3・再会
「随分早いんだねどこへ…え?」
帰ってくるやいなや手をアプリアは王子の眼前に手を出す。
「宿泊代かな?」
王子は困った表情になる。
金の代わりになる冠を頭から取ろうとし、アプリアに止められた。
「ちがいます!さ、薬を塗るので肩を出してください」
薬を持ち帰宅したアプリアは王子に腕を差し出すように促す。
「ありがたいけど自分で出来るよ」
王子はじりじり後ずさる。
「薬を塗るだけです遠慮しないでください」
アプリアはぐいぐい迫る。
「しかし若いお嬢さんのやることじゃ…」
「言ってることは正しいですけど王族は召し使いに着替えさせてるんだから平気ですよね?」
王子はしぶしぶ服の片方を脱ぎ怪我した場所を向ける。
「アザになってますね…」
患部を見たアプリアは眉をひそめる。
薬を塗って、布を巻き処置がすむ。
「取り合えず今夜は家で休んでください…きっと明日辺り王子の捜索隊が…」
「それはないね暗殺者に居場所が知られてしまうと困る」
最もらしい見解を言われて確かに、と納得した。
「とにかく今夜は世話になるよ」
王子は申し訳なさそうにソファに横になる。
「部屋二つあるのでそっちを使ってください」
アプリアが寝室を案内する。
そこは前に住んでいた一家が置いていったもので、部屋にはたまに床を掃除をするときに入る程度。
アプリア一人のため使う者はおらずそのままにしてある空き部屋だ。
「ありがとう」
王子なのに遠慮しすぎなのでアプリアは逆に困る。
「おはよう。泊めてくれてありがとう。ではさようなら」
次の日、アプリアに挨拶すると王子は歩いて国に帰ると言い出した。
「おはようございます。って…待ってください!」
サッと家を出ようとした王子をアプリアは止める。
「歩いて帰るなんてそれこそ殺されてしまいます!!」
ずっと居座られても困るが城の人間がひっそりとここへ訪ねてくるまでは、とアプリアは言う。
「心配してくれるのは嬉しいが僕がいると気を使って迷惑だろう」
たしかに身分の高い人間がこんなところにいると気が引き締まるが、卑屈すぎる。
「迷惑であろうとなかろうと放っておけないんです」
助けたときは仕方なしだった。
それでも朝起きて誰かが挨拶する。
当たり前のことが3年ぶりにあって嬉しいとアプリアは実感できた。
なんとか説得し、王子は椅子に座る。
「とにかく寛いでください」
「君は外出しなくていいのか平民は毎日外で畑仕事をしている時間だが…」
「だって留守にしている間に出ていくかもしれないですし…たしかに昨日は外で仕事をしてましたけどあくまでただ村のお手伝いをしていただけで、お金に困っているわけじゃないんですよ」
アプリアは村の仕事をタダでやっている。
生活費はアロルが城から持ってきて、居なくなる前にアプリアに渡したものだ。
「無償で、か…偉いな」
「偶然ですよ、お金に困っていたら無償なんてしてません」
金銭に余裕あるものが、ないものから請求するのはおかしいとアプリアは考えている。
しばらく談笑をしていると、扉を静かに叩く音がする。
「はーい?」
「こちらにヤサヌイの王子は来ていますか?」
「来てますけど…アロル!?」
王子を探して訪ねて来たのは紛れもないアロルであった。
いなくなったのはたったの三年前、姿も当時と変わらない。
そして青い髪の人など滅多におらず。
となれば彼しかいないのだ。
「帰りますよ」
「ああ」
私に何も言わず王子を連れ帰ろうとしている。
そもそもどうしてフルーテアの王子に使えていたアロルがヤサヌイの王子を向かえに来るのよ。
きょとんとするアプリアは男を呼び止める。
「ちょっとアロル!!」
「なんですか」
他人のフリをするわけでもなく平然と自分がアロルであると認めた。
「二人は知り合いなのかな?」
王子は説明を求める。
「………」
しかたなくアプリアは全てを話した。
「君があのフルーテアの…」
フルーテアが滅んだことは多くに知られているが、生き延びた王子と王女の行方は知られていない。
「それで…どうして貴方がピエール王子に使えているの?」
アロルに事情を説明してもらおうとする。
「話すのは構いませんがその場合そちらの王子の許可がない限りは」
「構わないさ、彼女が大事な秘密を話してくれたなら僕もつつみ隠さず話そう」
ピエール王子はここで倒れていた本当のわけを話した。
ここにいるピエール王子は偽物の王子で本当の名をレスタという。
平民ながら偶然王子に雰囲気が似ていたことから
幼い頃に影武者として教育された。
端麗な容姿を持つ偽物の彼に本物の王子が嫉妬し、追い出したことで今に至るそうだ。
ここにたどり着いたのは偶然だという。
「全然似てないのに影武者って無理がありますよね…」
「地味な本物を隠す為に派手な偽物でカモフラージュしているんです」
本物の王子に失礼なことをアロルは顔色一つ変えずに言った。
「結局アロルは三年もどこに言ってたの」
「パーチュ王子を助けていました」
間髪入れずにいなくなった理由を言った。
「一人で!?」
敵に連行された兄を助けることはそう簡単じゃないはずだ。
アプリアは疑い混じりに聞き返す。
協力者がいたと考えても現実味がない。
それにフルーテアの城にいたアロル以外の者は皆死んだと聞いている。
たとえ協力者が見つかってもおそらく小数で敵の城に乗り込んで兄を助け出すのは無茶だ。
「王女、その当りは深く考えても仕方ありませんよ」
言ったん頭を冷やそうとしていると、複数の足音が村の入り口の方から聞こえてきた。
「ここにいるのはわかっている!!ピエール王子を連れ戻しに来た!!」
兵が王子を迎えにくる。
王子を保護し、なんの報告もしなかったのだ。
アプリアは罰せられてしまうだろう。
どうすればいいの―――――。