氷の祭壇と犯行動機
氷の世界を歩き続け、ついに祭壇のような場所までやってきた。巨大な氷の神殿の中央に、一段高く作られたそこに誰かいる。片方はペリドット。もう片方は四十代くらいの男性だった。
「やはりあなたでしたか、ルベライトお父様」
「そうだ。さあ父の命令だ、閻魔帳のページを渡しなさい。お前たちのせいで手駒が減ってしまった」
声も顔も厳しそうな父親という雰囲気だ。有無を言わせずスピネルに命令する。
「……できません。私は閻魔帳を守る一族の使命を果たします」
「使命か。実にくだらん。使命のせいで自分の人生が潰れるとは思わんのか」
「それが理由ですか? そんなことでこれほどの惨事を……?」
「お前はまだ若いからわからんのだ。この冷たい牢獄で命を無駄に消費する。それだけの人生に何の価値がある。お前が閻魔帳の本体を持って逃げたとき、私は殺すのをためらった。甘かったよ。娘すら殺せない男には、自由は手に入らないという教訓だったようだ」
自嘲気味に語り続けるルベライト。俺たちは情報を引き出すため、そのやりとりを黙って聞いていた。
「どうして……どうしてこんなことを!」
「なぜ疑問に思わない? 神々はなぜ自分たちで閻魔帳の管理をしない? 人間とは違い、無限の寿命を持ち、強大な力のある神が、なぜ管理しない?」
「確かに妙な話ではあるな」
「どうせめんどくせえとかそんな理由だろ」
「そんなまさか」
ありえる。神って思ったより適当だし、思考が人間と違うからな。どうせ寿命短いんだからそんなに辛くないだろとか思ってそう。
「で、お前さんの目的はなんだい? オレらが止めなきゃなんねえんだが」
「閻魔帳のすべての悪人を解放する。そして神々が出しゃばる前に、できる限りの人間を殺し、できる限りの国を壊す。私をこの場所に閉じ込め、管理を丸投げした報いを受けさせるのだ! 神の愛したこの世界を、人類を破壊してやる!」
「気持ちはわかる。多分俺も似たような嫌がらせすると思うわ」
「大勢の罪のない人間を巻き込むなど、到底許される所業ではない」
「なぜ許されねばならん? 死人に口なしと言うではないか」
閻魔帳のページが宙を舞い、黒い霧から見たことのない超人が複数現れる。まだ手駒があるのか。正直きついぞ。
「これはお前のためでもあるのだぞ。女としての幸せも満足に経験することができず、この牢獄で朽ち果てるか?」
「それは……ですが、他にもっと……」
「ない。他の手段などない。神はもう、この場所を覚えてすらいないのだ。だからこそ、別の神の付け入る隙があった」
ルベライトの顔が不気味に歪む。そして背中から黒く禍々しい正気が溢れ出している。神の気配だ。
「なるほど、神の承諾もなしに自由すぎると思ったが、裏ボスがいたか」
大方その神にそそのかされたのだろう。実体は見えないが、異常なほどの邪気を隠そうともしていない。
「もう話すことはない。殺せ」
「やっと出番かい? 待ちくたびれたぜ。武士道の兄ちゃんと黒髪の兄ちゃんはおれっちの獲物だ」
ペリドットが剣を抜く。こいつもめんどくさそうだな。というか根に持っているようだ。忘れてくれてもいいのよ。他の超人も一斉に武器を構えた。それに応えるかのように、俺たち四人も並んで変身する。
「アーク、フルアーマーモード!」
「伏犠様、お力お借りします!」
「来い、イシス!」
『ヒーロー!』
四人とも強化形態になり、それぞれ超人軍団と戦い始めた。
ルシードとペリドットの光速剣が舞い、カムイの拳が超人を抉る。
俺とヴァンはルベライトの確保に動く。
「おおっと、そうはいかないんだなあ」
ペリドットがこちらに来る。だがルシードの割り込みによって氷の壁までぶっ飛ぶ。それだけでは死なず、俺に向けて魔力のこもった斬撃を飛ばしてくる。だが鎧状態で負けるわけがない。刃を指で掴んで潰す。
「なんだとぉ!?」
一気に肉薄して、ペリドットを上空に蹴り上げた。
「ルシード!」
空からペリドットを蹴り落とし、ルシードの方へ飛ばす。
「承った!」
