エリスターク隊長登場
それなりに戦力の把握はできた。今はマリアとリーリスのギルドにお邪魔している。お茶飲みながら対策を練ろう。
「さて敵は強い。そして集団戦だ。指導するにあたって問題は何だと思う?」
「時間が足りないことですか?」
「微妙に違う。もっと面倒で嫌いな話だ」
「腕自慢や上級生がわしの言うことを聞くかどうかじゃ。ちゃんとした作戦があるなら、むしろそっちの完成度をあげるという手段もあるじゃろ」
「なるほど、当然と言えば当然ね」
ここが問題だ。はっきり言って大嫌いよ。こういうことが起きないように、俺のギルドは四人で完成しているのだ。
「やあやあお客さんかね? 新規隊員さんだったりすると嬉しいんだがね!」
灰色の髪をなびかせ歩いてくる長身のイケメンさん。イケメンだよ。拘束具っぽいものを着ていなければな。
「自己紹介が必要かな? オレはエリスターク! 二年生でこのギルドの隊長であいったああい!!」
背中についたよくわからん器具に尻をひっぱたかれている。悶絶しているこいつがギルマスなのか。どうして偉くなると変なやつになるんだろうねこの世界は。
「プレイは家でやってもらえますか?」
「ここが家じゃろ」
「よし、帰ろう」
「待て! 待ってくれ! これはプレイじゃない! 次の戦いに備えてああいったいもう!!」
待ちたくない。けど依頼に関係しているから帰れない。失敗したな。
「ごめんなさいね。うちのマスターがあんなので」
「あんなのとはどういうことだ! オレは立派なあうち!? 隊長だぞ!」
「隊長、誤解を与えてしまうので退出してください」
「冷たい!? なかったことにしないで! 説明するから!」
ぶっちゃけ聞きたくない。けどこいつを勝たせないといけないんだ。地獄やんけ。
「次のギルド戦は熾烈を極めるだろう。オレの頭脳はパーフェクトだ。ならば必要なのは魔力を効率よく使いこなし、さらなる精度に高めること。これにより大将が死ぬ可能性を外して考えることができる」
「まあ……わからなくはないな」
「そのためには魔力の流れを普段から制御できねばならない。無意識レベルで精密なコントロールができるように作られたのが、このマジカルレベルアップくんだ!」
「ここまで疑問はないのう」
「そうだろうそうだろう! 魔力に乱れがあるとすぐ尻をぶっ叩いてくれるんだ!」
はいわからなくなりました。ドヤ顔をやめろ。こいつの性癖に付き合う気がしない。さっさと帰りたいです。
「やれやれだな。意識を覚醒させ、緊張感を保つため、刺激による刷り込みは効果的だ。そして尻は人体でも有数の柔らかい部位であり、重要な臓器ではない。それでいて罰として効果的だ。つまり尻を叩かれることこそ最適解なんだよ!!」
「ハア……こういうやつなのよ。成績はいいのだけれど、回答と出力のしかたがアレというか、なまじうまくいくことが多いから面倒なの」
「うまくいけばそれでいいじゃないか! 最高だろ!」
「お客様の印象が最悪です!」
悪いやつではないのだろう。効果的なトレーニングである気もする。俺は絶対にやりたくないけど。
「オレが屈辱に耐えるだけでみんなが勝てるんだ! 素晴らしいじゃないか!」
「言ってることは立派だな」
「隊員への愛だよ。親切にもお前らの分も作った。マリア、リーリス、さあつけろ! つけて強くなれ!」
どこからか同じ強化スーツを取り出している。二個ということは俺達はセーフだな。がんばれよ二人共。
「絶対いや」
「私もですか!?」
「当然だ! 隊員全員がレベルアップすることに意味がある! 落ちこぼれなど出さんぞ!」
発言だけだといい隊長っぽいんだよなあ。着るのが嫌なのか、マリアが俺達に話題をそらした。
「その服はともかく、まずは二人の紹介からさせてちょうだい。今回相手ギルドが強いでしょう。だから強化監督を頼んだのよ」
「なるほど、独自にレベルアップしようとしたわけか。自主性が育っていていいぞ! 褒めてやろう!」
軽く自己紹介して本題を説明した。アホスーツは脱いでもらったよ。
「まあ悪い策ではない。あの戦場、一見広く感じるだろうが、実際の人数だと結構狭く感じるんだよ。だから予想より個人の強さも作戦も大切になる。よってその作戦、オレも聞こう」
