こあくま系いもうと
ちょっと妹ものが書きたくなって書きました。
何時も書かないタイプの作品なのでとても楽しかったです。
「お兄ちゃんおはよう」
いつも通り来る朝。癒されるような声で妹が起こしに来てくれた。
「おはよう」
こんな可愛らしい妹に起こされれば起きないわけにもいかず、起きて挨拶を返す。
そのまま黒い髪をツインテールにしたその頭を撫でようと手を伸ばすが払いのけられてしまった。
「もう。いくら妹だからって女の子の頭を撫でようとするもんじゃありません!」
ほっぺを膨らませた妹は怒ってるつもりなのか腕を組み、斜め上に顔を向ける。
だが、顔はそっぽを向いたままだが視線はこちらをチラチラと見ていて非常に愛らしい。
そう。それは抱きつきたくなるような可愛さで――。
「あ、抱きついてくるな! この馬鹿にぃ!!」
飛び掛かった俺はあえなく地面とキスする羽目になった。
「お兄ちゃん。朝ご飯はどうする? パン? ご飯? そ・れ・と・も――「パンにするよ」――もぅ。最後まで言わせてよ」
「意地悪ばかりしてるとすねちゃうよ?」などと言いつつも俺の分と自分の分の2枚の食パンをトースターに入れる妹。
俺が席に座るとコップやジャムを持ってきて、牛乳をコップに注いでくれる。
そのまま牛乳を飲み、テレビの電源を入れる。
『では、次のニュースです。昨夜、○○区にてまたも意識不明の……』
流れるニュースを聞きながら妹の姿を見る。
何やらかわいらしい歌を口ずさみながらトーストが焼けるのを見る妹。
その姿を見て誘拐や、何らかの事件に巻き込まれないか不安になる。これだけ可愛い妹なのだから犯罪者も放っておかないだろう。
「また、このニュースか……。お前も気を付けろよ? これこの近くだし」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
そんな俺の心配を知ってか知らずかそのように自信満々に言い放った。
俺は苦笑しつつもこの話題はするだけ無駄かな? と思い、他の話題に変える。
「父さんと母さんは?」
「お兄ちゃん何言ってんの? 二人とも海外出張じゃん」
「そういやそうだったな」
会話が続かない。
妹が持ってきたトーストをかじりながら何かないか話題を探す。
だが、コミュ症の俺では妹を見る事しかできず、自分の会話力の無さに愕然とした。
「ねぇ、お兄ちゃん。さっきから私の顔を見てなんなの?」
「何でもない」
「ふーん、そうなんだぁ」
ジト目でこちらを見る妹。
流石に見過ぎたと反省する一方、眼福だと喜ぶ俺がいた。
「それでさ」
突然そのように言ってくる妹。それに対して俺は「なんだよ」とぶっきらぼうに返す。
「前に一緒に商店街歩いてた子。なんだっけ? えーと優子ちゃん? ずいぶん楽しそうに話して歩いてたよね」
ブッ。
俺は思わず牛乳を吹きだそうとしてしまった。
あの時の事は妹には言っていないはずだ。どうして知ってるんだよ。と叫びたいのを堪え、動揺しながらも言葉を搾り出す。
「ゴホッ、ゴッホ。……なんだよ、お前見てたのか? あれだよ、文化祭の買い出し。別にお前が思う間柄じゃないよ」
「へぇ。ふぅん? 別に彼女さんじゃないんだ?」
「そうだよ。だから安心しろ」
「うん。安心した。だってお兄ちゃんは私にぞっこんだもんね!」
こうして俺は本日2回目の牛乳を吹きだすことになるのだった。
「へへへ。お兄ちゃんと二人っきりで買い物って初めてだね」
「そうだったけな? そう言われてみればそんな気がする」
俺はあの後商店街に来ていた。
学級委員長って事で同じ学級委員長の柏優子と商店街に来てた事でまだ拗ねているらしい。
それを許すための着地地点が「なら私とも商店街でデートしてよね」ということらしかった。
「どうする? 服でも買いに行くか? 女の子の行きそうな所ってそんなとこぐらいしか思いつかないんだけど……?」
「私の事はいいの! それよりお兄ちゃんの行きたいところ」
「って言ってもオタク系のショップになるぞ?」
「んじゃ、そこにいこっか」
どうやら俺には思っていた以上に女性とデートする為の知識が乏しいらしい。