アーマーのブーストを全開でふかして接近。ペリドットを切り刻む。これにて処理完了。
「バカな!? 超人だぞ!?」
「これがオレらに依頼が来た理由さ」
「ええい、まだ超人はいる! 殺せ!」
剣士超人の剣を避け、裏拳でふっ飛ばし、魔法超人の攻撃に合わせて斬撃を飛ばす。牽制だけでは死なない個体もいるな。悪人といえど戦闘タイプかどうかはあるようだ。
「お父様! 確かに私は半人前です。使命の辛さも実感できていません。ですが、この計画で死ぬのは神ではなく、毎日を精一杯生きている人間です! そんなの間違っています!」
「死人の出ない事件では変わらん。神のお気に入りが死んで初めて変わるのだ」
「まだ間に合います。ここでお父様を止めれば、まだ被害は止まるはず」
「何か勘違いしているようだな。既に超人はこの場より旅立っている。私を殺し、邪神を殺さなければ、閻魔帳により復活した超人たちの殺戮は止まらんぞ!」
最悪だ。戦力をここだけじゃなく、各地に放っているらしい。被害が増える前にこいつを殺すしかない。
「スピネル、お前が閻魔帳を止めろ。あいつは俺たちで止める」
「はい!」
祭壇まで連れて行って閻魔帳を管理させればいいらしい。
俺が先行してルベライトに迫ると、邪気をまとったペリドットに阻まれる。
「お前さっき死んだだろ!」
「ふはははは! ページと邪神の力があれば、いくらでも復活できるのだ!」
黒いオーラに包まれたホワイトベリルとサンゴまでいる。喋ることはできないようで、最早命令どおりに動く人形に近い。
「どうやらパワーアップしているようだぞ」
「あまり時間はかけられないということですね」
「走れスピネル!」
スピネルを中央に運ぶことを優先した。群がる超人は光速の数千倍で打撃を与えて吹き飛ばす。意図を理解したのか、ヴァンの黄金剣が豪快に唸る。超人を壁に叩きつけて爆風で押し込み続けた。
「アジュ、邪神は頼むぜ」
「了解」
スピネルの進路を優先して開けていく。氷の祭壇へと到着すると、ルベライトの背後に邪神が見える。錆びた鉄のような材質で、球体みたいな姿をしている。表面に巨大な赤い目があった。
「名乗れるなら名乗れ。お前どこの邪神だ?」
「無駄だ。邪神の意志は私にしか語らない」
「そうかい。ならもう死にな!」
プラズマイレイザーを撃ち込むが、その錆びたボディで弾いた。赤い目が輝き、俺がさっきまでいた場所が爆裂する。少しはできるようだな。
「その程度の力で俺に勝てるかな?」
触手を引きちぎり、赤い目のビームを殴り飛ばし、背後から回し蹴りを入れる。想像より硬いな。ピンボールみたいに神殿を転がり、ビームと爆発を繰り出してくる。
「アジュさん!」
「俺は気にしなくていい。閻魔帳を祭壇に持っていけ」
「させんよ」
「私が、私がやらなきゃ!」
ルベライトとスピネルの赤い魔力が激突する。意外にも勝ったのはスピネルだった。直撃のダメージからか、ルベライトが怯む。
「くっ、まさかここまで……」
「私が生きていけるようにと、魔法の訓練をつけてくれたのはお父様です。その力で、今こそお父様を止めてみせます!」
「ぬかせ! 自分の娘にやられるほど弱くはない!」
「なら俺にやられちまいな!」
顔面に飛び膝蹴りを当てて邪神に向けてぶん投げた。
「ぬおああぁ!?」
なんと食われた。ボールがそのまま開いて中へ飲み込まれていく。
「お父様!?」
球体の錆が落ちていく。メタリックな外見がどんどん人間の形に変わっていき、全身銀色のルベライトが完成した。胸には大きな赤い瞳がある。
「おいおいこれは予想外だぞ」
「お父様はどうなったのですか?」
「ああなっちまったらもう……あぶねえ!」
超光速の触手を叩き落とす。明確にスピネルだけを狙ったな。どっちの意識が強いのかわからないが、これ以上対処が難しくなる前に死んでもらう。
「スピネル、閻魔帳を急げ」
「はい!」
祭壇で閻魔帳を開き、魔力を流しながら呪文を唱え始めた。超人は他の三人が抑えている。ここからが本当の戦いだ。




