次の試練と思わぬ展開
遊園地に行った次の日。朝から全員に招集がかかった。眠いのに頑張って起きた俺は、集合場所でぐったりしていた。
「いかん寝そう」
「がんばってアジュ」
テーブルに突っ伏していると、シルフィが隣に座って飲み物をくれる。冷たいものはなんとなく目が覚めるよね。
「椅子が寝たくなるやつ……」
椅子の座り心地がよい。つまり寝そうになる。単純に眠いぞ。
「だらしないのう」
「起きてきただけ成長しているわ」
リリアとイロハが来た。どうやら全員の一回戦が終わったみたいだ。
安心したらまた眠い。寝ても起きしてくれるだろう。
「シルフィと遊園地に行ったのね?」
やべえ寝ている場合じゃないかも。しっぽが不機嫌そうだ。なんとか普通ですよーみたいな空気出しておこう。
「シルフィがごきげんだったから聞いたら衝撃の事実じゃよ」
「暇だったんでな。それだけさ」
「そう、シルフィと遊園地デートしたのね」
「えへへー、ごめんなさい」
「謝らんでよい。むしろよくやったのじゃ。アジュをそういう施設に引っ張り出すのは見事じゃぞ」
まあ俺としても奇跡だと思うよ。絶対に死ぬまで縁のない場所だと思っていたし。
「それはそれとして、ちゃんと私達とも行くのよ?」
「うむ、そこは平等にじゃな」
イロハが横に座って肩を甘噛みしてくる。痛くはないが、これはあとで遊んであげないとな。リリアも横からじっと見てくるので、おそらく我慢しているのだろう。
「…………だよなあ」
一人だけを贔屓する気はない。しかしあと二回も行くほどアトラクションあるんだろうか。ああいう場所の楽しみ方がまだわかっていないぞ。
「はーい、じゃあみんな集まったわね。次の試合は脱出ゲームよ!!」
はいよくわからない。学園の試験は自由すぎる。
「みんなのブロックから大きな施設をコピーしたわ。その中から脱出してもらいます! 条件を達成すると、次の施設への転送ゲートが開きます。相手チームの妨害も共闘もありよ!」
妨害はともかく共闘? 何とだよ。この試験も不穏だな。
「負けたブロックは勝ったブロックに吸収されたわ。一回戦で勝ったチームは、負けたチームから二人選んで連れて行くこと。計五人で戦います!」
「今回もチーム戦じゃな」
「ってことは俺とシルフィが一緒か」
「やったね!」
「シルフィばっかりずるいじゃろ」
「これは不公平ね」
二人が不満そうです。俺にはどうしようもないぜ。だって学園が決めたことだし。終わったらちゃんと相手してやろう。それで許せ。とりあえず撫でた。
「それでは各自会議の時間を与えます。それぞれのチームごとに話し合ってね」
「気をつけろよ」
「うむ、まあ問題ないじゃろ」
「会ったら協力しましょう」
「みんなで合格だ!」
そんなわけで8ブロックチームのもとへ。シルフィ陣営もいた。
「あっくん、どうするの?」
「シルフィとカロンで」
「即答だね」
「軍師で強いやつと、純粋に一番強いやつで選んだ」
おそらくこれが最適解だ。シルフィは絶対に入れる。次に作戦参謀をやりながら戦えるカロンだ。俺は楽できればいい。鎧使いたくない。
「理由が聞きたいな」
「脱出ということは狭い場所になるだろう。非戦闘員のルーミイと、狙撃というガン待ちが得意なアリステルは除外。ももっちはイズミで代用する。マオリは強いが、脱出ゲームらしいからな、謎解きをカロンにお願いしたい」
「あーしも同じプランだよん。イズミちゃんは確定として、もう一人どーすんの?」
「そこなんだよなあ。カムイって出せるのか? 風水で全部突破できないかな」
「カムイくんは無理だよ。どこのチームにも所属しないんだって」
何か別の役割でもあるのだろうか。嫌な予感がするがまあいい。
「私は無理そうです。すみません」
「ルナは探偵だけどパスかなあ。あっくんとカロンちゃんがいるなら、強い人がいいと思うな!」
「となるとフランかホノリだが」
「私もパスだ。アジュのおもりはシルフィがいるだろ? 魔法剣士のフランがベストだと推薦しとくよ」
「いいわ、任せなさい。アジュくんのサポートは慣れたもの」
こうしてチームが決まり、全員で用意された魔法陣に立つ。
「さて、今回は全チーム一斉スタートよ。どのチームと当たるかは運次第。勝ち抜ける方法は一つじゃないわ。何をもってゴールかも言わない。勇者なら自らで探してつかみ取りなさい! それじゃあスタート!!」
そして光に包まれ、目を開けるとそこは何かの部屋だ。広くてベッドが複数ある。なーんか見覚えあるぞここ。寒さを一気に感じた。
「フラン、ここ8ブロックの病院じゃないのか?」
振り返ると誰もいない。俺だけだ。病室に俺しかいない。
「おいおい……個別に飛ばされるのかよ」
やばいぞ。味方に頼ることができない。窓の外は大雪だ。一応コートも着ているが、外出は自殺行為だろうな。
「どうすっかな……病院なのは間違いないだろうが……このへんにアイテムとかねえかな」
ごそごそ漁ってみるが、なーんも入っていない。
「薬くらいあると思ったが……しゃあないか」
少しだけ扉を開けて、外の様子を伺う。廊下には誰もいないな。明かりだけはついているので、移動に支障はないだろう。
当然だけど出口から普通に出てもクリアじゃないはず。それでいいなら下に行くだけだが、試験はそう簡単じゃない。
