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精霊による魔改造生活  作者: 夜兎神
過去編
11/13

一話

むしろこっちが本編

 あちこちで赤い炎が揺らめき、灰色の狼煙(のろし)が立っている。

 既に国軍の大半は滅び、残った兵は白旗を上げている。


 少数先鋭の部隊は、瞬く間に国を侵略していった。

 そんな報らせを聞いた王は、一人地下室へと足を運ぶ。


「……化け物どもめ」


 金剛鉄(アダマンタイト)で構成されたシェルターの、厳重なロックを解除して中に入る。

 地球を流れる魔力の大部分が密集しているここでは、大規模な実験をすることができた。


 最新の成果は、二柱の人工精霊アーティフィシャル・スピリットの製造だった。


 本来、物質界では自然発生でしか生まれない、意思を持った魔力(精霊)だが、その力は千差万別。圧倒的な力を持った精霊も生まれるが、そんな確率は既存の単位では表せないほど稀有(けう)な存在なのだ。


 人工精霊自体は製作が可能で、その制限も特にされていない。とある国が製作に取り組んだが、その力は自然発生した精霊より格段に弱い存在だった。


 だが、この王は零に等しい確率を引き当て、強大な力を持つ精霊を生み出してしまった。しかも、二体。

 主要国はすぐにそれを嗅ぎつけ、その力を振るわれる前にと、トップクラスの魔導士を送り込んできた。


 部屋の奥には、薬品で満たされた円柱状のガラスと、魔導具が二つ設置してある。


「せめて、お前たちだけでも………」


 その魔導具に付くパネルを操作したところで、王の身体は真一文字に切り裂かれた。


  「チッ、せっかく楽しめると思ったんだがなァ。こんなんじゃ釣り合わねェっての」


 音もなく王を斬り裂いた青年は、魔導士団の中で最年少でありながら、副団長の地位まで登り詰めたほどの逸材で、その実力は団長にも迫ると言われている。

 返り血を完全に弾く金剛鉄(アダマンタイト)の刀を鞘に収めて帰ろうとするが、


「あァ?」


 何かがスライドするような音に次いで、床を薬品が流れていく。

 液体状の薬品という支えが消えて、うつ伏せのような格好で倒れる二柱の精霊。


「あァ、こいつらがそう(・・)か」


 青年は刀を抜刀して近付こうとするが、その精霊の身から溢れる力を解析した結果、それはできなくなった。


「空間すら侵食する魔法……?いや、これは魔力単体が引き起こしてんのか?」


 精霊の周りには、可視化するほどの灰色の魔力が球の形を作り、そこに触れたであろう床や機械は跡形もなく消え去っていた。


「おいおい……本当にやべェやつじゃねェか!」


 一気に魔力量が跳ね上がり、魔力の球はそれに比例して体積を増やして、小さな島国を飲み込んだ。






 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆






 太平洋の小さな島国を中心とした爆発から二日。爆発地点から北へ数十キロほど離れた海上にある人工浮島(メガフロート)

 ルービックキューブのように、九つの四角形型の浮島で構成されたこの島は、あらゆる面で世界のトップクラスに位置する発展国だ。


 その人工浮島の中央にそびえる巨大な塔の一室に、一柱の精霊の姿があった。


  「………んぁ?」


 黒鉄(くろがね)の髪の精霊は、すぐ近くで響く金属音で目を覚ました。

 薄い灰色で囲まれた部屋の中央にある椅子に、両手足を金剛鉄(アダマンタイト)の枷で固定されている。


「よォ、ようやくお目覚めか」


 スライド式の扉から、黒いローブに身を包んだ青年が歩いてくる。

 椅子の横に立つと、右手を精霊の心臓に向け、魔力を練って魔法を発動した。


「『解呪(ディスペル)』」


 パキリ。そんな音がしたかと思うと、次には青年は指先に青白い光を灯し、精霊の少年の腕に何かを素早く書き込んでいく。それを終えてから小さく呟いた瞬間、少年は自身の身体能力が著しく低下するのを感じ取った。


「……なにが目的だ?」


「ククッ、まァそんなに警戒すんなよ。こっちは危害を加えるつもりはねェからな」


 視線や声音などから嘘を吐いていないと判断し、警戒心を少し鎮める。

 それを確認した青年は壁にあったパネルを操作すると、手足の枷が外れ、身動きが取れるようになる。


「まァ、俺は詳しいことは聞いてねェ。来な。お前の処遇を聞きに行くぞ」


 扉へと歩く、未だに自己紹介もしていない青年を、精霊の少年は枷の跡がついた手首をさすりながら追っていった。

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