姫先生、学校の様子聞いて、超ドヤ顔だった」
「あれは……、先生的には大成功なのか?」
「そりゃ、自信作が認められたってことだからね。ライトは苦い顔してたケド」
「まともなデータなんか取れそうもないよな」
「フィールドワーク計画は再考するってさ。今はあの黒い奴らの情報収集に優先順位取られているから。シュラの解剖も後回しだ」
「解剖って……」
「うそうそ。解剖なんかしないよ」
「で、そのノームか」
「これは、もう調べたって言ってたから貰ってきた」
「もらってって……いいのかよ!」
「どうせ潰すしかないとか言ってたよ」
「潰すって……ダメだろ!どうみてもちっちゃいサンタだぞこれ!」
「ネズミだって」
「は?」
「クマネズミ。いわゆるドブネズミってヤツだね」
「いやいや、おっさんだろ!ちっさいおっさん!」
「外科手術で加工されているけど、実質ネズミだってさ」
「ネズミを全身整形してるっていうの?」
「♪たっかすぅ~」
「いやいや、やめい」
「遺伝子操作とかも無し。純粋に外科加工品」
「うわぁ~」
「一匹や二匹じゃないんだろ?あっちに居るの」
「うん。めっちゃ居るって」
「外見だけ加工しているってことは、ネズミが増えそうだな」
「手術の影響なのか、意図的なのかは分からないけど、繁殖能力は無いって」
「こんななりなのにネズミかぁ~でも服着てるよな」
「ここ見て、ここ」
「んん?」
「ここ」
「低いよ。ケージもっと上げろ」
「シュラがしゃがめ」
「ん……そうだな」
「ここ」
「うん」
「帽子のトコ」
「帽子…………………………………………………………これ毛だ!赤い三角帽子、毛だ!」
「うん」
「……服も毛だ!でも……色?」
「色違いの別のネズミの皮膚と貼り替えてあるって」
「服着てるんじゃなくて、皮膚貼り替えてるってか!?」
「カットアンドペースト!」
「きも」
「パッチワーク!」
「まあ、ましかな」
「まあまあ」
「で、どうすんのこれ」
「飼う!……と、思ったンだけど、ネズミだと思うとテンション下がるぅ……」
「見た目は伝説の妖精なんだから妖精だと思えよ」
「奥さんの卒業アルバムに、奥さんが見当たらない」
「誰の話だよ!っていうか生々しいな、おい」
「ネットにさらされるアイドルのデビュー前後ビフォーアフター比較画像」
「そっとしておいてあげて!」
「私、ママに全然似てない……」
「悲しくなるわ!」
「某国のアイドル、みんな同じ顔」
「ヘイトやめい!」
「でも、ホントどうしよう」
「お前が、欲しいって言って貰ってきたんだろ。ちゃん責任もって飼えよ」
「んー二階のペットショップの蛇さんに相談してみる」
「喰わす気かよ!」
「餌用の冷凍ネズミ売ってるし」
「店員さんがちゃんと世話してるから、余計な物喰わしちゃダメ!」
「むぅー」
「わーったよ。俺が預かるから置いていけ」
「いいの?」
「人型のが蛇に飲まれるの想像したくないしな。ネズミの寿命なんてせいぜい一年ぐらいだろ」
「クマネズミは三年かなぁ」
「今、何歳かわからねーけれど、寿命までは飼ってやろうぜ」
「シュラがそれでいいなら任せる」
「ケージ貸して」
「ほい」
「これがネズミねぇ」
「見事にじじいだよね」
「ノームって言ってやれよ」
「だってネズミだしぃ」
「お?もっさり眉毛に隠れてて分からなかったけど、目ん玉結構でかいな」
「なになに?見せて見せて」
「ほら」
「本当だ。ネズミの目玉のままだね」
「ここは加工が難しいから毛でごまかしている感じなのかな」
「ネズミだね」
「うーん、こうゆう妥協点意識すると、そもそものネズミ感増すな」
「きもい」
「いや、ほら。つぶらな瞳が」
「きもい」
「きもかわ?」
「ただきもい」
「うん……。かえって気持ち悪いな」
「イエス」
「こんなのうじゃうじゃ放たれたのか。あの国」
「キモ国と呼ぼう」
「呼ばんでいい」
「キモ国といえば」
「だから呼ぶなって」
「隣の国の白くてニョロニョロしたヤツ」
「ああ、あれな。あれもネズミか?」
「粘菌だって」
「は?」
「粘菌……」
「粘菌ってなに」
「ちっちゃい生物が群体を成してるアメーバみたいなやつ」
「アメーバ……」
「アメーバみたいにウネウネしたり、キノコみたいに固まったりするの。固まったのが変形体」
「元々現地に居たヤツなのか?」
「あの種類はあんなに大きな変形体は作らないって」
「あれも黒い奴らの仕業か」
「調査中だって」
「目玉みたいなのも付いてたな」
「あれが目として機能しているかも不明」
「ただの模様かもしれないわけか」
「調査中」
「ネズミノームよりは影響なさそうだけど」
「そもそも粘菌自体謎が多い生物なんだよね」
「整形されたネズミを調べるより難しいってことか」
「あれはちょっとかわいい」
「いや、かわいくないだろ」
「ニョロニョロしてるし」
「目が怖いよ。まるで生物感の無い死んだ目してたじゃん」
「クーデレ?」
「デレたらデレたで怖いわ」
「デレニョロもちょっと見てみたいニョロ」
「デレニョロってなんだよ」
「最初デレデレで、心を開くとニョロニョロするみたいな?」
「どんな開き方をするとそうなる!」
「真理の扉?みたいな?」
「等価交換!?」
「はっ、もしかしてニョロニョロしてるヤツは人体錬成……」
「さっき、粘菌って言ったよね?」
「そうだった」
「こいつはただのパッチワークだしなぁ~」
「つぎはぎネズミ」
「こいつは何を食べ……ああ、ネズミだから何でも喰うよな」
「ザンギ棒の衣をあげよう」
「両手で持って食べてる!……って、ネズミは元々そんな感じか」
「人間臭さパねぇな!」
「めっちゃ、お腹空いてたみたいだね」
「ガツガツ喰ってるな。もっとあげよう……って、え?」
「なに?」
「ちょっと待て!これ、おかしくね?」
「なにが?あう……お礼……してるよね」
「ペコペコ頭下げてるのって、お礼しているんだよな、これ」
「ネズミっぽくない!」
「ネズミなんだよな?」
「ネズミ……って言ってた……ケド……」
「ネズミが手が油でベトベトなのをアピールしてるんだけど」
「ティッシュの端っこをちぎってあげてみよう」
「拭いてる!両手拭いて……、口元拭いて……」
「また頭下げた!お礼した!きもい!」
「なにこれ……」
「なにこれ……」