そこまで考えていたら扉の開く音がした。反射的に部屋に戻り廊下を見る。
「……イノ?」
同じようにそーっと扉を開けているのはイノだ。間違いない。あいつもここに飛ばされたのか。
「そこの者、ゆっくりと出てきなさい。妙な真似をすれば撃ちます」
あいつ気配とか読めるのな。しょうがないので出ていく。
「俺だ。この部屋に飛ばされた」
「アジュくん? ギルメンの皆様は?」
「いない。そっちは?」
「私もこの部屋に飛ばされたところです」
スタート地点が同じだっただけか。こりゃ手がかりなしだな。
「俺とギルメンがいても、共闘という形だと思っていいんだな?」
「はい、箱推しですから」
よくわからんが敵じゃないならそれでいい。どうせ強くて戦えばめんどくさいからね。完全に信用はしないが、共闘できるところまではしていこう。
「しかし困りましたね。外は吹雪。ここは病院でしょうか? 全部調べるには時間がかかりそうですわ」
「ここは8ブロックの一番でかい病院だ。作る段階から見ているし、何度か来たことがある」
「本当ですか? でしたら案内をお任せしても?」
「ああ、だがどこに行く? 外に出るのは正解じゃないだろ?」
こいつは油断ならないというか、何を考えているのかわからない。アイドル好きっぽいが、油断できない女王様であるという認識だ。その賢さで何か閃いてくれないものかね。
「脱出するための条件を満たす必要があるのでは? どこかにヒントがあるはずです。置いてありそうな場所だけでも特定できればよいのですが……」
「だとすれば重要な場所は……院長室か手術室か、じゃなきゃ医者とかがつめている部屋?」
「いいですね。目的もなく歩くよりはいいでしょう」
この廊下にある部屋だけでも多いからな。全部見ていたら終わらない。
警戒しながら歩いていくと、ドンッ!! という音がした。
「あの部屋は?」
「手術室だ。各階にある」
一階にしかない場合、患者を下まで降ろさないといけない。なので大抵は各階にあるもんじゃないかな? 全病院を知っているわけじゃないけども。
無駄な思考を中断するように、何度も激しく扉が叩かれる。
「あの扉は両開きで鍵がかけられる。内部をしっかり殺菌する機能付き。だが勇者科が壊せないほどじゃない」
「誰かが逃げようとしているのでしょうか?」
「わからん……待てなんかおかしいぞ。叩いているやつが一人や二人じゃない」
音がどんどん連続していく。鍵がかかっているとしても、ここまで何も考えずに叩くのは異常だ。中でなにかトラブルがあったのかもしれない。
「開けますか?」
「正直気が進まない。声も聞こえないし危険だ。雷分身」
分身を作り出して行かせることにした。これなら被害は出ない。扉まで近づけた瞬間、弾かれるようにして人が倒れ込んだ。
「誰だ? 勇者科じゃない?」
成人男性のように見える。後ろから出てくる人も学生じゃない。医者も患者も混ざっているような……。
「アアァァ……ウウゥ……」
「ゾンビか?」
顔が腐っている。血に飢えたゾンビがふらふらと何匹も出てきた。
おいこれあれこが作っただろ。似たゲームやったことあるぞ。完全に遊園地と同じノリだ。ゾンビサバイバルゲーだこれ。
「大変ですのね8ブロック」
「見たことねえよゾンビなんて。とりあえず隠れるぞ。あれだけとは思えん」
「どうやら見つかってしまったようです」
「ウアアァァ……アアァ……」
ゾンビたちがこちらを目指して歩いてくる。足は速くないが、ここで戦闘は避けたい。まだなんのヒントも掴めていないのだ。
「爆散!」
分身を爆裂させて隙を作り、下の階へと逃げる。
「一階に医師の詰め所がある。そこでヒントを探す。でかい施設は虱潰しでいくぞ」
「了解です。なんとしても脱出いたしましょう」
階段を降りきって詰め所へ。慎重に扉を開けるが、どうやら誰もいない。この部屋も広いので、迅速に二人で調べよう。
「よし、ここでめぼしいものを探す。といっても、どこからどう脱出するのかさっぱりだがな」
カルテとか見ても意味はなさそうだ。鍵を探すべきだろうか。
「薬と包帯を見つけました」
「一応持っておこう。回復魔法だけじゃ無理なケースもある」
「これはなんでしょうか?」
壁に光る掲示板がついている。ただの壁だと思っていたが、院内のマップが表示された。
「病院にこんなもんなかったぞ」
どうやら鍵のかかっている部屋が赤く塗られているみたいだ。点滅している部屋もあることから、鍵や人で反応する仕掛けか。オーパーツ気味だぞあれこよ。
「さっきの手術室が点滅しているのは、無理やり鍵ぶっ壊されたからかな。開いている部屋で星のマークがあるやつがイベント部屋だろう」
「何故ないものを操作できるのです?」
「気にするな。またしれこみたいなやつと殺し合いになるぞ」
「私は何も聞いておりません」
しれこがトラウマなのかささっと距離を取られる。まあ首がぷらぷらしていたもんな。あんなの予備知識無しじゃ怖いか。
「よし、とりあえず地下の霊安室と二階の薬品研究室だ。ここで戦力分散はしたくなが、どうする?」
「どちらかに二人で行くべきかと。戦力分散は愚策です。私は土地勘もありませんわ。協力いたしましょう」
「わかった。なら一階から近い霊安室に行こうか」
この試験、簡単に終わりそうにないな。さっさと次に行きたいぜ。