誕生日会終了と新たな依頼
なんかよくわからないバトルに勝った。客席から拍手と困惑の声が上がっているが、決して俺達のせいではないと思う。
「おめでとう二人とも」
ラーさんが普通に祝福してくる。特に怪我もないようだ。
「しれっと戻られましても」
「一応上級神だからね。あれくらいじゃ死なないのさ」
「じゃろうな」
まあそれはそうか。鎧無しで倒せる相手じゃないもんな。つまりお約束やノリを理解しているわけだ。太陽神ってすごい。
『そんじゃあ伝説の秘宝のお渡し会だ! 頑張ったご褒美を受け取ってくれ!!』
そういやそんな話だったな。途中から何やっているのかわからなかったぞ。
「はーい、お誕生日おめでとうリリアちゃん」
卑弥呼さんがやたらでっかい箱を持ってきた。秘宝ってそんなでかいの?
「ありがとうご先祖様。さて中身は何じゃろ?」
一緒に覗いてみると、かわいい服とか、おしゃれな財布とか、なんかやたらと色々入っている。そこでまたみんなが拍手する。リリアは少し照れくさそうに手を振っていた。
「おお、きれいな扇子あるのじゃ」
「あっ、それは私が入れたんですよ。気に入ってくれてよかったです」
「なるほど、そういうことか」
「うむ、理解したのじゃ。みんなが入れてくれたんじゃな?」
「そういうこと。私と卑弥呼と、シルフィやイロハ、期末試験で一緒だった子や勇者科の子、今までリリアが仲良くなったみんなからの贈り物さ」
いつ思いついたか知らんが、なるほどお宝だ。本人も喜んでいるし、こういうサプライズは未経験だろう。洒落た真似してくれるぜ。
「さて、これでみんな渡したんだ。アジュくんも渡さないとね」
「……んん?」
「アジュ様、お持ちしましたわ!」
ヒメノが持ってきた箱は、俺が茶番終わったらこっそり渡そうとしていたやつだ。何してくれやがってんだこのボケ。
「誕生日はすべてに優先されるのですわ!」
「わかったわかった。リリア、誕生日おめでとう」
素直に渡してやるよ。俺が優しいのは奇跡なんだぞ。
ちなみに中身は高級なリボン五本セット。ギルメンやパイモンと選んだので、センスに関してまず間違いはない。
「ありがとうアジュ。大切にするのじゃ」
「普通に使えばいいさ。来年もあるんだしな」
こうしてよくわからん大会は終わった。すっげえ疲れたけれど、本人は楽しかったみたいなので特別に許す。
そこからでっかい誕生日ケーキが登場し、ろうそくの火を消したらみんなで食べる。ジュースや肉まであって、みんなで食いながらリリアを祝った。
自宅に帰ると部屋にリリアが来た。夜のパーティーまでまだ時間がある。
「ふいー……満足じゃ。みんな優しかったのう。よい思い出になったのじゃ」
「人徳というやつかね」
「さて、もう部屋に来た理由はわかっておるじゃろ?」
「予想はつく。踏ん切りはつかない」
「うむ、そうじゃろうそうじゃろう」
「大会中に要求しなかったことは褒めてやる」
「そこまで見世物にはなりたくないじゃろ。気遣いのできるわし」
堂々とベッドに乗ってくる。はいはい覚悟しますよ。今日くらいはいいだろう。
「ほれほれ、お誕生日のリリアちゃんが待っておるぞ」
目を閉じてこちらを待っている。どうしても慣れないが、それでも少し長めにキスをするくらいはできた。唇の柔らかさとかを考えるのはやめよう。
「にゅっふっふ、来年も楽しみじゃな」
「過度な期待は俺を苦しめるぞ」
「そこは来年までに改善してやるのじゃ」
そして四人だけで自宅で少し豪華な飯を食う。ギルメンとの時間をしっかり作ることも大切なのだ。みんな満足してゆっくり眠る。
次の日の昼。学園の食堂で飯を食っていると、勇者科のクラスメイトが来た。
「お食事中だったかしら?」
「リリアさんに助けて欲しいのですが!」
あまり話した事がないが、両腕と背中に盾をつけている白髪の女がリーリス。
金髪ロングで黒尽くめのバンドマンみたいな服装の女がマリア。
期末試験でリリア陣営だった二人だと思う。二人の青い瞳が縋るようにリリアを見ている。
「よいよい、話してみるのじゃ」
椅子に座って話し始めたので、俺はかかわらないでパスタ食っていよう。今日のパスタはボロネーゼ。うまいけど、ミートソースとの違いってなんだろうね。
「うちのギルドマスターがギルド戦を受けてしまったのよ……けど正直なところ勝ち目は薄いわ」
「相手のギルドとはマスター同士仲が悪くて、こちらにどんな災難が来るかわかったものではありません。なのでリリアさんに助けていただけないかと、マリアさんと話し合ったのです」
「わしのギルドはギルド戦禁止なんじゃよ」
「それは承知しています。我々が頼れるのはリリアさんだけでして」
