昼まで寝てから新展開
朝。つまりまだ寝ていていい時間帯。なんか隣で寝ているやつがいる。
「シルフィ、今日は一緒に寝る日じゃないぞ」
「アジュが寝てるから起こしに来ました」
じゃあなんで横で寝ているんだお前は。すり寄るな。嬉しそうな顔しやがって。
「休みだからもう少し寝る」
「じゃあ一緒に寝る」
しがみついてくるので離れる。普通に寝かせてくれ。
「逃さないぞー」
「いい子だからやめなさい」
「アジュはあったかい」
「聞け。ふあぁ……ああもうまだ眠いんだよ」
外はまだ絶妙に涼しくて、布団があったかい。間違いなく寝やすい環境だ。
「一緒に寝る」
逃さないように、軽く俺にくっついて寝ようとしている。眠いときにじゃれつきやがって。
「はいはい、なでなで」
「むふー、そのままなでなでして」
急に甘えモード入りやがったな。騒いだり暴れないだけマシだが、こうなると意外とシルフィは頑固なのだ。
「だめ。寝かせろ。眠い」
「なでなでしてくれたら寝る」
「いいから寝ろ」
眠い。寝返りうつとイロハが寝ている。起こさないようにしよう。絶対にめんどい。俺はもうその展開に慣れているのだ。
「むー……ぐりぐり」
頭をぐりぐり押し付けてくる。こんなときに甘えやがって。軽く撫でつつ目を閉じると、余った腕をぽんぽんされる。見るとイロハが手を乗せている。目を閉じているが、まあまず起きているだろう。
「めんどい」
イロハも撫でる。耳がぺたっとして撫でられる体勢になった。そのままおとなしく寝ておくれ。
「いいこだから寝ような」
「残念ながらもうすぐ昼なんじゃよ」
リリアが部屋に来た。もう少し寝ていたいが、昼過ぎまで寝ると夜が眠れない。渋々起きて水を飲むと、少しだけ眠気が消えた。
「お散歩に行きましょう」
イロハがのしかかりながら誘ってくる。散歩行きたい犬ムーブである。
「お散歩に行くのよ。健康にもいいの」
「みんなでお散歩だね!」
俺の予定が決められた瞬間である。魔法で着替えが終わり、昼飯のサンドイッチとスープを完食。しょうがない、休みの日くらいこいつらに合わせてやるさ。
「ほれほれ、まだ涼しくて快適じゃろ」
「ああ、これが夏なら引き返しているところだ」
学園の春はまだ涼しくて、風が優しく通り抜けていく。油断すると眠くなりそうだ。俺たちは特に目的もなくふらふらしていると、エリスタークとマリアに出会う。
「あら、妙なところで会うわね」
「はっはっは、奇遇だな。お前たちも特訓かにゃああああ!」
なんかエリスタークの顔が左右に引っ張られている。すごい勢いでほっぺたが伸びているなあ。そうか、担いでいるのはリュックじゃないな。
「また変な装置か」
「今日は休みじゃ。筋肉は休んでいるときにつくと説明したじゃろ……」
「無論熟知している。だからギルドメンバーは休みだ。俺は筋肉じゃなく魔力を使う特訓に変えたのさ。その集大成がこのほっぺたのびのびマシーンだばばばばば!?」
「マリア、よくこれと一緒に歩けるな」
「仕方ないじゃない、誰かが監視していないとギルドの評判が落ちるわ」
諦めと呆れが混ざっている顔だ。この段階で結構落ちていると思うのだが、まだ許容範囲らしい。
「そっちはギルドメンバー勢揃いか。なんか用事でもあるのか?」
「みんなでお散歩してるだけだよ」
「そう、仲がよさそうでいいわね」
そのまましばらく一緒に歩く。少しして人通りのない場所へ。このへんでいいだろう。まったく、どうして面倒事になるのかね。
「いくら俺でも気づくぞ。出てこい」
建物の影から大量の怪しい男が出てくる。全員黒いフードとマントで全身を隠していた。尾行されていたのは気づいていたので、誰もいない場所を探していたのだ。
「エリスタークだな?」
「お前らの客かい。じゃあ俺達は無関係なんで」
「見捨てんのがはええよ!」
「ギルドのコーチをしていることは調べがついているぞ、ジョークジョーカー」
「ほれみろお前らも対象だったじゃねえか」
得意げな顔のエリスタークが腹立つが、元凶はお前らくさいぞ。
