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ギルドとお泊り

 訓練を終えて、今は遅めの朝食タイムだ。ソファー席で向い合って話し込む俺とリリア。

 すべての国から隔離され、広大な敷地を持つ一つの島であるブレイブソウル学園の設備は、それはもう充実している。

 学食もカフェテリアも喫茶店もある。テラスもある。中庭もある。

 その中で木造で比較的シンプルな店にいる。

 そこそこ客は来るけど、騒がしすぎない、いい塩梅の店だ。嫌いじゃない。


「やっと落ち着けるな。もうゴーレムとエンカウントは避けたい」


「もうちょっと度胸がついてからじゃな。かっこよく戦えば惚れられるかもしれんのじゃ」


「ありえんだろ。好かれる理由がない」


 この店はイロハ達に指定された。

 引越の手続きとかで一旦別れて、俺達だけ先に来ているわけだ。


「飯は食える。言葉はなんとかなる。友達は少ないけど、ひとまずリ…………」


 リリア達がいるし、と言おうとして止まる。何を恥ずかしいこと言おうとしてるんだよ俺は。

 異世界で浮かれすぎている。俺はモテない男で、非リア充だ。忘れるな。

 忘れて女と接すれば恥をかく。


「まあアレだなうん。アレだよ」


「アレじゃのう。素直になってみてもよいのではないかの?」


「何のことかわからないな」


 だからなぜ考えが読まれるんだよ。ハッタリかましてるのか?

 落ち着くために一口紅茶を飲む。


「ま、飯が美味くて嬉しいなってことだ。そんだけだよ」


「腹が減っては戦どころか、なーんにもできんからのう」


「だな。飯食ったらクエスト探そうか」


 金は生きているだけで減っていく。ちゃんとクエスト受けよう。

 せっかくの異世界だ。ちょっとくらい頑張ってみようかね。


「レベルが5になっておる。まあぼちぼちじゃな」


 ついでにリリアの食いかけのパイと紅茶のカップを移動してやる。

 自然に体が近付く。だからなぜお前はいい匂いがするんだよ。


「順調じゃな」


「今更だけどなんでレベルとかあるんだ?」


「えー説明めんどいのじゃ。呼び出した勇者を効率よく育てるためで納得せんか?」


「別にそこまで興味があるわけじゃないさ。ちなみに聞くとどうなる?」


「勇者の素質とか世界の歴史とか、なぜ勇者科に女の子が多いかとか、無駄にグダグダ長い説明が入るのじゃ」


「せっかくだけど遠慮します。要点だけかいつまんで話すとかできるか?」


 長くなりそうだしパスだ。リリアがめんどくさそうにしてるし。俺もめんどい。


「懸命じゃな。まあ世界に対して勇者が足りないため、効率よく成長させねばならぬ。と覚えておけば良い」


「そんなにこの世界がヤバイと思えないんだよ。なのに勇者が多すぎる。しかも細分化されている」


「ゲームのやり過ぎでそういうカンだけは鋭いのう。別にこの世界だけを救わなくてもいいんじゃよ?」


 意味深なこと言い出しやがって。言葉通りに取るなら、さながら勇者の派遣業ってとこかい。


「世界を救うヒーローが、救う場所が増えすぎて供給おっつかない、と?」


「……知ってて聞いとらんかおぬし? ま、やりたくないことを無理にとは言わぬ」


「まだこの世界に来て二日目だしな。しばらくはここに慣れたい。戦うの怖い」


 鍵無しで戦えと言われたらできる気がしない。どっかで慣れないとな。


「おぬしのせねばならぬ心配事は楽しくハーレムすることくらいじゃ」


「本気でハーレムするつもりなのか?」


 出会った時に言ってたな。まさか本気でハーレム作るのか。俺にそんな甲斐性ないだろ。


「本気も本気じゃ。そのためにわざわざ一人だけ選んでこの世界に連れてくるのじゃ。ハイパーパワーをレベルで底上げして、その力を持った子孫をより効率よく優秀な伴侶に生ませる」


