不思議っ子 ぬばたま
「僕たちはなぜここにいるのか。そして死後、その意識はどこへ向かうのか。あなたは考えたことがありますか?」
帰宅早々俺を出迎えたのは、色素の抜けきった長髪を揺らす少女と、その口から放たれた突拍子もない問いかけだった。
「まずはおかえりなさいだろ」
「……おかえりなさい。僕たちはなぜ——」
「待て、その次はお疲れ様、だ」
繰り返されかけた台詞を遮って、脱いだスーツを顔面へ投げつけてやった。労働者ってのはその一言で救われるんだよ。
「もぐぐ、お疲れ様です」
「うん、ありがと。夕飯なに?」
ネクタイを緩めながら今晩の献立を伺うが、なぜか返事がない。
「おい、夕飯は?」
「ぼ、僕たちはなぜ——」
「お前まさか、それずっと考えてたらこんな時間になってましたってオチじゃないだろうな?」
「うっ……」
返事の代わりだと言わんばかりに、彼女の腹がグゥウと情けなく鳴った。
俺のぶんだけでなく、どうやら彼女も何も食べていなかったらしい。どんだけ考え込んでたんだよこの不思議ちゃんは。
「哲学の末、この命を落とすのならば本望です」
「じゃあ俺のぶんだけでいいな」
言いながら冷蔵庫の中身を確認。よし、これならなんとかなりそうだ。
「そ、そんな」
「本望なんじゃなかったのか?」
「……僕のぶんも作ってくださいお願いします」
初めからそう言えば良いものを。
「あ、あの」
仕事の疲労を背に、台所へ立つ俺の袖を引く彼女。
なんだ? まさかまたさっきの問いかけか?
「僕も……手伝います」
恥ずかしいのか、少し頬が赤らんでいる。こういうところは普通の女の子なんだよなぁ。