四話 空の旅( )
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アウルが手懐けたという翼竜に跨り、二人は雲海のすぐ上を飛行していた。
時速約150キロという速度だが、翼竜が風魔法と火魔法を行使しているため、風圧や温度、酸素濃度といった問題は解決されている。尤も、この二人にとってはそんなものがなくても問題ないのだが。
「あれ?」
「どうしたの?」
アインの前にいるアウルが、翼竜を操作しているため、前を向きながら訊いてくる。
「いや、俺の杖が見つからなくてな」
アインはこの空の旅が開始したあたりから、自身の思念波をこの星全体に巡らせていたのだが、それに呼応し、一瞬で持ち主の手に瞬間転移してくる筈の杖がいつまで経っても来ないのだ。
先ほど範囲を広げ、思念波を半径100光年まで飛ばしたが、めぼしい反応は返ってこなかった。
「んー………ちょっと待って」
アウルは手綱を持っていない右手を掲げると、その周囲に様々な色に輝く十の柱が浮かび上がる。
その内の一つ、灰色の柱が腕に溶け込んだかと思うと、アウルの髪が同色の灰色へと変色する。
「私も起きたのはアインの三日前くらいだからあんまり正確じゃないけど、確かにこの星にあるみたい」
それ以上は分からない。と付け加えると、腕に同化していた柱が浮かび、他の柱とともに霧散する。髪も元の色素を取り戻した。
「なら、思念波の届かない場所にあるか、性質を書き換えられたっぽいな」
思念波に大した力は無い。あくまで、語りかけてその力を操作しているだけだ。よって、簡易な結界ですら突破できないのだ。
杖は、持ち主の命を受けないと力を発揮できない。つまり、アインがいなければ只の杖でしかない。むしろ、只の杖の時に上手く構造を弄れば持ち主を変更することすら可能だ。
だが、この場合は一時的に使い手の優先度を変えているだけで、本来の持ち主が触れれば、杖に内包された過去の記録から元に戻すことができる。
「どっちにしろ、見つけるのは骨が折れそうだ」
ため息混じりにそう言うと、視線を地に向ける。
そこにもう雲はなく、地上の景色が見えていた。
「おぉ……って、え、おっかしいなー」
見えている地上の景色と、過去の記憶を比べてみても、全く違うものになっていた。
「俺の記憶が正しければ、確かこの辺って小さな農村しかなかった筈なのに」
小さな農村どころか、超巨大な城に、その周囲に建ち並ぶ豪邸の数々。そのさらに周辺では一般的な民家が万を超えるほど存在している。
「魔法を使ったとしても、経過時間と釣り合わないぞ」
「………えっと、実は起きる時間を二桁間違えて設定してたみたいで」
「お前のせいやー!」
そうなると、この急激な発展も、あの魔物の強さも納得がいく。
そう、だいたいアウルのせいなのだ。
「早速調べようとしてたことがわかったわ。お前はどこか抜けてるよな」
「うぅ……」
目に見えて落ち込むアウルをアインは半目で見つめていると、急に何かに気付いたように地上の街を見る。
その視線の先には、大量の魔力の塊が飛来していて、それは翼竜へと直撃した。
(`ω・´・)