VSアモド&ラッカ
俺のピンチにリリアが颯爽と駆けつけてくれたぜ。
「何を考えておるかわかるがのう、普通逆じゃぞ」
「そこは俺達らしさってことにしておけ」
「リリア・ルーン……仕掛けを見抜き、中央へ行くとばかり思っていたが」
「わしはアジュ優先じゃよ」
敵の女復帰早いな。たいしてダメージもなさそうだし、やはりめんどい。
「そうか、なら精々守りながら戦うがいい」
「じゃ、がんばれ」
さっさと離れよう。リリアの邪魔になる。
「させるか!」
敵が炎を大量にばら撒いてくる。ふっ、無駄なことを。
「無駄じゃ」
リリアが扇子を開くと、魔法は完全に消された。
「ふっふっふ、リリアがいるから怖くないんだぜ!」
「お前の心境がわからん……これもオレの修行不足か」
「くっ、やはり強い。だがこちらも無策ではない!」
女のパワーが更に増している。この基地にいる限り、安定して供給されているのだろう。確かに普通に戦えば厄介だな。
「ふむ、では少し相手をしてやるのじゃ」
片手をくいっとして挑発している。それに乗り、女の右ストレートが迫るが。
「本気でやってよいぞ」
正面から拳の撃ち合いをし、押し勝ったのはリリアだった。
「なめるな!」
拳に拳で、蹴りに蹴りで対応し、それでも勝つのはリリアである。徐々に焦りが出始めたのか、目に見えて攻撃が雑になっていく。
「ほれほれ、隙だらけじゃぞ」
攻撃を軽く受け流されて体勢を崩し、無防備なところにボディブローをくらう。
「うぐっ!?」
そしてぶっ飛ばされて壁に埋まる。圧倒的だな。こうなるともうどうしようもないだろう。ここから逆転できたらたいしたもんだ。
「私は死なんぞ! いくらでもパワーアップして復活する!」
「無理矢理体を動かしておるな。しかし純粋な体術で対応されては、エネルギーも吸収できんじゃろ」
「この場にいるだけで、我々以外は吸われ続けているのさ。気づかぬうちにな」
本当にこいつら有利だな。微量だが放出していない魔力も吸われそうだ。きっちり体内から逃さないようにすれば防げるかもしれんが、戦闘時にそこまで気が回るかどうか。めんどくせえよ。
「そうやって国民や超人から力を拝借したわけじゃな」
「クックック、そうさ! じわじわと気づかないレベルで吸収し続けたのはこのためだ。地獄に送ってやるぞ!」
本当に際限なく魔力が上がっていく。まだ俺でも対処のしようはあるが、ここらで終わらせるべきだろう。
「リリア、遊びは終わりだ」
「うむ、試験が長引いても面倒じゃな」
「できるもんならぶっ殺してもらおうじゃねえか!」
さっきの女が追いついてきやがった。めっちゃ怒っている。だがダメージが少なそうなのがうざい。こいつも回復するのだろうか。
「なめた真似してくれたじゃねえか。まとめてぶっ殺してやる!!」
「下がっていろラッカ。お前では無理だ」
「苦戦してたわりに偉そうじゃねえかアモドさんよ」
「ちっ、足を引っ張るなよ」
なんか共闘しそうな雰囲気だ。これはいけませんよ。今の俺達は挟み撃ちされた形である。とりあえずすぐガードキーの効果は発動できるようにしておく。
「やれやれじゃな」
リリアの姿が消える。そしてアモドとラッカがすっ飛んで中央でぶつかる。
「うげえ!?」
「がはっ!?」
「ほいっと」
大きくした扇子で両方を地面に叩き落とす。豪快な音を立てて地面がえぐれ、敵二人が倒れたまま動かない。誰が見ても実力差は明らかだった。
「抵抗は無意味じゃ。どうやってもわしらには勝てぬよ」
「図に乗るなよ!」
「こっからぶっ殺す!」
二人同時に仕掛けるが、リリアは難なく捌いていく。体術が独特だな。舞うように動いたかと思えば、淡々と最小限の動きで反撃したりもする。誰に習ったんだろう。
「観念してボスを出すのじゃ」
「そういうわけにはいかねえんだよ!」
「ここで仕留め…………了解、ラッカ」
「しゃあねえな」
突然二人が距離を取り、魔法を飛ばしてくる。だがそれはリリアが簡単に消せる。学習していないわけじゃないだろう。
「逃げた?」
二人が消えた。撤退する流れじゃなかったはずだが。
「ボスが命令したんじゃろ。妙な魔力が飛んでおった」
「連絡機能つきか。どうする?」
「中心部に全てがあるのじゃ」