妹に気を使われるこの状況を少し情けなく思った。
他の人たちの視線が妹に集まる中俺はオタク御用達の店にたどり着く。
「ふぅん。ここがお兄ちゃんがよく行く店なんだぁ。で、何を買うの?」
「最近イベントがあったし同人誌かなぁ」
「えーエロ本?」
「ちげーよ。確かにそういうのもあるけど俺が欲しいのは一般向けの奴。むしろエロよりそっちの方が比率は高いんじゃないのか? それに俺が今回欲しいのはTRPGのリプレイ本だよ」
「ふぅん」
どうやら妹様にはオタク趣味やエロ同人誌と一般向け同人誌の違いが分かってもらえないようで悲しい。
まぁ、本当はエロ同人誌の方も興味があるが妹と一緒に居るし今回はお預けである。
「おっ、河合じゃん。お前も今回のイベントに出てたやつの委託目的か?」
「てか、その可愛い子誰? 彼女?」
オタクショップから出てきたのは同じクラスであり、オタク仲間の佐藤と白田。
二人はさっそく戦利品を手に入れたのか、店のロゴが入ったビニール袋を持ち、こちらに手を振ってくる。
「えー。そう見えます?」
手を頬にくっつけ、いやぁんいやぁん。と腰をひねる妹。
色々とトリップしている妹をほっておいて俺は言葉を否定する。
「ちげぇよ。こいつは妹」
「お前に妹っていたっけ? それにコスプレ? 変わってるね」
コスプレとは失敬な。ただ学校の制服を着てるだけではないか。
いや、まぁ休日まで学校の制服というのは確かに変わってるかもしれないが」
「君、河合の妹なの? 俺の事お兄ちゃんって呼んでくれてかまわないよ。紫の髪かぁ、可愛いね。どう? 俺と一緒に遊ばない? ケーキ出すよ。そうそう。そういえば俺の自己紹介はまだだったね。俺は白田勲。お兄ちゃんのクラスメイトで、学年首位の超出来る奴なんだ。時間が欲しいから今のそう大した高校じゃないけど将来は東大行くつもりだし、十分可能な成績なんだ? どう? ちなみに彼女募集中。てか、もう結婚してィエッゥ――」
佐藤にばばチョップを食らう白田。この二人は相変わらずのようだ。
「悪いな、河合。それにしても白田じゃないけど可愛い妹だな。今まで妹がいるなんて一言も言ってなかったから知らなかったぞ。名前なんて言うんだ?」
「そうだっけ? まぁいいや。こいつの名前は――「お兄ちゃん何時まで話してるの?」――っと、悪い悪い」
どうやら我が儘な御姫様は退屈であったらしい。
妹に腕を掴まれながら二人に別れを告げる。
「はぁ、楽しかった」
「そうだな。買いたい商品も買ったし大満足だ。長年の夢が叶った感じだよ」
すでに夕暮れ。
帰ってきた俺はソファに身を委ねる。
「お兄ちゃん、お風呂入ってきなよ。その間に夕ご飯の支度しちゃうから」
「そうだな。そうするか……」
妹の言葉に従い、重たい腰を上げ、風呂場に向かう。
そしてゆっくり湯船につかり、今日の事を思い返す。
成績優秀。文武両道の才色兼備。なのに俺の周りに女の子がいると嫉妬してしまうとても可愛い妹。
本当に勿体ないくらいよくできた妹で、俺と本当に同じ血が通ってるのか疑ってしまう。いや、繋がってなくっても義理の妹ってのも萌えるだけか。
「おっにいちゃーん」
「うぉ!?」
体にバスタオルを巻いて風呂場に突撃する妹。
あまりの出来事に俺は驚き、フリーズする。
「ほらほら、椅子に座って! 背中を流してあげる」
「ちょ、おま!? 飯はどうした? さっき飯を作るって言ってただろ?」
腕を引っ張られ、湯船から引きずりだされると椅子に座らせられる。
そしてこのままではまずいと慌てて先ほどの飯の話を持ち出す。
「夕飯はわ・た・し。って言いたいところだけど今日はカレー。後は煮込むだけだから離れてても大丈夫だよ」
俺は料理を作らないからよくわからないがそうなんだろう。
兎に角何か言い返そうと慌てて頭を回そうとする。
「そ、そうだ。風呂はそんなタオルをつけちゃダメなんだからほら、出て行った。出て行った」
「そうだね。じゃあバスタオルは外すよ」
妹は躊躇いなくバスタオルを取ると、そのまま風呂場に戻ってくるのが気配で分かってしまった。
反射的に鏡でその裸体を見ようとするが曇っていて何も見えない。
