十話
光魔法の『光球』を恒久化した光源に照らされる会場内に手頃な席を見つけると、同じ列に座る人の足をするすると避けてその席に腰を下ろす。
(予想はしてたけど、周りからの視線が多いな)
体をローブで覆い隠しているアインは、周囲から奇怪なものを見るような視線を一身に受けていた。
だが、それを脱ぐという選択肢は無い。そうしてしまえば、さらに視線を集めてしまうことを過去に何度も経験していたからだ。
警戒、好奇といったものが含まれた視線にしばらく耐えていると、光源の発する光が弱まり、会場が薄暗い世界に変貌する。
「ハーイ!やって参りました、第120回オークションの開幕です!今回も有意義なお時間と思えるよう、優秀な品を数多く紹介させていただこうと思います。それでは紳士淑女の皆さま、今宵もお楽しみください!」
調子の軽い様子で会場内によく響く声を発したのは、アインが出品の際に会話した正装の男だった。
あまりのギャップにアインがポカンとしている間に、会場の中央に大きな檻が現れる。
「幻の浮遊島に生息している天翔狼でございます!入札は100万セルから!」
銀と翠の美しい毛並み、鋭い爪と牙。そして、最も特徴的なのは、背中に生えている一対の翼だろう。
「300万だ!」
「僕は500万出すぞ!」
「1000万!」
「なにぃ!?」
「はい!1000万以上の方はいませんか?いないようであればこの天翔狼は彼のものとなります!」
1000万で買うと宣言した貴族の男性は、司会の男から金属製のカードを渡される。それを後で金と一緒に渡すことで、入札した品物が手に入るというシステムなのだ。
「次の品物の競売に入りたいと思います。次の商品は、なんと!99%アダマンタイト製の長剣が三振り!しかも鞘はミスリル製でございます。それぞれ、入札は100万セル、落札は一億セルとなります!」
滅多に無い高純度の希少金属に、客が盛り上がる。
「3000万!」
「三本とも5000万出すぞ!」
「三本とも落札しよう」
その一言で盛り上がっていた会場に静寂が訪れる。その声を発したのは、例の勇者だった。
(よし……聖剣を失くしてしまったからな。代わりに使えそうな良い剣がこんな所で見つかるなんて、嬉しい誤算だ)
勇者は安心したような表情でカードを受け取る。
「はい!それでは次の競売へと移ります!」
その後の品には、アインの興味を惹くものは無かった。
三億セル分の白金貨を受け取り、アインは会場の外に出る。
「竜皮のローブ……間違いない!貴様が誘拐犯だ!!」
「……は?」
確信したように叫ぶ男に、アインは戸惑いを隠せなかった。
「ふん、我ら王国騎士団から逃げられるとでも思ったか!」
勝ち誇ったように腰から剣を抜き、袈裟斬りを放ってくる。
「なんでこう、俺は面倒事に巻き込まれるかね……」
アインは特に行動を起こす気が無いようで、男は笑みを浮かべる。
剣はその軌道に乗ったまま、ローブ越しのアインの首に当たり———
———砕け散った。
「なっ……バカな!」
ローブは斬り裂けたものの、それ以上剣が進むことは無かった。
肩に乗った破片を払い、何事も無かったかのようにアインは歩き出す。
「お、おい!逃がさんぞ!」
「何か用か?」
「ふざけるな!貴様だろう、王都で起こっている誘拐事件の犯人は!私の顔を忘れたとは言わせんぞ!」
「初対面の相手に向かって罪人扱いは失礼すぎるだろ。あんたの言う王国騎士団の底が知れるぞ?」
男の怒りは頂点に達し、アインに手錠をかける。
そいて、それを引っ張ってどこかへ歩き出す。
「あー、面倒だな」
男の行く先には、王国騎士団の本部である大きな建物があるのだった。