七話 ある意味冒険者
名前の案が思いつかない………
勇者から貰った金———十万セルの価値がある銀貨数枚———で買った竜皮製のローブで身を包み、能力で猫化したアウルを肩に乗せた状態で、アインは冒険者ギルドを訪れていた。
入り口を通った途端に無遠慮な視線が飛んでくる。値踏みするような視線があれば、顔を隠すアインを訝しむような視線もある。
磨き抜かれた大理石の床をすたすたと歩き、受付カウンターの前で止まる。
「ギルマスに会いたい。今はいるか?」
馴れ馴れしい言葉はいつものことだと聞き入れ、受付嬢は返答する。
「ギルドマスターは現在、王城へと出向いております。何か御用でしたら受け持ちしますが」
「うーん……まあいいか。ギルドカードを更新してほしいんだよ」
念のために風魔法で音を遮断しつつ、ギルドカードを差し出す。
「ッ……!?は、はい。少々お待ちください」
なんとなく察したのか、他の受付嬢に見えないように裏返して奥の部屋へと入っていく。
数分経つと、若干サイズが大きくなったカードが返ってくる。
「え、えと、こちらのギルドカードには従来のものとは違い、新機能が追加されています」
アインはカードを眺めると、確かに、称号の下に新しい項目があった。
「魔力を込めてなぞると、その項目は他者からは視認出来なくなります」
試しに『称号』をなぞると、その下にあった幾つもの称号が黒から灰色に変化する。
もう一度なぞると、色は元に戻った。
「便利になったもんだな。ありがと」
銀貨をチップ代わりに押し付けて、ギルドから出る。
瞬間、アインのローブ越しの首に手刀が叩き込まれる———
「あ?」
———寸前で、アインはしゃがんで回避する。
振り返ると、そこには身長180センチを超える、屈強な男が立っていた。
「チッ、外したか」
男は背中から大剣を抜くと、剣の腹で薙ぎ払ってっくる。
(おいおい!こんな街中で物騒すぎるだろ!)
それなりに人目の届く場所で、いきなり剣を抜いたことにアインは戸惑いを隠せない。片手で肩に乗るアウルを抑え、もう片方の手で前に倒立前転する。
「ほう」
男がそう呟いたのは、その動きだけではない。前転した拍子にフードがとれたアインの素顔が、美少女のそれだったからだ。
「フッ、こんな上玉がもう一人いたとはな」
男は大剣を放り、ベルトについた短剣を抜く。
その刀身は紫紺色で、酷く禍々しい。
「それは……魔剣か」
かつて魔剣を何振りも打ち、何度も見てきたアインは一瞬でその正体を看破する。
アインの見立てによると、それは斬った対象から魔力を奪う類いの魔剣だった。
「勘がいいな。いや、鑑定スキルか。どっちにしろ、これには勝てない」
男は一瞬で距離を詰めて、剣を突く。
動く前から、微弱な筋肉の動きや重心移動で行動を予想していたアインは危なげなく躱して回りこみ、地面に放られた大剣を握る。
それを先程の男と同じように、横に払おうとしたところで、首にナイフを添えられる。男の方も同じように添えられていた。
「手荒な真似をして申し訳ない、お嬢さん」
アインの背後に立つ青年が謝罪してくる。
もう一人の、アインに襲いかかった男にナイフを突きつける青年の方は、その男を組み伏せる。
「『アースバインド』」
青年はそう唱えると、這い蹲る男の四肢周辺の地面が蠢き、拘束した。
組み伏せていた手を離すと、男の懐を漁り始め、そこから取り出した物をアイン側の青年に渡す。
その青年はナイフを収めてそれを受け取り、それに視線を落とす。
「Cランク冒険者、ジョセフ・ロブスト。先ほどの行動は見させてもらった。連れて行け」
手枷、足枷を着けられた男、ジョセフは青年に連れられて歩いて行った。
「お嬢さん、最近王都では誘拐事件が多発しているんだ。君の動きを見た限り大丈夫だとは思うけど、念のため気をつけてくれ」
そう言うと、青年はジョセフのギルドカードを持って、憲兵団の支部へと入っていった。