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イロハと新たなキー

「パーカーは前を閉じれば裸かどうかわからない事に気がついたのでセーフよ。着ていなさい」


 イロハの進言は却下して、制服に着替えた俺達は三階の二部屋目に突入した。


「よし、どうせなら合体技とか欲しいよな。かっこいいしお約束だろ」


「別に合体するのは技だけでなくてもかまわないわ」


「技でお願いします」


「自分の仕事がいちゃいちゃすることだということを忘れとるじゃろ?」


「そんな仕事ねえよ!!」


「えー仕事の割にはいちゃいちゃしてくんないじゃん」


「結構してましたけど!?」


 あれで足りないのかシルフィよ。変なドリンク二人で飲みましたよね?

 ってかいつ俺の仕事がイチャつくことになった。まず仕事じゃねえだろそれ。


「一応勇者候補だろ俺は」


「だからじゃ。たとえばおぬしのいた場所から来たのが女で、勇者科が男ばかりではどうなると思う?」


「男くさくて逃げたくなる?」


「違う。その女がどんなに強い能力と特殊なスキルを持っていても、勇者の素質を持つ子供は一人ずつしか産まれんのじゃ。これでは効率が悪いじゃろ。じゃからおぬしのような男を呼んで、素質を持つものが女の子ばかりなのじゃ」


「はー……そうお膳立てされると微妙だな。強制されるのもなんかイヤだし」


 なるほどね。ちょっとわかってきた。前に言われた気もするけどいつだったかな?


「はい、難しい話おしまい! わたしには意味がわかりません!」


 強引に割り込んでくるシルフィ。こんなことうだうだ話しても意味は無いか。


「そうね、どうでもいいわ。私にとってアジュと仲間以外のことなんて塵芥よ」


「じゃ、わたし達は見てるからね」


「もっとキーを使ってもよいぞ」


 キーはまだまだあるっぽい。ガンガン使っていこう。イロハと並んで立つ。

 今回の敵は鉄の全身鎧か?


「なんだあれ? 人間が相手か?」


「安物の鎧に魔法で単純な命令をしているだけ。中身は入ってないわ」


「ほー便利だな」


「弱いし単純な行動しかできないから、戦力としては期待できないわよ」


「そいつはありがたい。鎧には鎧だな」


『ヒーロー!』


 ヒーローキーをさす。今までの疲れが取れて、さらに視界も思考もスッキリしている。


「いいね、最高だ」


 そこでイロハの指輪が光る。俺の腕輪も同じ色に光っている。共鳴している?


