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バレンタイン特別企画 アジュにチョコを渡そう

 これはどこかであったかもしれない記憶。いつどこでかは定かではなく、まあ要するに時系列とか無視の毎回あるあれだよ。


「バレンタイン特別企画! アジュにチョコを渡そうー!!」


 今日は久々に家でゆっくりできると思ったのに、三人が意味わからん企画を始めやがった。


「企画に俺の名前がっつり入れるのやめろ。不安になるから」


「アジュの世界ではバレンタインという風習があったと聞いたわ」


「俺には無関係だけどな」


「なのでみんなでチョコを渡します!」


「おぬしの人生に潤いを与えていくスタイルじゃ」


 三人がそれぞれチョコを用意したらしい。なんかちゃんとラッピングされている。これは真面目にやっているのかも。ならちゃんと受け取ろう。


「今回はエロとボケを少なめにおとどけするのじゃ」


「なくていいんだよそんなもん」


「感謝の気持ちを届けます!」


 さて何が出てくるのだろうか。あんまり変なものじゃなければ食べてやりたい。


「じゃあまずはわたしから! これだー!」


 シルフィのチョコは箱の中に一個一個区分けされて入っているタイプ。それぞれ形や色が違う。高級なやつでよく見るタイプだ。


「ふっふっふー、がんばったよ!」


「まさか手作りか。どう見ても商品だぞ」


 自作とは思えないクオリティだ。これはかなり努力しないと無理だろう。


「すごいなこれは……」


「でしょー? はいあーん」


 一個つまんでこちらに向けてくる。チョコを見れば頑張りは伝わるし、これは受けてあげよう。


「ん……うまいな」


 上品な甘さだ。あまったるさがなく、さっぱりしているのに深い味わい。


「んふふー、はい次こっち」


 こうして何回か食べさせられる。今度はミルク入りかな。どれも食べていて飽きない味に仕上がっている。


「がんばったよ! 大好きって気持ちを込めました!」


 シルフィがきらきらした目でこちらを見ている。なんとなくわかったので、撫でてあげよう。


「よしよし、えらいぞー」


「ふへへー、えらい?」


「えらいぞ、よくがんばったな」


 頭を撫でられて気持ちよさそうにしている。本当に遊んで欲しい大型犬みたいだな。がんばったのでちゃんと撫でて褒めてあげよう。


「俺も食わせてやろう。ほれ」


「あーん」


 シルフィにも食わせてやる。俺も成長しているのだ。このくらいはできるぜ。

 嬉しそうにしているシルフィはかわいい。


「わーい、もっと! もっとやってみよう!」


 交互にチョコを食べさせ合う。ちゃんと食いきれる量なのがとてもよい。シルフィが幸せそうなのもよい。


「次は私ね。私からはこれよ」


 次はイロハらしい。木箱を開けると、中には大福と羊羹が入っていた。


「チョコ大福と抹茶大福よ。羊羹はあんことチョコで二個あるわ」


「おお……また高級そうな……」


 ごく普通に美味しそうな和菓子が出てきた。チョコの香りもするので、バレンタイン風にアレンジされているのだろう。


「フウマ料理だけれど、こういうのをアジュの故郷ではわふーと言うのでしょう?」


「おう、そこは気にしなくてもいいぞ。手が込んでいるのは伝わるからな」


「じゃあ私が食べさせてあげるわ。まずはチョコ大福から」


 大福を食わせてもらう。シルフィもやったのだから、これは三人とも食わせないといけないな。


「こりゃまた甘さがしっとりと、こういうのもありだな」


 和と洋を組み合わせるのってバランス難しそうだが、これは見事な手腕だ。純粋に評価が高い。イロハのキャラに合っていて、とても感動する。


「抹茶もあるわよ」


「ほう、お茶の香りがいい感じだ。渋さや苦さがない」


 室の悪い抹茶味は無駄な苦さとえぐみがあるからな。ちゃんとおいしくできている。イロハも料理うまいよなあ。


「羊羹食わせてやる。ほれ」


「ん、あーん……おいしいわ。はいお返し」


 チョコ羊羹を初めて食ってみる。なるほど不思議なうまさだ。どっちも食ったことはあるはずなのに、合わさると淡く溶ける中に両方の甘さが広がる。


「こういう普通によくできたものは嬉しいぞ。普段からこうならいいんだけどな」


 イロハも撫でてやる。しっぽが揺れているので、かなり機嫌がいいのだろう。

 フェチっぽさとエロがなければ、普通に美少女なのだ。今日はちゃんと頑張ったので、俺も余計なことはせず褒めてあげよう。


「私の愛は伝わったかしら?」


「ああ、ちゃんと通じたよ。たまにならいいな」


「そうね、ゆっくり過ごす時間を取りましょうか。また作ってあげるわ」


「頼む。その時はちゃんと受け取るよ」


 すり寄ってくるが、じゃれついているだけでいやらしさはない。こういうのはスキンシップのうちで許容できる。よくがんばりました。よしよし。残りをお互いに食べさせ合う。


「さて、それではわしの番じゃな」


「これは……なんともどシンプルというか王道というか」


 極めてシンプルなハート型のチョコだ。だいすきと書いてある。


「小細工なしじゃ。こういう王道のチョコを貰ったことがあるという実績が、おぬしの自信につながるわけじゃな」


 なるほど、高級感のない学生が渡すようなシンプルで混ざりけのないチョコか。確かにこの時期にしか貰えないレアものだ。


「うまい。マジでうまい」


 材料が高級なのもあるだろう。だがそれだけじゃない。100%完全に俺の好みを熟知していて、それを形にできるリリアだからこそできた味である。


「紅茶も用意したから、一緒に飲むのじゃ」


「悪いな。ほれ食うがいい。ちょっとやる」


 チョコを少し割って食わせてやった。膝の上に座ってくるので、一緒に飲み食いする。チョコが紅茶と合うな。ここまで計算に入れているのだろう。


「穏やかな時間を過ごせるかどうかが、伴侶に必要な条件じゃな」


「うむ、理解できたぞ」


 癒される時間だ。ずっと一緒にいるなら、静かで和やかな癒し空間は必須だ。それを改めて理解させてくれた。おかげで好感度が上がったぞ。なでなで。


「にゅっふっふ、うまくいったのう。こうしてストレートに愛を伝える日があってもよいじゃろ?」


「悪くないよ。年に一回のイベントだ。こういう日は受け入れるさ」


 そしてチョコを食べきって、しばらくして晩飯食って風呂に入り、自分の部屋へ。ここまで何もされなかった。少し不思議だな。本当にチョコ以外で変わったことがなかった。


「ん?」


 枕元には、三人それぞれからのメッセージカードがあった。

 中には俺への感謝と愛の言葉というやつが書かれている。

 少し気恥ずかしくもあるが、喜びもあるのは認めよう。


「来年も期待だな」


 他人に好かれるのが嬉しいという経験は、こいつら以外からは感じない。

 だが三人も例外がいるというのは、俺の人生にとって幸せなことなのだろう。

 何かお返しでも考えてみるかな。そう想いながら眠りについた。

 今日はよく眠れそうだ。

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