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異世界美少女達よ、ぼっちだった俺を攻略できるもんならやってみろ~最強無敵の力はハーレムラブコメに使うらしい~  作者: 白銀天城
第一章 俺にヒロインとかありえない

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死闘決着とラブコメ回帰

 月明かりだけが俺達を照らす中、シルフィの剣とゲルの槍がぶつかる音が響く。


「人間なんぞが! 遅いんですよ!!」


 ゲル槍捌きはまさに神速というやつだろう。シルフィの死角に攻撃を入れてくる。


「そりゃこっちのセリフだっての!!」


 シルフィがかわしきれない攻撃を俺が剣で弾く。ゲルの槍を切り取れた。切れ味抜群だな。


「はああああぁぁ!? なんなんです? マジなんなんですあんた! 戦乙女の槍ぶった切るとかどういう性能の剣使ってんですか! バカですねさては!!」


「んじゃお前はその馬鹿に負ける大馬鹿だな!!」


 槍を剣の腹で受けて、その隙に空いた方の手で至近距離から拳を叩き込む。

 うまいこと腹に入った。まともにくらって吹っ飛ぶゲル。

 追い打ちをかけるべく疾走するシルフィ。


「げっほ……うっわマジないわー。あんた人間ですよね? なんですそのパンチは。ドラゴンくらいなら一発で風穴空いてますよ、まったくもう」


「あはは……わたしもびっくりだよっと!!」


 シルフィが追い打ちをかける。ゲルの背後から繰り出された鋼の剣は、無常にも槍によって真ん中から二つに折れる。


「そんなっ!? 宝剣持って来といたらよかったなあ」


 バク転で横薙ぎに振られた槍を回避しながら折れた剣を捨てるシルフィ。


「それが普通なんですよ! あの剣が頭おかしいんですってーの!!」


「ついでにお前も切れるかどうか試してやるよ」


 わざとゲルに防御の時間を与える蹴りを放つ。槍で受けたゲルはそのまま壁まで吹っ飛ぶ。

 これでシルフィと引き離せた。


「使えシルフィ。多分ゲルくらいなら斬れる」


「サンキューアジュ! うっわ、軽いねこれ。凄すぎて危ないよこの剣」


「慎重に使えよ?」


 俺のソードキーで出した剣をシルフィに渡す。剣はそれ一本。

 後は魔力で作られた黄金に光る半透明な剣が出せるだけ。


「ま、俺はこれでもいいさ。いざとなりゃ素手でいい」


 黄金剣を持って軽く振る。魔力が続く限り折れない消えないのが利点だ。


「ちょーっと舐めすぎじゃあごぜーあせんかい雑魚ども!! 遊びは終わりです!!」


 真紅の槍から魔力を込めた斬撃を放つゲル。


「そんなもんでなあ!!」


 俺とシルフィは容易く斬撃を切り払いゲルに肉迫する。


「遊びはお・わ・りだってーんですよう!!」


 シルフィの背後に現れるゲル。一瞬やつの動きがぶつ切りになった? 回線悪いときの動画みたいだ。


「シルフィ後ろだ!!」


「わかってる!」


「あーやっぱ力のカケラが残っちゃってますねシルフィさん」


 突然攻撃をやめ、シルフィから距離を取るゲル。


「あんた今、ゲル様の動きを目で追いましたね?」


「どういうこと?」


 ゲルの質問の意味がわからない。目がダメなら気配を読むとかそういうことか?


「わかるようにしてあげますよっと!!」


 俺とシルフィの間に斬撃を飛ばし、床を削ってくる。目眩ましのつもりか?

