帰り道〜1〜 side輪廻
「雪華、そのこと夜風に言ったの?」
話が終わりボクが尋ねると、雪華が少し困ったように「まだ…なんだ」と答えた
「早く言いなよ。夏からはじまるんだよ」
「わかってる。………だけど」
雪華が段々と目を逸らし地面ばかりを見続けている。こんな後ろ向きな雪華は初めて見るが、やはり普段みたいに無駄に元気なのが一番だ。彼女のためにも前を向いて貰わないと。
「怖いの?」
「…………うん」
更に目を逸らしたが、そんなことは気にせず言ってやろう。
「でも、大事な事でしょ」
「…………うん」
「ボクが言おうか?雪華が――」
「ダメっ………」
ボクの言葉を遮って雪華が言う。こう来るのは予想済みだ。ならもう………
「なら、どうするの?」
「言うよ。夏までには、必ずさ」
これで前向きには戻っただろう。まだ少し迷いはあるようだが、あとは本人次第なのでボクが言えることはない。
「雪華、二人とも待ってるだろうし早く行こう」
◆◇◆◇
「じゃあね、皆」
「また明日な。リン」
「さよなら、輪廻」
学校からの帰り道、蓮斗と別れた場所から少し先のT字路。その中央でボクらは立ち止まり別れの挨拶を済ます。それからは、その場で話し続ける訳でもなくボクらは歩き出す。
数百メートル程先に進み、ひとつの看板が目に止まる。それは、自分の学校の『ある学科』についての看板だ。
ふと頭の中に、今日した話が甦った。
「『第三の巫女』か…」
言わずと知れた、世界の敵。人類の敵。
でも………
「果たして本当にそうなんだろうか?」
歩みを止めずに考え続ける。あれは、預言に過ぎない。『第三の巫女』自身が災厄になろうなんて考えるようになるかもわからないし。
「『第三の巫女』の存在は……まぁ、そういうことだろうし」
気が付けばすぐそこにはボクの家があった。
「考え過ぎてたかな?」
まぁいいや。とりあえず家の中に入ってからにしよう。
「ただいまぁー」
言ってみるが返事はない。当然だ、共働きだし。
ここに来て急に疲れを感じる。一旦寝よう。
「はぁ……」
二階の自室に行くことも大変に感じる。あんな目にあった後だから仕方ないか。
部屋に入なり、即ベッドにダイブ。
「おやすみ」
特に意味の無い言葉が小さな声で、自分に言い聞かせるように囁かれる。
そして……だんだん、意識が、薄れてくる……………。
「………すぅ」
…………。
………………。
……………………。
◆◇◆◇
「暑い………」
眠り始めから数十分後。あまりの暑さに目が覚めた。暑さは、部屋の中の気温とかのせいじゃない。
「何で一年中ブレザーなんだよ。あの学校おかしいだろ」
一年中ブレザー着用。そんな馬鹿げた校則があるからだ。
「確かに冷房設備は、それこそ氷で学校内外が覆われてるかと思うくらいで、ブレザー着てる暑さも感じないけど」
反物理法則学科がある学校共通の規則だかなんだか知らないけど、正直無駄だよ。冷房動かすための電力が無駄すぎるんだよ。
「まぁ、文句言っても無駄だしな。脱いで寝よ」
脱いだブレザーを適当に放ってから、さっきと同じようにベッドのうえで目を閉じる。
そして……だんだん、意識が、薄れてくる……………。
「………すぅ」
…………。
………………。
……………………。
◆◇◆◇
携帯電話が鳴っている。多分それで目が覚めた。画面をタップして耳元にあてる。
「もしもし?」
通話相手は知り合いだ。一方的に話してくる。
「……別にいいですよ。することないですし」
それだけ返事をして、会話が終了した。何だかお礼を言われてる途中だった気もするが、切ったから終了したでいいか。
「なんか、雪華に悪いな」