「この世界の人間の底上げも兼ねてるわけか。俺にできるのかね?」


「そのための案も考えておる」


「一応聞いておこう」


 話の種、というやつだ。


「例えば告白されてしまった時に、どう切り抜けるかじゃ」


「よくわからん。なんのために切り抜けるんだ?」


「個別ルートに入らないようにするためじゃ。ごめん、聞こえなかった。とか言って逃げるわけじゃな」


「よくあるやつだな」


 まさか自分がやるとは思わなんだよ。いや、やらないけどさそんなこと。

 恥ずかしくて言えそうにないわ。


「プランそのいち。ヒロインに『好き』と言われるタイミングで、わしが窓ガラスに野球のボールをぶち当てるのじゃ」


「音で聞こえなかったことにする作戦か」


「そうじゃ。わしが、いやあピッチングフォームのチェックしておったのじゃー。とか言って入っていく」


 リリアが投球フォーム直してるところとか想像してしまった。あんまり似合わないな。

 こいつにスポーツのイメージがない。


「まず野球がこの世界に無いだろ」


「ならばまず野球をこの世界に広める所からじゃな」


「壮大な計画だな。無駄だからやめろ。俺は野球のルールわかんねえし」


「では好きと言われたら反射的に聞こえないふりをする、という反射神経のトレーニングを」


「しない。絶対にしない」


 ただの間抜けだろうそれ。

 このままダラダラ話していても埒があかないので本題に入る。


「なあ、ギルドについて聞きたいんだけどさ」


「お、やる気じゃな。やりたいことからやれば良い。何から話すかのう」


「最初っからゆっくりでいい。まずギルドとはなにか、とかな」


 焦らずいこう。まだ二日目なんだし、リリアもいる。

 生き急いでも疲れるだけだ。

 美味そうに飯食ってるリリアを見ているとほっこりする。


「ギルドとは固定パーティーのようなものじゃ。これは登録さえ済ませてしまえばよい」


「パーティーは好きに組めるもんじゃないのか?」


「もちろんそうじゃ。しかし一人では効率も悪い。クエストに五人以上募集と書かれていたら、四人探さねばならぬ」


「探した結果、もう三人エントリーされてて無駄足とか?」


「そうそう、よい勘じゃ。さらに有名なギルドになれば名指しで依頼が来る。素人でもメンバーについて行って学ぶこともできる」


 団体行動は苦手分野です。なぜなら得意なことがないから。

 得意なことが増えれば自信もつくんだろうけど。何も無いとドンドン卑屈になる。


「特に勇者科は特殊能力持ちの入る科じゃ。普通にしておれば勧誘も来るじゃろ」


「でも俺は馴染めないし怖い。だから先手を打ってギルドを作るっと」


「せーいかーい。できたてギルドじゃから低いランクの依頼を受けて、気ままにまったりじゃな」


 資金は確保した。ここから無駄遣いせずにやれること探していこう。

 元の世界じゃ何もできなかった。今度は少し自分から動こうかな。


「イロハちゃん達が来たからここまでじゃ。こっちじゃこっち」


 リリアが右手をふりふりすると、朝食の乗ったトレイを持ってシルフィとイロハがこっちにやって来る。

 俺達の正面の席に座る二人。


「おまたせー。手続き終わったよー」


「ごめんなさい。遅れたかしら?」


 テーブルに置かれた食いかけの皿から長いこと待っていたと思ったのかね。

 実際にはそれほど待っていない。


「飯食い始めたところだし、ちょうどいいタイミングだ」


「うむ、気にせんでよいのじゃ」


 どうせ予定とか無い。クエスト終わっちまえば今週は勇者科の授業はない。

 出たければ好きな科に行って授業や初心者講座に出ればいい。

 どうやら新入生のスカウトも兼ねて様々な科が講座始めているとか。


「なら良かったわ」


「二人は何話してたの?」


「ギルドと、俺の力の話?」


「そんなとこじゃな」


 シルフィ達の持ってきたのはサンドイッチと牛乳かな。

 具は野菜中心だ。ハンバーグとかメンチカツ入ってるほうが良いな。チーズも入れて欲しい。


「ん? アジュも食べる?」


「ああ、いや気にするな。こっちはこっちで食ってるから」


 オススメのパイとやらを食ってみたが、これがかなり美味い。

 なんの果物かしらんけど甘さ控えめ、梨に近い味だ。生地が厚めで朝食として腹を満たすには悪くない。


「そっか、引越し作業にちょっとかかるみたいでさ。今日中には荷物が運べないんだよ」


「そらそうじゃろ。焦らなくともよいではないか」


 こっちにも心の準備ってものをさせてくれ。


「だから先にわたし達だけアジュの家に行くよ」


「なんでそうなる?」


「お泊り会だ!」


 これもう決定事項ですか? という視線をイロハに向ける。


「いけないかしら?」


 貴女も乗り気ですかそうですか。


「泊まりに来るっていっても準備とかしてないだろ?」


「準備は簡単よ。持ち物は少なくていいもの。どの道そちらで暮らすのだから」


「では今夜に備えてお買い物じゃな」


「いつになったらギルドとしてクエスト受けるのさ」


 金なくなっても知らんよ。いいのかねこれで。


「家の準備が終わってからでよいじゃろ」


「生活必需品も揃っていないまま過ごすのはどうかと思うわよ」


「そうだよーみんな揃ってから一緒に受けようよー」


「わかったよ。んじゃどうする? 食ったら買い物行くか?」


「行く!」


 そんなわけで買い物が先になった。お泊り会とかやったことないなあ。

 なにするのかイマイチピンと来ないけど、なるようになれ。



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