 シルフィの姿が煙で見えない、まずいな。


「わかったでしょう? シルフィさん。これが時空神の力ですよ!!」


 シルフィとゲルが斬り合っている。さっきやりを切り取られたからか、鍔迫り合いを避け続けるゲル。まただ、動くゲルの姿がぶつ切りになる。


「はいはーい、まだまだ力の使い方がわかってませんねシルフィさーん!」


 ゲルが槍を振り下ろした後、シルフィの背後に回る。咄嗟に後ろへ視線を移すシルフィ。

 だが後ろに回りこんだゲルとは別に、もう一人のゲルが正面から現れシルフィを襲う。


「シルフィ!!」


 回りこんだゲルに向けて魔力でできた剣を投げつけ、シルフィを庇うためゲルの槍を両の籠手で受ける。


「アジュ!?」


「大丈夫だ、この程度じゃ傷つかねえよ」


 籠手には傷などついていない。本当に優秀だな。

 蹴り飛ばそうとしたゲルがなんの前触れもなく消える。


「おやおやこれでダメですか。傷もつかない鎧が存在するなんてねえ。あんた謎すぎですよ?」


「俺にはお前のほうが謎だよ。なにやった?」


「クロノスの力ですよ。ちょっと前の時間のワタシを再生したんです」


 シルフィの正面に現れたゲルは、思い出してみればそのひとつ前と同じ行動をとっていた。


「そして、これがもう一つの力」


 ゲルの動きがブレる。右か!


「うらあ!!」


 ゲルの槍を弾く。そのまま拳をゲルに叩き込むが、またしても消える。


「あっぶなー再生に攻撃させてよかったですよー。やっぱりあんたも見えてるんですね」


「だから意味がわかんねえっての。動きがぶつ切りなのはなんでだ?」


「時間だよ。ゲルは時間を止めてるんだ!」


「はーいせーいかーい!! 明るく言ってみましたが、アジュでしたっけ? あんたなんで止まった時間が認識出来てるんです? 神の力なんですけど?」


 おそらくヒーローキーで出てくる鎧のおかげだ。リリアが全ての法則無効と破壊がどうとかなんとか言ってたし。

 俺の体が徐々に鎧に馴染んで、能力無効化と手加減が可能になってきたからな。

 だが馬鹿正直に答える気はない。


「さあね、そういう体質なんじゃねえのか?」


「はーとことんムカつく野郎ですね。でも一個あんたの弱点見つけちゃいましたよ」


「弱点だと?」


 この鎧に弱点など無い、はず。止まった時間も認識できてきている。


「あんた一人だったら悔しいし、シャクですけど、このゲル様に勝てたでしょうね。でも今のあんたには弱点がある。シルフィ・フルムーンという最大の弱点がね」


「わたしがアジュの弱点?」


「ゲル様に力の殆どを吸われても、止まった時の中を動けるのは認めます。でもそれだけです。アジュさんのような超人なんてレベルじゃない。神様でもぶっ飛ばす無敵としか言い様のない力はない。槍で十分殺しきれる」


 俺はおそらくあの槍じゃ死なない。たとえ鎧に覆われていない部分を突かれても無傷だろう。防御力が上がりすぎているため、あの槍では俺は殺せない。

 だがシルフィは死ぬ。普通に学園の制服だし。


「さ、いつまで止まった時の中で再生され続けるゲル様を避けられますかね?」


 シルフィの周囲に十人近いゲルが現れる。


「させるか!!」


 再生されるゲルを全て殴り飛ばす。だが再生され続ける。


「なら本体だ!!」


 手刀の真空波をゲルに向けて放つ。そして空間そのものが遅くなる。


「これが奥の手です。スローな世界で動けるのはゲル様だけというわけですよ」


 手刀を躱し、俺達から距離を取るゲル。だが甘い、鎧のスピードはそれを超える。

 この程度の展開は鎧の知識もあって読めていた。俺は先程の手刀の三百倍の威力と速度の手刀を繰り出す。


「残念、遅くなるなら何百倍ものスピードで動けばいいんだよ」


「この……ふざけたことを…………人間なんかに傷をつけられるなんて……」


 ゲルの体には俺の斬撃が深々と刻まれていた。だが血は出ない。人間じゃないし、ゲルにはそもそも血を流す器官がないタイプみたいだな。


「ふざけやがって……神が……舐められっぱなしで終われるかあああああぁぁあぁぁあ!!」


 今までにない量のゲルがシルフィの命を狙って攻撃を開始する。


「せめてそこのお荷物の命くらいは消さなきゃ気がすまないんだあああ!!」


 スローになっている世界で繰り返される攻撃を捌き続ける。シルフィに傷なんてつけさせない。


「もういいよアジュ! わたしがいなければあいつに勝てるんでしょ? 元はと言えばわたしがいたからみんなを、アジュを巻き込んだんだ! だからわたしがいなくなれば……」


