一話 プロローグ
「貴女は王家にふさわしくありません。今後、家名を名乗るのは禁じます」
長い検査を終えた少女を迎えたのは、優しい言葉とはかけ離れた一言だった。
「な……何を言っているんです?」
普段とは違う、見下すような声音に震えそうになるのを抑え、目の前の人に疑問を投げ掛ける。
少女の母親は自身の娘を暫く睨みつけてから、手もとの書類に視線を落とす。
その書類には、少女の検査結果が書き記されていた。
「基本六属性の適性値ゼロ。特異魔法の適性もなし。魔力は平均の半分以下で、王家が最も得意とする精霊契約の素質もなし。貴女に、ここにいる資格はありません。……追い出しなさい」
「「はっ」」
あまりに突然だったが、それが事実だというのだから自分に反論の余地はなく、少女は二人の警備兵に両腕を持ち上げられ、城門前で降ろされた。
「申し訳ありません、アリシア様。リディア様の命令には逆らえないのです」
警備兵の一人が少女の耳もとで小さく呟く。
直後に城門が重厚な音を立てて閉まり、王城は城壁外から隔絶される。
「何か、あれ以外の理由があるのです」
彼女は、周りが思うほどよりずっと聡明で、気がきく少女だ。
さっきの、一見冷たく思える言葉の中にも、自分を気遣うような念があったことを見抜いていた。
きっと、あのまま王城で過ごしていたら、何か自分にとって良くないことが起こる。
それを事前に回避させようと、敢えて王城へ戻りたがらなくなるような物言いをした母の思いを無駄にしないよう、ここから離れたほうが懸命だ。
夜の心地のいい空気を吸うと、少女は王城に背を向けて歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どういうことです、お母様!」
王家から長女を追放したという旨の話を母親から聞いたアリシアの妹、セシリアは、突然身内が一人追放されたことに怒りを隠せなかった。それも仲の良かった姉だというから尚更だ。
赤くなるほど強くテーブルに叩きつけられた手を一瞥すると、リディアは静かに口を開く。
「どうもこうも、あの子は王家に居ていい存在ではありません」
「巫山戯ないでください!魔法の素質が芳しくないという理由だけで、そんなことが許されるとお思いですか!」
「………誰がいつ、あの子の素質が良くないなどと言いましたか?」
「へ………?」
セシリアは、姉が最近行った魔法の適性検査の結果が悪いから。という理由で追放したと思っていた。
それを真っ向から否定するような言葉が飛んできて、それの意味を理解するのに数十秒はかかった。
「え……つまり、姉様は……」
気づくと、リディアはとっくにどこかへ行ってしまっていた。
アリシアを追放した理由を理解したセシリアは、すっかり冷静になっていた。
読み返してたら心情ぐちゃぐちゃだったので修正。