表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2・王子の悲しみ

「ところでお嬢さん…名前は?」

「アプリアです。あの…王子様はどこの国の王子様なんですか」

アプリアは遠慮しながらお茶を飲む王子に訪ねた。


「ヤサヌイだよ。名前はピエール。結構有名だろう?」

ヤサヌイのピエール王子は確かに有名ではあるが、頭が悪く、不細工だと悪名ばかり高い。

自分ではっきりきっぱり言う姿を見て、何も言いたくなくなった。


しかし、見た目は噂とは違い、とても美男で振る舞いも王子らしい。

アプリアは噂と実際は違うのかもしれないと思う。


日々の疲れが出たのか、アプリアは眠気に目を細める。

話の最中、ついには眠りにおちてまった。


『ねえパーチュお兄様…なぜフルーテアが荒れてしまったの…!』

幼い茶髪の少女は桃がかった橙髪の少年に手をひかれ、倒壊した城を泣きながら眺めた。

『わからない…父上や母上に聞きたいが二人はもういない…お前は逃げて一人でも生きるんだアプリア』

少女の手を話した少年は青髪の男に少女を託し、兵士に連行されてしまう。


『行きますよ姫』

少年の付人だった男は、少女を連れて城から離れる。


『アロルまってよ!パーチュお兄様を置いていくの!?』

男は少女の言葉に何も答えようとはしない。

諦めた少女は口を紡いだ。



ああそうだ、お兄様は――――。


「大丈夫…眠っているだけかい?」

王子の呼ぶ声にはっとして目をあけるアプリア。


「すみません!」

話の途中で居眠りしてしまい申し訳ないと罪悪感でいっぱいになる。


「いいよ慣れてる」

王子がこんな扱いに慣れている。

そんなヤサヌイとははどんな国だとアプリアは動揺した。


「ご両親と上手くいっていないのはわかりました…取り合えず城に帰ったほうが…」

しかしティーコレットから王子をヤサヌイへ返すには距離がある筈だとアプリアは思い出す。


三年前にアロルがここへ自分を預けて姿を消して以来、フルーテアからティーコレットを出たことはないが、フルーテアはヤサヌイの隣にあった。

ここまでの距離はそう変わらない。


「召し使いの人が向かえに来るのを待ちましょうか」

「つ…」

王子が肩を押さえている。


「怪我してるんですか?」

「多分逃げている最中に軽く痛めただけだよ」

王子は気にしないでくれと言わんばかりに平然と振る舞う。


アプリアは薬を貰いに行くと家を飛び出した。




「…?」

クッキーを食べていた魔女は家の扉を叩かれ、こんな夜更けに何事だろうと賢者達と顔を見合わせる。

「メルティーナ!」

賢者が魔女に変わって扉を開く。

そこにいたのは友人の村娘、アプリアだったので、三人はほっと息をついた。


「なんだ…王子かと思ったわ」

「えっなにか言った?」

アプリアはメルティーナがつぶやいた言葉をうまくききとれなかった。


「こちらの話。なにか用?」

「そこにいる魔女はともかく村娘が夜中に森を彷徨くなんてあぶねーよ」

戦士の言った言葉はメルティーナにとても失礼であるが当人は気にしていない。


「そうねいつも賢者が背後についてきてくれるものね」

「背後って…」

三人の長い漫才が始まったとアプリアは呆れる。

ただ、いつも一人でいるアプリアは二人も友人がいるメルティーナを少し羨ましいと思う。


「えっと…こんな夜遅くにごめん怪我してる人が内にいるからキズ薬をくれない?って言いに来たんだけど…出直そうか?」

アプリアはひきつった顔でここに来た目的を話す。


「怪我人?」

メルティーナは目を丸くしている。

「男か?」

戦士がにやにやとアプリアをからかう。

「なぜお前はそう下世話な話に持っていこうとする」

賢者は眉を寄せながらそれをたしなめる。


「わかった男ね?」

メルティーナまでもが話に乗るので賢者は諦めた。


「なんか王子様だって言ってるんだけど」

王子と聞いてメルティーナはぴくりと反応する。

「王子…?ティーコレットのか?」

戦士がいつになく落ち着いてたずねる。


何かまずいことを言ったのだろうかとアプリアは焦る。

「違う違うヤサヌイのピエール王子」

「ヤサヌイのピエールってあの不細工でバカで有名な?」

「そう、それ!でも現物はすごく美形だったカボチャパンツだけど」

急に賢者はお茶を吹き出した。


「かっ…カボチャパンツ…!」

「まあがんばって」

メルティーナは笑いを堪えながら塗り薬を手渡す。


「それにしても、メルティーナは薬を作るの上手いよね」

「従兄弟に薬を作るのが得意な魔法使いがいるの」

「へー」

受け取った薬を大事に抱え、メルティーナの家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