三話 目覚め
(´・ω・`)
「ぶもぶも」
「ぐる」
「チョッギップリィィィィィィィィィイッ!」
そんな数多の魔物の歓声は、一人の少年に向けられていた。
「………なにこれぇ」
魔物からは敵意が一切感じられず、むしろ歓迎されているようなムードである。
謎の好意を向けてくる魔物達に囲まれ、呆然と立ち尽くすところに、群衆から一匹のフェンリルが近寄ってくる。
強靭な脚力と高温度のブレスを持ち、危険度はB級に位置する魔物だが、このフェンリルの発する魔力の量と質が、そんな域は超えていると証明している。
(周りの奴もそうだが、弱いはずの魔物がやけに強い)
敵意が無い相手と戦っても意味がなく、少年はフェンリルを観察しはじめる。
空色の混じった艶やかな白い毛並みと、片側だけ長い八重歯が、どことなく王者の風格を醸し出している。ここに王冠でも乗せれば神々しさすら出そうだ。
結晶化した魔力の破片が散らばる地面を器用に避けて、ゆっくり距離を詰めてくるうちに、少年はより近い場所で魔力を感じられるようになる。
(あれ?これって………)
少年は自身の脚に頬を擦り付けるフェンリルを軽く撫でてやると、一定の感覚で耳がピクピクと動くのを見逃さなかった。
「何やってんだよ、アウル」
フェンリルに向けてそう言葉を放った途端、周囲の空間が歪み、フェンリルの姿がぼやける。
それが収まった頃には、そこにはフェンリルの姿はなく、代わりに少女が立っていた。
腰まである空色の髪と、同色の眼。頭上に生える尖った狼耳からは白色の毛並みが見え隠れしている。
「えへへ……アインが起きるまでの暇つぶし?」
「なんで疑問系なんだよ」
アインと呼ばれた少年の言葉に、アウルと呼ばれた少女は微笑む。
「で、この魔物は何だ?異常に強化されてるんだが」
アインは群がる魔物を一瞥する。どの魔物も筋繊維が異常に発達しており、それは最強種と謳われる二種のうち、身体能力、魔力共に優れた竜種に真っ向から打ち勝ってしまいそうな程だった。
「いや、私は何もしてないよ?アインの魔水晶に成れなかった余剰魔力が充満してるせいだから」
「あれ?おかしいな……」
アインは今も生産され、自動で放出される膨大な魔力の経路を閉じる。
「確かに、これなら納得だな」
放出されていた魔力量は、数値にすると一秒に一億。アインが魔水晶の中で眠っていた期間は三年なので、総放出量は約九千兆となる。竜種の最大魔力量は五千万から三億ほどなので、竜種が約三千体いて漸く釣り合うほどだ。
(けど、普通の魔物が兆超えの魔力に耐えられるなんて聞いたことがないな。ゆっくりと吸収して身体を強化するにしても、三年なんて期間じゃ身体が魔力に馴染まずに吹き飛ぶ筈だし)
アウルを撫でつつ思考を進めたアインだったが、結果が出そうに無かったので、早々に切り上げる。
「アウル、この近くに町とかはあるのか?」
「えーっと、あるよ。それなりに発展した都市が一つ。行くの?」
「ああ。ちょっと調べたい事もあるしな」
「うん、わかった」
アウルが手を上げる動きに従って軍隊のように洗練された動きで道を開けた魔物の列の間を、アインは手を引かれて歩いていった。
微妙にあらすじから逸れそう。