八話 迷宮
翼竜から見えた、王都の東にある、雲すら突き抜ける巨塔。
星の中心部で生産される魔力が地脈のキャパシティを超えた時、地脈の集中する箇所で破裂して一気に放出される際に構築される、迷宮と呼ばれるものの一つだ。
発生したのは三十年前だが、未だに最奥地まで突破できた者が存在せず、最高記録は738階層。
ここまでの規模になった原因は不明だが、星の魔力以外の強大な力が地脈に影響を及ぼしたと推測されている。
「………波長が同じだ」
EXランクの迷宮、『無限迷宮』という巨塔への冒険者の列に並んでいたアインは、迷宮から漏れ出る魔力が自分のそれとほぼ一致だと結論づけた。
闇魔法の発展である空間魔法や、光魔法の発展である時間魔法を恒久化してあるようで、内部は見た目以上の広さを、経過時間は外部よりずっと速く設定してあるようだった。
魔力増幅装置で地脈からの魔力を何倍にも高めて、やっと迷宮を維持できる程、ギリギリの運営をしているらしい。
迷宮を管理しているのは、基本的に魔力から生まれた精霊か、神の召使いだが、今までの強大な魔力の源泉がいなくなったため、困窮しているのだろう。
『うん。見た感じ、相当贅沢な魔力の使い方してたみたい』
『まぁ、地脈を超える魔力を発してた俺がいたからこそのこの規模だしな』
アウルは猫の状態で喋るわけにはいかず、思念波を飛ばしあって会話する。
二人で迷宮について考察していると、列が進んでアインの番になる。
迷宮に入るには、冒険者のギルドカードを専用の魔導具に翳すだけでいい。
それは出る時も一緒で、もし内部で行方不明になった場合、翳されたギルドカードを探知する魔導具で探しに行けるのだ。
アインも自身のギルドカードを翳すと、ライトの魔導具が光り、ピッ、という音を発して無事に読み取れたという合図を送る。
激しい既視感を覚えながら、塔の荘厳な扉を通過する。瞬間、視界が白一色で埋め尽くされる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
視界が戻った時には、アインは煌びやかな装飾のされた扉の前に立っていた。
「…………なんかいきなり最奥地っぽいんだが」
本来数十人がかりでやっと開くそれを、アインは片手で易々と押し込む。
重厚な音を立てて扇状に開いて、閉めずに土足で乗り込む。
床には赤いカーペットが正面に向かって引いてあり、その奥には金や宝石をふんだんに使用した玉座が設置されていた。
「本当に迷宮か?城のほうが説得力あるぞ」
柱を解析してみると、その芯にはアダマンタイトが使われているのがわかる。
「贅沢しすぎじゃないか?」
「そうでもねぇよ。全部俺が創ったんだからな」
アインは、再び首筋に刃物を突きつけられていた。
「またかよ……ッ!」
首と顎を魔力で強化し、頷くようにして刃物を打ち砕く。
狼狽して拘束が緩んだ隙に腕を掴んで投げ飛ばし、アウルに思念波で隠れるように言う。
「仮にもアダマンタイトを砕くとか、この世界の人間怖え」
投げ飛ばされた青年は、刃が折れた短剣の柄を放って、指を鳴らす。
すると、虚空に紫が混ざった銀色の金属、ミスリルが発生し、それは無数の剣へと姿を変える。
「警告しとくぜ。俺の奴隷になるなら、命だけは保証してやる」
青年は自分の勝利を確信しているかのように、アインにそう持ちかける。
「自分に劣る奴に隷属するわけないだろ、アホかよ」
「フッ、実力差もわかんねえのか、雑魚が」
青年が腕を掲げ、振り下ろすと、ミスリルの剣は音の壁を超えてアインへと襲い掛かった。