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初心者講習開始

 初心者講習クエストを受けてやってきたのは、多目的建築スペースに建てられた四角い建物の前。多目的建築スペースとは、なにかしらのイベントのたびに建築科がささっと作っては、イベント終わりにぱぱっと更地に戻す。そんなスペースである。


「今更この程度のぶっ飛び施設でツッコミ入れると思うなよ」


「職務放棄じゃな」


「そんな仕事はない。そしてしっかり仕事する俺なんて俺じゃない」


 週休五日希望です。リリアが隣で呆れ顔だけど、まあ仕方ない。


「お前らの会話はどっかズレてんな」


「やっほーあじゅにゃん」


 ホノリとももっちだ。今日も元気だな。どっから元気って出るんだろうな。

 俺は常にガス欠だよ。


「リウスとモモチも……」


「ももっち! モモチじゃないのさ!」


 こだわりポイントらしい。めんどいな。女をあだ名で呼ぶのがきついんだよ。


「ああもう……ももっちも朝早く偉いな」


「普通だろ……今九時だぞ」


「めっちゃ早朝だろ」


「お前どんな生活してるんだ……」


「聞かぬが花じゃよ」


その通り。話すのもめんどいし、ツッコミ作業は体力を使うので、ホノリを気遣っているのさ。


「フルムーンとフウマはどうした?」


「わたしを呼んだかな?」


「呼ばれた気がしたわ。ちょっと売店のアイテムを見ていただけよ」


 いつのまにか横にいる。いつものことなので気にしない。

 俺に気配とか読めるスキルは今のところないし。


「てっきり隠れてあじゅにゃんの匂いでも嗅いでるのかと思ったよ」


「それは必須であって、いちいち口に出す必要が無いわ」


「常識みたいに言ってるけどやめろ。嗅ぐな」


「はあ……いいかしら? これから暑くなってくるわね?」


「だからなんだ?」


「今のうちに慣れておかないと、夏場に抑えられなくなるわよ。自宅にいる時、いつ、どこで私のスイッチが入るか……自分でもわからなくなるわよ」


 なぜにこの娘さんはキリッとした顔で性癖ぶっぱしてくんのかね。

 今ちょっと横にいてくれれば大丈夫ならまあ……いいか。


「まあ暑いのは苦手だから、へばっている可能性も高いのだけれど」


「それを祈る。無茶はしないでくれ。あと人前ではするなよ」


「流石に弁えているわ」


 どうだかな。結構ギリギリで抑えている気がするぞっと。


「うちらは聞かなかったことにしよう」


「ふぅん。フウマがここまで男に入れ込むか……あじゅにゃんは面白いね」


「はいはい、イロハとばっかりいちゃいちゃしないの。説明始まるよ」


「それでは説明を始める! 担当官のガドガだ!」


 前に解説していたおっさんと似てる。三つ子かな。


「まず一番ランクが低くいものは必ず入れろ! 初心者講習だからな! サポートはDランク以下限定。メインはFかEランクが二人必須だ。今回は初心者を援護していく方式となる」


