公爵令嬢は今日も不機嫌です
あえて身体的特徴などの描写を省きましたので、そこは皆様の想像にお任せしますです。
――それでは短いお付き合いをどうぞ。
私、公爵令嬢こと、エリルーエ・ルナパップは今日も不機嫌です。
それは自室で侍女達と談笑をしていた時、突然許可も無く婚約者である第三王子スコット・ピネア・リックネスクが入ってきたのです。
なんとまぁ、王子とは思えない無礼な振る舞いでしょう。突然の事に侍女達も驚き半分、呆れ半分といった顔で困惑しております。
何を考えているのか分かりませんが、余程慌てているのか髪は乱れ息も荒く目は血走った様子で優雅さの欠片もありません。と、言うか少し怖いですね。
私が目配せをすると侍女の一人が未使用のカップに紅茶を注いで王子の前に差し出します。この精錬された所作の一部でも見習ってもらいたいですわね。
「何を慌てているのか存じませんが、落ち着きなさいませ」
王子はカップを手に取ると紅茶を一気に煽って皿の上に戻します。本当、何でしょうねこの王子は……
「エリーにお願いがあるんだ、君には申し訳無いが結婚したらエルモア子爵令嬢のソフィーを側室に迎えたいんだ」
――は? 結婚前から浮気の相談ですか?
私の頭の中が一瞬真っ白になりましたが何とか持ち堪えたようです。それにしても、何と面の皮の厚い事を。
怒りも呆れも通り越すと悟った様に冷静になれるのですね、初めて知りましたわ。
それでもやはり許せるお願いでは無いですね。
「殿下、私は結婚したのなら側室も浮気も許すつもりはありませんわ。それでもソフィー様と結ばれたいのでしたら婚約を破棄しますので御勝手にどうぞ」
どうなさいますか? と訊ねるように王子を見据えて答えを待ちます。
えぇ、もちろん答えを出さないままの退出なんてさせませんわ。答えを保留されてもデメリットしかありませんもの。
侍女達も私の考えを察したのでしょう、いつの間にか扉の前を塞ぐように立っています。
「ソフィーは側室でいいと言っているんだ、控え目な娘なんだよ。破棄をせずに何とかならないか?」
何ともまぁ呆れ果てた事を……。土下座してまで懇願するとかありえませんわ。
「殿下はきっと勘違いをしておりますわ。ソフィー様が仰ったのは側室でいい、ではなくて側室がいいではないでしょうか?」
「……何が違うんだ?」
それすらもか、何で私はこの王子と婚約したのだろう。……あぁ、思い出した。バカだから扱い易いと思ったからでしたわ。
我が公爵家に付く貴族は多く、この国最大の派閥と言える程です。だからこそ第三王子であるにも係わらず次期国王とされているのです。
ソフィー様もそれを知っているからこそ側室になりたがっている。つまり、楽して贅沢がしたいだけなのです。
婚約を破棄すればスコット王子は国王にもなれず、ソフィー様も離れて行くのは目に見えています。
それすらもこのバカ王子は分かっておらず、控え目なんて勘違いしている始末。ただただ呆れるばかりですわ。
「今直ぐソフィー様の所へ行って『婚約を破棄したから結婚してくれ』と言ってみてくださいな」
そう告げるとカップに口を付ける。あらやだ、少し冷めてしまいましたわ。これでは味も香りも半減です。
王子は挨拶も何も無しに部屋を出て行きました。礼儀も優雅さもありませんわ。
カップを下ろすと、侍女が新しく点てた紅茶をカップに注ぎます。
出来た侍女は良いものですね、何も言わなくてもしてくれます。今度来た時には侍女の爪の垢でも入れてみましょうか?
……あらやだ、私とした事が少し下品でしたわね。
お茶の時間も終わり読書をしていますと、また王子は先触れも無く部屋に入ってきます。
「エリー、ふられた~」
涙で顔がグチャグチャです。本当に王子としての自覚はあるのでしょうか。少し……いえ、かなり将来が不安です。
ちなみに同じ事が三度ありました。つまり四度目、懲りないというより学習能力が無いのですね。
私は本を閉じると本棚に戻し、王子の頭を撫でます。
気の利いた侍女達は静かに部屋から出て行ったので今は二人です。
「普段優しい人ほど怖いのですから気を付けましょうね」
そして頭を抱える様に引き寄せて落ち着くまで待つとしましょう。
これもいつもの事です。
「殿下ももう直ぐ十才なのですから、もう少ししっかりして下さいませ。このままでは恥ずかしくて一緒に学校へ行ってあげませんよ」
「やだ~。エリーと一緒がいい~」
はいはい、仕方の無い王子様ですね。懐かれるのは良いけど、幼馴染としては少し複雑ですわ。
そうそう、泣き止むまでの間、暇ですから考えておきましょうか。ソフィー様には王子を泣かせた”お礼”をしませんとね。
――私は今日も不機嫌に王子様を慰めます。
読了お疲れ様でした。
もしも続きが書きたいという方がいましたら、お持ち帰り下さい。
(一報あると嬉しいかも)
その際、名前の変更とかも御自由にどうぞです。
それでは、最後までお読み頂きありがとうございました。