「今度のギルド戦、辞退しろ。さもなくば出られないほどの怪我をしてもらう」
全員が武器を構える。敵の力量がわからないが、まあギルメンいて負けることはないだろう。
「なんだよ変なとこで恨み買ったのか?」
「うちはまっとうなギルドだ! こんな連中と付き合いはない!」
「とっとと倒せ。エリスタークとマリアならいけるだろ」
「手伝おうという姿勢を見せろ!」
はい戦闘開始。五人くらいまとめてシルフィが切る。さらに屋根の上にいる敵をイロハが一掃した。
「なんか弱いなこいつら」
雷速移動で背後から攻撃すると、反応できずにそのまま気絶した。想像よりずっと弱い。他の敵も次々と倒されていく。
「おいおいオレはこの程度の連中で倒せると思われてんのか?」
エリスタークは両手の魔法を巧みに操り、飛び道具や剣として使う。氷の剣をくるりと回して敵の魔法の軌道を変え、炎の弾丸で正確に急所を撃ち抜く。本人の動きが最小限なのが見どころかね。恐ろしいほど無駄がない。
「サンダースマッシャー!」
避けられた。一匹だけ素早いのがいる。短剣の二刀流で距離を詰めてくる。カトラスの懐に入られた。
「ライジングナックル!」
腹から雷の拳を撃ち出してみるが、魔法障壁で弾いてくる。戦闘慣れしているやつだ。こっちも速度を上げて背後の取り合いをする。
「っていうか助けろや!」
「その程度の相手は倒せるようになるのじゃ。これも修行じゃよ」
もう他の連中は倒し終わって観戦モードだ。ちくしょう、床一面に雷のトゲを生やす。足を取られて痺れた瞬間を狙って最速で突っ込む。
「雷光一閃!」
「がばあぁ!?」
胴体をきれいにぶった切り、なんとか決着つけた。無駄にバトルさせるんじゃないよまったく。
「はっはっは、その程度でオレらを倒そうとかぬるいんだにょわあああああ!」
ほっぺたが伸びなければかっこよかったな。敵はあっけなく全滅。完全に時間の無駄である。腹が立つのでまずザコの右耳を削ぎ落として顔面を蹴り飛ばす。
「うがっ!?」
「よし」
「なにがよし!?」
「さて、色々と聞いていこうか」
一番近くの敵の肩を指す。カトラスが体を突き抜ける痛みに呻く敵。
「あうっ! あがが!?」
「全部話せ。ろくな死に方はできんぞ」
聞いたことをまとめると、ギルド戦は裏で賭けをやっている連中がいる。そいつらが山を賭けたところ、そこから希少な素材が取れることが発覚。絶対に負けられなくなり、エリスターク陣営に攻撃を仕掛けたらしい。
「クソしょうもない事実が判明したわけだが」
「最悪じゃねえか……これあっちの陣営は知ってんのか?」
「我々はあくまでお前たちを潰せと言われただけだ」
つまり無実の可能性大。あっち陣営のせいにもできない。賭けをやっている連中を潰すしかないだろう。
「もう当日まで時間がない。敵を全員あぶり出すのは難しいだろう。証拠を揃えられるかも微妙だ。エリスタークたちはなるべくまとまって動け。捜査はこっちでやる」
「すまない。オレもできる限り探ってみる。マリア、ギルドに戻るぞ。緊急招集だ」
「了解。今日はありがとう。またね」
一応保険としてイロハとシルフィを護衛につけておく。さてここからだ。
「こいつらは衛兵に引き渡すとして、犯人がわからないし、証拠が足りない。現行犯で捕まえるしかないだろう。こういう賭けってやっていいのか?」
「完全にルール違反じゃな。賭けの証拠も必要じゃろ」
「当日に何か仕掛けてくるなら、その都度ぶっ潰すしかない。今は山の情報くらいしかないからなあ……そこからあたってみるか」
「最近レア素材が出ると評判の山じゃな。あとは賭けがどこで行われておるか。そしてあっちのギルメンの保護じゃ」
「これ契約の範疇なのかねえ……仕方ねえな」
急にやることが増えたが、できることからぼちぼちやろう。転がっているザコどもを痛めつけ、エリスタークの次に襲うはずだった人間を聞き出した。まずはそこからだ。依頼はなんとしても達成する。こんなことで終わってたまるか。