 長かったのでまとめる。

 ・FからEランクの初心者を二人以上用意する。

 ・一人につき二人まで援護要員を選べる。

 ・ただし戦闘に参加できるのは初心者二人と援護二人の四人まで。

 ・残りは腕輪を付けて応援席で待機。

 ・援護は腕輪をつけたものが一分行動すると、五分間応援席で待機しなくてはいけない。


「広く四角い部屋がいくつも連なっている構造だ。入口と出口がそれぞれ一つ。係員の秘密の通路は進入禁止だ。以上! 健闘を祈る!!」


 おっさんは派手な爆発を残して消えた。ルールがややこしいな。


「つまり、俺ともう一人が初心者枠。サポート枠が……そういやリウス達はどうすんだ?」


「面白そうだからあじゅにゃんと行きたい!」


「うちらはフルムーン達がいいなら入れてくれ」


「いいよ、一緒に行こう!」


 そんなわけで六人で入ることになった。

 初心者枠は俺とホノリ。他四名が純粋サポート役だ。


「俺ここですげえ予想していい?」


「なんじゃ言うてみい」


「絶対ヴァルキリー出るわ」


「…………うわぁ出そうじゃな」


 もうお約束と化してきている。出てきても驚かない自信もあるし、ぶっちゃけ邪魔だから来るな。


「なにをしているの? 行くわよ」


「ああ、悪い。今行くよ」



 室内は真っ白な壁に覆われた四角くて広い場所だ。つっても元の世界の体育館くらいあるな。戦闘するから広く作っているのか。


「よろしくなサカガミ」


「ああ、頼りにさせてもらう」


「剣は訓練用のものを使うのじゃぞ」


「やっぱりか。自信ねえんだけどな」


「私はちょっとアレでどう戦うか見たい」


 俺もホノリと同意見だが却下された。まあ訓練だし仕方ないっちゃあないな。


「最初は避暑地に出るブラックスワンだってさ」


 俺達と透明な魔法障壁一枚挟んで座っているシルフィがパンフ読んでくれる。

 応援席はお茶とお菓子とパンフがある。フリーサービスで。

 納得いかん。リラックスしやがって。


「がんばれほのちゃん!」


「おーう、まあやるだけやるわ」


 対面の魔法陣から、黒くて一メートルちょいあるアヒルが出てくる。

 全部で七匹いるな。


「静かな湖に出てくるアヒルが化けた魔物よ」


「また変なもんに化けたなおい」


 フィールドが俺の膝あたりまでを水で満たす。

 どうやら環境も遭遇する場所に合わせて変化するみたいだ。


「本格的だな」


「がんばってーあーじゅー。あ、クッキーなくなっちゃった」


「半端な応援しやがって」


 応援席は水が届かないみたいだ。あいつら完全にくつろぎモード入っとる。


「ほら来るぞサカガミ」


「氷柱を飛ばしてくるから注意するのじゃ」


「おおっ!? 早く言えって!!」


 口から氷柱を飛ばしてきた。慌てて横に飛ぶけど水のせいで動きが鈍る。


「ああもうめんどい!」


『ショット』


 ショットガンに変えて連射する。これで三匹撃破。


「剣使わないと意味が無いわよ」


「ショットキー禁止じゃ」


「体内に水をためて、急速に冷やして口から吐き出してるんだってー」


「ふっしぎー。がんばれほのちゃーん。生きろあじゅにゃーん」


「好き勝手言いやがって! 行くぞサカガミ!」


 ホノリが飛び上がると、両手足の装具から炎が吹き出す。


「こいつでぶっ飛ばす!!」


 そのまま炎の推進力を利用し、回転を加えてアヒルを豪快に爆裂させる。


「おおーやるな」


「近接主体のパワーファイターだったのね」


「ほのちゃんは火力自慢さんだからね」


 もう任せていい気がするなあ。


「ちゃんと戦わねば修行にならんじゃろ」


「しょうがねえな。接近戦すりゃいいんだろ?」


『エリアル』


 水が邪魔なら触れなければいいのさ。口から発射してくるってことは、後ろに回ればいいってことだ。ささっと回り込んで横薙ぎに首を切り落とす。


「うっわ、結構抵抗とかあるな。ズバーッといかねえ。腕痛めるぞこれ」


「本当に基礎とか知らないんだな。手首だけで振らないほうがいいぞ」


「気をつけるよ」


「んじゃ打ち上げてやるから斬ってみな!」


 上空にいる俺に向けて、アヒルを一匹蹴り上げてくる。


「斬るって……縦にか? 横にか?」


 とりあえず縦に斬るか。やっぱりスパッとはいかず、ちょっと引っ掛かりを感じながらなんとか両断する。


「はーこれは俺の練度が悪いのか?」


「剣はそんな悪いもんじゃないさ」


 んじゃ俺が悪いんだな。遠回しに言ってくれるし、ボケないし楽でいいなーホノリは。


「後一匹っととっと!?」


 アヒルのくせに意外と動きが素早い。でも飛行で距離を取っていれば、撃ちだされた瞬間に移動すればいいだけなので、避けるのは容易だ。


「油断すんな……って!」


 下に降りてきた俺に、最後の一匹を蹴り飛ばしてきた。ここはあれだ、すれ違いざまに斬りつけてかっこよく倒すやつがやりたい。


「悪かったよーっと!!」


 高度を合わせて、剣を両手でしっかり掴み、横に向けたら、飛んでくるアヒルに突っ込む。


「おおおお……りゃあ!!」


 剣を支えるのがしんどかったが、まあギリギリかっこよく斬れたと思うよ。

 終了を告げる笛の音が聞こえて、水が消える。

 同時に奥の扉が開く。これで第一ステージクリアか。


「はー……これ残りどんだけだよ……俺は後二回くらいで限界だぞ」


「はっやいな限界。限界突破しろって」


「突破した結果が今の俺だ」


「二人ともおつかれー! あじゅにゃんもちゃんと動けるじゃん!」


「ふふーん。アジュはやれば出来る子なんだよ!!」


 その褒め方はやめろシルフィ。実際にホノリがいたからやれた部分も大きいだろう。まず剣って使うのしんどいんだなあ。


「かっこよかったわよ。さあ、とりあえず濡れたズボンは着替えましょう。脱いで」


「脱げるか!? もう乾いたよ」


「汚れが染みになるじゃろ」


「だとしても渡さねえ」


「難儀な連中だな。ま、うちらは巻き込まれないように先行くか」


「そだねー。がんばってあじゅにゃん!」


「うおい助けろよ!? チームメイトピンチだぞ!!」


 ズボンは死守した。次だ次。次にいこう。戦ってる時より疲れたぞ。


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