そんなことをしてるにもかかわらず、背中に一糸まとわぬ妹がいるという事に耐えられなかった。
「俺はもう出る!」
そのように叫び、俺は風呂場を後にする。
「あっ、今はそっち行っちゃダメ!」
妹の静止の声を聴いたような気がするが、俺は鏡を確認しないままバスタオルを取り、洗面所を後にする。
2階は俺の部屋と両親の部屋。そして客間の3つだ。
自分の部屋に戻るとジャージへと着替える。
「たく、あいつは何を考えてるんだよ……」
赤くなった顔のままでは妹の前に居づらいのでちょっとだけベッドに寝転ぶことにする。
スマホを取り出し、妹へ飯が出来たら呼んでくれとメールを送ろうと妹のアドレスを探す。
家族はすべてフルネームで登録しているからか行を探せばすぐに出てくるはずだ。そう思って探すが――。
「おっかしいなぁ? 見つからん。そういやあいつ携帯を持ってなかったけ?」
このご時世に中学生にもなって携帯をを持ってないとは珍しいものだ。
だが、何か違和感を覚えた。
「お兄ちゃん。 ご飯で来たよー」
だが、それも形となる前に妹の声で消え去ってしまう。
思い出せないぐらいなら大した事でもないかと思い、そのまま階段を降りようとする。
「そういや佐藤、白田の二人に妹の写真でも送ってやるか」
スマホを取り出し、カメラモードにする。
きっと突然撮られたら驚くに違いない。それもまた可愛いのだろうなぁ。そんな事を階段を下っていく。
だが、そんな楽しげな妄想とは逆に一段降りるたびに広がっていく不安。
「おにいちゃん?」
階段の一番下まで降りてきた時にリビングから妹が顔を出す。
そう。いもうとの――。
「妹の………………誰だっけ?」
家族のはずの、妹の名前が一切思いつかない。
異常事態のはずで、ありえない出来事のはずだ。
だが、頭は何か分かってるかのように妹にむけてスマホを向ける。
カメラモードになっている画面に映ったのは黒髪ツインテールの可愛い妹ではなく、紫髪のストレートで、黒い羽根と尻尾を持つ何かであった。
肉眼ではいつも見ている妹が映っている。だが、スマホの画面には……。
「どうしたの? 大丈夫?」
目に映る彼女は上目使いで心配してくれている。ただ、手に持っているそれに目をやると怪しく微笑む美女が居た。
その美女はどこかで見たことがある気がした。それもつい最近。
「具合悪いの? お医者さんの所に行く?」
こいつは……誰なんだ?
こいつは……こいつは……こいつは……こいつハ……コイツハ……。
「うん?」
可愛らしく首を傾げる妹。
それは俺が長年妄想してきた完璧な妹と同じで――。
『あぁ、こんな妹が居たらいいのになぁ』
思い出すのは昨日の記憶。
寝る前に自分のパソコンでアニメ鑑賞をしていた俺は思わずそう呟いていた。
『やっぱり一人っ子だから妹にあこがれるなぁ。まぁ、聞いてる限りそんないいものじゃなさそうだけどね』
朝が早いために両親は寝静まり、一人でそんなことを呟く俺は正直気持ち悪かっただろう。
『それでもこんな妹を欲しいと思ってしまうのは夢見がちかな?』
『その願い。叶えてあげましょうか?』
そんなときに聞いたのは妖艶な声。
窓の外を見たときにひとりの女がいた。
彼女は壁をすり抜けて部屋に入ってくる。
『だ、誰だよ!? お前は?』
『あら、酷いわ。そんな化け物を見る目。でも気分がいいから答えてあげる。私の名前は……』
「スクブス……」
「あら? 記憶もどちゃった?」
妹……いや、俺の妄想してきた妹の姿で笑うスクブス。
「本来ならば眠ってからにするつもりだったんだけどね」
彼女は困ったように笑う。
その言葉の意味を今なら理解できる。
昨日俺はスクブスの挑発に乗り、一つの契約をした。
一日理想の妹と生活をすると。
その代わりに魂が彼女のものになると……。
「それじゃあバイバイ。お兄ちゃん」
スクブスは……妹は今までにない最高の笑顔を見せ、お別れするように手を振るう。いや、それは本当にお別れの意味なのだろう。
それをきっかけに俺の意識が急速に遠のき始める。
「いい夢見れた?」
その言葉を最後に完全に意識が途切れた。
ちょっとついさっきまで見てたアニメの影響でちょっとホラー的な感じになりそうなのでご注意ください。