「うむ、では具体的な話じゃ」
俺は寝ていていいってことだな。ぼーっとソファーに座ってお茶を飲み、背もたれに寄りかかっている。だが他人の家で寝るのって難しいよね。
「寝てはいかんぞ」
「寝れねえよ。お前に全部任せているから、全部うまくやってくれ」
「ダメ人間じゃのう」
そんなわけでリリアに任せて茶菓子を食っていると、作戦会議が終わったらしい。
「この作戦は隊長命令ということにする。部外者の案よりは通るだろ。オレのカリスマを信じるがいい。あとは個々のレベルアップだな。そのためにもこのマジックアイテムを全員で」
「それは却下よ」
「諦めてください隊長」
「理解のない隊員どもめ……仕方ないから妥協してやる。今日から訓練開始だ」
こうして訓練するのを見学し、こっそり隊長と反省点をあぶり出していく。そして次の日に実行するの繰り返し。
「いいかお前ら! 三人一組を徹底しろ! 陣形が崩れたら近くのやつと組み合わせを変えて、別の三人一組を作る柔軟さも必要だぞ!」
「見ていると面白いな」
軍隊の訓練みたいなものだろうか。自分でやるのは絶対に嫌だけど、見ている分には動きが派手で魔法も使うから面白い。
「よーし終了だ! 水分を取って風呂に入れ。汗かいたままにするんじゃないぞ!」
「はーい!」
訓練は滞り無く終わった。新しい訓練でも素直に順応できているし、みんな優秀なんだろう。
「さて、オレはまた尻を叩かれないようにせんとな」
「また着るんかい」
「現状これより強くなれる手段がないからな」
「ならリリアの特訓でも試してみる?」
マリアが訓練を終えてやってきた。流石に疲労の色が見える。
「なんだそれは? オレのマジックスーツよりかっこいいのか?」
「かっこいいかは知らないわよ。けど強くなれるわ。心が折れなければ」
「はい、あれはすごくこう……すごく心がへし折れそうになります」
リーリスも同意している。おそらく合宿でやったやつだろう。
「怖いわ! 何やったんだよ!?」
「あなたの得意分野で戦うのよ。剣とか魔法とか。リリアは完全に隊長のコピーとして、常にパワー・スピード・テクニックで上回っているから、自分の欠点を克服できれば勝てるわ」
「つまりオレより剣も魔法もできると?」
「その通りです隊長」
あんまはっきり言ってやるなよ。隊長信頼されてんのかされていないのかわからんな。うちも似たようなもんだけども。
「休憩したらさらに強くなったリリアと戦うの。それの繰り返し」
「何が怖いんだそれ?」
「完全コピーなのに絶対に追いつけないのよ。何回やっても上にいるの。そして欠点を突きつけてくる。リリアはずっと無傷。こちらだけ疲労していく」
「よくわからん」
「まあやってみればわかるじゃろ。あんまり気が向かぬが、これも依頼じゃ」
そんなわけでエリスタークとリリアが戦闘を始める。最初は片手剣で。次に得意属性の魔法で。次に両方で。じわじわとダメージと披露が蓄積していく。
「よーしここまでだ! オーバーワークは非効率だからな!」
「逃げたわね」
「では終わりじゃ。帰って晩ごはんじゃな」
「なんでオレだけこんな疲れてるんだ……もう腕上がらないぞ」
「剣の腕は上がったろ」
「うまいこと言ったつもりか! ちくしょう、これが学園トップ層の才能ってやつか。オレでなければちょっと泣いているところだぞ」
リリアは才能だけで言えば学園のトップ陣だからねえ。そら比べられるのは辛いよな。少し同情した。
「元気出せ、こんなもんほぼ事故だ」
「ちなみにマリアとリーリスは泣かなかったのじゃ。強い子じゃな」
「ならオレも泣かない! 晩飯なら食ってくか? 今日はぼたん鍋というのが食えるそうだ」
「家でギルメンが待っているんでな。ちなみにうちは魚メインの鍋だ」
鮭とかタラとかぶっこんで煮るのだ。8ブロックで生活しているうちに学んだ。たまに食いたくなるので、今日の晩飯に採用してもらった。
「そうか、ではまた明日会おう! 地獄の特訓はしないけどな!」
「うむ、体と心を壊しても意味がないからのう」
「また明日お会いしましょう」
こうしてギルドの見学は終わった。普通に強いし、隊長はクセがあるが優秀だ。これは勝ち目がある戦いなんじゃないか。希望が見えてきたぜ。