「戦場を見てアドバイスしてくれるだけでも助かるわ」
コンソメスープがいまいち合わないな。これスープ無しで紅茶付けた方がいいんじゃね。サラダは新鮮だし、スープのチョイスおかしいわ。
「恐ろしいほど会話に入ってこないわねこの男」
「リリアの依頼に首突っ込んだりはしないさ」
「めんどくさいだけじゃろ。結論から言えばギルド戦に参加はできぬ。当日の戦場とルールを聞いて……あとはメンバーの強化じゃな」
「そう、依頼を受けてくれるのね。助かるわ」
「よかったな。がんばれよ」
話はまとまったらしい。俺もパスタ食い終わったし、これからどうしようかな。
「おぬしも来るんじゃよ。一人では限界があるじゃろ」
「俺にできることなどない」
戦術アドバイスなんてできるわけないだろ。こいつらの実力もギルドも知らんぞ。無関係の場所に首突っ込むのは、迷惑だからやめようね。
「誕生日会を見る限り、あなた普通に戦えていたじゃない」
「はい、戦闘能力とその……よくわからないすごくすごいアレでした!」
「無理すんな。あれは説明できん。というか誕生日会にいたのか」
「いたのじゃよ。プレゼントもセンスよかったのじゃ」
なるほど、リリアを信頼しているようだ。そして悪いやつらではないのだろう。俺に何ができるか知らんが、一緒に行くぐらいはしてやるか。
「というわけで来たわけだが、何この地獄みたいな場所」
雪と氷の山とからっからの岩山がある。かと思えば真ん中は火の海だし、なぜか崩れた家屋みたいなものが随所に見えた。それら全部が混ざっている。暑いのか寒いのかすらわからん。
「これが次回のギルド戦会場よ。コロシアムの両端に城があって、そこが拠点なの。どう攻めるかは自由よ。アジュならどうする?」
「なんで俺だ……ずっと城にこもって超すごい結界張ればいいじゃん」
「全員城から出てスタートなんです。しかも城には戻れません。1ラウンド終了すると帰還できます」
めんどくっさ……逃げ道を塞がれているのか。これ追い詰められたら撤退できないやん。まさに地獄。
「当日は30VS30の戦闘になります。五日後までになんとかしたいのですが」
「早い早い。もうおぬしら鍛えるしかないじゃろ」
敵の戦闘スタイルも指揮系統もわからんのに五日は無理やん。
「ハーイ! あなたたちも視察かしら?」
やたら派手な格好で背の高い女がいる。ティアラとか羽のついた服とか、とにかくゴージャスだ。金髪と金の目がさらに全身の輝きを補助している。なんだこの派手という言葉の擬人化みたいなやつは。
「ミルドリースさん」
「ハローリーリス、マリア。今回はハードな戦場よ。今のうちにこっちに鞍替えしない? 二人なら歓迎しちゃうわ」
「お断りするわ。そちらとは合わないの」
「それは今のマスターとも同じでしょ?」
「まあね。けどそれでいいわ。そっちの筋トレ至上主義よりは楽よ」
「残念ね。そっちの二人はお友達?」
軽く会釈しておく。こっちに話振らないで欲しい。だが俺にはリリアがいる。なんかうまいこと進行してくれると信じているぞ。
「同じ勇者科のクラスメイトじゃよ」
「あらいいじゃない。私はマスターのミルドリース。戦士科二年生よ。うちのギルドは新人歓迎。どう? 入ってみない?」
「わしらは別でギルドを持っておる。そっちで十分じゃよ」
「そう、なんか強そうだし欲しかったのに……まあいいわ、当日はいい試合にしましょう。エリスタークは倒すけど」
ライバルギルドとか言っていたが、そんなに険悪な雰囲気じゃないな。エリスタークってやつは恨まれていそうだが、それ以外の人間に当たり散らすタイプじゃないらしい。
「さて、長居してもしょうがないし、軽く戦ってみましょうか」
「話に脈絡がない」
「実際に戦場を体験するのは有意義だと思います」
「そうか、がんばれリリア」
「おぬしもやらんかい」
戦闘に使うことで何か閃くかもしれないし、肌で感じるのは悪い案じゃないんだが、いかんせん俺が俺なんだよなあ。俺だぜ?
「熱そうだし寒そうだぞ?」
「それを実感するのよ。さあ行きましょう。依頼は受けたんだからいいじゃない。あなた戦えるでしょう」
「別に戦闘が好きなわけじゃないんだが……しょうがねえなあ」
観客席からフィールドへ飛び降りる。ここは雪のエリアだ。踏みしめる雪はそれほど深くはない。
「じゃあ応援してあげるわ! 試合前に相手ギルドと戦うのはルールで禁止だからね! ファイトー!」
「そこはルールを守るのか」
「ミルドリースさんはお優しい方ですよ。少しうちのマスターと険悪ですが」
「では2VS2でやってみるのじゃ!」
こうして勇者科同士でバトルすることになった。怪我しないように頑張ろう。