「んじゃそこだな。こんな大掛かりな装置作りやがって何のつもりだ」
歩きながら魔力の集まる場所を探す。パイプを伝う生命力を追えばいいのだが、いかんせん広い。
「アーク、この施設に見覚えは?」
「ないのである。機関のデータにもないであるな」
機関の連中は無関係らしい。だとしても独学でこれをやるのは難しくないか。
「確か2ブロックの主が魔導機器の有名な国から来ていたはずだ」
「うむ、2ブロック王女カカオ。子分のラッカ、アモドと一緒に秋の終わりに転入してきた三人組じゃな」
「オレの方でも調べてみた。この要塞は試験開始直後から作られている」
「そりゃまたどうして」
「正攻法では勝てないと踏んだんじゃろ。生徒同士の潰し合いをさせられることを予想して、国民と超人から力を吸い取っていく。表向きは善政で体に不調もない。三人だけで城にこもるから秘密もばれない。城さえ作れればのう」
徹底した秘密主義か。だが城をどうやって改造したのかという疑問は残る。ゼロからじゃない。おそらく出身国の技術だろう。
「国が加担した計画ということか?」
「いい発想だルシード」
「国か会社か知らんがのう、個人でやるには規模がでかすぎじゃ」
だとしたら学園でやる意味とはなんだ。自分の国ではできないのだろうか。条件が土地か人かすらわからんな。
思考を中断させるかのように、背後ででかい隔壁が降りた。
「ありがちなやつう」
「別の道が塞がれていく。誘導したいようだな」
「ありがちなやつじゃのう」
「誘いに乗るかい?」
「道は中央へ行くみたいじゃ。乗ってよいじゃろ」
「親切なことだ」
完全にリラックスムードで歩き出す。軽く魔力を探ろうとするが、基地全体に妙な魔力がうごめいているので混ざってしまう。それでもギルメンの位置だけは理解できた。あいつらはこの程度じゃ苦戦しないな。
「シルフィ達は無事みたいだが」
「あっちは心配いらんじゃろ。それよりも、どうも最短距離ではないみたいじゃ」
「中央には向かっているが、時間も稼がれているな」
やつらが勝つための作戦が何かあるはずだ。実際に勝てるかはともかく、勝算があっての行動のはず。それが何なのかが気になる。
「鎧じゃないと厳しいかもな。プラズマイレイザーじゃ決め手に欠けそうだ」
ちなみにタキオンブラッドやウイングはあの状態じゃないとできない。どうやらまだ魔法の訓練が足りないようだ。
「より強くなったのじゃろ。それでなんとかせい」
「聞いたのか?」
「おぬしのことは全部わかっておる」
「なら試験が終わったら訓練でも頼むかね」
今後の予定なんぞ考えつつ、一応の警戒をして進む。奥に行くにつれて複雑になるが、なんか気味が悪い設計だな。
「なんかさ……これ工場っていうより」
「生物の臓器、だな」
「微妙に動いておるのがキモいのじゃ」
血管や臓器を思わせるようなものが複雑に絡み合っている。鉄っぽい素材なのだが、脈動しながら魔力を運んでいるのがキモい。
「ようこそ勇者科よ。歓迎しよう」
とてつもなく広いホールの中央に、巨大な培養槽がある。その中を漂う女がカカオだろう。青と赤が混ざった髪と金色の目が、事前に見たデータと一致する。
「ちょうど二人の調整も終わったところだよ」
地面から培養槽がせり上がり、両手足が発光した二人が見える。やがて光が収まると、何事もなかったかのように出てきた。
「ふう……こりゃいいぜ。前の腕じゃパワー不足だったからな」
「ふっふっふ、この足なら光速をさらに超えられる。感謝いたします」
「新しいパーツは勇者科上位陣の生命力で作ってある。骨も最新の素材だ。並の超人は超えられる。あとはお前達次第だ」
「はっ! 光栄です!!」
もうパワーアップ方法がおかしいのよ。明らかに骨とか腕ごと取り替えたよね。改造人間やん。異世界ファンタジーでやっていい技術じゃないと思うよ。いや最新の魔導技術とか詳しくないけど、科学に近いやん。
「消えろリリア・ルーン!!」
衝撃が部屋へ広がっていく。リリアとアモドの拳がぶつかっていた。
「ほほう、確かに頑丈になっておるのう」
「今度は貴様を破壊してやる。我々の材料となれ!」
「お断りじゃ」
「どこ見てやがんだクソ野郎が!」
ルシードが派手な音を立てて蹴り飛ばされている。やばい全然見えん。これピンチじゃね?
