試験終了、入学
空が元の姿に戻ると、赤い髪の男が話しかけてきた。
「本当に強いね、君。期待して待ってるよ」
そういって、肩に手を置いた後、去っていった。
すぐさまボロボロになった請負人が運ばれて行き、空も観客席に戻ると、試験は何事も無かったかのように続行された。
結局空以外に請負人を倒した者はいなかった。陽介でさえ、Aランクに圧倒された。
もちろん空は合格。特待生にもなれた。
そして、入学式も終わり、登校初日。
学校に着くと、学科の張り出しがされていた。珍しい事に、この学校では学科は試験の後に、近接戦闘学科、魔法学科、潜入学科、総合学科の内のどれかに分けられる。
だいたい実戦の時にもこの4つに分かれるそうだ。
近接戦闘でシンプルに戦い、魔法で遠距離からトリッキーに戦い、相手の懐に忍び込んで得た情報を仲間に報告しつつ戦い、そしてそれらを総合的に使いつつ戦う。
そうやって、うまくバランスを取っているのだ。
もし誰かがやられたりいなくなったりして人が足りない時には、総合的にできる人が補うしかない。
必然、総合的にできる人がどれだけ強いかでそのチームの強さはがらりと変わってくる。
だから、総合学科にはバランスのいい強豪達が集められる。
もちろん空もそこに入れられた。
陽介は近戦(近接戦闘学科の略称)だったし、柚希は潜入学科だった。つまり空は今1人である。早く友達を作らなくては。
だが、こういう事に限っては焦っても逆効果だ。学校に入ってから、あえてゆっくり教室に向かっていく。 廊下を歩いていると、もうすでに友達作りに励んでいる人もいて、なかなかいい雰囲気になっていた。
これは・・・いける! 自分から声を掛けなくても、相手の方から声を掛けてくるだろう。
だが、そうもうまく物事は進まなかった。いくら待っても誰も声を掛けてこない。おそらく、圧倒的に強かった空に対して恐怖を抱いているのだろう。こうなると思ったからセカンドフォームは使いたく無かった。
誰にも声を掛けられないまま、朝休みが終わった。
朝休みが終わった後、自己紹介の時間が来た。皆に自分をアピールするいい機会だ。皆はりきっている。空の名簿番号は4番なので、すぐに順番が回ってきた。
ここで失敗すれば、数少ない機会を逃してしまう事になる。絶対に失敗する訳にはいかない。できるだけ落ち着いて、はきはきと話始める。
「名簿番号4番、落合 空です。両親も請負人をやっています。魔法は苦手ではないのですが、技をあまり知らないので、知っている人がいたら教えて貰いたいです。気軽に話しかけて下さい。よろしくお願いします」
よし、自然な形でアピールできた。まあ上出来だろう。そう振り返っていると、生徒の手が上がった。
「あの、セカンドフォーム見せてもらって良いですか?」
・・・空に爆弾を落とすために。
まずい、どうする落合 空! 無理ですって断るわけにもいかないし、かといってあの形態になったら笑い事じゃ済まないぞ!
いや、もしかしたら。これは自虐ネタにしてしまえるチャンスかも知れない。やれ、やるんだ落合 空!
空の頭をその様な思考がぐるぐると回り、結論が出された。
「【セカンドフォーム】」
そう空が呟いた瞬間、学校全体が不気味な雰囲気に包まれる。
総合学科の生徒だけでなく、全学科の生徒が空達の教室に集まってきた。
皆、ドン引きしている。
その空気の中、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「うわ空怖っ! イケメンなのに、皆ドン引きじゃんw」
「うるせぇ! 俺だってこんな事やりたくも無いのに我慢してやってんだぞ!」
空は元の姿に戻り、泣きそうになりながら反論した。
「くっそう、お前は良いよな、陽介! 優秀な生徒で済まされて。こっちは怖がってお前以外誰も寄って来ねえよ!」
「いや、俺も寄ってねえんだが。今も3mは離れてるぜ?」
「お前もか!」
2人でアホな言い争いをしていると、横から女子が空に話しかけて来た。
「そこのあなた、そんなに友達が欲しいのなら、条件付きで私がなってあげましょう。簡単な事です。模擬戦で、私に勝利して下さい。ただし、セカンドフォームとやらにならず、手も使わずにです。日時は、明後日の放課後。場所は、闘技場。待っていますよ」
何か、模擬戦申し込まれた? 大変そうだな・・・
だが、よし! これで友達を作れるなら、安いものだ。絶対に負けない。
思いがけないチャンスの到来に、闘志を燃やす空だった。