「イヤだね。二人で帰るって約束したんだよ。なのにシルフィが死んだら俺の負けなんだよ!」


「わたしが傷ついても、それでみんなが助かるなら……」


「もう十分傷ついたろ!! 死神扱いされて……自分のせいだって、身も心もずっと傷つきっぱなしだったろ!! もういいじゃねえか! 悪いのは全部アイツなんだよ!」


 シルフィに責任なんて無い。悪いのはゲルだ。


「だってわたしがいたから今だって、アジュが傷ついて……」


「だからなんだよ! 傷つくくらいで手放すなら、こんなとこまで追いかけてきて守ったりしねえんだよ!! シルフィ達が来てくれたおかげで、俺の人生楽しくなってきたとこなんだ。こうして守りたいと思うくらいには、毎日幸せ噛みしめてんだよ!! 勝手に諦めてんじゃねえ!! 俺はシルフィがいてくれなきゃ困るんだよ!!」


「一緒に、いていいの?」


「決まってるだろ。やりたいことはまだまだ残ってるんだから、満足するまで守ってやるよ」


「ありがとう……ありがとう……わたしも……一緒にいたい。ずっとあの家で、一緒に暮らしていたい。そのために、わたしも戦う! 大切なものを守りたい!!」


 シルフィの手が輝き出す。この光は、最近どこかで見たような。


「なんですあの光は? クロノスの力とは違う……?」


 ゲルが知らない力か。だが俺は思い出した。

 俺の予想を裏付けるようにシルフィの左手の薬指に現れる指輪。


「これって、イロハのつけてた指輪?」


 腕輪とキーケースが輝く。


「みたいだな。助かったぜ、まさに勝利の女神だ」


『シルフィ!』


 新しいキーをさす。鎧が俺の体を暖かく包み込む。全身を包む白銀の鎧はヘッドギアが頭をすっぽり包むものに変わる。爪先から膝までを守る装具と、両方の籠手。胸と腰回りを隠す真っ赤な鎧へと変わっていた。