「どうなってるの?」


「どうやら新しい力を試せってことらしい」


 鎧に蓄積された知識を引っ張り出す。

 指輪と腕輪の共鳴はやがてキーケースに新たな鍵を複数生み出す。


「その指輪は信頼の証だそうだ。一定以上に絆が深まると現れて鍵も増える。その他便利機能もあるみたいだが今はいい」


「そう、絆ね。いい響きだわ」


「むうーイロハばっかりズルい」


「イロハが一番とは意外じゃな」


 魔法陣が消えて、敵の鎧軍団が動き始めた。武器は剣と槍。装飾のないシンプルなやつ。

 俺の装備が豪華過ぎるということだろう。鎧達はこちらに狙いを定めて走りだした。


「おっと、話してるヒマがなさそうだ。さっそく試してやるよ」


 キーを一本さしてみる。


『イロハ!』


「……なに?」


「私?」


 白銀の輝きを放つ鎧が身体を離れ、一枚の布のように混ざり合って俺の周囲に渦巻いている。

 やがて身体に巻き付いていく過程で深い黒へと変色していく。

 現れたのは真っ黒の……忍び装束? スネから肩まで忍者服だ。

 最後に首と口元を覆う真っ赤なマフラーに変わって変身完了。籠手だけはそのままだ。


「あら、中々似合うじゃない。いつ私の里に住むことになっても違和感がないわ」


「おおーかっこいいよー! でもイロハの里に住むのはダメだからね!」


「では試してみるのじゃ」


「言われなくても!」


 とりあえず床を蹴って勢い良く飛び出す。そのまま鎧達に膝蹴りを入れてようやく止まる。

 再チャレンジだ。さっきより軽く、斜め上に向けて飛ぶ。すぐに壁が見えて急いで足をつく。

 床に降りてもう一度軽く、今度は横に跳ぶ。すぐ目の前に鎧が見えて慌てて回し蹴りで吹き飛ばす。いつの間にか俺は敵のど真ん中だ。


「速過ぎるんだなこれ」


 あまりにも速すぎて俺がスピードについていけてなかったわけだ。緩やかに知識と経験が流れてくる。


「無理しないでいいわよ?」


「いや、もう大丈夫だ。こんなこともできるぜ」


 素早く印を結ぶ。その動きもめっちゃ早い。やっててよくわからん。

 やがて両手にでっかい十字手裏剣が完成する。


「ほーれいくぜ!!」


 くるっと一回転して手裏剣を投げる。ブーメランのように円を描き紙屑のように鎧を切り裂く。

 いいね、こういう大量の敵をかっさばくゲーム好きだったな。爽快感あっていいと思うよ。


「んでもういっちょ!」


 両手を合わせて、あらかじめ手裏剣にかけていた分身の術を発動させる。

 飛びながらドンドン数が増えていく手裏剣。縦横無尽に飛び回り、嵐のように容赦なく周囲を切り刻む。


「やるわね。私もぼーっとしているわけにはいかないわ」


 イロハから伸びた影が部屋の床を満たす。影から伸びる無数の手が鎧の動きを止める。

 影を斬りつける鎧もいるが無駄だ。影に実体も痛覚もない。いくら攻撃してもすり抜ける。

 俺がフェンリル戦で殴れたのは、そういった効果を無効化してぶん殴れるように、鎧が法則を破壊していたからだろう。


「これで終わりよ」


 床から伸びる影の線。それは剣であり槍でもある。影に突き刺されて崩れ落ちる鎧さん。

 終わったみたいなんで手裏剣は全部消す。


「おおー便利だなそれ」


「貴方もできないの?」


 言われてちょいと記憶を探る。服が変わってもこういうことができるってことは籠手の記録なのか?


「手段はちと変わるけどできるっぽい? まあ機会があれば……」


 敵の残骸が集まり一つの巨大な全身鎧へと変わる。両手の甲からは、人一人より大きい六本の鉤爪が伸びている。


「おいおい合体するの敵かよ。初心者ってこんなん倒せるのか?」


 これを初心者ダンジョンで出すならこの世界のレベルはかなり高いな。


「あんなものは中級者向けじゃないかしら。かけだしで戦う相手とは思えないわ」


 やっぱりか。しかし今の俺ならいける。さっさと終わらせて次にいこう。


「面倒ね。正面から潰しましょう」


「だな。あの半透明ででかい腕出せるか? ダブルパンチだ」


「わかったわ。初めての共同作業ね」


「言葉の割に色気ゼロだな」


 イロハの背中からあの戦いの時に見た腕がうっすら浮かんできたのを確認して、集中すると同じ腕が俺の背中からも現れた。文字通り奥の手だな。

 俺達は同時にデカブツの足元に迫り、腕を振りかぶる。


「せえええりゃああああぁ!!」


「はあああぁぁぁ!!」


 二人の奥の手を受け貫かれながらバラバラに吹き飛ぶ鎧。最早再生などできないくらい微細な破片になった。


「おつかれ。こんだけやれば復活できないだろ」


「お疲れ様。悪く無いわね、こういうの」


「二人ともおっつかれー。いいなー連携技いいなー。わたしもなんか考えようっと」


「おつかれ。鍵の扱いに慣れてきたようじゃな」


「流石にな。うっし次行くぜ」


 こんな部屋はすぐに出よう。キーを解除して制服に戻る。制服はヘタな防具よりも優秀らしい。魔力を込めて特殊な素材で作られた服だとか。なので余程の防具じゃない限り制服でいいわけだ。


「残すはあと一つ! ここがアピールポイントだ!!」


 三つ目の部屋の入り口には四組くらい並んでいる。一部屋前で見た連中もいるな。


「あと一つか。鳥、鎧ときて次はなんだろうな」


「空と陸だから海? サメじゃない?」


「どう戦うんだよ……鎧着たら沈むし」


 どうやら俺を含め全員泳げるらしい。泳げるのとサメを倒せるのは違う。それで倒せるなら水泳教室とかどんな集団だよ。


「もう宇宙でよいじゃろ」


「宇宙人か? やっぱ銀色で目がでかいのか?」


「地中から出てくるとかどうかしら?」


 ここ三階だぞ? 地中ってのは無理がある。こうなると予想ができないな。


「気にしてもしょうがないね。それより合体技の名前とか考えようよ」


「いや恥ずかしいだろ」


「えーかっこいいじゃん。かっこよさにこだわる? それともラブラブなんとかーとか付ける?」


「らぶらぶは禁止するわ」


 とりあえず恥ずかしいので技名はつけない方向で説得している内に順番が来た。

 さて最後は何が来るかな?


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