二話 冒険者ギルド
冒険者ギルド。
酒場のような場所を思い浮かべる人が多く、事実大半のギルドはそれと同じ光景が広がっている。だが、王都に存在するギルドは本拠地なだけあってか、整備の行き届いた綺麗な空間となっている。
そんな建物の磨き抜かれた床をアリシアはおどおどしつつも歩いていた。その原因は受付カウンターの反対に存在する店からの視線だろう。
今のアリシアは着ていたドレスなどの衣類を売払い、一般的なズボンとシャツ。それに、王族特有の銀髪を隠すための、大きめのフードの付いた灰色のローブと、護身用の鋼のナイフという軽装だった。ナイフ下手くそだけど。
冒険者ギルドで斡旋される依頼は大まかに分けると、魔物討伐、採取、護衛の三つだ。アリシアはその内の、採取に眼を向けた。
採取は他の二つと比べ、魔物と戦わずに済むし、中には王都の入り口付近で採れるものもある。
アリシアは視線から隠れられる位置にある受付カウンターの前に立つ。
「登録をお願いするのです」
「はい。それではこちらにご記入をお願いします」
受付嬢は愛想のいい笑みを浮かべながら、一枚の用紙を取り出す。
差し出された紙には注意事項や、名前などの記入欄が記されている。
一緒に渡された羽ペンで〝アリシア・アースガルド〟と書きかけて、塗りつぶす。今の彼女に家名はない。ただのアリシアなのだ。
経歴がわからないように所々ぼかして記入した用紙を提出すると、代わりに鋼製のカードを渡される。そこには先ほど書いた情報と、冒険者としてのランクが書かれていた。
「それはギルドの一員であることを証明するカードです。ちなみに再発行には30000セルが必要となりますので、紛失には御気をつけください」
「そうなのですか」
30000セルはアリシアが購入した鋼の短剣の値段と同じだ。今のアリシアの所持金は42000セルなので、もし失くしたとしても何とか払える額ではある。
「早速、何か依頼を受けてみますか?」
「あっ、はい。お願いするのです」
受付嬢はカウンターの内側から何枚かの書類を取り出す。
アリシアは現在、冒険者ランクは最低のFランク。依頼が少ないかのように思えるが、掃除や運搬といった雑用の依頼が多く、仕事には事欠かない。
カウンターに広げられた用紙の内、採取依頼を受注すると、心を躍らせてギルドを後にする。
数年ぶりの王都からの外出にワクワクしきっていたアリシアは、ニヤニヤとした男冒険者数人の視線に気付くことができなかった。
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水霊草の採取
目標数:12房
報酬:1200セル。目標数以降は一房50セル。
場所:トリトニスの湖付近の水辺
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しばらく出番ないです。