 それ以外の部分は伸縮性に優れた素材に変わる。これは鎧というよりヒーローが変身するパワードスーツだ。

 マントは消え、その代わりに背中に付いている装置が特徴的なデザインになっている。


「鎧が変わった?」


 背中の装置からクロノスの力が溢れだし、放射される力は虹色の翼を連想させる。

 そして本体を残し、ゲルが消える。


「なんです? 再生ができない?」


「止めたのさ、止まった時の中で行われている再生を、更に俺が止めた」


「クロノスの力が、貴様なんぞに使えるものかあああ!!」


 時の流れが戻り、通常の時間が流れ始める。


「なんなら再生してやろうか?」


 ゲルの背後に再生されるゲル達は、一斉にゲル本体へと攻撃を始める。


「がああァァァ!? 神の力を自由に上書きしていると!?」


「どうした、お望み通り再生してやったぜ」


「舐めるなガキがああああぁぁぁ!!」


 槍を魔力で膨れ上がらせ、突っ込んでくるゲル。


「邪魔は……させない!!」


 瞬間的に加速してゲルの右腕を切り飛ばすシルフィ。


「なっ!? クロノスの力が戻った? 速過ぎる……ほとんど吸収したはずなのに!!」


「使いこなせるようになったのか?」


「わかんない。けど力が湧いてくる。なんだか暖かくて……今なら、あいつに勝てそうだ!!」


「うっしゃいくぜ!!」


 接近するまでの時間を加速させる。さらにこの階の時間を遅くして、二人でゲルを何度も往復しながら斬りつける。


「舐めやがって……傷くらい時間を巻き戻せばっ!? うああぁぁ!!」


 シルフィに斬られた腕を再生させながら、突然苦しみ始めるゲル。

 明らかに苦しむ声が今までとは違う。俺達への攻撃も止め、足取りもふらふらと頼りない。


「違うっ! クロノスの力じゃない……なんだその剣……痛い……傷が治らない……なんなんだよその剣は!!」


「アジュ、これを」


 シルフィが貸していた剣を渡してくる。


「やっちゃって。それで、みんなで帰ろう。わたし達みんなの家へ」


「ああ、約束だ」


 剣を受け取りゲルへと走る。


「ワタシは神なんだああああああああああ!!」


「――――終わりだ」


 俺とゲルがすれ違う。今度こそ手応えありだ。ゲルの上半身と下半身がゆっくりとズレていく。


「がはっ!? なぜだ!? 身体の傷が巻き戻らない!! なぜ巻き戻しができない!?」


「違うな。巻き戻せないんじゃない。巻き戻るよりも早く、俺が傷の広がるスピードを早くしているだけさ」


「ようやく神になれた……のに……うああああああああぁぁぁ!?」


 ゲルは取り込んだクロノスの力と俺の力が混ざり合い、制御できずに爆発を起こしこの世から完全に消滅した。

 長かったな……とりあえずシルフィのところまで戻る。


「終わったな。ゲルのやつ、なんちゅう疫病神だよ」


「お疲れ様。でも、ちょっとだけいいことあったよ。いいこと聞けたし」


 キーを解除しているとそんなことを言ってくるシルフィ。


「なんの話だ?」


「ふふーん、なんだろうねー」


 なんだか知らないが、機嫌がいいならこのままにしておこう。


「戦ってる時、わたしになんて言ったかちゃんと覚えてる?」


「なんかまずいこと言ったか?」


 覚えがない。別に罵倒してないよな? 思い当たる節がない。


「まあいいよ。急ぎ過ぎると逆効果だってリリアに言われたし」


 リリアが俺のいないとこでなんか言っているようだな。不安しかねえ。


「今はそれでもいいよ。一番じゃなくても、ちょっと特別なのがわかって嬉しかったから」


 シルフィが俺の前に立つ。距離が近い。


「とりあえずわたしはアジュの騎士になるよ」


「意味がわかんねえって」


「貴方が立ち止まったら、わたしが後ろからそっと押して、追い風になってあげる。日の当たる場所が怖いなら、わたしが遮って今夜みたいな優しい月の光になって照らしてあげる」


 とりあえず、と言った割りにシルフィは真剣そのものだ。自然と見入ってしまう。


「シルフィ・フルムーンは……貴方だけの騎士になります。いつまでも、この生命の許す限り、どれだけの時が過ぎようとも。お側で永遠に貴方を守る盾となり、貴方に害するものを切り裂く剣となります」


 きっとこれは大事な儀式なのだろう。少なくともシルフィにとって、とても大切なものであることは俺にだってわかる。


「つまり……これからもずっと一緒だよ!!」


 そう言って、月明かりのスポットライトの下で今日一番の笑顔を見せるシルフィを、俺は一生忘れることはないだろう。



 そして下の階で無事だった三人の元へ帰り、夜遅いため即帰ってすぐ寝て、次の日の朝。


「まただよ……」


 昨日の疲れからか昼まで寝てしまった。それはいい、怠惰万歳だ。

 だが明らかに俺の横で布団が膨らんでいる。


「またイロハか……自分の部屋で寝ろって言っただろ……」


 布団をめくるとそこにいたのは。


「シルフィ?」


「おはよう……今イロハと間違えたでしょ?」


「こんなしょうもないことする奴が何人もいてたまるか」


「わたしの予想だとまだ増えるよ」


「朝っぱらから不吉な占いするんじゃない」


 とりあえずこの状況どうしたものかな。


「そうね、当然増えるわ」


「いつからいた?」


 いつの間にか反対側にイロハがいる。忍者すごいですね。


「さっきよ。朝……お昼ご飯ができたから呼びに来たの」


「布団に入る必要性ゼロだよな?」


「そこに布団があったら入るしか無いじゃん」


「その通りよ」


「意味がわからん」


 どんな吸引力のある布団よ。


「はいはい、メシなんだろ? 起きて下に行くぞ」


 パジャマのままスリッパで部屋を出る。


「今日は寝起きがいいのね。シルフィがいるからかしら?」


「つまり毎日わたしが一緒にいればいいんだね?」


「やめろ。寝てるとこ邪魔されんの、すごい嫌いだから」


「仕方ないわね。無理強いはしないわ。ゆっくり慣らしましょう」


 慣らすんじゃなくてやめて欲しい。こんなんさらっと対応できるはずがない。


「ああ、そうだ。イロハ……わたしはとりあえずアジュの騎士になったから。負けないよ?」


 イロハに自分の指輪を見せつけるシルフィ。


「あら、シルフィもなのね。お互い頑張りましょう」


 見つめ合う二人。別に喧嘩しているわけじゃないみたいだし腹が減っているのでスルー。

 なんかあったらその時聞けばいい。俺達の時間はたっぷりあるのだから。


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