「次はてめえだ!!」
「プラズマイレイザー!」
反射的に魔法を撃つが、両腕でガードしながら突っ込んでくる。
「マジかお前!」
「死ねや!!」
「雷瞬行!」
伸びてきた腕を避けるため、上空へと雷化移動。だがすぐに追いつかれる。
「ちょろちょろ逃げんじゃねえよ!!」
魔力でブーストかけたカトラスを拳で弾いてきやがる。
どうやらスペックが超人レベルってのはマジだな。
「ちっ、なんだこりゃ!」
ガードキーの結界だけは貫けないようだな。前の超人の時は地面を動かされていたし、俺自身が移動を選択して逃げようとした。だが今回のように空中ならば質量や法則を完全無視できる。結界は揺れることなくぴたりと同じ場所である。
「だが吸っちまえば同じことだ!」
「カカオ、それは不可能だ」
「なんですって?」
「その力は魔力でも生命力でもない。かといってルシードの装備とも違う。既存のどの力にも当てはまらない。吸収は不可能だ」
鎧と鍵の力は吸い取れないようだ。ならひとまず問題なし。鍵で対応しよう。
「お前の耐久テストをしてやる。ガラクタ人形」
『ストリング』
ラッカの周囲に糸を張り巡らす。この糸は強靭でしなやかだ。殴り抜けようとしても、引きちぎろうとしても簡単にはいかない。
「くっそがあああ! 調子にのんなあああああ!」
俺に向けて魔力波を飛ばしてくる。どうやらあれが咄嗟に出せる全力か。
『リフレクション』
「お返ししよう」
鏡で反射させてぶつけてみる。予想外だったのか直撃して大爆発を起こした。
「ぬがああぁぁ!?」
どうやら効果あり。一瞬で全部は吸収できないんだな。ダメージは少ないが、一応確認できた。
『ミラージュ』
「ぶっ殺す!!」
「いいぜ、どれから殺す?」
爆発が収まる頃には、もう無数に幻影を出している。
「あああぁぁ! ざけんな! ちゃんと勝負しやがれ!!」
「するわけないだろうに」
『スティール』
少し実験だ。基地に充満している生命力は、こいつらの力として吸収される。ならばその瞬間を奪えないだろうか。
右手をかざし、ラッカより先に吸い取ろうとしてみる。
「あっ、てめえ横取りするんじゃねえ!!」
「元々盗んだ力だろ」
二人の間で生命力の塊が浮いている。だがその力は霧のように消え、カカオへと集まりだした。
「なるほど、お前はイレギュラーが多すぎるな。早く消せラッカ」
「今すぐに!!」
ラッカの全身の筋肉が膨れ上がり、魔力が迸る。殺気が溢れているが、これどう考えても手合わせじゃなくて殺し合いだよなあ。
「おいおい、そこまでガチの殺し合いをするつもりか?」
「いいだろ? どっちみち勇者科の力と肉体をパーツにできるか試すんだ。殺したほうがくっつけやすいぜ!!」
本格的に殺すしかないかもしれない。面倒な連中だぜ。




