五話 理不尽な差
アレだね。あらすじ詐欺だね。
アースガルド王国、王城。
「団長。王都上空付近に高魔力の浮遊物体を確認しました。数は一。形状から見て翼竜かと思われます」
「ふむ……まだ王都には入っていないのだな?」
「はい、約2キロ先です」
「なら、第七部隊を魔弾砲台を十と、魔導戦艦を一隻に配備して対処にあたらせろ。翼竜ならそれで充分だ」
「はっ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔弾が翼竜に直撃し、二人は爆風で空へと吹き飛ばされた。
二人は空中で危なげなく体制を整えると、風魔法で空気を固めて作った足場に足を着ける。
「危ないね、危なくないけど」
「いやどっちだよ」
アインは、煙に包まれているが無傷な翼竜に思念波を送る。
『お前はもうあの森に戻っていいぞ』
一方的な意思疎通なので返事はこないが、煙から飛び出した翼竜は二人の頭上を旋回してから、元来た方に戻っていった。
「やっぱり竜って人間の敵対対象なのか?」」
「多分。あっちから仕掛けるってことは、撃退、或いは討伐が可能になる程の戦力があるのかな」
翼竜が二人を離れたため、魔力弾もそちらへと逸れていく。
そして、二人の並外れた聴覚が、地上からの微弱な駆動音を捉える。
そこには、翼竜の方向に飛ぶ、重厚な戦艦が浮遊していた。
「え、何?三百年ここまで発展するものなのか?」
重力魔法で艦体を軽くしつつ、火魔法でサーマルを起こして浮遊して、風魔法で推進力を得る。
魔導具でそれらをやっているのだろうが、それだけの大量の魔力は地脈から汲んでいるのだろうとアインは推測した。
地脈は星の持つ魔力の流れ。人間で言えば血管が該当する。
通常の竜種に匹敵するほどの質を持つ魔力が大量かつ無尽蔵に湧き出ているのだから、それを汲み上げて使う方法が確立すれば、あらゆる面で大きく発展することになるだろう。
アインが一人納得していると、戦艦はその長い主砲をゆっくり持ち上げて、翼竜へと狙いを定める。
そして、主砲に莫大な魔力が収束されていった。
その魔力はどんどん膨れ上がり、六億もの濃縮された魔力が反発してエネルギーを生み出す。
「おいおい……流石にやり過ぎだろ」
アインは砲身の延長線上のある一点に右手を向けて、そこに大量の魔力を集中させる。
「『亜空経路』」
規格外の魔力が空間を破砕し、その部分は宇宙のような、亜空間の景色が覗いていた。
そこへ向かって一直線に魔力の奔流が迸り、直後に世界が白く染められ、爆音と風圧が辺りを襲った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
砲撃の前半分を一旦亜空間に移動させ、軌道を真逆に打ち出して相殺させた際にかなりの衝撃波などが発せられたが、戦艦は幾らか押し戻されただけで、殆ど無傷だった。
だが、主砲の使用で魔力不足になったのか、あるいは翼竜を見失っただけなのか、渓谷のような発着場へと帰っていった。
光魔法で透明となって、目立たないように地面に降り立った二人は、街が異常に騒がしいことを敏感に感じ取った。
自分達が観測されていたかもしれないという懸念もあり、アインは着ているパーカーのフードを被り、アウルにもそのことを伝えると、同じようにフードを深く被った。
二人は聴こえてくる言葉、『勇者様!』やら、『異世界人だ!』などから、だいたいの状況は把握できた。
群衆で見えない場所に、異世界から呼ばれた勇者がいるらしい。
民家の壁に極薄の水膜を張り、光魔法で全反射するようにすると、勇者御一行の様子を見ることができた。
それによって一つ、判明したことがある。
「あの剣、どう見ても俺の杖だ」
格の性質や、形状は変わっているが、そのランクまでは変わっていない。かつて、数多の神を葬り去った相棒が、勇者の腰に収まっていた。
勇者が何食わぬ顔で、創世時代の武具。それも原初に創った開闢の力を持つお気に入りを所持しているというのだから、アインは殺意をほんの少し漏らしてしまう。
殺意を漏らしたのは決してそれだけが理由ではなく、勇者がかなりの美青年で、アインとは対極に位置していたからだ。
「ちくしょう……!同じ性別なのにどこでこんな差が………ッ!」
半分は理不尽な殺意を浴びた勇者は顔を真っ青にし、痙攣しながら、歩くのをやめて馬車に乗ってしまう。
『うっ………おええええぇぇ』
暫くすると、そんな聞きたくもないアレな音声がアインとアウルに届く。
「気持ち悪……うっ……おええええぇぇ」
連鎖的にアインも吐くが、何も食べていないために出てきたのは体液だけだった。
ちなみにアウルは、アインが殺意を漏らした時からある程度予測し、風魔法で作った壁で周囲と隔絶していたため、音声は一切届いていなかった。
ちょっと文字数少ないかな?